short
捕らえられた兎(↑続き)
¨兎の涙¨の続き
「っていう感じで俺は学園を去って、この学校に入学したわけだ。どうだ?中学の俺は可愛いだろ?」
「…先パイ、ウソっすよね?まさか先パイがそんな健気な子なハズないっすよ。」
中学3年だった俺は、あの日学園を去った。そして、不良率100%と言われるこの高校を受験し、入学した。何故この高校を選んだかは、特に理由はない。誰も知らない土地に行きたかった。
中学までの俺は、身長も低く、華奢で女みたいなヤツだった。
不良率100%を誇るこの学校で、そんなヤツが入ったらどうなると思う?
イジメのターゲットになるに決まってる。俺はまさにソレだった。
「あ゛ぁ?てめぇ喧嘩売ってんのか?ん?」
「い、いえ!!めっそうもない!!……でも、3年のトップ張ってる先パイですよ。信じられませんって。」
しかし、格闘技全般を習っていた俺は、来るヤツ、来るヤツをなぎはらってやった。
その頃、俺にも成長期とやらがやって来た。どんどん身長がのび、それに伴って、筋肉もついた。
あれから3年。3年もここにいれば性格も変わるさ。
「事実なんだからしょうがねぇだろ。んだよ。てめぇが昔の俺の話聞きてぇって言ったんだろ。」
「そうっすけど…。以外とディープな内容だったんで。」
今なら笑って話せる話だ。人生の汚点だな。あの学園になんの未練もない。書記にだって、もう何にも感じない。
…………と思いたかった。
毎日夢に出てくる、あの人。忘れられるハズがない。
なんて女々しいんだ。
「俺も若かったってことさ。そろそろ先公来るぞ。早く戻れ。」
「え〜。どうせ先公の話しなんて誰も聞いてねぇっすよ。まだ先パイの話し聞きたいっす!」
「はぁ〜。」
「その話しがホントなら、今はどうなんすか?しょきさまってヤツのこと。」
その質問にどきりとした。コイツはバカそうに見えて、痛い所をついてくる。
まだ好きだ、と言えたらなんて楽か…。
「……別に。何とも思ってねぇよ。」
「ホントっすか〜?だって、先パイの浮いた話し一回も聞いたことないっすもん。」
「……。」
「先パイ、知ってますか。先パイ寝てるとき、いつも寝言言ってるっす。」
「…なにを、」
「¨しょきさま、すみません。¨」
「!!」
「¨好きになって、ごめんなさい。¨」
何も言えなかった。
「最初はなんのことか分からなかったんすけど、話し聞いて分かったっす。」
何も答えない俺に、目の前のコイツは更に追い討ちをかけてくる。
「まだ好き、なんすよね?」
「っ、好きだよ!好きだ!……でも、俺にそんなこと言える資格ねぇだろ!」
ついカッとなって怒鳴ってしまった。
しかし、コイツはキョトンとした顔で言ってきた。
「何でっすか?別に好きになるのは自由じゃないっすか。」
「あの方に迷惑かけたし、俺はもうあの時の俺じゃねぇ。可愛くもねぇし、不良のトップだし……、」
「ああもう!先パイらしくねぇっす!伝説と言われる先パイはどこに行ったんすか!?どっしり構えてればいいんすよ!」
「………思ってても、気持ちを伝えるすべがねぇだろ。」
その言葉に後輩はウッと詰まった。
それと同時に、先公が入って来た。
俺は頭を伏せ、目を閉じる。頭に浮かぶのは、あの人。消えてくれない最後の光景。焦ったようなあの顔。忘れたい。でも、
忘れたくない。
「ー…ィ、…パイ、先パイ!!起きて!」
「……ぁ?」
うるせぇな。んだよ。
「前、前見て!!」
「なんだっつーんだ……ょ、」
俺は頭を上げて前を見た。
俺は自分の目を疑った。だって、だって、目の前にいたのが……、
俺より10センチ近く高い身長、凛々しい顔つき、均等のとれた身体。
ちがう、あの方じゃない。あの方な訳ない。
「先パイ…?」
後輩が俺を心配して声をかけてくるが、今はそれどころじゃない。
目の前の人物が口を開く。ゆっくりと、それはスローモーションに感じた。
「見つ、けた…。もう、どこにも、い、かないで…。」
その潤んだ瞳に吸い込まれた。
捕らえられた兎
end
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!