[携帯モード] [URL送信]

捜し物語り
異『常』事態、異『状』事態
栗色のボンバーヘアーが、向かい来る風に揺れる。
綱吉はただ『怯えながら』走っていた。



明らかな『異常』事態だった。



五日前、綱吉は俗に言う『神隠し』に遇っていた。
正確には神隠しに囚われた六道骸を救出するべく『遇いに』行った。
その時受けた『穴』が見事にぽっかり空いていて、中は闇に続くように真っ黒である。
怖くて突っこむ気にはなれないので一応包帯を巻き付け、怖くなって五日間、ベッドに潜り込んで閉じこもっていた。
いつもならリボーンが叩き起こしにくるのだが何もなく、母親である奈々にさえ咎められることもなかった。
補講をサボり、空腹さえ恐怖で感じず綱吉は引き籠もりたいだけ引き籠もった。



ただ、左腕だけが怖かった。



リボーンはただ静かに部屋に居てくれた。
ただ何も言わず、ベッドのすぐ傍に居てくれた。

それが、とても安心できた。
ようやくある程度思考回路が正常に動くようになった。
しかし『穴』から離れられないのは事実だった。

『これ』について知っているであろう人物はこの時点で三人。
一人は物騒なことを言い残し、「また来る」と宣言して仕事に戻ってしまった。
もう一人は『今回の』一番の被害者であり、隣町で身体を休めている。
そうなると必然的に一番近い人物に接触するのが無難だと判断する。
しかし、彼も自分と『一緒に』居た所為でボロボロだ。

でも、『いつまでも怖いまま』なのは嫌だ。

そして六日目、ベッドから漸く出る事が出来た。
朝早くから着替えて下に降りると、奈々が驚いた表情で綱吉を見て来た。
しかし、それはすぐに安堵した面持ちになる。

「ツー君、大丈夫?お腹すいてない?」

温かいと言って良いほど、とても安心できる笑顔だった。

「うんと、ごめん。 あんまり空いてないんだ」
「あら、そう…」

綱吉がもう一度謝った。

「今、凄い考え事してて…それが少しでも解決したら、食べれると思うんだ」

奈々は再び、そう、と呟く。

「それで、これから学校に行こうと思ってるんだ」

その言葉に、奈々はきょとんとした顔となる。
しかし、次の瞬間にはおたまを持ち上げた。

「それじゃあツー君、何食べたい?母さん腕を振るってあげるわ!」

とてもウキウキした様子で頬を紅潮させている。
それでも、綱吉には少し無理しているように見えた。
綱吉はありがとうと礼を言って笑顔を浮かべる。

「それならハンバーグが良いな」
「わかったわ。じゃあ、ちゃんと問題解決してくるのよ?」

首を傾げた奈々は、本当に実年齢からかけ離れて若く見えた。

母さん、ごめん…。

内心で謝ったまま、綱吉はドアを開いて家を出て行った。



しかし、新たな事実を目の当りにすることとなる。



「なっ!なっ!なっ!─────何なんだよぉおお!これぇえええっ!!」

出て行ってしばらく歩いた矢先、いつもと『全く同じ通学路』を、『全く違う風景』として捉えることとなったのだ。



見える!

『見』える!

『み』える!

『視』える!!



綱吉は初めて同じ発音をする漢字を使い分けた。
『使い分け方』を直感的に感じ取った。

「もぉ〜!何なんだよぉおお!!」

強いて言うなら、自分が視界で捉えているのは『この世ではあり得ないモノ』だった。

つい五日前に『見たモノ』と似ているが、明らかに『別物』だった。



これ!『幽霊』じゃん!



