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捜し物語り
夜の道路
一悶着を乗り越え、綱吉達は病院に向かっていた。
綱吉を間に雲雀と何故か骸が並んで歩く。
そして、迷惑なことに互いに殺気立っていた。
綱吉は、干支の猿と犬の間にいる鳥の気分を体験していた。

その所為で照らしだされたアスファルトが余計に怖い。
突然幽霊が現われたりなんてしたら一目散に逃げ出す自信があった。

情けない自信だけがあった。

「ねぇ…何でついてくるの、六道骸」

口火を切ったのは雲雀。綱吉の奥にいる骸に向かって、睨みを効かせた。

「見張りですよ」
「綱吉の役目は僕一人で十分だ」
「おや?」

わざとらしく笑うその様が敏感すぎる雲雀の怒気メーターを一気に振り上げる。

「誰が沢田綱吉だと言いました。僕は『君』の見張り役ですよ」
「何様のつもり?」

二人は急に立ち止まって互いを睨み合った。

「僕に見張りは要らない」
「そうはいきませんよ。ボンゴレの肉体に害が起こるパーセンテージが高い件です。それに『巻き込んで』いるのを易々見逃すわけには…───」
「雲雀さんっ!早くこいつ置いていきましょうっ!!」

身の危険を感じた綱吉は雲雀の服の裾を引っ張って走りだそうとする。
そこへ『手を離せという意味』の鉄棒がぶっ飛んできた。
当然、飛ばされてきた綱吉は衝撃に耐え切れずぶっ飛び、骸は飛んできた綱吉をひらりと躱した。

