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捜し物語り
手当
既に夕日が沈みかけて辺りは一面オレンジ色。その正反対の空はすでに藍に侵されていた。
綱吉は本日二度目の登校となった。
ワックスが完全に乾いた廊下を何の躊躇いもなしに突っ走る。
目的地は『応接室』。
了平には「また来る」と言い残して全力疾走で学校へ向かった。

病室で起きた『異常』。
明らかに自分が六日前に遭遇した『怪異』だった。
しかし、『何処か違う』。
どこが違うかは分からないけれど、『神隠し』とはまた『別』だと感じ取った。
でもはっきりしている事はある。

その怪異の標的は、『了平』であること。

応接室前、草壁が立っていた。
ばたばたなっている足音に気付いてか、草壁は青ざめた顔をしながら目を瞬かせた。

「沢田さん…!」
「ちょっと!」

綱吉はそう叫びながら応接室の前まで来ると取っ手を握って開け放った。

「雲雀さっ…─────とぉおおいっ!」

開けたと同時に飛んできた白銀を前へと素っ転ぶ事でかわす。
そして這いながら立ち上がると、そのまま目の前の邪魔な物品を払いのけてデスクに食らいついた。

「一般人、入室禁止」
「雲雀さん、大変ですっ!! お兄さんが変なのと遭いました!!」

雲雀はデスクに頬杖をついたまま、ただ綱吉を見やっていた。

「変なのって何?」
「あーっと…えーっと…───六日前のアレみたいな…」
「ボンゴレ…─────」

え? と聞き覚えのあるテノールの声が聞こえた。
綱吉は顔をそちらに向けると声の主がいた。
頭を抑えながら体を起こしている骸の姿があった。

「あれ? 骸…? 何で…?」
「今貴方が『邪魔だと言わんばかりに』払い飛ばしたでしょう…」
「え、嘘?! 気付かなかった!!」

綱吉は今度は座り込んだままの骸に駆けよって行った。
顔を青くしながら大丈夫?!と声をかける。
後ろで雲雀は草壁に何かを指示しだした。

「あれ? 今日って、三時に雲雀さんと約束してたんじゃ…」
「犬達に『足留め』を食らったんですよ───雲雀恭弥の所になら自分達も行くと…」

ぶつぶつと呟き出した骸に、綱吉は苦笑いを浮かべた。
まだ少し、『心配性』な癖は抜け切っていないようだった。

「それにしても臭いですね…腐臭じゃないで───」

すか、と言葉はかき消えて骸の顔が崩れた。



「ボンゴレ?!その手は…?!」



え?と綱吉はまた首を傾げて自分の手を見やる。
しかし、手の平に異常はない。
もしかしてと呟きながら手の匂いを嗅いでみる。



吐きそうになった。



「なんっ…くさぃ…───!!」

即行で手を鼻から剥がす。
手に染みついた腐臭に、綱吉は顔の皺を出来る限り作った。
多分、あの時思いっきり引っ掴んだからだ。
しかし骸の表情は更に歪み、綱吉の細い手首を握り締めた。

「違います。この手はどうしたんですか? それとも、『爪』と言った方が良いですか?」
「え? 爪?」

綱吉は指を折り曲げて自分の爪を確認した。

「え? えっと…───痛ぇえ!!」
「遅いですよ!」

爪が、数か所剥けていた。
そこから溢れたらしい血が指を這って張り付いている。

「そうか、無我夢中だったから気付かなかったんだ…」
「また何があったんです?」

溜め息を吐くように骸はその手を放した。
その後、その剥けた爪を指で弾いた。

「いってぇ!!」

綱吉が喚いて指に息を吹きかける。

「何すんだよ、全く…―――」

もう攻撃されまいと手を庇うように骸へ背を向けた。
そして再び、骸の目が剥く事になる。
綱吉の、『首の後ろ』に。



「君はっ…―――本当に『何をしてきた』んですか…?!」



綱吉の首の後ろ、鬱血した跡がはっきり残っていた。
それは紐の類では明らかに出来ない痕。
しかも前に向うにつれて急激に細くなっている。
まるで変幻自在の何かに縛られてる所を、後ろへ無理に引っ張ったような跡だ。
綱吉はだから、と呟いて眉を寄せる。

「六日前の『変なの』と遭って…それからちょっと揉めて…―――って!それはどうでも良くて!!」

綱吉は立ち上がって雲雀の方を見やる。
雲雀は草壁から救急箱と瓶を受け取っていた。

「お兄さんの所に出たんですっ!」
「お兄さんと言うのは、『笹川了平』かい?」
「そうです!!」

綱吉は雲雀に駆けよるとわたわたと腕を動かした。
落ち付きないその様に、雲雀がトンファーを構える。

「用件だけ言って。それと、それ以上余計に動かない」
「は、はい…!」

綱吉は涙目になりながら小さく両手を上げた。

「そこ座って」
「はい…」

引きつった声で雲雀の指示通りソファーに座る。

「それと『変なの』に『どんな理由で遇った』のかも。僕が君の怪我を治療してる間に纏めて」
「でも! 時間がっ!」
「時間?」
「そうです! 十日間しか無いんです! もしかしたら、全然無いかもしれなくて…───いでぇっ!!」

