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偽人語り
第六感
一応、教科担任には雲雀の所に行ってくると言い、獄寺と了平を連れて応接室前にやって来た。
こんこん、とノックをしてみる。これで中に居なければ、獄寺に了平を頼んで探しに行こうと思っていたが、その計画もあっさりと倒される。

『誰』

たった一言で来訪者を探ろうとする雲雀。
部屋の主の所在に綱吉は声を掛けた。

「沢田綱吉です!あと、お兄さんと獄寺君も一緒です!」
『何で』

理由まで問いてくる声は、さっきと違って苛立ちが混じっていた。多分、三人だからだろう。本当に人がいっぱい居るのが嫌いな人だ。

「本題はお兄さんです。オレ達はちょっと気になった事があるので、報告に…―――」

台詞を遮るように、がちゃりとドアが開く。
少し表情がムッとしていたが、こちらを見るなり更に歪めた。

「群れて…何か用……」
「すっ!すみません!!で、でも…───お兄さん大丈夫ですか?」

振り返れば、片目を覆うように頭を傾けている。
具合が、悪そうだ。

「すまん…―――沢田…」

一歩後退して、応接室向かいの壁に背中を預ける。

「お兄さん…?」

何だか、どんどん具合が悪くなっていく。また、了平は目を閉じてその場を動かなくなってしまった。

「場所を移そう。理事長室が良いね」

雲雀は応接室から出ると、こつこつ足音を鳴らしながらさっさと先を歩きだしてしまった。
突然の発案と行動に慌て追い掛ける。

「雲雀さん!」
「おい、雲雀…―――」
「…何」

振り返る雲雀に了平は真っ直ぐ雲雀を見ていた。
訪れる静寂。
しばし沈黙。
その後、了平は目を閉じた顔を向けた。



「お前は…―――『あの中で平気』なのか…?」



ぴたり、と雲雀の動きが止まる。
意味がわからず、了平と雲雀を交互に見やった。

「何言ってんだ、芝生…―――」
「『平気』だよ」

すると雲雀はこっちを見て楽しそうに笑った。

否。



「『あれ』は『全部』、『僕』が『呼んでる』からね」



『嗤』って、答えていた。
更に、雲雀は何でもないように続ける。



「君、『僕』を『見てる』のも辛いんじゃない?」



また沈黙が漂う。
雲雀を『見てる』のが辛いとはどういうことだ。
それに、『あの中』とは応接室を指すのではないだろうか。
動かない了平を、一瞥する。

「そうなると、『沢田も』みたいだね」
「え?オレも…?」

雲雀は先を歩きながら黒い携帯を取り出す。
青筋を浮かべた獄寺が、吠える。

「おい!十代目までテメェと一緒にすんじゃねぇ!」
「そうだね。まだ沢田の方が『マシ』だ」
「マシ…?」

雲雀は携帯を耳に押し当ててた。いつも直ぐに喋りだすが、今回はちゃんと待っているらしい。

「神谷、『鬼眼』が出た」

しかし、出た途端に用件を簡潔且つ即座に述べる。『もしもし』という相手が聞いているか確認を取る作業を抜いて。

『ストレートだね…───』
「事は急を要する。来たら理事長室に」

容赦が無さすぎると思うのは自分だけでしょうか。しかし、神谷はわかった、と了承していた。その後は雲雀が一方的に切ってしまって終わる。

「雲雀さん…───『きがん』って…」
「霊的なモノが視える能力の事。ただし、『見え過ぎる人限定』の言い方だけど…───沢田みたいに『見えるだけ』なのは『第六感』って言うんだよ」
「あー…っと、第六感って、備わってる『五感』以外の能力の事でしたっけ?」

視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚。
これらが人間の基本能力で、更に科学で証明出来ない能力を『第六感』と呼ぶ。
超能力とか、そう言うものも含むとか言っていた気がする。

「よく知ってるね」
「二、三年前に夏のテレビ特番でやってましたよ?」
「僕はそんなの見ない」

さらっと吐き捨てられてしまい、会話が一旦停止する。
少しの居辛さを覚えながら突き当たりにある角を左に曲がると直ぐに理事長室が見えた。

「こんな所に理事長室が…」
「此処からは───グランドがよく見えるんだよ」

小さく笑った雲雀に、綱吉はへぇ、と相槌を打ちながら先に行ってドアを開ける。
中は応接室より広くない。しかし、窓がやたら大きいため解放感がある。その窓からは雲雀が言った通りグランドが見えた。

「笹川、其処のソファーに座ってて。君の対処は黒い長髪の男に任せるから。名前は神谷忍」

獄寺に連れられながら了平は頷き、中に入って来る。ソファーに座り込む姿を、静かに見届けた。

俯いている、了平。

大会前に骨折してさえ凹まなかった彼。
怪異に接触した後でさえ、自分らしく在った彼。

今まで見たこと無いぐらい、その姿が沈んでいた。



何が…────────あった?



