非日常的な日常
2
思ったより早く事は起きた。
「ねーねー、空音さんちょっといい?」
「ふわい?(はい?)」
お昼休み。
今日は流石に山本君と一緒に食べたら殺されかねないので理沙と京子ちゃんと花ちゃんと購買のパンをほおばっていたら、クラスメイト3人に囲まれた。
「さおりんが話があるんだってー、一緒に来てくれる?」
口調が質問系じゃなくて、どちらかと言うと命令っぽかった。
さおりんって言うのは上原さんのあだ名。上原さんはこのクラスに転入した時に『抜け駆け厳禁』って忠告をしてきた女の子だね。
「んー別にいいけど」
あたしは何も知らないがごとく普通に答えた。
「じゃ、京子ちゃん達空音さん借りてくね」
「う、うん……」
明らかに心配そうな京子ちゃんと、視線でガンバって言ってる花ちゃんと、…………理沙が寝てまーす。
うん、別にいいだけどさぁ。疲れてんのかな?
「じゃ、逝ってきまーす!」
そう元気に言って、導かれるまま教室から出た。漢字は間違ってない気が、するのな!
「…………空音ちゃん行っちゃったね……、大丈夫かなぁ?」
「さぁねぇ……、ところで理沙さんも本当は起きてるっしょ?」
「あ、ばれたー?あんなの昔の僕なら男子だろうが女子だろうがガンつけて追っ払うのになー」
「え……っ!?」
「ちょ、引かないで京子ちゃん!不良時代の話だから!」
「「そんな過去があっつたの!!!???」」
「あ……うん(やっべ、口が滑った……!正確にはヤクザですけど……!)」
* * *
「あなた本当は気づいてるよね?」
「んー?」
「呼ばれた意味!!!!!」
キーワードは体育館裏、上原沙織さんとクラスの女子のほとんど……っていうより並盛中学校の2年生大集合。(リア充……じゃなくて彼氏持ちと無関心な子を除く)
「あ、はい……」
山獄ファンクラブってほとんど学校を支配してる気がする……。そして、
「あたし、空音さんが転入してきたときに言ったはずよね?」
ナイフを右手に持つ上原さん怖えええええええええええええええええええ!!!!!!!!
いやぁ、ぶっちゃけ相手は年下からなんとかなるかなとは思ってたのにね!こう見えてもあたし年齢は高1だし!でも流石にこの人数と迫力はないよ!80人は居るんじゃないの!?後刃物は学校に持ち込んじゃやばいでしょ!
……あー、雲雀さん対策で常に二本刀持ってるあたしが言う事じゃないか。
今もストラップ状になったのがポケットの中にありますけど?
「別にもう山本君に今後近づかなければいいんだけどね」
「……脅迫だ(小声で)」
上原さんの背後からも声が飛んで来た。
「だいたいさおりんが忠告したのにその日の内に山本君と一緒に帰っちゃうし!」
「獄寺君ともよ!」
「どうせその日の内に二人に手出ししたんでしょ!」
「二股するとかありえない!」
……………………………誤解が解ける気がしない……!!!!!!
「だって山本君と獄寺君の初チューも、ドーテーもあんたが奪ったんでしょ!!!」
最近の中学生って……
ま せ て る !
希望としてはツナとかごっきゅんに童貞捧げてることを期待しますけど!
「えっと……、チューとかそういう関連はないし!二股もしてないんですけど……!」
「「「「「「しらばっくれんな!!!!!」」」」」」
うそーん!!!!
ちょっと待ってよ!今目つきが恐ろしい事になった上原さんにあたし刺されちゃうよ!?
「…………許さない……!どうせあんたなんて山本君の事何も知らないくせに!まだ出会ってから1か月も経ってないんだろうが!?生意気ぶっこいてんじゃねぇよ!山本君もあんたの事なんか好きなわけないじゃん!!!!このドチビブスオタク女!!!!」
……カッチーン
ん?今、もしかしてチビっていいましたか?言っちゃいましたよね?
え、無性に腹が立つんですけど?チビだって?あたしが?それに何も知らないって何かしら?え?オタク舐めんじゃねぇよ?なにも知らないなんてあるわけないじゃん?山本もプロフィールのページなんか愛読し過ぎちゃって丸暗記どころか、このコマは何巻の何ページまで言えちゃうんだけど?あっはっはー!