綱吉は心中で泣き喚いた。
周りにはやたら顔の白い男が立っていたり、頭の吹っ飛んだ猫まで悠々と歩いている。
まるで、自分が死んだことなど気付いてないような様子である。

「幽霊って、みんなこうなの?!」

今まで、『こんなもの』視えなかった。
むしろ、つい『五日前まで』この通学路は普通の通学路だった。
多分、今も『普通の通学路』なのだろう。ただ、『視える』ことによって『変わって』しまったのだ。

『普通の通学路』は、霊魂ばっこする『通学路』へと。



「雲雀さぁあああんっ!」



綱吉はこの状況に詳しい知識を持っているであろう人物───雲雀恭弥をゴールとして駈けていった。
怪我をしていようと彼は愛する並盛中学校で業務に勤(いそ)しんでいるはずである。



∞∞∞



夏休みのはずなのに生徒玄関の鍵は締められていた。
仕方なく綱吉は職員玄関から侵入する事になった。

「何で鍵かかってんだよ、もぉっ!」

罵声は空気に消え、静寂とした校内に荒々しく締められたドアの音が響く。
そしてスリッパもロクに履かず、職員室前お構いなしに駈けていった。
先生のお説教が後ろから飛んでくる。
しかし『今の自分の腕』に比べれば怒られるなんて可愛いもんだ。
こっちの方が遥かに恐しい。

雲雀が居るであろう応接室を目指して速度を上げた。
すると、学ランの生徒が見えた。目を凝らせば、黒い髪が前に突き出ているし、口から葉っぱが飛び出ていた。

「もしかして、草壁さん?!」

トレードマークは口に加えた葉。
向かいからやってくる草壁哲也の姿があった。

雲雀恭弥を誰よりも慕っている風紀委員副委員長。
群れるのを嫌う雲雀の代わりに風紀委員達を統率する熱血リーゼント。
そんな草壁を慕う風紀委員も多いと聞く。

離れた位置に居たが、顔を青くしているようだった。
しかしこっちも精神が真っ青状態である。
綱吉は手を大きく振った。

「草壁さぁん!! 雲雀さんは居ますかぁあ?!」

声を張り上げると草壁は漸く綱吉の存在に気づいたらしい。顔を輝かせ、彼も手を大きく振りながらこちらへ走って来た。
廊下のど真ん中、互いに合流し合うと草壁は真っ先に綱吉の肩をがっちり掴んできた。

「居ます! 応接室にいらっしゃいます! 今すぐ行って下さい!! そうじゃないと…─────」
「分かりました!!」

草壁の台詞を最後まで聞かずに綱吉は了承した。
実際、今すぐ雲雀に会いたいからこそ草壁と言う側近を見つけてとてもほっとした。
彼が一番雲雀の情報を持っているからだ。
そして、大概雲雀についての有力情報源である。

「ありがとう、草壁さん!」

綱吉は礼を述べて脇を擦り抜けていった。

「沢田さん?!」
「草壁さん、行ってきますっ!!」

綱草壁の焦燥の滲み出た呼びかけに気づく事なく、今まで出した事のない全力疾走で綱吉は校舎の廊下を駆けていった。



∞∞∞



綱吉は応接室へ辿り着くと、豪快にドアを開け放った。

「雲雀さんっ!」

草壁の情報通り雲雀は応接室、自分のデスクの前に書類整理に追われているようだった。
所々絆創膏やガーゼが傷を覆う。
『神隠し』の一件でフルボッコだったからだろう。
それでも、業務を怠らない雲雀は本当に感嘆ものである。

しかし、異質な光景を目の当たりにするのだった。



「え…───骸…?」



其処には、慌ただしく開け放った人物を睨み付けている六道骸の姿があった。
ちょうど雲雀のデスクに手を叩き付けた瞬間のようだった。
こちらを向いている骸が驚愕したように切れ長の双眸を丸くしている。

シチュエーション違えど、五日前と大体同じ光景だった。



もしかして!
さっき草壁さんが顔を青くしていたのって…!!



「そっか、だから早く行ってって…!」

ようやく、先程草壁の台詞を理解する。
今更ながらとても焦っていたような声だった気がした。
だとしたら、大体が『雲雀の機嫌に障る』ことのはずだったと、綱吉は今更気付くのだった。

[←*][#→]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!