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偽人語り
来日
 綱吉達はコンビニに立ち寄ってから、勉強会の集合場所である沢田宅にやって来た。
 黒い家門を開け、敷地内へと入り込む。

「何かいっつもいっぱいごめんね?」
「良いんすよっ、十代目!! これからお世話になるんっすから!!」

 お世話になるのは間違いなく自分だ、と思いつつ家の扉を開ける。何時もの事だが、散々教えて貰っておきながら赤点を取る訳だが獄寺は一体…―――と、ドアをできうる限り早くドアを閉め直した。
 するとドアの一枚向こうで、かかか、と何かがぶつかる音がする。

「十代目? 一体、如何なされました?」
「うん!? 何か、嫌な予感して!! 閉めた?!」

 何を言っているのか分からなくなるぐらいの危機感が押し寄せてくる。声が変に裏返って二人には首を傾げられた。
 しかし、それは仕方ない。こっちだって疑問詞が頭を占領し続けて大変なのだ。

 『何故、居る』。
 そして、『何が有った』。

 浮かぶは、苦笑いのみ。

「十代目、やっぱりお顔が優れませんよ?」
「そうだぜ、ツナ? 家帰りたくないのか?」
「ちちち、違うの! えっと、あのね!!」

 そう言って、二人を中庭の方に押しやり、其処に居て! とお願いする。二人は顔を見合わせてキョトンとしているが、まずは二人の安全確保が最優先だ。

 綱吉はドアノブを握って息を吹きかけた。何でドアの前でこんなに覚悟しなくてはいけないのだろう。出るならまだしも、家に帰る時ぐらい落ち着きたい。
 ぐっと唇を噛み締めて、一間置いて、腹を決める。
 ドアノブを捻って、自分の鞄を片手に持って―――開け放つ。



 瞬間、ひゅん、と再び投げつけられた銀色の飛来物を――――鞄を分投げてることで防御。更に、それは力を余すことなく飛んで行った。

「え…」

 投げて来たであろう人物の声が引きつった。
 しかし持ち前の身のこなしでギリギリ躱すと、鞄はそのまま空中を滑走して壁へと激突する。

 前の方で、ぼたりと音がした。

「あのー…―――何で居るの?」
「あん?」

 鞄を躱した人物が頭を撫でながら起き上がった。不意を突かれた攻撃らしく、床に着いた膝を持ち上げて、こっちを向いて来た。

 前髪の長い金髪。
 さらに、銀のティアラ。
 漆喰のマントには―――彼が属している部隊の紋章。



「ベルフェゴール…―――」



 名を呼ばれた人物…―――ベルフェゴールは、うしし、と楽しそうに笑って解答にならない解答で答えてくる。

「オレ、王子だから♪」

 そしてまた、うしし、と無邪気に笑ってきた。
 綱吉は軽く溜め息を吐くと、とりあえず、振り返って確認する。案の定、最初開けた時に投げられたであろうナイフが三本、ドアに突き刺さっていた。
引き抜き終わると丁度、玄関のドアがガチャリと開き、獄寺の顔が覗いてきた。

「あ、ごめん。もう…―――」
「んなぁ?!」

 獄寺は中にいる人物に気づいたらしく、思いっきり表情を崩した。ドアを荒々しく開き、綱吉を庇う様に躍り出た。

「ナイフ野郎! 何で、てめぇが十代目の自宅に居んだよ!」
「居るにはそれなりの理由があるに決まってんだろ、バーカ」

 早くも睨み合いの喧嘩が始り、額をぶつけ合い、終いには此処が人の家だということを忘れて武器を持ち出した。
 まだ悪口合戦が続いているだけなので、放っておいても大丈夫なようだ。そう思っていると山本も、ちーっす、とマイペースで言ってきた。