あたしの理性が崩れた。
「ふへへ……へへへっ……うへへ……っ!うっへへへへへへへへへへへへへへ!!!!」
「な、何こいつっ!?」
突然変な笑い声をあげるあたしに、上原さんが怯んで1歩下がり、周りの女子も1歩ずつ下がる。
「いやー参っちゃうなぁ?そんなにチビチビ言わないで欲しいんだけどねー!へへへっ!ま、オタクって言うのは否定しないけどー」
「……気でも狂ったの?」
「まっさかぁ!あたしはいつでもこんなテンションだって!特に腐ネタが関わると自分で言うのはアレだけど凄いんだよ?」
「「「「「…………」」」」」
あまりの変わり様に全員言葉を失った。
今の空音は腐女子スイッチが入りきっていて、目がギラギラ輝いてる。
「いつもは理沙がストップかけるんだけどねー!えっと、あたしを呼びだしたのって山本君と獄寺君がらみだよね?」
「そ、そうよ!!あんたなんかが二股かけるから!」
上原さんはナイフを握りなおした。
そして睨みながら真っ直ぐ空音の目の前に突き付けた。
「えー、ナイフは危ないから止めよう?乱闘なんて雲雀さん相手で十分だし……?まあ雲雀さんがあたしに嫉妬してたら吐血できるほど嬉しi「何か言った?」……な、な、何で雲雀様がここにぃぃぃぃぃぃぃぃ!!??」
「「「「「「「「きゃーーーーーー!!!!!!」」」」」」」」
女子は突然現れた雲雀さんにビビって、蜘蛛の子を散らすように一目散に散っていく。
残ったのは上原さんとあたしと雲雀さんだけ。
「む……」
まずあたしがした事
「群れてごめんなさいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
スライディング土下座する事だった。
* * *
空音が連れて行かれて、僕はまず山本に騒動を納めるように頼みに行こうと階段を駆け上がった。
ただのクラスメイトの僕が止めに行くより、学校のエースの山本が止めるように言えば、山本ファンクラブの上原さん達が従わない訳はない。
だから僕は走った。目の前の事より走る事に集中した。
……だからぶつかっちゃったんだ。
「僕にぶつかるなんていい度胸してるじゃないか。理沙」
「(そんなーーーーーー!!??)」
最強の風紀委員長様、雲雀恭弥。
「あのっ、申し訳ないんだけど今急いでるんです!」
そう言って強引にダッシュで階段登って乗り切ろうとしたけど、そうはいかずに雲雀さんに腕を掴まれた。
「何で急いでるの?」
「借りは後で返すから離せええええええええ!!!!!!」
腕を強引に引き抜こうと思ったけど
「ヤダ」
「………………」
雲雀さんにガン飛ばされて動けなくなってしまった。
いや、暗鬼出してもいいんだけどね?そしたら振り払えるけどね?
でも、それ以前に怖いんだよ!
「理由だけでも説明してよ」
「……説明したら離しますか?」
「内容による」
そんな所だろうとは思った!!!!
うん、でも話さない事には始まらないとは思った僕は早口で空音の状況を話した。
「――――――――で、そんな訳だから腕離せ。腕痛い」
「へぇ……要するに空音は群れてるんだね」
「…………………そうだけど」
どうして雲雀さんの結論は何でもそこに行きつくんだよ。
そして腕が折れそうなんですけど。
「そして風紀が荒れてる」
「…………そうですね」
どんだけ学校好きなんだよ。
「……だったら僕が制裁加えに行かないと」
「あ……」
そっか……騒動は雲雀さんに言えば権力と恐怖で一網打尽にしてくれたのか……。あー何で思いつかなかったんだろう……。
雲雀さんはクルっと半回転して僕に言った。
「理沙、山本武も呼んどいて」
「へ?」
「借りを返してくれるんだよね?」
「そうだけど……?まぁ……わかった、呼んでくる」
良く意味が分からないままに頷くと、ニヤって笑って階段を下りて行った。
* * *
(まさかの雲雀さんに助けて(?)もらっちゃったけど……?何か企んでませんか!?)
(山本呼ぶだけで借りを返せるって??……楽なのに越したことはないけど)
(ヴァリアーでの生活はいろんな意味で体が軋む!!!)
2009/12/29
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