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捜し物語り
約束
「ボンゴレ…!」

目を丸くしたままの骸は、くるりと雲雀に背を向け綱吉に歩み寄ってくる。

「やはり『異変』があったみたいですね…?」

焦燥の滲んだ声が耳を突く。
すぐ目の前で立ち止まると容赦なく左腕を引っ掴んだ。

「痛いっ!」
「…─────」

綱吉の小さな呻きなど気にもせず、骸はそのままその袖を捲り上げた。
細い腕に白い包帯を纏っている。
それに手をかけた。

「わぁああ!ちょっとっ!」

綱吉は慌ててその手から逃れるべく腕を振ってもがいた。
難なく骸の手を払う事に成功した。
自分の腕を抱くように引いて、後ずさる。



「駄目っ! 危ないかもしれないからっ!!」



綱吉に腕を払われた状態のまま、骸が動きを止めていた。

その後ろで、雲雀が手を組んで綱吉をじっと見ていた。

「よ、よく分かんないけど!何か、『穴』が開いてて!しばらく引き籠もってたけど…やっぱり知らないままの方が怖いから…だから…─────」

恐くなって走って来た。
オレに何が起きている?
オレに何が起きた?

そして、それに気付いたさらなる真実。

並盛に溢れている『幽霊』。

たくさん居て、
たくさん居て、
たくさん居て、
たくさん居て、
たくさん居て…─────。





「大丈夫だよ」





そのたった一言が静かに響いた。



綱吉が静かに声の主…─────雲雀を見やった。
彼は何でもないようにデスクで頬杖をついていた。
書類と睨みあい、ペンをくるくる回していた。

「…そう、でしょうね…───」

次に口を開いたのは骸だった。
後ずさった綱吉に静かに歩み寄り、引っ込めた左腕をに手を伸ばす。

「見せて下さい。 『僕に』害はありませんし、害も起きません…」
「─────そ…そうなの…?」

呟いて綱吉は心に少しの安堵に包まれる。
それでも腕を出すのは恐い。
だって、これは『異質』な『何か』なのだから。

綱吉は伸びてきた手を、右手で押しとめる。

「待って、自分で解くから───解けるから…」

そして静かに骸から手を放す。
それから、捲られて露出した左腕の包帯を外していく。
綱吉の腕に巻き付いた白い蛇はゆっくりととぐろを解いて、床に落ちた。



現れた、『穴』。



綱吉の細い腕に、『ぽっかり』と穴が開いている。
その穴は中で黒が渦巻いているように見えた。
それだけが既に『異状』を示していた。
それだけで既に『異常』だった。
見ているだけで気分が暗くなる。
吐き気も覚えたぐらいだ。

骸の顔が少し歪む。
そこに、あはは、と引きつって綱吉が笑う。

「五日前にマーモンが教えてくれて───二人なら、何かを知ってるって…それで、オレ走って…───」



ふふ、と小さく、口が『勝手に笑った』。



「オレには見えて、リボーンには見えなかった…─────変な話ですよね? だって、オレには…───」



その刹那、白銀が額のど真ん中に飛んできた。



「だっ!!」

綱吉が仰向けにぶっ倒れると、ごとん、と鈍い音を立ててトンファーが落ちる。
雲雀はまたペンを回しながら椅子から立ち上がった。

「うん。漸く答えが出たよ。 この前言った『何かが起きてる』は『コレ』の事だ」

額に飛んできたトンファーが脳内をグワングワンと揺らした。

「『答え』…───?」

そうだ。
今朝は訳の分からないことを散々言われ、最終的に理解しろと強制させられたのだ。

「多分、『呪い』じゃないかな」

雲雀がさらっと答えると、綱吉は呪い…と呟いて目をかっと開いた。

「それって!大変な事じゃっ!」
「大変?そりゃ、君にはね」
「やっぱりぃいいい!!」

機敏に起き上がると、頭を抱えて綱吉が叫び上げた。
どうやらそれが更に雲雀の苛立ちを煽ったのか、もう一つのトンファーがぶっ飛んできた。
再び床に倒れ込むと、雲雀は骸を押しのけて綱吉の腹を足で容赦なく踏みつけた。

