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「なんだ。今日は一年のクソガキ共が来る日だったのか。くだらねぇ」
放課後、部活中のテニスコートに立ち寄り見た光景に亜久津はすぐにつまらなさを感じて来た道を帰ろうと足を踏み出した。
今日はどうやら一年生の部活の見学会だったらしい。
一年生らしき集まりが必死にテニス部の練習風景を見ていた。
自分にもあんな時期があればなと少し感傷に浸り、しかしその気持ちは誰にも見せないようにコートの脇を通ろうとしたときだった。

「あれ?もう帰っちゃうの?残念だなー。今日は亜久津く
んとテニス出来ると思ったのになー」
後ろから聞きなれたおとぼけた調子の声が聞こえて振り返るとそこにはラケットをクルクルとまわしながら近寄ってくる千石の姿が見えた。

「あ?俺はテニスなんてやらねぇよ」
そんな千石の誘いを断りまた一歩足を踏み出そうとしたところだった

「わっ!!・・・あ、っと、すいませんですっ!!」
いきなり何かが走っててきて前からぶつかってきた。と同時にその子が持っていたカバンなどが地面に散らかった
その子は、声だけだと男か女か判断のつかないほどの声でしかも小柄だった。

頭には緑色のバンダナをしてあり、その下からのぞかせるまんまるの大きな瞳が印象的である。
男子の学校指定ジャージを着ていることで男と分かったが、もしこれで女の指定ジャージを着ていても男だと気づかないほどの可愛らしさだった。
「痛ぇな、てめぇ、何考えてんだ?」
しかし亜久津はそんなとこには目もくれずにその少年に悪態をついた。
その少年の名札をとっさに見ると <一年 壇太一 >と書かれていた。
どうやらこの太一という少年もテニス部の見学に来た一人らしい。

「あーあぁ・・・まぁ、そんな怒るなよ亜久津くん」

何やら険悪なムードになりそうになっているところを千石がなだめようとしているがはっきり言って逆効果だ。
このゆったりした口調にまた腹が立つ亜久津は今にも切れる寸前だった。

「ご、ごめんなさいですっ。怪我は無いですか?亜久津先輩!」
そんな中必死に謝る太一は初対面にもかかわらずとっさに亜久津の名前を言っていた。

「あ?なんでてめぇ俺の名前知ってるんだよ!」
亜久津は腹が立っていつもの口調よりさらに強い口調で太一を怒鳴った。


「いや、亜久津くん・・・だって名札ついてるしさっきから俺「亜久津くん」言いまくってるんだから名前くらいわかるでしょーよ・・・」
亜久津の逆鱗にふれないように今度はそっとした口調で言ってみる千石。

「違うですっ!実は僕ずっと亜久津先輩のファンで、だからテニス部にも入ったですっ!今日から部活で毎日会えるとなると僕うれしくて・・・感激ですっ!」
「あ、違うんだ・・・」と一人で冷静に突っ込みを入れている千石の隣で瞳をキラキラと輝かせた太一はそう力説を始めた。

「ファン?はっ、笑わせんな。どうでもいいけど俺はテニス部じゃねーぞ。テニスもやらねぇ」

そう言って太一の前を通って帰ろうとしたとき太一の細い腕につかまれて動きを止めた。
力も何もない手だったがなぜか亜久津はそこから動くことができずにいた。
この学校で一番不良だと怖がられている亜久津がドスの利いた声で「離せ、ガキ」などと言っても太一は怖がらずにそして決して離すことなく亜久津の腕を太一ながら頑張ってつかんでいた。
そうした太一の瞳からは何故か大粒の涙が流れていたのだった
さすがの亜久津もいきなりの涙に困惑したのか抵抗するのをやめて「なんだ?」と低いながらもちょっと太一に気を遣うような声色で問いかけた。
そしてさっきまでここにいた千石の姿はいつの間にか消えていた。


「どうして・・・そんなに強いのに、テニスやらないんですか・・・?・・・僕は、亜久津先輩がテニスしているところが好きで、・・・僕はもっと亜久津先輩にテニスを好きになって・・・もらいたくて・・・」
嗚咽を噛み殺しながら苦しそうにそう言う太一には不思議と腹も立たずに茫然と太一の言葉を聞くことしか亜久津にはできなかった。

いつもなら自分を批判するもの、ことを言われるだけですぐ暴力で解決していた。
特に「なぜテニスをやらないのか?」その質問を言われる度に怒りが全身を駆け抜けて自分でも手がつけられなくなるほど無茶苦茶をしていた。

「うるせぇ・・・俺に指図するな・・・」
そしていつもの怒鳴り散ら
す口調ではなく低く落ち着いた声でそう呟くように言い、太一の前をすり抜けて帰った。






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