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捜し物語り

学校に備え付けてあるシャワー室を借りていた。
全力疾走でかいた汗を落とせてさっぱりはしたが、綱吉は抜け切らない腐臭に眉を寄せた。
それに、シャワーを浴びる事で気付いたこともあった。
体中に鬱血痕があったのだ。
藻掻いてる時は気付かなかったが、自分はかなりの力で締め付けられていたようだった。
綱吉はそれをまじまじ見ながら、眉根を寄せた。

「学校にシャワー室なんて…何であるんですか」
「つーか!オレはお前が居る方が気になる!!」

ドア越しに聞こえてきた骸の声は呆れているようだった。
曇りガラスが入っていて、中からは骸の姿が有るのしか分からない。
綱吉が喚くと、骸はわざとらしく盛大に溜息を吐いた。

「雲雀恭弥がこれを持っていけと託してきたのですよ」

くぐもった声で放つと、骸は持っていた何かをぽいっと床に投げ捨てた。
黒と白の何か。
恐らく雲雀が手配してくれた着替えだろう。

「あれ?雲雀さんは?」
「知りませんよ。持ってくるものが有るとか言って押しつけてきたんですから」

骸はそういうと消えた。
多分、こちらからは見えないように外れたのだろう。あの独特の気配だけが残っていた。
綱吉はシャワー室を少し開けてバスタオルを掴んだ。

「貴方は、気にならないのですか…?」
「え?」

綱吉は出したままの顔を骸に向けた。壁に片足で寄り掛かり、骸は視線だけを送ってきた。
腕を組んでいるその姿は、綱吉自身でも格好良いと思っている。


「気になるって、何が?」
「やっぱり馬鹿ですね…」

染々呟いて、再び嘆息する。
同時に髪を掻き上げた態度が余計に腹立った。

「お前っ!聞いといて何だ、そのせり───」
「何で頼りたくなるほど『知っている』と思います?」

台詞を掻き消すように放たれたその言葉に、綱吉は目を瞬かせた。

「何故、『怪異』についてあんな『知識』を持っていると思います?」

骸は言い放った。
昨日今日と連日聞きに来たのは、コレを聞くためかもしれないと綱吉は思った。
言われてみて綱吉は漸く疑問を持った。この前の件、凄いと思えるほど『詳しかった』。

「あ、」

しかし何となくながらに結論が出てくる。



「神主の息子だからじゃない?」



は?と首を傾げる骸の為、綱吉はバスタオルで頭を拭きながら説明する。

「昨日雲雀さんに連れていって貰った所、並盛神主の神主さんの所だったんだ。育ての親だって」
「『育ての親』…?」

うん、と簡潔に返事をして綱吉は更に紡ぐ。

「昔、神主さんに育てて貰ってたんだって」

身体まで拭き終わったのか、綱吉は辺りをキョロキョロさせた。
下着を見付け、手を伸ばす。

「その人も『怪異』の理解者でもあって、普段は神主の仕事をやりながら色んな相談に乗ってくれるとも言ってたよ」

下着を履き終えると綱吉はドアを開けて出てくる。
雲雀の用意してくれた着替えはワイシャツと黒いパンツだった。
綱吉の身体中に纏わり付いた鬱血痕を見て、眉間に皺を寄せた。

「それで?───君は納得したんですか?」
「え?」

綱吉は再び首を傾げながらワイシャツに袖を通す。

「神主さんって知ってるものじゃないの?」
「だとしても、どうして雲雀恭弥が『詳しく』知っているんです?」

綱吉は混乱した事を間抜け面にすることで表現する。ボタンを止めていた状態で固まった。

「怪異現象についての知識が神主は持っているとしましょう。そうだとして、何故『息子』にあたる雲雀恭弥が『詳しく知って』いるんです?親代わりとはいえ、『そんな事』を教える必要は『全く無い』でしょう?」
「でも、前回みたいに早く対処できるじゃん」

