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隠し神語り
混線
「骸様と連絡とれたの…?」

千種がクロームに呼び掛けた。
骸に選ばれ、『もう一人の骸』としてボンゴレ霧の守護者を務めている彼女には特殊能力があった。
廻り合わせか不思議な導きか、骸と『意識を通わせる』特異な体質をしていた。
テレパシーみたいなもので、彼女だけが骸と連絡を取り合えるのだ。
しかし、千種の呼び掛けに答える様子はなく、クロームは耳に手を当てたまま固まってしまった。

「え?骸様? 今何て───」



そして、クロームの問い掛けが、ぴたりと止まった。


「クロー…ム……?」

綱吉は動かなくなってしまったクロームに声をかける。しかし、俯いて反応はなかった。

もしかして、コレって───?!

顔を青くさせた綱吉はクロームの肩に手を掛けた。

あの時と同じ。



クロームが、『誰か』になった時と同じ。



「クローム、どうしたの? ……クロームってばぁ!!」

辺りの空気が淀んで重くなる。
その中で唯一クロームだけが際立っていた。
普通に『在る』存在であるはずなのに、自然と彼女に視線が集まった。

『異物』を感じて、『普通』の視線が彼女に向けられた。

「クロームっ!!」

綱吉が声を張り上げた、次の瞬間だった。



クロームが、『ぐりん』とこちらを向いた。



濁った片目で。
ズレた焦点で。
裂けた口元で。
壊れた笑顔で。



冷ややかに戦慄を呼ぶクロームの声が、放つ。










「…『友達』───見ぃつけた」










けらけらけらけらけらけらけらけ
らけらけらけらけらけらけらけら
けらけらけらけらけらけらけらけ
らけらけらけらけらけらけらけら
けらけらけらけらけらけらけらけ
らけらけらけらけらけらけらけら
けらけらけらけらけらけらけらけ
らけらけらけらけらけらけらけら
けらけらけらけらけらけらけらけ
らけらけらけらけらけらけらけら
けらけらけらけらけらけらけらけ
らけらけらけらけらけらけらけら
けらけらけらけらけらけらけらけ
らけらけらけらけらけらけらけら
けらけらけらけらけらけらけらけ
らけらけらけらけらけらけらけら
けらけらけらけらけらけらけらけ
らけらけらけらけらけらけらけら
けらけらけらけらけらけらけらけ
らけらけらけらけらけらけらけら
けらけらけらけらけらけらけらけ
らけらけらけらけらけらけらけら
けらけらけらけらけらけらけらけ
らけらけらけらけらけらけらけら
けらけらけらけらけらけらけらけ



高らかに響く哄笑。

誰もが、この異様に目を剥いた。

ぞわりと肌が泡立ち、氷が背中を舐める。

「う…あ……ぁ………!」

綱吉は再び心底から蘇る恐怖に、小さな悲鳴を洩らした。いや、これが綱吉にとって精一杯の悲鳴だった。
ふらりとよろめいて、一歩後退ると身体が後ろに傾いた。



『倒れる』と分かった。



でも、今はそれでも良かった。

放れたい、
離れたい、
はなれたい、
ハナレタイ、



今ノくろーむカラ離レタカッタ。



重力に逆らうことはなく、地面に沈んでいく自分を誰かが受けとめてくれた。
誰かは分からないけど、今の自分には脚力なんて存在していない為、全体重をその人に委ねる形になってしまった。

クロームはひしゃげた笑顔でこちらを見ると、それは嬉しそうに微笑む。
そして、指を差してきた。

「見つけた…───私の『邪魔』をした男…」



何、言ってるんだ? クローム?



こつ、こつ、と靴を鳴らして、ゆっくり、確実に、こちらに向かってくる。

「次は『邪魔』させない…」



何の話…?

オレが邪魔したって、何の事…?!



ズレた焦点でこちらを見てくる。
何処か遠くを見ているのに、こちらを見ている。

「『あの子』は私のモノ…───渡さない…渡さない……」



渡さないって何!?
あの子って誰のこと?!



寄ってくる、クロームの皮を被った『異物』。

残り、数センチ。

「…『この子』が欲しい……『この子』を貰おう───」



欲しい?
クロームが?
何で?何で?

