[携帯モード] [URL送信]

偽人語り
体験
床で火を消された事に雲雀と獄寺の間で一悶着あったが、空気の読めない了平の珍入により事が平和的に解決した。これから何かあった時は山本か了平に頼ろうと思う。
先程の配置に戻り、綱吉は壁にぴっとりとくっ付いて膝を折り曲げた。壁がひんやりしていて、更に気持ちが良い。

「さて笹川。君の目が霊的な存在を視れるようになった事について語りたいのだけれど、君、『臨死体験』って知ってる?」
「極限さっぱりだ」
「期待を外さないでくれてありがとう」

雲雀は嫌みとして言い放ってやったつもりだろうが、相変わらず了平には伝わらないようだった。
お礼を言われたと思ったらしく、礼など気にするなと言い出す。
骸は呆れたように頭を抱え、獄寺は了平に馬鹿か!と突っ掛かる。話が進まないので獄寺を宥め、了平の言う事は受け流して、と耳打ちしておいた。

「そうだね…───『臨死体験』って言うのは身体から魂が離れて、現世とあの世の狭間で迷って、結果的に現世へ戻ってきた事を言うんだけど…───その顔は分かっていないね、笹川」
「うむ!もっと分かりやすく説明しろ!」


真顔で聞いていたはずなのに、更に分かりやすく説明を要求してきた。
雲雀は呆れながら腕を組む。
早速、獄寺はニコチンが切れたようで足をコツコツと叩き始める。
流石に、いきなり止めるのは難しいのだろう。それでも宣言した以上は、出来ようが出来まいが最後までやろうとする人だ。

「…死にかけてる状態で夢を見たりする事かな。綺麗な川の前に行ったり、死んだ人と話したり。そういう体験の事を『臨死体験』って言うの」
「よし、何となく大丈夫だ」

凄く分かりやすく変換されたと思ったのだが了平にはもっと丁寧な説明が必要らしい。デスクの前で肩を落とした雲雀は懇切丁寧に説明したつもりのようだが。

「それで…その体験をしたご褒美に、神様は笹川に幽霊が視えるようにしたの…」
「何故だ?!そんなご褒美は要らん!」
「神様はきっと気紛れなんだよ。自分があったら良いと思った力を勝手に押し付けたの。君がどう思っても仕方ないから諦めて…」

雲雀もしっかり認識させる事を諦めたらしく、無理矢理納得させる作戦に出たらしい。
しかし気に食わない了平はまたも何故だ!と声を張り上げて雲雀へ食い付いていく。

「オレは『りんしたいけん』等しておらんぞ!骨折しただけだ!」
「だから、神様は君に力を与えても良いか『テスト』したの…───『人形探し』でね」
「何と?!あれは、神様からのテストだったのか!!」

そう、と雲雀は簡潔に答えた。
了平の知能に合わせてこれだけ砕けた説明を出来る雲雀は本当に頭が良いと思う。

「了平は神様の気紛れでやったテストに合格しちゃったから、勝手に幽霊を視えるようにしたの」
「そうか!つまり、オレは『凄い事』をやったのだな?!」
「………一回、僕が何を言ったか説明してくれる?」
「何だ?オレが理解してないと思っておるのか?仕方ないな…」

了平は真っ直ぐ雲雀を見やると、腕を組んで胸を張った。



「オレは『凄い事』をしたのだ!」



今までの、雲雀の砕くに砕いた説明を極限まで省き、たった数文字で了平は説明を終えた。

「もうそれで良い…」

雲雀はごつんと額をデスクに打ち付ける。
極限だー!と両腕を天井へ伸ばした。
一先ず了平の疑問を解消したらしく、雲雀はこちらをを向く。

「…あの話で完璧に分かった人居る?」

あの説明で分からないのはおかしいと思う。綱吉が手を上げると同時に向かいの壁に居る山本も手を上げた。
しかし骸と獄寺は手を挙げることは無かった。
おかしいな、頭が良い組の筈なのに。

「やっぱり馬鹿組か」
「何だと!」

綱吉の代わりに獄寺が怒鳴ると、山本はえー?っと首を傾げた。

「超分かり易かったぜ?」
「当たり前でしょ、笹川が解るぐらいにレベルを下げて話してるんだから」

そうなのか、と山本と一緒に綱吉も残念になる。何となく理解したつもりだったのだが、やっぱり自分の知能は了平とあまり変わらないらしい。
しゅんとなって折り曲げた膝を引き寄せて顔を埋める。

