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ナイトが愛したひと。
小さな王様の大きなため息



―――これはとある王国の小さな二人のちょっとした旅のお話。



* * *



のどかなとある農村の一番の人気者と言えば真っ先に彼が出てくるだろう。とある漁師を営む家の一人息子のヤマモトタケシ、14歳。
誰にでもわけ隔てなく愛想がよく、剣術にも秀で、更には容姿端麗ときた。村の女の子からはもちろん、同世代の友達や村の子供から老人からも人気が高い。欠点と言えばちょっとばかり天然過ぎる所ぐらいだろうか。

「チーッス!」

「あらタケシ君じゃない!いらっしゃい!今日は父さんのお使いかい?」

「そんな所っス!えーっと、ピーマンとトマトとキュウリ下さい」

「あいよ。あ、そうだ!うちの娘を嫁に貰ってくれたらうちの商品を全部タダであげるんだけどねぇ」

「ええ!?」

「オイオイ、タケ坊が困ってるじゃないか。第一タケ坊はうちの娘の方がタイプだってよ!」

「オジサン!困りますって!」

「なーに言ってんだべ!タケシはうちの息子と結婚すんべよ!」

「ハハハ……」

最近のタケシのちょっとした悩みは、村の大人たちが結婚やら彼女やらでからかってくることだ。もちろん娘が居る家なんかは本気で言ってたりするのだが。
当の本人と言えば恋愛経験はゼロ。初恋さえもした事の無い彼はこういう話は苦手だったりする。彼からしたら恋愛より親父の剣道や、子供や友達と遊ぶ方がずっと楽しいのだ。

「全く、カンベンして下さいよー!じゃあオヤジが待ってるんで行きますね!」

「はいはい、娘の事もよろしくねー!」

「あ、オレの娘もな!」

陽気な村人たちに手を振り返して野菜が入ったかご片手に家へ歩きはじめた武。今日は帰ったら親父と漁の網を直さなくちゃなー、と考えながら歩いていると、トテトテ10歳ぐらいの男の子が走ってきた。

「タケシ兄ィー!」

「ん?フゥ太じゃねーか!」

「『フゥ太じゃねーか』じゃないよ!!!」

なんだかちょっぴり怒ってる様子のフゥ太は、よく分からないという顔で首を傾げたタケシに手に持ってる丸いペンダントを押し付けた。

「これ!大人に見つかったら流石のタケシ兄でも怒られちゃうよ!」

「あ、やっべ!拾ってくれてサンキューな。確かにオヤジ達に拾われたら危なかったぜ……」

フゥ太に押し付けられポケットにしまったペンダントは、質素な服に身を包んだタケシに似合わず金色に輝いていて、ペンダントの中には写真が入れられる造りになっている。

「もー!王様の写真が入ったペンダント落としちゃうなんてバチ当たりにも程があるよ!オマケにタケシ兄は王様直々に貰ったんでしょ!?」

「ツナはまだ“次期”王様だけどなー……。また今度ツナにあったら謝んねーと」

「まったく、タケシ兄はー……。そういえば今度お城に行くのはいつになるの?」

「んー……、分かんねーや……。今度招集がかかるのはいつか分かんねーし、城に行ったとしてもツナに会えるかは分かんねーしな」

剣術に秀でているタケシは、その剣の腕を見込まれて時々城に召集されて剣技大会や、城の護衛、はたまた兵士として遠征にかり出されたりと若い……むしろ幼いながらもなかなか活躍しているのだ。

「そっかぁ、王様も忙しいもんね」

「だーかーらー“次期”王様な」



* * *



さて、噂の次期王様と言えば。

「うぎゃああああああ!!!!無理無理!!絶対無理だから!!!」

「情けねぇ声出すな。次期国王たるものの武術の一つも身に付けられねぇどうすんだ」

「ただヘビを避けながら向こうにある瓦を割ってくるだけだろう!これぐらい出来ぬようでは、いざという時己の身を守れないぞ!!!」

現在、品位の欠片も感じさせない悲鳴を上げているのは次期王様となるサワダツナヨシその人である。
彼の性格と言えば貧弱軟弱脆弱惰弱薄弱怯弱気弱こわがり小心小胆怯懦腰抜け意気地なし弱虫内気肝が小さい、黒いスーツに身を包んだ赤ん坊の家庭教師に言わせれば運動も勉強も出来ないダメダメのダメツナ、だそうだ。無論悪い所ばかりではないのだが……。

「ひぃ!ラ、ラル!た、助け…ぎゃぁ!!!」

「弱音を吐くな!!!!」

武術教育担当の赤ん坊、ラル・ミルチにピシャリとSOSを跳ね返された王様は現在武術の時間。彼の掌には申し訳程度にグローブが嵌められているが、瓦を割る前に蛇の大群から身を守りながら辿り着けなければ話にならない。
ラルのスパルタぶりは国全体で、有名で今回使用している蛇は当たり前の様に毒蛇である。

「どうしていつもこうなるんだよ〜!……ぎゃあ!……ほっ!……うわっと!……えい!」

パキン。何とか蛇を避けてチョップをすると軽い音を立てて瓦が割れた。

「ふぅ……、ってうわあっ!!ちょ、瓦割ったんだから助けてよ!!」

「何言ってんだ?蛇を倒して戻ってくるまでが修行だぞ」

これまたスパルタ教育がお得意な総合教育責任者(つまり一番お偉いさん)リボーンに跳ね返され、王様は顔を真っ青にして悲痛な叫びを上げる。

「そんなぁ〜〜〜〜!!!!!!」



* * *



「もう……嫌だ……」

特訓から命からがら帰還したツナヨシは、豪奢な城にはあまりにも不釣り合いな、飾り気のない部屋の飾り気のないベッドにボフッと身を投げた。
ツナヨシ曰く豪華な部屋は落ち着かないので自室だけは庶民と変わらない部屋にしてほしいと、メイドや王様やその他使用人の反対を押し切ってリフォームしてもらったのだ。