…─────もしかして?



残り数センチで、綱吉の脚力が一気に沸き上がった。

「貰おう…もう───」



「お前には『誰も』渡さない!!」



クロームの胸ぐらを掴み上げ、綱吉はありったけの大声で怒鳴り上げた。



「クロームも骸も、お前には渡さない! 大事な仲間なんだ!! お前の我儘の為に、二人は絶対渡さない!!」



綱吉の怒鳴り声に、クロームが表情を暗くした。
むすりと顔を歪め、侮蔑するように綱吉を真っ直ぐ見やった。

「骸!そこに居るんだろ?! 返事して! 骸!骸っ?!」

綱吉を見るクロームの目は冷たいままだった。
誰を見るでもなくこちらを向いていて、綱吉を見るでもなく何処かを見ていた。
「骸!聞こえるか?! オレだよ?!沢田綱吉だ!───今、そっちに行くから!待ってて!!」



届くように、
祈るように。

聞こえるように、
耳を傾けてくれるように。



「絶対に、お前を『迎えに行くから』!」



クロームの顔が、ぴきりと歪んだ瞬間だった。

銀が、クロームを一閃した。



「うっ…」

小さく呻いたクロームは地に跪いた。そして、一瞬仰け反るとそのまま俯せに転倒してしまった。
それと同時に淀んで重くなっていた空気が晴れ、体が軽くなる。誰もが感じていた息苦しさを感じなくなった。

クロームから、『異物がなくなった』と、目で、肌で、精神で感じ取る。



「はぁ…はぁ……」

荒い呼吸を繰り返し、倒れこんでしまったクロームを見やる綱吉。
息をするのはこんなに辛いものだっただろうか。
耳元で心臓がばくばく鳴っている。
汗もこんなにかいてたんだ。

そして、綱吉を奮い立たせていた緊張の糸が、今ぶつりと鈍い音をたてて切れた。
どすんと尻餅をついて顔を上向ける。それから、クロームを強制的に昏倒させた人物を見やった。

一昔前の黒い学生服。
並盛中学を牛耳り、並盛の頂点に居ることを許された最強で最恐であり、最狂の戦闘欲と孤高を誇る、最凶の風紀委員長。



「雲雀さん…───」



雲雀恭弥が愛用のトンファーを握り、綱吉を見下ろしていた。

「雲雀さん、今のって…───」
「知らないね。 チャンスだと思ったから眠らせただけだよ─────骨は折ってないし、ツボを一発だから大丈夫」
「よかったぁ〜」

へなへなと抜けた声をあげると、終には完全に脱力してしまった綱吉。そのままばったりと仰向けに倒れた。
背中に当たる小石がいたいけど、汗をかいた服が冷たい。
それだけで、一気に現実に引き戻された気分になる。

でもまだだ。

クロームから、『あいつ』を引き剥がせただけだ。

骸はきっと…───『あいつ』の所に居るんだ。



連れて帰らなきゃ。

取り戻すんだ。

『あいつ』の我儘で、骸をあっちに置いていくもんか。



必ず、迎えに…────。



「で、沢田綱吉。 非礼を詫びてもらおうか?」
「え?」

考え込んでいた綱吉は、大きな琥珀色の瞳をぱちくりさせた。
心当たりなぞさっぱりない突然の問い掛けに頭を白くさせる。

「さっき、僕に寄り掛かってきたでしょ?」
「え?さっき…? さっきって…───」



・・・・・?



もしかして、さっき自分を支えてくれたのは…───?



綱吉は顔を青くして暴君を見上げる。
案の定、嬉々とした表情で血に飢えたトンファーを握っている雲雀の姿があった。

獲物を狩るときの顔である。



「ひ、雲雀さん!これには、訳がありまして───」
「どんな理由が有ろうとも、僕に寄り掛かってきた事実があるなら必要ないよ」



双手の武器が、煌めいた。



「咬み殺すっ!」



雲雀の声は高らかに、綱吉の悲鳴は山を裂くように響き渡る。
それに驚いて眠っていた鳥達が森からバサバサと飛び立っていった。
このあと冷徹な打撲音が辺りに飛び交うと、何事も無かったように静寂な空気に包まれていった。

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