綱吉は次にしかめっ面をして黒いパンツを履き始める。

「そのお陰でお前も助かったし…───って、骸も詳しいじゃん!あっちに居ながら、クロームの内臓を補う形で『穴』を作ってたじゃん」

履き終えて、綱吉はパンツを睨み付けた。
自分には、やっぱりでかかった。
ウエストは緩いし、裾なんか床に付いてしまう。
骸がしばし沈黙すると、口を開いた。



「…『穴』って何ですか?」



「え?」

首を傾げる綱吉に、骸は寄り掛かるのをやめて向き直る。

「だって、雲雀さんそう言ってたよ?」
「あれは、『そうするしかなかった』んですよ。僕が『僕』を『保つ為』に」

綱吉は、意味が分からず疑問符を付けて問い返した。

「供給を断ち切れば彼女が死んでしまうのは勿論です。でも、僕が『あちら』に迷い込んだ時、『自分が喰われる』のを感じた…───」

骸はさするように自分の肩を掴んだ。

「気付いた時には少々遅すぎましてね。クロームの所に逃げ込んだんです」
「逃げ込んだ?」

丁寧にはい、と確認を取る。

「僕は精神体────これを一般には『アスラルト体』と呼びますが、僕はその活動の方が得意でしてね。身体や精神の一部は確かに『喰われ』ましたが、『クロームの内臓を補う』と言う『想い』だけが残りました…───そして、喰われた部分は切り捨てて『それだけ』に集中したんです」
「できるのぉ?!」

綱吉には常軌を逸脱した骸の精神力に声を上げた。

「出来ますよ。原理は多重人格と同じです」
「多重人格って…」

綱吉は飛び出た話に混乱の表情を浮かべる。
さっきの『アスラルト体』といい、骸は綱吉には分からない言葉を知っている。
綱吉は回転の悪い頭をゆっくりゆっくり動かして喋った。

「人格がいっぱいあるやつのことだよな…」

精一杯の表現だった。
骸はそうですね、とあっさり返してきた。

「まぁ、その『行為』を結果的に君達が勝手に『穴』と呼んでいるのでしょう。僕にはさっぱり意味が分からないですけどね」

綱吉は顔を引きつらせながら、ははっと笑う。

「じゃあ、逃げて来たって事は…クロームの中でオレの声聞こえてた?」

身長差が有りすぎるので見上げて来る綱吉。
その顔がたまらなく嬉しそうだった。

「えぇ、聞こえてきましたよ…憎たらしいほどに───」
「憎たらしい?!」

ぎょっとしている綱吉の首へ、骸の両手が伸びた。
綱吉の細い首には容易に回ってきた。
くすぐったくて自然と顔が緩む。綱吉が顔を上げると、骸は殺気立った。
しかし、その一瞬に綱吉は見た。



優しい笑みを浮かべていた骸を。



ぽかんとしていると、首に回った『手』に力を込めた。

「本当、この喉潰してやりたいぐらいです…!」
「ぐえっ!」

首をがっちり掴んできた手を剥がそうと、綱吉が手を掴み返す。
すると、しゃきんと金属音がした。



「六道骸、それから今すぐ手を離さないと並中敵対行為とみなして咬み殺すよ」



片手に刺を生やした相棒を握り、青筋を浮かべて睨みやる。もう片手には昨日、神谷から貰った酒ビンを握っている。
直撃したらどちらも痛そうだった。
骸は雲雀を一瞥すると絞めていた手をぱっと放した。
むせながら崩れ落ちる綱吉を余所に、骸は雲雀と向き直る。

「君の服装センスは皆無ですね」
「何、文句有るの?」
「ボンゴレには全く似合いませんよ。ミスチョイスです。そして、君が馬鹿みたいに似合いすぎなんです」
「誉め言葉のつもり?咬み殺すよ?」

問い掛けておきながら、相棒を煌めかせて雲雀は骸へ飛び掛かった。
クフフと笑って骸も三叉を薙ぐ。
右トンファーと三叉の柄がきぃんと金属音がぶつかり合う音は五日前の変わらぬ風景だった。

「だぁあっ!もうっ!」

綱吉は喚くと、思いっきり息を吸い込んだ。



「いい加減にして下さぁああい!」



綱吉の悲鳴は天高く、夜に佇む校舎に響き渡った。

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あきゅろす。
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