偽人語り
壁に耳あり
草壁哲也は上司の雲雀から連絡を受け、緑茶を二つ持ってドアを開く。
そして、唖然とした。
何故か、綱吉の関係者達が揃い踏みだった。あの六道骸も…───何故か並盛中学の制服を纏って其処に居た。
因みに応接室が半壊していようとも気にする事ではない。このメンバーならばあっさりとやってのけれるに決まっている。
しかし、一番驚くべき光景はそんなものではない。
「す、すみません、委員長!只今全員分、用意し直して来ます!」
まさか応接室に雲雀を含んで二人以上も人が居るとは思わなかった。
経験上あり得ないし事だし、雲雀が人間の入室を許す人数は最高でも二人だ。しかし、群れるのを嫌う為、大抵一人なのだ。
携帯で連絡を入れてきたから客人が来ているのだと思って二つしか用意していなかった。
「構わない。笹川に出して。もう一つは副委員長が飲んで」
綺麗に釣り上がった瞳が向けられた。
揃っている沢田綱吉達。
応接室の定員オーバー。
ぴぃんと頭の中で何が起きたのか閃いた。
「委員長、何の御用でしょう」
そう答えると、雲雀を除いた全員が驚いていた。あの六道骸でさえ少し眉を動かしていた。
確かに電話ではお茶しか要求していなかったが、雲雀は実際、『たったそれだけの用』では『呼んでこない』。
お茶汲みで入室するだけでも雲雀にとっては『群れ』なのだ。
「このメンバーから察して『噂』の件でしょうか?」
「そう。僕が予想していたより、『進行』していたみたいだ。今から副委員長と笹川了平で校内を見回ってもらう」
透かさず仕事内容を言い渡されながらも、了平の前に緑茶を置く。
火傷しないように温度を下げておいたのは正解らしく、了平は湯呑みをわし掴むと一気に飲み干した。
「校内を見回るとは言っているが何故見て回るのだ?」
「笹川了平にはラグビー部の主将以外に、『いつひとさん』をやった人間を割り出してほしい…───君の『鬼眼』を使ってね」
びくりと了平の身体が震えた。顔も青くなっている。
しかし、何よりも草壁は自分の耳を疑った。
「笹川さんが…『鬼眼』……?!」
驚いた草壁に、雲雀はこくりと頷く。
「笹川。『君にしか出来ない』。やってくれるね?これは君の妹を護る事にも一役買うよ」
淡々と吐き捨てられた台詞は明らかに了平を利用する為の褒め言葉とその代償。
『妹を護る』なんて留めに了平が食い付かないわけが無い。
「わかった。受けよう」
何の躊躇いも無しに了平が答えると、雲雀はくすりと笑って決まりだね、と呟いた。
「しかし、どうすれば良いのだ?今は、この部屋に居た『変なの』は見えんし…」
「神谷さんに取り付けてもらった『神具』を外せば良いんですよ」
紛れもなく鬼眼の持ち主である事を証明する了平の発言に、草壁は簡単な説明で返す。
「しんぐ?」
「呪(まじな)いの道具の事を指すんです。中でも、力を抑えたりするものも含めて…───笹川さん。首飾りか腕輪みたいなものは…」
「あぁ、首飾りなら貰ったぞ」
胸元に手を突っ込み、茶色い紐を引っ張りだす。先には穴の開いた金色の円盤。その中心に透き通った石…───日本名『水晶』が嵌められたそれが輝いた。取り外そうとし始めた了平を、草壁は慌てて抑え込む。
「詳しくは部屋を出てから話しましょう。恐らく、部屋の中で外しては危険だと思いますので…―――委員長、『見分け方』は…」
「人の形を取ってはいるみたいだ。顔を見たら分かるよ」
分かりましたと言いながら了平を引っ張り出し、雲雀に託された仕事を遂行するべく草壁は応接室を出た。了平を部屋の外へと出すとドアに立ち憚り、草壁は雲雀に失礼します、と一礼した。
「あぁ、そうだ。『必ず』その調査は『授業中』にやって。外から観察するように」
そう言って、雲雀はくしゃくしゃに丸めた紙を掴むと、こっちに向かって放り投げてきた。
