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捜し物語り
五日前
濡れた服を着替え、髪からある程度水分を拭きった神谷は居間のテーブルに座り直した。

「それじゃあ、一応『それ』の清め方法についてなんだけど…」
「あ、あの!オレ、沢田綱吉って言います!」

おや?と神谷は首を傾げた。
しかし直ぐに笑顔を向けてきた。

「わかりました。それじゃ、綱吉君で良いかな?」
「はい!」

綱吉ははっきりとした口調で答えた。

「あと…コレ…」

そう呟きながら綱吉は自分の左腕を取りだした。『穴』を隠すように巻いた包帯に手を掛けた。

「綱吉!」
「ふえ?」

すると突然、雲雀は包帯を解こうとしていた右手を握った。

「わざわざ見せなくて良い…」
「で、でも…」
「こら、恭弥」

神谷は雲雀に優しく叱咤した。

「何で止めようとするんだい?せっかく、決心してくれたんだよ?」
「待って…―――――追って説明したい。彼がどうして『それ』を受けたのか。あと、草壁にも連絡をさせて。『一応』関係者だから」
「…草壁君も…?」

どうやら草壁の事も知っているらしく、神谷は眉根を寄せた。
そして、綱吉もあ、と声を出す。

「そうなんです。草壁さんも手伝ってくれて…松明を用意してくれたんですよ」

綱吉が説明している横で、雲雀は携帯を取り出した。
すると雲雀は直ぐに口を開いた。

「草壁。今時間ある?…―――――じゃあ、よく聞いて」

雲雀はそう言うと、携帯電話を指でコツコツ叩いた。

「…十分したら着て。五分じゃないだけマシでしょ?急すぎる?用事なんて蹴って今すぐ来て…―――『でも』じゃない。電話しなよ、着いたらね…―――――」

また無茶苦茶な事言ってる〜!!

綱吉は携帯電話を再びコツコツ叩いた雲雀を見やった。

「手つかずの書類?…あぁ、あれは帰ったらやるよ。五日前の件であそこに来てるんだ…―――うん、そこ。じゃあ、ちゃんと来るんだよ。分かった?」

草壁の凛々しい返事が綱吉の耳にも届いた。
雲雀はぴっと電話をきると、それをポケットにしまった。

「十分後に来るよう電話したけ。『外』の報告も知りたいだろ?」
「外…?」

首を傾げた神谷に、雲雀は外、と言い直した。

「今回僕達が返ってこれたのは外からの『協力者』が居たからなんだ。僕と沢田は、『あっち』に居たから、その様子は分からないからね…彼に報告してもらおうと思って」

神谷はそう、と呟いて顎をしゃくった。
雲雀は神谷に向けていた顔を綱吉へと向ける。

「沢田。君は黙ってて」
「えぇ?!何でですか?!」

綱吉は声を張り上げた。

「僕とずっと一緒に居たでしょ?」
「途中からはぐれましたよ!!」

そうだっけ?と雲雀は首を傾げる。

「そうですよ!いつの間にか雲雀さん居なくなってたじゃないですか!」

クロームと一緒に肝試しをした時に聞こえた悲しそうな女の声。
それに自分はいち早く判断して駆けだしていたのだ。

「思いっきり走ったせいか、雲雀さんがついて来れなくて…───?!」
「僕がついて来れないだって…?」

雲雀はぐわしと綱吉の頭を引っ掴んだ。

「何言ってるの…勝手に消えたのは君の方でしょ?…―――――女の人の……声が聞こえていきなり駆けだして…」
「女の人…?」

神谷が、テーブルに手をついた。

「それは!どんな声だったんだい?!高くて、透き通るような声だったんじゃないか?!」

目を見開いて綱吉を見てきた。
少し迫力がありすぎて綱吉は身を引いた。

それって、そんなに重要な事なの?!

綱吉は記憶の断片を引きずり出す。
しかし、あの時は無我夢中すぎてやはり正確には思い出せなかった。
確かに高い声ではあった。
しかし、悲しそうに聞こえたから、澄んでいるかどうかは分からなかった。

「そ…そうだったような…―――」
「馬鹿かい、神谷」

その台詞を遮り、雲雀は腕を組んだ。

「声の記憶なんて曖昧なものだよ。それに、その表現だと漠然としすぎていてその人物を特定するには無理がある。高くて透き通ってる声なら、中学の合唱部に数人はいるよ」

ふん、と鼻から呼気を出した。
神谷はしばらく目を瞬かせると、そうだね、と残念そうに眉を顰めた。

「ごめんね、綱吉君…―――それで、一応別に聞こうか。綱吉君はどうなったんだい?」
「え、はい…―――えぇっと…」

自分は無我夢中で走った。
走りすぎて途中で力尽きると、どうやら『境石』の前で倒れたらしかった。
それからまた女の人の声が聞こえてきて、綱吉は一歩足を踏み込んだ。
すると、突然火が消えた。
驚いていると、いつの間にか階段もあった。
何か骸が居るような気がして、駆けあがると案の定骸は居た。
社の前、ぐったりと倒れていた。

一応、骸は『友達』と言う事で言っておいた。
もしかしたら、骸がそう言う事を他人に言われるのが嫌だったら困ると思っての綱吉なりの配慮だった。
そこまで説明すると、神谷は眉を顰めた。

「また、その女の人の声が聞こえたんだ?」
「はい…その人が聞こえて――――その人が友達を連れていったんだと思ってたから、そのまま歩きだしたら…」
「…『境』を越えてしまったんだね?」