すると雲雀は向けた爪を更に剥こうとする。
綱吉は悶える痛みを感じて悲鳴を上げた。

「時間短縮したいなら黙って、考えて。大丈夫だから、大切なポイントを纏めて話して。できないなら最初から話せば良いから」

雲雀はそう言うと、ガーゼを酒瓶の口にに当てて入っていた透明な液体を染み込ませた。それを綱吉の剥がれた爪にそっと覆い被せる。
ジリジリと痛みながらひんやりするのが心地良い。

「また余計な傷を増やして…」



ぼそりと、呟かれた。



それから雲雀は眉をしかめる。
骸は一瞥して溜め息を吐くと、無言で綱吉の横に来た。

「ちょっと、何するつもり?」
「結論が出たんです」
「え?…───って何のだぁ!!」

三叉の切っ先が向けられ、綱吉は当然の反応ながら叫び上げた。
三叉と色違いの双眸がキラリと煌めいた。

「今すぐ君の体を貰い受けます」
「何故そうなるぅ?!」
「これ以上『変異』を促進する訳にはいかない」
「はぁ?!」

すると骸と対峙している横で殺気が放たれる。
綱吉は小さい悲鳴を上げて、ぎこちない動きで殺気の発生源を見た。

黒き狼の青筋が、ピクピクとしていた。

「あの…! ごめんなさいっ…!!」

引きつった涙声が、綱吉から放たれた。
その横で骸は三叉を綱吉の首元に当てたまま雲雀を睨みつけた。

「僕と彼の事情です…邪魔しないで頂けます…?」
「君、馬鹿? 並盛中学生の誘拐を公認する訳ないでしょ…?」
「そんな理由なら関係ないですね。寧ろ『それの方が安全』でしょう?」
「君みたいな『変態』の所に預けるのが安全だったら、僕の『サンドバック』の方が全然マシだね」
「ちょっと待って下さい! どっちも嫌です! そしてどっちも安全じゃないです!!」

綱吉が声を張り上げると最凶コンビは凶悪に双眸を煌めかせ、同時にこちらを向いた。



「黙りなよ、沢田綱吉」
「黙りなさい、沢田綱吉」



放たれる殺気に怖気を覚えながら、「あー! もうっ!!」っと喚きながら頭をブンブン振った。



「今はオレの体がどうこう騒いでる場合じゃないんですってば!!話を聞いてください!! 寧ろ、お兄さんの体の方が危ないんですって!!」



だんっとテーブルに手を叩きつけて綱吉は立ち上がる。

「変な子供が両手両足ない人形の体のパーツを探してって言って来て、十日後の午後五時に見つけられなかった部位を代わりにお兄さんの体で代用するみたいな感じで言ってるんです!! 一大事なんです! 大変なんです!!」

綱吉はある程度まとめ上げた概要を怒鳴るように張り上げた。
最凶コンビも流石に驚いたらしく、こちらを見てぽかんとした表情を浮かべた。

「十日後の午後五時に来るとか言ってるけど信用できないし、だから雲雀さんに力を借りに来たんですけど、オレはどうしたら良いんですかぁあああ?!」

勢いに任せに任せ、綱吉は早口で言い終えると肩から息を吐き出した。





「これで良いですか?雲雀さん?」





雲雀に視線を向けると、しばしきょとんとした顔になる。
それから小さく溜息をついて綱吉を見返した。

「大体の事は分かったよ」

雲雀はすっくと立ち上がると、デスクに備え付けてある椅子に駆けてあった学ランを引っ掴んだ。

「沢田、行くよ」

綱吉はぱっと顔を明るくした。

「はい! すぐに行きましょ───うげぇっ!」

いきなり後ろから襟首を引かれ、喉に詰まった。
すぐにそれから解放されると、げほげほと咳き込んだ。

「何すんだよっ…げほっ───」

見下ろしてくる骸。
陰りの見える表情から、綱吉は眉を寄せた。
互いに見つめ合うと、骸が溜息を吐いた。

「何なんです、君は…」
「人の顔見ていきなり何だ?!」

綱吉が突っ込みで返すと、再び溜息を吐いた。

「君は僕の邪魔をするセンサーでも付いてるんですか?」
「どんなセンサーだよっ!」
「だから言ってるじゃない」

綱吉と骸の会話の間に雲雀が勝ち誇ったような笑みを浮かべて入ってきた。



「『まだ』、『君にとって』、『その時』じゃないだけだよ」



骸が雲雀を睨み付け、綱吉は首を傾げた。
昨日約束した時、『そのまま』の台詞だ。

「言い訳ですね…」

静かに言い放って、睨み付ける。

「わざわざ約束したのに遅刻してきたのは誰さ?」

嘲笑滲ませた声が放った。
骸が眉間に皺を寄せてぎりっと歯を噛み付ける。
雲雀は綱吉の襟首を引っ掴むと歩きだす。
再び首を絞められ、慌てて雲雀の横へ並ぶ。

「まずは身体を洗ってね」
「え?」
「そんな腐臭匂う身体で病院乗り込む気?常識考えて」
「そ…そうですね…───」

非常識の塊に常識の指導を受け、綱吉は諦めたような笑みを浮かべて頷いた。

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