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偽人語り
人任せ
半壊した応接室で、漸く腰が落ち着いた。
疲れを覚えながら、今朝、山本と京子が話してくれた『いつひとさん』の噂を漸く雲雀に伝えることに成功した。
『噂』とも『おまじない』とも言われる『いつひとさん』の方法。
やった後は運が良くなった人間が居たり居なかったり。
『運が良くなった』と『苦手改善』の違い。
大体は山本と一緒に話しをし、その間の細かい所は骸にフォローしてもらう。
雲雀はデスクで手を組みながらそれを聞いていた。

「あの…どうですか……?」

綱吉は問い掛けたが、雲雀は黙っていた。まだ頭の中で整理が行き着いて無いのだろう。
しかし、最後の下りは明らかに怪談のような話だ。
手を伸ばしてきたら、『いつひとさん』が来てしまうなんてホラー以外の何物でもない。
雲雀が小さく息を吐く。その様子が、何だか怒っているような気がした。

「やっぱり、『儀式』なのは間違いないね…───」
「儀式…」

雲雀はそう、と肯定して続ける。

「そもそも、『まじない』と言われるものも儀式の一種だからね。その『いつひとさん』をする為には12時に並盛神社にある池の水を覗き込む作業が必要でしょ?それをしなきゃ『いつひとさん』は顕れない。例え、池の前だろうが洗面台の前だろうが、『池の水』の前『12時』に居ることが条件だからね…───」

怖気を感じて身体がぶるりと震えた。あんな怖い話が噂だとか、おまじないという形で伝わっていると思うと恐ろしくて仕方ない。
それから雲雀は、ただ、と呟く。

「………でも、今一はっきりしないね…人伝だから変化していて簡単には断定できない…かな。僕はこの話を『噂』として耳にしていたんだけど」
「そうだったんですか?でも、変化しているなんて、そんなに違う所は無いですよ?」
「噂とか、おまじないぐらいだよな?」
「それが『凄く』問題あるんだけど」

はい?と山本と一緒に雲雀へ顔を向ける。

「噂なら『噂として』そのうち消えてしまうんだ。時の流れと共にね。でも『おまじない』だと一度風化しても掘り起こされたりするんだよ…───噂は確証が無いけれど、『おまじない』は誰かが『実行』出来てしまうから、人の記憶に残り易いんだ」
「しかも効力付きですから余計に人間は覚えているでしょうね」

ウンウンと了平は頷き、獄寺も確かに、と壁に寄りかかりながら腕を組んだ。

「って言うか…何で怪談が噂だとかおまじないで流れてるんだよ〜ぉ…」
「そこが『一番』問題なの」

雲雀はデスクに頬杖をついて言い放つ。

「分類は『怪談』のはずなの。それがわざわざ『噂』だとか『おまじない』で広まってるの。おかしいでしょ?『噂』なら、まだ分かるけどよりによって『おまじない』だ…」
「まるでその儀式…『やって欲しい』みたいですね…」
「や、やって欲しい…?!」

再び襲ってきた恐ろしさに身体がぶるりと震え上がる。
もし『いつひとさん』が本物で、その怪談の通りにやってしまったら…───。

「雲雀さん!これって、大変な事じゃないですか?!『いつひとさん』がこっちに来ちゃっいますよ?!」
「まだ『噂』と検討したいけど…これは、あくまで噂やおまじないで広がっている『怪談』なんだ。あんな事言いはしたけれど『怪異』が簡単に起きる訳ない…はずなんだ」
「でもよ。『起きない』とも限らないんだろ?」

睨むように、雲雀へと問い掛ける獄寺。互いに睨み合うと、雲雀は小さく息を吐いた。



「まぁね」



あっさりと認める、雲雀。
それから、真正面でうんうん頷いている了平へと顔を向けた。

「笹川。今迄の話を一から理解してないでしょ」
「極限、当たり前だ」


真っ直ぐに雲雀を見つめ、堂々と了平は言い切った。
此処までくると一層清々しく、寧ろ逞しく見える。
再び綱吉は苦笑いを浮かべ、獄寺と骸は呆れた様子だった。
恐らく雲雀も完全に呆れていたのだろう。まぁいいや、と投げやりな様子で話を切り返えた。

「今迄の話を理解してなかったのは別に良いよ。難しい話だったからね。その変わり、質問するよ」
「何だ?ドンと来い!」

にかっと笑う了平に、雲雀はただ真っ直ぐと視線をぶつけた。



「『変なの』がはっきり見える事に気付いたのは何時?」



突然切り込んできた内容に室内は静かになった。
黙り込んでしまった了平に、雲雀は更に深く掘りこむ。

「以前から『異変』には気付いてたんじゃない?だとして、何で今日になって『来た』の?」

淡々と問いかけていく雲雀。
了平の顔から血の気が引いた。

「君の性格だ。変なものが『視える』ようになっても果てしなく『気にしない』でしょ?」

その雲雀の考察に、思い起こせば綱吉に心当たりがあった。
綱吉は、静かに包帯の巻かれている腕を見つめる。

つい昨日、了平と握手した時だ。
綱吉の足元に張り付いてきた女の子モドキなんぞ『気にもせず』、自分の『腕』の方が『気になった』と───今朝、言っていた。

「だとしたら、君が『気にするような何か』が『今日』、沢田に助けを求める『前に』、『あった』んでしょ?」

問い掛けられた了平は何も言わず、唇を噛み締めて俯いた。
その様子から雲雀の言っている事は的を射ていると判断して良い。
そうだとしても、綱吉には疑問が浮かぶ。

「…でも、雲雀さん。そうだったとして───お兄さんに今朝『何かあった事』が『いつひとさん』と関係有るんですか…?」

了平を覗いた視線が、集中する。驚いた視線の中、雲雀だけが嬉々としていた。
綱吉がその視線と向き合えば、更に雲雀はくすりと笑ってくる。



「有るから、言ってるんだよ」



それから雲雀は了平へと顔を向ける。その笑みは確信を持っている嘲笑。

「笹川。僕は『君の性格をよく分かっているつもり』だよ。だから、『沢田』と笹川以外は応接室から出るように言ったんだ。君が『今日来た』のも、自分の目の事を含めて気付いてしまった事を言う為に―――『頼りになる沢田と一緒に』来たんでしょ?…───想像を遥かに『越えて』危険を察知したみたいだけどね?」
「え?オレが頼り?」

