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偽人語り
夏休み明け
 最近、現実的に本格的にどうしようかと思う。

 夏休みが本日明けた。
 朝の通学前。
 つまり、家の玄関を出る前から、沢田綱吉家の外というところに出たくないでいた。

 確かに、今日学校なのは面倒だと思っている。
だからと言って引きこもろうとは思っていない。

 最近、お化けが日常的に視える事には慣れてきた―――ただし、まだ怖いが。

 しかし違う。違うのだ。
 そんな生易しいものじゃない。
 いや。お化けも生易しいものではないが、これはもっと酷い。
 というか、自分の悪いところが一切見当たらない。
強いて言うなら、自分に一切悪いところは無い。

 悪いのは。

 綱吉は目の前の茶色いドアに溜息を吹きかけて、うん、と頷いた。
 がちゃ、とドアを開いて。

「こんにちは〜」

 にこやかに立っているパイナップル頭。
 綱吉はスクールバッグを抱いて。

「ボ・ン・ゴ・レぇっ!」



 身体を屈めた。



「な・に・が!」

 ひゅん、と頭を三叉槍が薙いだ。
 また、本気で殺されそうになった。

「こんにちはだ!」





 拝啓、神様。
 オレは何か悪いことでもしましたか?





「この時間は『おはよう』だよ!」



 骸の脇をすり抜けながら叫んだ。
 我ながらとってもどうでも良い突っ込みを入れたと思う。

「ちょこまかと…」

 呟いた骸を背に、綱吉は首だけ後ろに向ける。

「本気で狙ってないでしょ〜?!」

 ひゅん、と三叉槍を一閃して、パイナップル頭―――六道骸が当然のように襲ってきた。

「狙ってますよ、毎日毎日! 所構わず、ランダムに、時間も無差別に狙っているのに、君は尽くかわして、避けて、逃げ回っているんでしょう?!」



 当然のように逃走劇。



 それだけなら、まだ良いのに。

 二つ先の角から猫背の白い帽子を被った少年…―――柿本千種の姿。
 のそのそ出てきて、こちらを向くとヨーヨーを持った手で眼鏡を上げた。

「めんどい…」
「こっちの台詞ッ!!」

 怒鳴ってから、突然頭に走った予感を信じ、すぐ手前にある角の前で立ち止まった。
 瞬間、影が飛んで塀にぶち当たり、ばきゃ、と間違った音がした。
 塀のコンクリートが見事に凹んで、破片を散らせる。

「ちっ! 何で止まんらよ!捕まえ損ねたらねーか!」
「そこ! 止まるのが普通だから!!」

 目の前に、チーターチャンネルの城島犬が喚き立てた。

「殺す気…―――ってぇええ!!」

 綱吉は背後から再びやってきた骸の追撃を紙一重でかわす。
 その紙一重のせいで、犬へと骸が突っ込む形となったが―――それを蹴り倒して反動とし、再び突き込んできた。

 さすがに、この至近距離ではかわせない。

「うわぁああああっ! タンマタンマ!」

 骸の顔が、勝機ににやりと笑んだ。
 それを見ながら、手で腕を交差させてガードの姿勢を取る。
 そして、目をぎっちり瞑ってそのまま身を縮込ませた。



「っ―――!」



 きぃん。

 ぶつかり合う、金属音。
 綱吉は、え?と疑問を浮かべながら、顔を上げた。

 ベストからはみ出たワイシャツが翻る。
 長い脚に、高そうな運動靴。
 肩からショルダーバックを下げて、こちらには背を 向けている黒い髪のスポーツマン。

「助っ人、登場〜♪」

 この場にそぐわない、明るい口調。

「やっ、山本ぉおおっ!」

 持つべき友は親友。
 野球部エース、山本武が骸の攻撃を受け止めていた。
 頼りになる背中が、見える。
 その遠くから、十代目〜、と自分を呼ぶ声がした。
 振り向いてみれば彼はダイナマイトを構えて駆け寄ってきていた。

「十代目! お怪我は?!」
「う〜ん…まだない…―――」

 自称右腕。いつも自分を慕ってくれる日本人とイタリア人のハーフ。
 彼はほっと一息吐くと、骸にガンを飛ばす。
 眉間にしわが寄ってるせいで、更に言えば目つきがとても悪いお陰で余計に剣幕だ。

「骸てめぇ!」

 これが夏休み終わり頃から始って、ほぼ毎日ある逃走劇。
 さらに性質が悪いのは、これが彼らにとって『どんなものか』ということだ。



「『十代目お守りゲーム』は俺らが揃ってからだろーが!」



 綱吉は、がっくりと地面に手をついた。

 みんな! 本当に気づいて!
 オレ、毎日死にかけてるから!
 殺されそうになってるから!
 だから、『ゲーム』だなんて一言で片づけないでっ!!