「おまっ…───さっき言った事と今取った行動、全然違ぅ…っ」
「そんな事は些細な事です」

更に綱吉の頭を踏みつけて腕を組んだ。

「それに、興味があります」
「話すことなんて無いよ」
「大丈夫って、何が『大丈夫』何ですか?」

綱吉は口をへの字に曲げて、その発言に内心で首を傾げた。

「何のこと?」
「しらばっくれてるんですか?それとも老化現象ですか?」

一気に振り上がったメーターが、たった今振り切った。
雲雀の殺気が濃くなる。

「そんな事言うなら尚言わない」
「いいえ、君は『言わなくてはならない』はずです」

骸は更に容赦無く綱吉の頭を踏みつけた。



「少なくとも『十日間しか無い』と言ったボンゴレに対し『大丈夫だ』と言ったからには、何故『大丈夫』なのか『彼に答えなければならない』はずです」

沈黙の間に、怒りと笑壷に満ちた視線が絡み合う。
そこで、綱吉も漸く気付いた。
手当てしてくれながら混乱している綱吉に対して、『大丈夫』と言った。

「そして君は『気休め』で『そんな事』を言う男ではありません」

そうやって、綱吉に落ち着くように『諭させた』。



「『聞きたい』ですよね?ボンゴレ?」
「聞きたいです聞きたいです!」


余計に踏み付けられる。
しかし、痛みによる『強要』ではない。



「雲雀さん…───オレ、『知りたい』です…」



知らなければ、ならない。
自分はあの『現場』に居合わせてしまった時点で、『関係者』なのだ。

そして、前回に続き『今回』も。





「お兄さんが『危ない』んです」





張り詰めていた空気が確かに砕けた。

「オレ、そういうのに知識がある訳でもないし、何か特殊な力がある訳でもないけど…───でも、『それだけの事』で逃げたくないんです」

大事な人の、『大事な人』。
それは、自分にとっても『大事な人』となる。
でも、それは『大事な人の大事な人』だからではない。



「まだ『何か出来る』なら、『何かしたい』んです」


『自分の大事な人』だからだ。



「助けたいんですっ!『あんな想い』するのは嫌なんですっ!!」

思いっきり踏みつけられていた足をものともせず、顔を上げた。

「骸が『あっち』に行っちゃった時も!クロームが『ああなった』時も、オレ、本当は『何か出来た』んです!」

思い出すのは五日前。
クロームと共に肝試しをしていた時も、その帰りで骸を見送った時も、自分は『何か』を『感じ』ていた。

「嫌な予感とか変な感じがしたのに気にしてなくって…───それで、クロームが怖い目にあったり、骸が神隠しにあったりしたんです!」

そして『今回』は『目の前』で。

「今回だって!目の前で起きてるのに何も出来なくてっ!お兄さんを止めきれなくて!オレが…────ぶっ!」


綱吉が踏み付けられながら上げた顔を、雲雀は容赦無く蹴り飛ばした。
骸がその光景に唖然としたように口を小さく開き、固まった。



「『そんな理由』でなら僕一人で行くよ」



更に雲雀は、未だ骸の下に居る綱吉の胸ぐらを掴み上げた。

「君は『そんな理由』で『アレ』と対峙したの?」
「そんな理由って…!」

綱吉は蹴り飛ばされた頬を押さえながら、涙目になる。

「『そんな理由』だよ。『そんな理由』で六道骸を助けて、笹川了平も助けたいの?そんな事なら僕に…───」
「『そんな理由』じゃない!!」

綱吉が声を張り上げて、雲雀の掴んできている腕を掴み返した。
ぐっと握りこみ、力を込める。



「『大事な理由』だ!」



炊き上がる想いに頭は白くなる。
もう片手が雲雀の胸ぐらを掴み、引き寄せた。



「誰かが居なくなるなんて嫌だ!オレの周りに居てくれる人が傷付くなんてもっと嫌だ!『だから』助けたいんだ!」

雲雀が無表情で見下ろす。
それに、綱吉は怒りに歪んだ顔で対抗する。
それは綱吉にとって『最も大事な事』だから。
そして強い想いは時として、『最強の武器』となる。



「みんな『大事な人』だから、オレがみんなと『一緒に居たい』から、『助けたい』んだ!」



静まり返った辺りに想いが空気を伝って広がった。
夏の真っ只中で身体は確かにぞわりと泡だった。

そして響く、胸に。
そして届く、想いに。








「安心したよ」








ぽん、と雲雀の口から零れた。

「…え?」

その台詞に綱吉は目を瞬かせた。雲雀を見て、動きを止めた。
雲雀は綱吉の胸ぐらから手を離すと紡ぎだした。

「まるで『義務』や『使命』、場合によれば『自戒』に聞こえたから驚いたよ」

瞬かせていた目は、知力レベルの低さで点になる。
思いもよらない展開に分からない単語が合わさって、綱吉の思考回路が鈍く動き始める。

「そんな想いでやっていたら、窮地に追いやられた時『諦めて』しまうからね」
綱吉は目を点にしたままゆっくりと首を傾げた。

「えっと………どういう意味ですか…?」
「だから、『義務』や『使命』、場合によれば『自戒』によって行動しようとしていたから驚いたんだって。それは、『私意』とは同じようで全く『別物』だから」

意味が解らない上から、更に意味の解らない単語を追加された。
最早綱吉の中では外国語である。

「あの…だから意味が分からないんですけど…───寧ろ、余計に意味が分からないです」

綱吉は首を傾げて問い掛ける。
だから、と雲雀はもう一度同じ説明をしようと息を吸った。

「待ちなさい、この前と『全く同じ』やりとりですよ」

それを止めたのは骸。
腕を組んで傍観を決め込んでいた男は漸く割って入って来た。
そして、綱吉の頭をむんずと掴むと指を差す。

「『コレ』に分かるように説明なさい。因みに君の頭脳を100パーセントとした場合、彼の頭脳は『20』です」
「低ぅっ!」
「何言ってるんです。『頑張って』『高く』『見積もって』も、やっと『20』ですよ」
「オレはそんなに低く無いっ!」

綱吉は怒鳴り上げる。
しかし雲雀は納得したように頷いた。

「まるで助け『なきゃいけない』みたいに言うから驚いたんだ。助け『なきゃいけない』と助け『たい』じゃ、やることは一緒でもそこに込められた『想いの強さ』は変わってくるでしょう?」
「あ、成る程!」

綱吉はぽんと、手を打った。世間一般的なジェスチャーで納得したようだった。
それはつまり、綱吉のオツムの低さに合わせて説明してくれ、挙げ句とても解りやすかった事を証明することになった。
しかし、そんな細かい事に気付いたのは綱吉の知能数値をほぼ正確に割り出した骸だけだった。

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