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捜し物語り
『契約』
了平の話を終えた後、綱吉も話を終えた。幾つか了平と噛み合わない点が浮上し、納得いかんと大声を上げた。

「オレは、確かに沢田をあの瞬間まで見ておらんのだぞ!?そこに居たなどあり得ん!!」
「あの…そう言われましても…」

綱吉は渋い表情を浮かべる。
確かに、話は食い違っている。
綱吉と了平が見ていた世界は、明らかに違い『過ぎた』。
まるで了平が表を、綱吉が裏を見ていたように。
話を終始全部聞いていた雲雀は足を組み直す。

「大体分かった―――やっぱり『契約』系だね…」
「契約系…?それ何ですか?」
「それを今から説明するの」

黙ってて、と綱吉に釘を刺した。
う、と綱吉が呻く。

「僕も詳しくは知らないんだけど…―――多分、『条件下』で最大の力を発揮する怪異だ」

誰もが雲雀に視線を送り、口を閉じる。

「その条件が恐らく『契約』。笹川了平がした人形を捜すと言う『約束』が『契約』だ」

難しい思いながら綱吉はじと、と雲雀を見る。

「約束って誰かと誰かがするものでしょ?その『誰か』と『誰か』が『笹川了平』と『怪異』だったんだ。おそらく、そこに居合わせていた沢田は怪異の『標的』じゃないから『弾きだされた』。だから、笹川了平には全く『視えなかった』んだ。だから、どっちも言っている事は『本当』だよ」

雲雀がそう言い切った。
すると、了平の顔がようやく緩んだようだった。

「で、でも一緒の『異界』に居たのに…?」
「だから言っただろう?『条件下で最大の力を発揮する怪異だ』って。同じ空間に『入れて』おきながら、『違う世界を見せる』なんて…六道骸でもできる」

さらっと振られた、骸はくすりと笑った。

「それは、僕が『凄い』ととっても宜しいですね?」
「素敵な変換間違いだ、訂正しておくよ。『化け物だ』って意味」
「雲雀さんっ!」

綱吉が声を張り上げた。
しかし骸は気にする様子もなく、クフフとあっさり笑って見せた。

「おや?その化け物に向ってくる君は愚か者ですよねぇ?」
「何言ってんの、違うよ。それは『勇猛果敢』っていうの。もう少し日本語勉強しなよ。だからそんな『ふざけた頭』なんだ」

骸の頬に青筋が浮かんだ。
それを見て、雲雀はくすりと笑った。

「君は人を挑発するのがお上手ですね…」
「勝手な解釈するからだ。早く話を進めたいだけだよ」

頭について突っ掛かれば誰でも挑発できることに、骸は気付かない。
今回の勝者は雲雀のようだった。

「詳しくは知らないんだけど、その契約は『絶対』だから間違いなく言いきれる事もあるんだ―――さっきも言ったけど、『条件下』で最大の力を発揮すると言っただろう?それを発揮するために怪異側もそれを『守らなきゃいけない』んだ。つまり、今日の五時から十日後の四時五九分五九秒までは『絶対』にそいつは『現れない』…」
「じ、じゃあ!十日後の五時には『必ず現れる』ってことですよね?!」
「その通り」

雲雀はふん、と時計を見やる。
壁と同じ真っ白の時計。
もう八時を差していた。

「まぁ、今からだいたい二百三十七時間後だね。でも、この系統の怪異は『一番祓い易い』はずだ」
「え?!」

綱吉は雲雀に駆け寄る。
リボーンはそれと同時にぴょんと飛び下り、了平のベッドに降り立った。

「そ、それって本当ですか?!どうやるんですか?!」

一番祓い易い、という言葉に綱吉の胸が躍る。
つまり、了平が助かると言う意味ではないか。
綱吉は歓喜に目を輝かせた。
雲雀はくすりと笑うと、立ち上がった。

「実に単純明快だよ。っていうか、聞かなくても分かると思うんだけど」
「え?!そんなに簡単なんですか?!」

綱吉は、それって!と続けようとした途端。リボーンがなるほど、と呟いた。



「『約束』を守れば良いんだな?」



へ?と綱吉がリボーンに振り向いた。

「それが怪異の側の『絶対条件』なら、こっちが『文句の付け用が無いほど完璧にクリア』することが、今回の怪異の『祓い方』なんだな?」
「そう」
「本当、単純明快だな」

リボーンはニっと笑った。

「ちょっと待ってって!納得しないでよ、リボーン!!もし見つからなかったらどうなるのさ?!約束を守らなきゃいけないんだったら、見つからなかった部分を…―――」
「あぁ。遠慮なく引き千切って持って行くだろうね」
「生々しく言わないでください!!」