「ぐえっ!」
「僕らに実害はないけど、だからってあんまり触らせる物じゃないね。まぁ、『視える人』にしか触れないけど」

更に腹を潰して行く。
胃が潰されて中身が出てきそうだ。

「厄介なモノを残されはしたけど滅多な事がなければそれはただの『穴』だから。『この前みたいな事』には『そう簡単には』ならない」
「やっぱなるんじゃないですかぁ、あっ!」

腹に力を込めてこれ以上の潰れの進行を抑える。
するとそれが気に食わなかったのか、雲雀は両足で綱吉に乗っかってきた。

「あとは沢田次第だよ。 自分で『引き起こす』か、ただ『巻き込まれる』か、全然『何も起きない』か」
「ひばり、さん! 何で、お腹、にっぃ!」

今度はトランポリンで遊ぶ子供のように、人の腹の上で暴君は跳ねだした。

「『大事な事』なの。 聞いて、喋って、『気を紛らわして』」
「へ?…─────ぐえっ!!」

気を抜いた一瞬、雲雀の全体重と圧力が加わり内容物が逆流する感覚にとらわれる。
再び綱吉は腹にありったけの力を込めて雲雀に対応する。
今日一日で腹筋がつくと綱吉は本気で思った。

「もともと、その『呪い』は六道骸が『受けるかもしれなかった』ものだからね」
「何、言っ、て…―――!」
「その『穴』って、六道骸を庇った時に『怪我した所』でしょ?」
「そう、ですよっ!」

雲雀のトランポリンに耐えながら、綱吉は一生懸命答えた。
そして、綱吉も此処で切り返す。

「でも!いっ、しょに、居た、時、は、『穴』、見え、なかっ、た!―――です!」
「…そうだったね───」

雲雀は人の腹の上から見下してきた。
その顔は更に恐ろしさを増している。
しかし先程より楽になったので腹筋に集中しつつ答える。

「再確認するよ。それに気付いたのは『五日前』?」
「そうですっ!」

ふむ、と呟いた雲雀は綱吉から降りた。



「だ〜〜〜っだだだだだだっ!」



わざわざ踵で手の『小指』を踏みつけて。



身体中に電撃が走る。
雲雀が踵が放れると同時に震えるように起き上がった。
小指に呼気を吹き掛けて痛みを沈めようと試みる。
しかし次の瞬間には髪の毛をわし掴まれた。

「痛い痛い痛い痛いっ!」
「何ですぐに連絡してこなかったの」
「え…?」

雲雀は綱吉の髪の毛から手を放した。それから、後ろの襟首を引っ掴んでずりずりと引きずりだした。

それって…心配してくれたって事かな…?

「あんまり奨めたくないけど…」

綱吉は雲雀の珍しい一面を見つけることが出来た。
恐らく、リボーンの宿題で雲雀の観察日記をつけろと言われた時に見た、ヒバードと会話していた時なみだろう。

もしかしたらそれより珍しいかもしれない。

「『そういうの』に詳しい知人が居るんだ…───案内する」



何故か、いつもより低い声で放った。



「行くよ、沢田綱吉」
「えぇっ?!待ってくださいっ!」

どうやら、『コレ』についてもっと詳しい人が居るらしい。
何とかなりそうだ。



「待ちなさい」



低く響く。
ついさっきまで固まっていた、骸が放った。

「まだ、『僕』の話は終わっていませんよ」
「君の『話』と『呪い』を並べた時、早急に解決すべき問題は間違いなく『呪い』が最優先でしょ」

さらっと放って雲雀再び背を向けた。
しかし、ツカツカ歩み寄って肩を掴む。
その時、綱吉の手を思いっきり踏みつけた。

「痛い、痛い!」

「僕の話は聞きたくないと言うことですね?」

「痛い、痛い!」

「別に。君が聞きたいことは最もだとは思うけれど、順序ってものがあるでしょ」

「痛い、痛い!降りてっ!」

「さっきも似たような台詞を聞きましたね?誤魔化すつもりでは?」

「痛い、痛い!痛いってぱっ!」

「当然でしょ。君の話を聞くよりも仕事が優先だもの。まぁ、誤魔化す気があるんだったらもう少しマシな嘘を吐くよ」

「痛い、痛い!」



二つの血管が同時に切れる音がした。



「黙ってなよ」
「黙ってなさい」



二つの声も同時に聞こえてきた。
ぎろりと見下してくる視線は殺気を纏う。
綱吉は涙目で口を接ぐんだ。



理不尽だよぉっ!