はい、と綱吉は詰まりながら静かに答えた。
神谷は小さく一息つくと、今度は雲雀を見やる。

「で、恭弥君は?」
「僕は『弾き』だされた」

『弾きだされた?』

綱吉は首を傾げた。

「それから無理矢理『穴』をこじ開けて入っていった。そしたら、沢田は奴らに殺されかけてた…―――後は一緒だったよ」

雲雀が実に簡潔にそう言い切った。
自分より上手にまとめて話していた。
綱吉は雲雀に視線を送った。
しばし、沈黙が訪れる。
少し重たい空気に、綱吉はそろそろと視線を辺りに動かした。
しかしじっと見ていられるわけではなく、またあちらこちらに視線を移すのだった。
そして、その沈黙を神谷は破った。

「それで…帰ってこなかった子は居るのかい…?」

眉を顰め、神妙な面持ちだった。
それが、酷く苦しそうに見えた。
綱吉は神谷と言う男に、改めて安心感を覚えた。
こんなに人の事を心配してくれるんだ。
まるで、自分の事のように考えてくれる。

横で雲雀が表情を暗くする。

「それは、大丈夫です。皆で帰って…―――――」
「何言ってるの、沢田」

綱吉は差しとめてきた雲雀の方に顔を向けた。
眉間にしわを寄せて、こちらを睨みつけていた。

「帰ってこられなかった『子』…居たでしょ?」

肌に感じる寒気を感じながら綱吉は雲雀を見返した。
帰ってこれなかった子?
骸はちゃんと帰って来たし、小春とユキコだって無事に帰って来た筈だ。
何でそんな事をいうのだろう。
じっと雲雀と見つめ合いになった。
やっぱり雲雀の目は恐く、綱吉は必死に思考を巡らせた。
すると、その思考を遮るように雲雀は口を開いた。

「沢田───君を『襲ってきた』のも…――――さ…」





あ…。





そうだ。
雲雀の言いたい事が、分かった。

そうだ。自分が戦ったあの白い肉塊も、『元々』は『子供』だったのだ。
遥か昔に捧げられた『生贄』。
帰ることを『許されなかった』、『子供』。
だから、ユキコは『変わって』しまったのだ。
『小春』を探す為に、『神隠し』に…―――――。



「そぅ…でした…―――――」



気分が一気に暗くなる。
骸と小春が帰れただけで、自分は馬鹿みたいに納得してしまったようだった。

だって、ユキコのように子供を手放した親だって、『あの数だけ』いるのだ。
だって、小春のように置き去りにされた子供が『あの数だけ』いるのだ。

それなのに…───。



本当に、馬鹿だなぁ…。



それをみて、神谷がまた眉根を寄せた。

「ごめん…悪い事を、聞いてしまったね…」

暗く響く声。
綱吉は顔を上げると、首を左右に振った。
ただ、表情はそのままだった。

「いえ…こっちこそ、すみません…―――心配して下さってばかりで…」

本当に悪い気がした。
ずっと自分達の事を心配してくれているのに、自分は安心させてあげられるような事を何一つ言っていない。
クロームをすぐに救えなかった時の様な、骸の違和感に気付きながら目を塞いだ時の様な、悔しさが胸に広がった。

すると、校歌が何処からともなく聞こえてきた。
雲雀の携帯着信音だ。
雲雀はポケットからそれを取り出すと、ディスプレイを一瞥して開いた。

「どうしたの、草壁」

相手は腹心の部下である草壁かららしく、淡々と話していた。
しかし、次の瞬間には雲雀の顔が白けた。



「笹川了平が───ワックスかけた廊下を走って骨折…?」



目に見えるように雲雀の怒りが沸き上がってきた。
綱吉は直にその怒気を浴びる。



やっぱりあの時救急車で運ばれたの、お兄さんだったんだぁあああ!!



自分の口もぐわりと開く。
顎がはずれるぐらいあんぐりと。
雲雀は綱吉の頭を引っ掴むと、テーブルに乗った酒瓶を握った。

「方法については僕が教えておくから…―――骨折したボクシング部の主将に会ってくる…行くよ、沢田」
「は、はい?!」

綱吉はびしりと起立する。
したにも関わらず、雲雀は綱吉の頭を引っ掴んだまま歩き出した。

「雲雀さん痛いですっ!」

しかし聞く耳は持たれる事なく、居間を出て行く。
当然、綱吉はそれに引きずられていった。
そしてその様子をキョトンとした様子で神谷は見守る。
しかしすぐに意識を取り戻して声を荒げた。

「こら、恭弥…――――」



ぴーんぽーん。



インターホンが来客を告げた。
神谷はもう一度雲雀を叱咤して慌てて居間を出て行く。
丁度ドアが開かれると、綱吉の頭を漸く離した。

「早く履いて。行くよ」
「はぃいい!」

綱吉はそういうと、慌てて靴を履く。
既に履いた雲雀はドアを開けた人物を押しのけて家を出て行っていた。

「待って下さい、雲雀さんっ!」

しかし、綱吉の訴えは届く事なく黒き狼はそのままずんずん先へ進んでいってしまった。

綱吉ぱ雲雀に続いてドアから出ると、首を回した。



「また来ますから!」



背中を向けたまま綱吉は手を振った。
微かに綱吉の視界は神谷の姿を捕らえ、もう一人、相談者らしき人物が立っていた。
しかし、今は先に行ってしまった雲雀を追うために綱吉は駆け出していた。

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