「何で僕が苛めたみたいになってるの」
「君は明らかに苛めっ子ですよ」

骸が呟くと、雲雀は骸を一睨みする。相変わらず自分の周りに居る人は喧嘩っ早いと思う。
しかし雲雀はそれ以上は何もせずに難しい顔を浮かべると、こちらを見てきた。

「沢田は、何処まで理解したの」
「ふぇ?」
「何処まで理解したのか聞いてんの、さっさと答えなよ」
「はい!すみませんっ!!」

雲雀が出来るだけ砕けさせた話を自分が今持っている知識だけで『変換』した。
可愛らしく物語になっているが、事実はかなりシビアな話になっているのだ。

「要は、『怪異との接触』は『臨死体験』と同じ『体験』って事ですよね?」
「ワオ、驚いた。続けてくれる?」

雲雀が嬉々とした様子で続きを促してきた。しかもとても嬉しいらしく、あの口癖まで放っていた。
自分も嬉しくなって話に力が籠もる。

「その怪異との接触は臨死体験をするのと同じ事だから、神様がご褒美のつもりで要らない余計な『力』をくれるんですよね!」
「最後だけ物凄い外れだよ」
「えっ?!」

雲雀にバッサリ切り捨てられる。しかも驚いたら驚いたで物凄く冷めた目で見られた。

「臨死体験する事態が『有り得ない』事なんだ。あの世と現つの狭間を彷徨うでしょ。それで帰ってくる事がおかしいの…───自分が死んだなんて微塵も疑わないからね…そのまま、そっちに行ってしまうんだ」
「本来なら『死ぬべき』だった…───その道を辿らず、黄昏の世界から帰還を果たした者が経験した事を『臨死体験』と言うんです…」

骸が、ふぃっと外方を向いた。
その表情を、隠すかのように。

「これは推測だけれど…───そう言う経験をしてしまったが故に『魂』が変化してしまったか、或いは眠っていた『力』が開花するかのどちらかだと思うよ…───どの道、臨死体験と怪異との接触は本来『有り得ない現象』だ。だから、身体にもそう言う形で『異常』が発生するんだと思う。それを大半は『第六感』と言ったりするよ」

また、こっちを見てきた雲雀。
勿論、自分の異常といえば、『穴』と幽霊が見えるようになった事だ。

「あれ?じゃあ、骸は?」
「はい?」

弾かれたようにこちらを向いてきた。多分、振ってこられて驚いたのだろう。
珍しく、骸はキョトンとしていた。

「骸も何かあった?幽霊とか、視えるようになっちゃった?」
「僕は元から視えます」
「そうなんだ」

骸が、じっとこっちを見てきた。しばし視線を絡ませていると、そろりと骸の視線が外れた。

「骸?何か有ったの…?」
「いいえ。僕は特に何も」
「それは無いね。別に、新しい力に『目醒める』だけじゃないから…───例えば運動能力や知力の異常上昇などの『自己能力』が上がったりするんだ…───つまり、君の『幻覚能力』が上がる事もあり得る」

骸は雲雀を見据えて黙ったまま。
雲雀は、それに『にたり』と嗤った。



「図星だね?」



しばし沈黙し、骸は鼻で笑い飛ばした。



「何を根拠に、です?」



くふっ、と笑う骸。
平然とした表情で、本当に何の事かと聞いてくる。
いや、骸はよくそんな様子で人と対峙するから、本当の事を言っているのか分からなくなる。

「特に無いけど」
「根拠無しですか。随分と愚かな真似をしたものですね」
「大丈夫、君の髪型程じゃない」
「輪廻の旅…ご所望のようで…」
「慰安旅行なら喜んで行くよ。タダなら勿論ね」

既に武器を片手に雲雀はにたりと笑う。当然のように、骸も武器を構えている。
取り敢えず今にも椅子を蹴散らして向かいに行きそうな雲雀を止めにかかる。

「雲雀さんストップです!喧嘩しないで下さい!」
「工藤も、それ以上は止めとけって!」
「まだ工藤なの、山本ぉ?!」
「え?工藤じゃねぇの?」
「空気読んで、山本!」
「何の喧嘩だ?!オレも混ぜろーっ!!」
「一番、空気読んでぇっ!!」

「こんの、芝生頭ぁっ!!」

獄寺も参戦しようとする了平を押さえ込むが、この後、意味なく応接室で乱闘が始まった。
何故か年下組が歳上組(一人謎だが)を必死で止めにかかると言う大人気ないやり取りが繰り広げられる事になった。

[*前][次#]

15/59ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!