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メカクシ団サ-チ
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画面の向こう側 シンタローとエネ
あれほど言ったのに。なんども、何度も。
なのに、また彼は約束を破った。
「またですか、ご主人…」
声が震えないように自分自身を叱咤する。
やっとのことで絞り出した言葉を例に違うことなく、彼は一瞥しただけでそのままベッドに横たわる。
「早く止血して下さい」
妹さん、呼びますよ。
そう言えば、漸く赤く染まった手首にタオルを当てた。
彼がこんなことをするようになったのは、もう2年も前の事だった。
初めて手首を目の前で切られた時にはパニックに陥り、卒倒しかけた。
まぁ、卒倒しようにも、倒れる体が無かったのだけれど。
彼にとってこの行為は俗に言う『罪滅ぼし』なのだ。
赤いマフラーの似合う、あの子への。
責任、後悔、罪悪感、そんな感情が入り混じっているのだろう。
いくら手首を傷付けたところで、あの子はもう、還ってこないというのに。
所詮は自己満足。
けれど、そう思う反面、彼の気持ちが痛いほど分かってしまう自分がいた。
彼は頭が良すぎるが故に何処か冷めていて、友人と呼べる人がいなかった。
そんな彼に手を差し伸べたのがあの子だった。
どれだけ拒絶されても、疎ましがられても、彼のことを見放さずに根気よく、声を掛けたのがあの子だったのだ。
そんな彼にとって唯一無二の大切な存在を失って、平常でいれる訳がない。
「…やめましょう、こんなこと」
もう、何回言ったかも分からない言葉を繰り返す。
あぁ、ディスプレイが煩わしい。
私には、画面越しに声を掛けることしかできない。
この画面さえ無ければ、力づくでも止めてやるのに。
電子体の私には、この厚さ1pにも満たない画面を越えることは出来ない。
「ごめんな」
唐突に彼が呟いた。
それは、あの子に対するものか、私に対する謝罪かは分からない。
ただ、この手が届けばいいのにと、思った。
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