そんな自分はそんな立派な人間になった覚えは無い。
自虐ではないし、誰もが知っている公然の事実だ。

「そんな訳ないじゃないですか、雲雀さん。オレは…―――」
「だぁああっ!!何故、分かったぁあ?!」

立ち上がりながら大声を放つ了平。慌てて耳を塞いだが、終わってもなおビリビリと鼓膜が痛んだ。
更に了平はびしりと雲雀を指差して、同じ音量で続ける。

「オレは一言も喋ってないぞ!!」
「その大音量で喋らないで。鼓膜が破れる」

雲雀が淡々と放てば、了平はすまん、と声を小さくして謝り、ソファーに座り直した。

「どうせ、神様のテストで見た光景と『似たようなのを見てしまったから』来たんでしょ」

再び放たれた雲雀の台詞に、了平は声を裏返す。

「さ、さては雲雀!お前は人の心が読めるのだな?!」
「馬鹿言わないで。君の場合は顔に書いてあるんだ。それと、君ほど行動心理が分かり易い人なんて居ないんだよ」

顔をむすりと歪ませて、了平を睨みつける。

「そ、そんなに分かり易いか…?!」
「分かり易いよ。一から十を隠してたら、十まで完璧に分かるほど」

むぅ、と了平は腕を組んで俯いた。
それに満足したのか、雲雀はデスクに肘を着いて、目の前で手の平を組んだ。

「笹川。気にせず話して構わないよ。此処に居る全員、沢田を含めて僕が君の心配している事に『関わらせない』と『一応』約束しよう」
「…―――それは…」
「ただし、僕が言っても聞かない時は知らないよ。勝手に死ねばいい」
「お前!それでは約束にならんだろう!!」

仕方ないでしょ、と雲雀は嘲笑した。

「此処に居るのは沢田を筆頭に頭脳ではなく『身心』的に馬鹿ばっかりだ。僕の想像を遥かに超えて何をしでかすか分からない。君が神様のテストを受けた時だって沢田は君の近くに居た。六道骸は『非常識に』してやってくれるし、獄寺隼人は余計な所に気付く知識と注意力を持ってる。山本武は…―――」

そう言って、雲雀は山本のちらりと視線を送るような勢いで睨みつけた。
それに気付いてん?と山本は首を小さく傾けた。



「『関係者でもないのにテストの接触を果たす』…―――――常軌を逸して傍迷惑な人達ばっかりだよ…」



呆れた様に、また溜め息が零れる。



「全く…」



雲雀の、その呟きに。
了平はただ沈黙していた。
それから皆一人一人をしっかり視界に収めるように右回りに見まわす。最後に、了平は綱吉をじっと見つめた。
まだ迷っているような瞳。それでも真っ直ぐに、力強い光を秘めていた。

雲雀が了平に向けて言っている時から、腹は決めている。

「大丈夫です、お兄さん…」

そう言って綱吉は。
腕組を解く獄寺を、
にっと笑う山本を、
ふっと笑って顔を逸らす骸を、
手を組んだまま雲雀を。

見回して、自分の出来得る限り笑って見せた。



「何があっても、雲雀さんが何とかしてくれますから!」



胸を張って。
自信を持って。
雲雀を推した。
当然、自分が何とかするなど大それた事など言える訳ない。
気になりはするが、完全に関わり合いになどなりたくないのだ。
でも、この答えは。

「じゅ?!十代目?!」
「そうだよな!雲雀頼りになるしな♪」
「良い笑顔で―――流石に空気ぶち壊しですよ…」
「格好付けたのにね」
「優雅なポーズをとってしまうのは生まれつきなんですよ。存在が美しいので」

雲雀の突っ込みを鼻で笑い飛ばす骸。
その満ち溢れた自信は誇らしい事この上ない。
その台詞に、了平はきょとんとした表情を浮かべた。

「それに、骸も雲雀さんを手伝ってくれますから、大丈夫ですよ!」
「何でです?」「何で?」
「え?だってそうじゃないの?」

二人から殺気を向けられて、体がビクついた。
何故、この二人からこんな身の毛もよだつ視線を送られなければならないのだろう。
ひっと小さく悲鳴を上げる綱吉。
そこに、ばしん、と肌と肌を叩きつける音がした。
見てみれば、了平が自分の頬を叩いていた。また、ばしん、ばしんと叩き、綱吉を見つめてにっと笑った。

「極限ほっとしたぞ。すまんな、沢田」

この、答えを『待っていた』。
了平の心配事は、自分達が『変な事』に巻き込まないかと言う不安だ。
それを解消するには、自分達は関わらないと『宣言』しておく事が、一番良い。
綱吉がどういたしまして、と小さく笑うと、了平は雲雀を真っ直ぐ見詰めた。
今、こちらを見た了平の瞳に、迷いは見られなかった。
了平は、すぅ、と一呼吸置いて、紡ぎ出しす。
新たに『異常な力』を秘めた目で見た世界を。



「今朝の、事だ…」



静かに、静かに。

今現在ある。

『この』、『現実』を…―――。

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あきゅろす。
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