脳内で答えを求めていると、後ろから服を引っ張られた。
雲雀が顎で指示を出すと、また先に行ってしまう。
そして直ぐに十代目、と呼ばれて振り返った。了平の横に座っている獄寺が小さく笑う。

「こいつは任せて下さい。黒髪長髪野郎が来るまで、傍に居ます」
「ありがとう、獄寺君」

一人にしておけ無い事に、気付いていたようだ。
お願い、と後を獄寺に託して静かにドアを閉める。
先に行っていた雲雀は待ってくれていたのかこっちを見ていた。

「雲雀さん…あの…───」
「話は応接室。早く行くよ」

暑いしね、と歩き出す。
彼の優しさを噛み締めながら、その後を走って追い掛けた。



∞∞∞



「よっ!ツナ!」
「こんにちは、沢田君」

応接室を開けた途端に、山本と骸の姿が視界に入り───横から黒い突風が駆け抜ける。
次の瞬間には骸と雲雀が互いの武器をぶつけ合っていた。

「六道骸!何で居るの!!」
「転入してきたからです。『工藤=ロムロク』という、イタリアからの転入生としてね」

きぃんと武器をぶつけ合い、更には鳥やら鳳凰果実やらなどと口喧嘩まで始まる。
ソファーに座って二人のやりとりを楽しそうに見ている山本の元へ駆け寄った。

「山本まで何で来てるの?!」

あ、オレ?と山本は首を傾げて笑った。

「ツナ達が雲雀の所に行くって言った後に工藤の奴も雲雀に呼ばれてたの思い出したらしくって。ツナ達、先に行っちまってるから室応接室案内がてら雲雀の群れ嫌いの説明してたんだ」

今、目の前で六道骸として暴れている奴を未だに工藤だと認識しているらしい。

「職員室にも寄って、転入届がどうとか言う紙を持ってきてから来たんだけど、皆居なくって!暇だし、涼しいから中で待ってたんだ!」
「山本って…そう言うところ凄いよね…───」

暴君が居ないからといって、あまつ涼しいという理由で応接室に堂々侵入して待つなど自分には出来ない。
山本が言った紙はローテーブルに乗っている白紙の事だろう。正確には紙を裏側に置いてあるようだ。
二人は互いの武器を弾きあい、応接室の左右対照に退く。

「君なんかを僕が入れるわけないでしょ…」
「確かに、転入にまで君の印鑑が必要だとは思いませんでした…───しかし、押してもらいましたよ?」

クフフ、と笑ってから、ローテーブルに乗っている紙を掴む。そして、ぴらりと雲雀に見せる。

「『貴方自身』にね?」

一瞬だけ見えた転入届の表面。
朱肉で押された印が、紛れもなく語っていた。

「これ…貴方の実印ですよね?」

紙に、確かに。
『雲雀』と印鑑が押されていた。
しかし、当本人はその印に驚いているらしく、見つめたまま固まっていた。

「僕は…そんなの押した覚えはない!」

くつくつと笑う骸から雲雀は転入届を奪い取ると破り捨てる。床に散らせて、骸の胸ぐらを掴み上げた。

「何を言いだすかと思えば…君の名前が押印してあったでしょう?」

また、くつくつと骸が笑う。

雲雀は印鑑を押した記憶がない。
それでも押した証拠がある。

閃いて、骸を睨み付けた。



「骸、お前っ!『契約』を勝手に…!」

静かに怒りに蝕われている自分を嘲笑うようにきらりと三叉が煌めいた。

骸の『契約』は、三叉で傷着けた相手を意のままに操る。
以前、雲雀とは契約していたし、つい最近も雲雀の掌にも突き刺している。

操ろうと思えば『操れる』。

「下手に悪用はしませんよ。今回は『必要だった』のでやらせて戴いただけです…でないと」

今度は、こっちを見てにやりと嗤う。



「『君に』、何をされるか分かったものではありませんからね?」



それをさも面白そうに骸は笑う。その後、雲雀の使う椅子に座り込み手を組んだ。

「君から聞くという穏便な真似はしないことにしました。僕自身で調査します…───と言うことで、何かあったら『守って』下さいね?」

クフフ、と嗤う。

嘲笑うように。



「この『捜査』をすると『裏』の人間が動くみたいですのでね?」



え…───?



瞬間、雲雀がデスクに飛び乗っていた。椅子に全体重を預けている骸の喉元に、トンファーを押し当てている。

「貴様っ…!」
「宜しくお願いします、委員長?いえ…────」

そう言って、近くにある雲雀のネクタイを引っ張る。顔と顔が近づきあって、睨み合う。



「『並盛の秩序』さん?」


にたりと、嘲笑。
歪ませて、屈辱。

「ひ、雲雀さん!骸!」

これ以上は動かしてはいけない。何が出来るわけでもないが、割り込むべく近づく。



近づいたのが、間違いだった。



「二人共!やめ…────」

話など聞く耳持つはずない骸が、雲雀のネクタイをぐいっと『引き寄せた』。



「?!?!?!」



音もない目の前の光景に、声にならない叫びが上がった。

頭の中が真っ白になる。

身体が、退く。

そして、たった今広がっている光景を打ち壊すように、『がりっ』と場違いな音がした。

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あきゅろす。
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