「僕から特別行動許可証明書。教師に渡せば公欠扱いにしてくれるから」
本来あるべき姿とはかけ離れた大事な書類を受け取った。その瞬間に綱吉と獄寺は顔を引き攣らせ、骸が呆れていた様子は面白かったと思う。ちゃんとこの書類の効力をしっかり分かっている人達だ。
一方、分かってないのか気にしていないのか雲雀はそれをあっさりと丸め、山本は出掛けるのだと思っていってらっしゃい、と手を振っていた。草壁は雲雀の配慮が込められた証明書をしっかり握ってもう一度一礼した。
応接室のドアを静かに閉め、歩きながらこの先の事を考える。まずは教師達から全クラスの名簿を請求する必要があるだろう。
「まずは職員室に寄りましょう」
「極限了解だ!」
そう言うなり、シャドウボクシングを始めながら歩き出した了平に、苦笑いを浮かべながら職員室へ向かって草壁は歩き出す。
教室とは正反対の位置にある職員室。それを考えると教室に迎う教師は大変だ。余り冷房の効かない校内を歩いていくのだから。
「笹川さん。何処に行くんですか?」
職員室と反対方向へシャドウボクシングしていく笹川を呼び止めれば、謝りながらこちらに戻ってきた。
少しだけ草壁はこの先が不安になった。
∞∞∞
草壁と了平の二人が出て行ったドアを見る。外から極限と台詞が聞こえてくる辺り、まだ近い位置にいるようだ。
「心配かい」
「はい…」
雲雀へ顔を向ければ顔に出てるとはっきり言われてしまった。そんなつもりは一切無いのに顔は正直過ぎる。
「大丈夫だよ。『鬼眼』持ちなんだから」
「…────」
「自分も何かしたいって言ったんだから、聞いて上げなよ」
かつかつ、と持っているペンでテーブルを叩いた。
草壁が来る前に、了平は一人だけで逃げるのは嫌だと言ったのだ。雲雀は了平に何度も面倒だと、危ないと言っていたが、熱血漢である了平は引き下がる事はなく、雲雀が渋々了承したのだ。
「おい、雲雀。さっきから気になることが有る」
「奇遇と言って良いですね。僕もです」
獄寺に続いた骸。
首を傾げながら見回してみた。頭の良い組みは何かに気付いたようだ。綱吉は分からない山本に顔を見合わせた。
「オレには『いつひとさん』が『最初に』噂として広がって、『後から』まじないとして『広げた』ように思えんだよ」
寄り掛かっていた壁から身体を起こした獄寺に、骸が続く。
「目的は先程も言った通り、その儀式を『やって貰う為』です。それなら、話を広げる手段としてはピッタリです」
「しかし『噂』だと儀式をやってくれる奴が少なかった。『だから』、『まじない』として『新しく』広げた」
「思惑は大成功でしょうね」
じっと二人が雲雀を睨み付ける。
綱吉も釣られて雲雀を見ると、彼は手を前で組んだままだった。
「率直に問います。雲雀恭弥、心当たりはありませんか?」
「え?!」
骸の問いかけに、綱吉の肝が冷えた。
雲雀は一切表情を崩す事無く、口を開いた。
「僕を疑ってるみたいだね。構わないけど」
あっさりと雲雀は疑いの言葉をを受け入れた。
そして何時もの如く気にしている様子はない。
「心当たりは全く無い。寧ろ、誰が『こんなもの』を広めたか知りたい…―――その『目的』も含めてね」
それからデスクに手を着きながら立ち上がると、上に乗っていた赤い腕章をワイシャツに取り付ける。それから視線を物ともせずに応接室のドアを握った。
「調査してくる。君達は教室に戻ってなよ」
がちゃんとドアを開くと…―――人間が二人、支えを失った様に雪崩れ込んできた。
「君達もね」
―――話を聞かれた?!
今の話を聞かれた事に、物凄い焦燥を覚えた。そちらを見てみれば、更に顔が蒼くなる。
「に、西田先輩…?!」
綱吉にとっては聞かれたくない人間の一人だった。
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