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偽人語り
転入生
 雲雀のお仕置きを食らった後、始業式には出なよ、と言われた。何時もは気分がコロコロ変わるから怖いが、今回は助かった。
 蹴り開けられたドアから応接室を後にして、教室へ戻ると案の定みんなが驚いた顔をしていた。

「えっと…───何かあったみたいなのな」
「あはは…」

 苦笑いを浮かべれば、獄寺が十代目!と声を張り上げた。

「雲雀の野郎ですね果たしてきます!」
「大丈夫だから!行かないで!」

 ダイナマイトを持って出ていこうとする獄寺を引き止る。怒るのも仕方ない。自分の頬には真っ赤に腫れ上がった打撲痕が残っているのだ。
 怒る獄寺を何とか宥めると、自分の座席に向かう。
ほっぽり投げた鞄が机の上に鎮座していた。

「十代目がいきなり放り投げて走り去っていくので、自分が持ってきました!」
「ありがとう、獄寺君」

 にっこり笑って礼を言うと、山本も頭の後ろに手を組みながらやってきた。

「それで変なの、撒けたのか?」
「ううん。撒けなくて学校の周り走ってたら雲雀さんに助けて貰って…───」

 それは良かったのな、と笑う山本に頭が真っ白になった。

「山本ぉおお?!何で知って…いや!見えて…───!」
「いや、はっきりは見えないぜ?」

 あっさり白状して笑った山本は頭を掻いた。

「ツナの足元にぼやけて小さいのがあるなって思って」
「気付いてたなら教えてよぉ!」
「いやぁ、悪ぃ。みんな気にしてなかったし、大丈夫かなって」

 ははっと笑うマイペースな山本に、肩ががくりと落ちる。そう言えば、山本も獄寺も自分の腕の『穴』が見えるのだった。

「ご、獄寺君も気付いてたんだ…」
「あ、はい! 面目無いっす…」

 ぺこりと頭を下げてきた獄寺に、良いよ、と声をかけ…────あれ、と首を傾げる。

「ぼやけて? 女の子だったよ? お兄さんも見てたし…───」
「へぇ。女の子だったのか? すんげぇな、ツナ! 見えちまうんだ?」
「あれ? え? 山本見えるんじゃ…」

 山本はいやぁ、とまた笑った。

「オレ、見えはするけどはっきりは見えないんだ。ガキん頃は見えてたんだって。親父が言ってた」
「そう、なんだ…―――」

 楽しそうに答える山本に、綱吉は顔を逸らしながら頷くしかなかった。

「夜中一人で走り回ってたり、何も持ってないのに見せてきたり、一番驚いたのは並盛川の中に向かって歩いてズンズン沈んで行った事だってよ!」
「こわぁあああっ!」

 爽やかな笑顔で語ってくる山本に悲鳴を上げる。

「山本! 怖くないの?!」
「え?」

 聞かれた事に驚いたらしく、そうだなー、と腕を組む。もうこの素振りだけで何を言ってくるか容易に想像出来てしまう。

「おっかない時もあるけど、中には遊びたいだけの奴とか、助けてくれたりとかしてくれる奴もいるからな。そんな怖くないかなー?」

 ぽかん、と口が開く。

「遊びたい…は、ま、ぁ、良いとして…―――助けてくれる?」
「あー、うん。そう言えば、見えなくなったのもその後だったみたいだし…」
「え?! それって…―――」
「ほら、お前達!チャイム鳴ってるぞ〜」

 荒々しくクラス名簿を叩きつけた教師が、こちらに声を掛けて来た。獄寺は舌打ちし、山本は、やべ、とか言いながら焦った様子無く席へと戻って行く。

 あれ? そう言えば、お兄さん見えてるみたいだったけど…―――見えない人じゃ…。

「突然だが、転入生が来ている」

 教師から放たれ台詞に、教室がざわめく。
 考え事も吹っ飛んで、まさか、と思うのと、入って来なさい、と声が放たれるのは同時だった。

 入って来た人物に、口があんぐりと開く。
 寧ろ固まって動けない。

 教師の横に立って、真正面を見る。
 にっこりと笑って来た。
 それはそれは爽やかな笑顔で。

 開いた口が塞がらない。

「イタリアからの転入生だ」

 教師の言った台詞が右から左に流れて行く。
 何を言っているのか意味を理解できない。

 開いた口が、塞がらない。

 更に、そいつは黒板に大きく自分の名前を書いていく。黒板に書き込まれていく白い文字の悪趣味さが、正に本人だと語っている。
 それから達筆で書かれた名前の横に、そいつは立った。