綱吉は骸に踏みつけられている手に意識を完全に移行させ、全身全霊を掛けて自分に『痛くない』と暗示をかけにかかった。

「取り敢えず、僕は『誤魔化したい』んじゃないよ。『まだ』、『君にとって』、『その時』じゃないだけだよ」
「言い訳ですね」

互いに睨み合う。
しかしそう長くは続かず、先に雲雀が不敵に笑った。

「じゃあ、約束しよう。『いつ』『何時頃』『その話』をするか『君が』決めなよ」

骸の眉がぴくりと動く。

「これなら、文句は無いだろう?君の為に予定も空けてあげる。『緊急事態』が発生しない限り僕は君の話を聞こう。但し、その緊急事態が『発生』した場合、僕は容赦無く『蹴る』よ」

くすりと雲雀が見下すように笑った。



「君なら知っているでしょ? 僕にとっての『緊急事態』は『限りなく』『無い』事───僕が『下らない』と判断したら話は聞かないし、大体が全て『下らない』話だ」



互いに視線が絡み合う。
胸がジリジリと焼き付ける静寂。
その後、骸から溜め息が出た。



「わかりました。では、明日の三時頃に伺いましょう」
「良いよ。空けておこう」

雲雀は小さく笑うと再び歩きだした。
骸も、漸く綱吉の手を解放する。

「待ってください!雲雀さん!」

じんじん痛む手を抑えながら綱吉は雲雀の後を追った。
背中に突き刺さる視線にびくつきながら、雲雀と骸を交互に見やったが骸からは慌てて顔を反らした。
忌々しそうに睨んでくる骸の双眸が凄く怖かった。



∞∞∞


綱吉と雲雀は職員玄関から出てきた。

「どうして、今日は玄関に鍵がかかってるんですか?」
「今日は校内のワックスをかける日だからだよ───君は…補講生だけど休んでたから知らなかったんだね。補講は明日から再開だよ」

はい、と濁しながら頷く。
雲雀は腕を組みながら校門へ向かうため足を進めた。
角を一回曲がれば、生徒玄関前へと続く。
遠くからは救急車のサイレンのような音が響いた。

「校内に入ってきてるのは、休み中に大会がある吹奏楽と剣道部。あとはボクシング部ぐらいかな」
「あ、そうでしたね。お兄さん地区大会に出るんでしたっけ」
「まぁね」

少しだけ弾む会話。
いつもは怖くて話も思いつかないし、引きつった声で弱々しく話すだけで精一杯だった。
神隠しの一件が有ったせいか話しやすくなった気がした。
ただ…、と雲雀は声を低くして眉を細めた。

「校内ランニングとか言って走り回ってなければ良いけど…」

ぴーぽーぱーぽー。

「あぁ…お兄さんならやりそうですね…」

ぴーぽーぱーぽー。

「そもそも、ワックスかけたら走らないでとはボクシング部主将には言っているんだけどね…───」

ぴーぽーぱーぽー。

「───雲雀さん。救急車の音、大きくなってません?」

ぴーぽーぱーぽー。



雲雀が、沈黙した。



ききぃっ、と車のブレーキ音が高らかに響く。
ばたん、ばたん、と扉を閉める音がした。
綱吉の顔が、青くなる。



「まさか…お兄さんじゃ、無いですよね…?」
「─────だとしても、綱吉の腕の方が先決だよ」

雲雀はさらりと言い放ち、綱吉の先を歩いていった。
颯爽と角を曲がっていく。

「あ!待ってください!!」



雲雀の後を追い、綱吉も角の向こうに消えていったのだった。

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