 骸の綱吉身体乗っ取り計画が本格的進行を始めたのだ。



「そんじゃ、本番スタートなのな!」

 笑顔で言わないで、と叫びたいが零れる涙で声を上げる気にもなれない。

「今日こそ負けねぇかんら! ボンゴレ!」
「…………。」

 元気にヤル気満々な犬と無表情で殺る気満々な千種に、綱吉は何も言えず。

「このオレが居るんだ! 今日も勝つに決まってんだろーがっ!」

 対抗意識を燃やす獄寺には、もう頑張って下さいと言うしかない。

「極限、大復活だぁああ!」

 と鼓膜破らんばかりの声量で完全復活宣言した笹川了平には、良かったですね、の一言…────を呟かずに振り返る。

「お、お兄さん?!」

 妹である笹川京子と小さな女の子を連れて、了平は其処に健在した…───松葉杖無しで。

「あ、あれ? お兄さん!予定では一ヶ月じゃ…───」
「沢田綱吉。僕達は用があるので先に帰ります」
「うん? 分かった」

 にっこり笑う骸に、犬がえー? っとぼやく。

「良いから、帰りますよ。学校に遅れるでしょう?」
「ぶーっ」

 犬はぶー垂れてからポケットに手を突っ込むと、じゃあな! と怒鳴りながら歩きだした。その後ろ千種も無言で付いていく。

「では沢田綱吉。また後でお会いしましょう?」
「い、嫌だよ!」

 このゲームの続きを、どうやら放課後もする気のようだ。
 にっこりと爽やかな笑顔を浮かべて、犬達とは逆方向に走っていった。

 あっちは並盛中学の方向だよね?

 そう首を傾げていると確かに、と了平が呟いた。


「医者にはそう言われていたんだがな! この前中間検査した所、骨がくっついていたそうだ!」
「そ、それで松葉杖無し?! 大丈夫なんですか?!」

 了平は目をキラキラさせ、当然ながらこう返してきた。



「極限大丈夫だ!」



 痛みも感じないしな、と豪快に笑った。

 ははは、と苦笑いを浮かべていると獄寺が耳打ちしてきた。

「一ヶ月で…───普通回復しますかね?」
「う〜ん…お兄さんだからあり得るのかな…」

 何ら根拠の無い呟きを、獄寺はそうですね、と頷いてくれた。しかもそれで納得してくれたらしい。

「ツナ君!」
「あ、京子ちゃん!」

 了平のおかし過ぎる登場に、片恋相手への挨拶をすっかり忘れていた綱吉は、おはよう! と声を張り上げた。

「京子ちゃん、お兄さんが完全復活して良かったね!」
「うん! ツナ君、ありがとう!」
「え? オレ? オレは何もしてないよ?」

 当然の京子から来たお礼に首を傾げる。すると、京子嬉しそうに可愛らしい笑顔を浮かべた。

「そんな事無いよ、ツナ君! お兄ちゃん、ずっとツナ君にお世話になったって!」
「そうだ、沢田!」

 そう言って手を差し伸べてきた。



「極限感謝だ! 沢田! 病院では、本当世話になった!」



 にかっと爽やかな笑顔を浮かべてくる。



「ありがとう!」



 元気良く言われたお礼に、綱吉も破顔する。

「オレからも…───」



 そして、思い出す。



 あの約束で見た、太陽みたいなこの人に。

 支えられた事を。



 手を握って、感謝する。



「ありがとうございます!」



 自然と緩んだ口元を緩ませ笑顔を浮かべる。すると、ぴとり、とひんやりした何かが足元でくっ付いた。
 見下ろしてみれば、先程から京子達と一緒に居た女の子だった。

「あれ、この子…───」

 顔を上げれば、可愛らしい女の子。目元が大きい所が京子と似ているような気がした。
 きっと、京子から生まれてくる女の子はこんなに可愛らしいに違いない。

「沢田…───」

 そう呟いた了平の手が、震えている。

「え? 何ですか、お兄さん?」

 じっと、足元の女の子を見て、固まっている。見下ろすが何処にでも居る子供だ。寧ろ京子に似ている。

「あれ? お兄さん達と一緒に着いて来てた…────」

 子供、と言う前に、背中へ走る戦慄が口を強制的に閉じさせた。

 苦笑いしか、浮かばない。

 もう一度見下ろして…────皺に皺が寄った顔面を、けたりと笑わせる女の子が居た。



「ぎゃああああっ!」



 綱吉は悲鳴と共に鞄を手放し、全てを置き去りにして、死ぬ気で走りだしていた。

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あきゅろす。
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