こうしちゃいられないと綱吉は部屋のドアへ向かう。

「何処行くの」
「何処って!捜しに行くんです!!人形のパーツを捜しに!!」
「一人で?無理だと思うよ」
「そんな事言ってる場合じゃないですよっ!!無理でも探さなきゃ、お兄さんが危ないんです!!」

雲雀は相棒を握ると、それを思いっきり綱吉の頭に向って放った。
開けようとドアの取っ手を握っていた綱吉は後ろから来た衝撃により、顔面をドアに打ち付けた。

「待ちなよ。それは『庭同然』である連中に任せるべきだよ」
「庭…同然…?」

綱吉はドアに顔を打ち付けたままずりずりと落ちる。
雲雀は振り向いていると、雲雀が了平にナースコールを押すように指示を出していた。

「それよりも…───沢田綱吉」

突然、雲雀の声音が低くなった。
明らかに綱吉へ向けられていた。怒気に殺意も交じり混んでいる。
内心は焦る気持ちとなぜ怒っているのかでいっぱいいっぱいとなる。
肌に刺す冷気が、逃げた方が良いと警鐘を鳴らしていた。
しかし、そんな事を雲雀様が許すわけなかった。

「さっさと、戻ってきなよ…戻って来ないと余計に咬み殺すよ…?」



戻ってもやっぱり咬み殺されるんだぁ〜?!



涙が滲んだ。
戻る事により死亡は確定した。
戻らなくても死亡は確定した。

綱吉は、渋々重い足を雲雀へ向けた。
了平の横に用意された椅子はリボーンが占領しているので、仕方なく床に座った。



勿論、雲雀の目の前にだ。



雲雀はまず黒い顔で綱吉を見下した。

「まず、一発殴られなよ」
「何でです────がぁあっ?!」

雲雀は遠慮なく綱吉の顎を蹴り上げた。
殴るとか言いながら、蹴っている。言っていることとやっていることを完全に違えた結果だった。
問い掛けは最後まで聞いてもらうことは出来ず、綱吉は了平から驚愕の視線を向けられて倒れた。

思考回路は完璧ショート。
頭は、真っ白だった。

「沢田…今回は『完全に』、『完膚無きまでに』君が『悪い』。そもそも君が見舞いに『来た』のが『悪い』」

雲雀はそう言い切り綱吉の胸ぐらを掴み上げた。
綱吉は人として当然の事を徹底的に否定された。

「今回は笹川『だけ』だったら、『何もなかった』よ」
「…どういう意味だ?」

リボーンは雲雀に胸ぐらを掴まれている綱吉を完全スルーした。

「早く言えば、この怪異は『気付かれなければ』、本当に『何も起きない怪異』なんだ…───巻き込むのは『標的』だけだからね。そうだろ?『標的』が『気付かなければ』、怪異には契約を取り付ける事が『出来ない』んだから。───よく思い出して、笹川の話と沢田の話は『最初から』噛み合って無いんだ。それはとっても『おかしい事』だろ?」

綱吉が意識を取り戻した。
何処がおかしいのだろうと、ジンジン痛む顎をさする。



すると、あ、と骸が呟いた。



どうやらリボーンも気付いたらしく、じとじとと綱吉を睨んだ。

「ボンゴレには男の子が視えて『いて』、彼には視えて『いなかった』のですね?そして、その時点ではまだ、『怪異は起きていなかった』。だって、笹川了平が『標的』ならば、最低でも『彼に見えていなければ
』、契約は取り付け『られない』」
「そうだよ…!」

綱吉の頬を思いっきり引っ張る雲雀は更に怒りを募らせていく。
漸く、綱吉も自分のしでかした事に気が付いた。

「この部屋も幽霊や怪異にしてみれば一種の『結界』なんだ。一部でも『解放』しなければ入ってこれない…───」
「それを、沢田綱吉はさらりとやってしまったのですね?『ノック音』がすれば『人が来た』と言う『当然の思い込み』を利用して」

カタカタと身体が震える。
覚えている。
そうだ。
確かに了平と話をした時、噛み合って『いなかった』。

『入りたい』と言っている子供が居ることを伝えた事に、彼は『よくわからないが』と『言っていた』。

ごくりと唾を飲み込んだ。
助けたいと望んできたはずなのに、綱吉は本気で居たたまれない気分となった。
むしろ、この場から全力で逃げ出したい気分になった。
ちゃき、と目の前で金属音が鳴る。
綱吉は壊れたロボットのように、かくかくと顔を上げた。
目の前に光臨した大悪魔、雲雀恭弥は相棒を握ってお怒りの様子だった。
たぶん、何やっても『ぷっつん』だ。



「さぁ…宴の時間だ…」



本当に悪魔なんじゃないだろうか。



銀が空を裂く。
その瞬間、綱吉の絶叫は病院だということを構わず響き渡った。

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