「お疲れ、王様。緑茶でも飲むか?」

その声で、この部屋に居るのは自分だけではない事に気がついた。無表情のまま飴を銜えた彼はこの城にたびたび訪れる技術開発者のスパナである。いつもは訪れても城の作業場に籠りっきりの筈だが、なぜか今日はツナヨシの部屋に無断侵入。
スパナはあまり身分を気にしない人間なのだ。何で居るのか突っ込む気力の残っていないツナヨシはあえて気にしない事にした。

「ううん……ちょっと一人にして……。って何やってんの!?」

しかし、その気持ちはわずか5秒で崩される。スパナは王様という身分に合わない小さなテレビの前で、何やら工具やら部品やらを散らかしていたのだ。

「王様のゲームの部品がモスカ製造にちょうどよさそうだから……、ちょっと部品を貰った」

身分関係無しにしても、他人の部屋に無断で入り込み、他人の物を勝手に分解して、挙句の果てに部品を無断で持ち去ろうとするとは相当図太い神経の持ち主である。

「『ちょっと』!?ゲーム機本体がバラバラなんだけど!?もう使い物にならないじゃん!!!カセットまでバラバラにされてるし、オレのセーブデータが消えちゃったよ!!このソフトも本体も手に入れるの苦労したのに〜!これ旧式のゲームなんだから!!」

ゲームでここまで悔しがる王様も王様だが、その様子を見てさすがのスパナも悪い事をしたかなと肩を竦めた。

「そんなに大事なものだったのか……。すまなかった王様。何ならもう一回新しいのを復元してやろうか?」

「いや……もう、別にいいや……」

すっかり興醒めして、再びベッドに伏せたツナヨシ。別にいいのかと言葉通りにしか受け取れないスパナはそうかと、バラバラになったゲームの残骸を抱えて立ち上がった。

「モスカ作ってくる。王様のおかげでモスカのレーザー砲の威力が上がりそうだ」

「レーザー砲!?」

またもやガバッと起き上がるツナヨシ。

「まさかそれを人に当てるつもりじゃないよね!?殺しはダメだからね!!!」

「……大丈夫。モニターはともかく生の殺しは気持ちが悪いから」

「そういう問題じゃないから!!!」

「ん」

ツナヨシの話をロクに聞いていないのか生返事を返してスパナは、これまた次期王様という身分に不釣り合いな薄いドアを開けて出て行った。殺しや争い事を嫌うツナヨシの性格は賛否両論だ。甘いという人間もいれば、優しいという人間もいる。

「……部屋にカギ、付けてもらおうかな……」

「了解しました、王様」

独り言なのにいつの間にか部屋にやって来た執事に返事をされてしまった。

「ってええ!まだ決定してないよ!!!」

「!!も、申し訳ございません!!私とした事が早とちりをしてしまい王様に不愉快な思いをさせてしまって「イヤイヤイヤイヤ、気にしてないから!!!!頭を上げてください!!」……ありがとうございます。それより王様は私なんか敬語をなんて使われる必要が無いのですよ!」

またやってしまったと内心舌打ちをしたい気分になった。ツナヨシは城生まれではない。今ではあまり記憶が無いのだが小さい頃は農村で暮らしていたらしい。
うっすらと思い出せるのは自分が苛められっ子だった事、そして一人だけ苛められっ子のオレとも遊んでくれた誰かが居た事、母さんのハンバーグが美味しかった事。
オレが6歳になった誕生日の翌日、次期国王が亡くなってしまい、国を立ち上げた偉人の子孫という事で俺が次期国王に抜擢され、この城に連れてこられたのだ。どうも苛められっ子だった時の癖なのか人に敬語を使ってしまう。

「……ごめん、癖みたいなものだから気にしないで」

「謝らなくてもよろしいですよ!」

「うん……」

正直ツナヨシはこうやってペコペコされるのも苦手だ。人より偉いという立場がいつまでたっても慣れなくて嫌なのだが、そんな事言っても今更どうにもならない。そんな事言ったってリボーンに呆れられるだけだ。ヘタしたら鉄拳が飛んでくる。

「あ、そうです。もうすぐ食事の時間ですので食堂にお越しください」

「うん、ありがとう」

執事はそそくさと去って行った。母さんの事を思い出したら、母さんに会いたくなっちゃった……。リボーンみたいにオレの事を尻の下に敷いたり、使用人達みたいにペコペコしたりしない母さんは、時々城まで会いに来てくれる。
母さんみたいに気がねなく付き合える人って言うのはかなり貴重だ。スパナはどちらかというと気がねなく話せるほうなんだけど……、なにしろ本人は自分の世界に没頭してるからなぁ。他にはちょくちょく居るには居るけどみんな癖が強くてなぁ……。あ、でもヤマモトがいる。

「そういえば最近、ヤマモトと会ってないなぁ。会いたいなぁ……」



* * *



小さな王様の大きなため息




(ツナ、元気にしてっかなー?)

(ヤマモトに手紙でも出そうかな……)




2010/03/25



※↓スクロールで挿絵っぽいもの















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あきゅろす。
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