 開いた口が、塞がらない。

 紅と藍の双眸。
 特徴的な頭。
 並盛中学の夏服を纏って。



「本日からお世話になります。工藤=ロムロクです」



 教壇に立っている転入生…―――隣町の生徒会長『六道骸』が、平然とした様子で偽名を名乗る。



「よろしくお願いします」



 満面に柔らかな笑みを浮かべて。



∞∞∞



 始業式を終えて教室に戻ると、女子達の黄色い悲鳴が耳を打つ。骸に集まって、質問責めにあっているようだった。

「女子はぎゃーぎゃーうるせぇな…」
「ははっ! おんもしれ〜♪」

 軽く笑う山本に、自分は苦笑いを浮かべるしかない。

「世界にはそっくりさんが三人いるって言うけど、本当にそっくりだ」
「って、そっちぃい?! 山本! あれはどう見たって本人だよ! 六道骸!!」

 え? と本当に驚いた表情を浮かべる山本。その横で、アホか! と山本の胸倉を獄寺が掴み上げた。

「手前の頭はどうしたらそう変換できるんだ! どっからどう見ても、六道骸だろーが!!」
「六道骸って誰です?」
「其処で女共に囲まれてる、パイナップル頭…―――」

 だ、と獄寺が山本の胸倉を放す。
 話を聞きつけてやって来た骸が、にっこりとした笑顔に青筋を浮かべていた。

「こんにちは? 何方かと勘違いされているみたいなので、小耳に挟んだんですよ。誰がパイナップル頭です?」

 空気がひんやりとする。

「ちょっ! やめて!! 此処、学校だから! 人いっぱい居るから!!」

 今にも勃発しそうな喧嘩に割って入る。

「獄寺君は、ダイナマイトしまって! それと、むく…―――工藤君は…」

 骸に振り返る。
 そして、ぽん、と肩を掴む。

「昼休みにでも、『オレ達と一緒に』話しようか?」
「掴まれた肩が激しく痛むんですけど―――」

 顔を引きつらせる骸。
 どうやら此処では大人しい好青年の生徒らしい。

「え? 軽く掴んでるけど」
「君、天然で怪力さんなんですねぇ」

 冗談ぽく言って、肩を掴んでいる手を引き剥がされる。その後、肩を揉んで痛みを解しているみたいだった。

 そう言えば、と骸はこっちを見て来た。



「『また』、会いましたね?」



 にっこりと、笑ってくる。
 言われた意味がちょっと分からなかったが、超直感が答えを導き出す。

「あの時の『また後で』って、この事…―――!!」
「さて、何の話でしょう?」

 するとタイミング良く授業の始まりを告げるチャイムが鳴り響いた。生徒がわらわらと席に戻って行く中に紛れて行く。そして、こっちを向いて。

 口元だけ動かして、にやりと笑った。

 本日、二度目の『まさか』。
 綱吉は静かに自分の席に着席する。
 そして、拳を静かに叩きつけた。



「骸の奴…―――『気付いて』たんだ…」



 口は、『大丈夫ですか』と動いていた。
 つまり、本日あっさりと引いた理由。
 奴は女の子モドキに『気付いて』、さっさと逃げ出したのだ。

 下手に、巻き込まれないように。

「気付いてたんなら、オレにも言ってよ…犬達に隠したいのは分かるけどさぁ…」

 もう溜息しか零れない。
 すると授業はいつの間にか始まっていて、前から同じ白いプリントが数枚渡される。

「プリントにして渡しておくからな。失くしても責任は取らんぞ」

 一枚受け取って残りを後ろに回して漸く、自分も見た。



 視界に映った文字に、自分の頭が真っ白になる。



「それじゃ、授業始めるぞ。しっかり聞けよ」

 ぴらりと手からプリントが滑り落ちた。
 それに書かれていたのは教科書のページ数と章の名前。


「此処も、テスト範囲だからな」

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