「あれ? えーっと…名前やたら長い奴じゃん?」
「そ、そんな覚え方してたの…」
「手前も喧嘩売ってんのか!」

 ベルフェゴールがナイフを構えると、山本は悪ぃ、と苦笑いを浮かべた。

「西洋の名前って長いの多いじゃん? あれ、覚えにくいんだよ。世界史とか苦手でさ!」
「ベルフェゴールだ!」

 挨拶のつもりなのか、ひゅん、とナイフを数本投げてきた。それを綱吉はあわあわと玄関の壁に寄って回避したが、山本は笑顔のまま、ひょい、と簡単に躱してしまった。

「やっぱ長ぇのな! ベルで良いか?」
「王子にしろ!」

 再び投げられて躱した山本は、また笑った。

「そっちの方が覚えやすいなのな、日本語だし。王子、久々〜」

 ナイフを投げていたベルフェゴールは一瞬固まった。しかし、すぐにうしし、と笑う。

「良い奴じゃん。下僕にしてやるよ」
「下僕かぁ〜。それも良いけど、やっぱ友達の方が良いのな!」
「平民風情が馴れ馴れしいっつの」

 あはは、と言われた台詞を知ってか知らずか、からりと山本が笑う。今度は扇子の様に広げたナイフを放ってきた。これを、躱し切るのは無理だ。

「山本っ!?」

 しかし、次の瞬間には全てが床に落ちる。
 ゆらり、と、いつの間にか引き抜いた時雨金時はすらりと煌く刀。それを肩に担ぐ。
 山本すごっ! っと思ったのは自分だけではないらしく、獄寺とベルフェゴールも顔を少し引き攣らせていた。

「良いじゃん! 仲良くしようぜ!王子!」

 そう言いながら、投げられたナイフを拾い始める山本。

「お…おう……」

 観念、したと言うよりは、もう相手にするべきではないと感じたベルフェゴールは全て回収されたナイフを素直に受け取った。

 普通、そこまでやらないもんじゃ…!

 山本のマイペースに改めて感服していると階段からとんとんと降りてくる足音がする。

「あら、やっぱり」
「げっ!」

 そこに現れたのは、ビアンキ。空になった洗濯籠を持ってこっちを嬉しそうに―――正確には、獄寺を見下ろしていた。



 ゴーグルなしで。



「姉っ貴…!」

 顔を青くしながら、獄寺は泡食ってばたりと倒れてしまった。ぎゅるるる、と腹を下した音も忘れず鳴り響く。
 昔、やたらビアンキにポイズンクッキングを食べさせられたせいで獄寺の体自体がビアンキを拒絶しているらしい。ゴーグルを嵌めていると平気なのは何故なのかよく分らないが。

「ご、獄寺君?!」

 慌てて駆け寄って、大丈夫?! と声をかける。
 すっかり忘れてた。今日、いきなり発案してしまったから、ビアンキにはゴーグルを掛けるようにお願いしていなかった。
 少しだけ、自分の行いに反省する。

「あら、隼人ったら…―――嬉しいからって倒れなくっても…」
「あん? 明らかに、お前見てきぜ…―――」
「そうなんだよね!!」

 ベルフェゴールの口を慌てて塞ぎ、ビアンキをにっこり見る。此処で本当のこと言って家中ポイズンクッキングで汚されては溜まらない。

「こ! これから! オレ達テスト勉強するんだ!後で、コップ取りに行くから、四つ準備してもらって良いかな?!」

 そう言いながら次の瞬間にはベルフェゴールと獄寺の襟首をひっ掴んで階段を昇り始める。
 ビアンキはしばしこっちを見た後、良いわよ、と答えてくれた。

「ビアンキ…どうかした?」

 驚いたらしく、瞳が見開く。
 自分を見ている目が少しだけ心配そうに揺らめいていた。
 しばし沈黙の後、ビアンキは小さくと笑った。

「ママンの事は、私に任せて大丈夫よ。リボーンも居るしね」

 確かに、ベルフェゴールが何を考えて此処にいるかは分らないが、危ないことに変わりはない。
 寧ろ、ベルフェゴールの存在自体が危ない。

「ありがとう、ビアンキ」

 お礼を言って、ビアンキはまた細く笑った。

「気をつけるのよ?」
「分ってるよ」

 気を抜いたら一瞬でサボテンだ。ヴァリアーの天才ナイフ投げ機なのだから。
 二人を引き摺りながら階段を上っていく。その後を山本がお邪魔しま〜す、と言いながら着いて来た。

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