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隠し神語り
三番目
消しゴム片手に山を降りてきた山本と千種。
山本は手を振りながら綱吉達に「ただいま!」と声を上げた。

「お帰り、山本!大丈夫?」
「大丈夫だったぜ?山道真っ暗だから、ちょっと歩きにくかったけどな?」

そう爽やかに笑う山本の横に居た千種に、骸が駆け寄って来た。当然、骸の傍に居た犬とクロームも寄ってきた。

「千種?平気ですか…?」

骸の顔が、酷く歪んでいる。
千種はそんな様子の骸に小さく笑いかけた。

「特に何も…大丈夫です…」
「そうですか。それは良かったです…」


安堵した様子の骸に、千種もくすりと笑う。

「心配し過ぎです…コレくらい大丈夫です……」
「コレくらいでも『足りないぐらい』です───千種、アレは?」
「アレは…ポケットに入れたまま…」

ゴソゴソと自分の胸ポケットを漁り、すぐに何かを取り出した千種。

「?!」



千種を含む、黒曜四人の表情が、崩れ落ちた。



∞∞∞



それから三番手、獄寺・ランボペアが「嵐」の消しゴムを持って帰ってきた。

「ツナ〜!」

綱吉に手を振るランボは、獄寺に抱きかかえられているのにも関わらず大暴れ。
獄寺の配慮でスタート時から、ランボがちょこまか何処へも行かないように拘束していたのだが、ランボは恐がって最初から獄寺にくっ付きっぱなしだった。

「放せーぇ!バカ寺ーぁ!」

ごっ!

「あだぁっ!!」

山道を出て来て綱吉を見つけるなり、ランボは獄寺の顎に頭突きを食らわして拘束を解いた。
倒れる獄寺を更に蹴り飛ばし、綱吉に向かって飛んでいった。

「え、ランボ?!ちょっ!まって…─────ごふぅ!」

そのまま突撃してきたランボは綱吉の腹に激突。
当然、綱吉は衝撃に耐えきれず、ランボを抱えて後方へぶっ倒れた。

「ツナ?大丈夫か?」
「ツナぁ!聞いてよ〜ぉ!」

山本が駆け寄ってきて綱吉の腕を引いて起こした。
綱吉は山本にお礼を言うと、ランボを抱え込む。

「あのなぁ!」
「アホ寺がね?オレっちの言うこと信じてくれないんだよ〜ぉ!?」
「ったりめぇだっ!」

ごちんっ。

「ぐっぴゃ!」

獄寺に拳骨をくらい、ランボは声を上げて綱吉に抱きついた。

「うわぁ〜〜〜ぁっ!獄寺が殴った〜〜〜ぁっ!!」
「このっ!」
「落ち着いて、獄寺君!」

もう一発殴りかかろうとした獄寺を綱吉は慌てて止めた。取り敢えずランボの頭を押さえ付けて、余計なことを喋らないようにさせる。

「ランボが変なこと言ってごめんね?」
「え?!───十代目が謝る事じゃないですよ!すみません!」

綱吉の前に膝をついて土下座をする獄寺。それに驚いてまた綱吉が謝るので、山本が無駄に続くであろうやりとりを宥めるように止めてくれた。

「ねぇねぇツナぁ、聞いてよぉ! ランボさんねぇ! 森の中で声を聞いたんだよぉ〜!」
「なぁっ?!」

綱吉は白目を剥いてランボを抱き上げる。

「変なこと言うなよランボ!怖いの嫌いだって言って…───」



「本当だもんねぇっ!」



「…ランボ?」

ランボが綱吉に引っ付いて、顔を胸に押し当ててくる。

「本当だもんね!ランボさんの事を呼んでたもんね!」
「このアホ牛…!」

青筋を浮かべ、殴りたそうな顔で握り拳を作る獄寺に山本は宥めながら羽交い締める。

「ランボさん!遊びになんか行かないもんね!」
「何言ってんだよランボ?!」

綱吉が声をかけるが、ランボは綱吉の服をがっちり掴んだまま胸に顔を埋めた。顔を外に向けないようにしているようにも見えた。

「呼ばれたってあっちになんか行かないもんね!絶対絶対ぃ!こっちに居る方が楽しいもんねぇ!」
「ランボ!何言って…───」
「ランボさん!あっちなんかぁ!───行きたくないもんねぇっ!!」





「ランボっ!!」





澄んだ怒声が響く。
藻掻いていた獄寺も、それを宥めていた山本も。
騒いでいたランボでさえ弾けたように顔を上向ける。綱吉を見上げたその顔は驚きと涙でぐちゃぐちゃに歪んでいた。

「此処に居て良いよ! …───何処にも行かなくていい!!」

しゃわしゃした頭を撫でてランボを抱き締める。

何が何だか分からなかった。
こんなあからさまに怖がるランボは初めて見た。

どう宥めてやれば良いのだろう。
どう不安を取り除いてやれば良いのだろう。

綱吉は震えて何かに怯える小さな子供に、ただ声をかけ続けるしかできなかった。

「行きたくない所なんかに、行かなくていい!ランボは此処に居て良いから!」



「…ホントぉ?」



鼻水と涙で濡れた顔が綱吉を見上げた。服をきつく掴んで、綱吉をグイグイ引っ張る。

「ホントにホント?ランボさん、此処に居て良い?」
「当たり前だろ?!ランボは家族なんだから!」

綱吉は濡れた顔を袖で拭いてやるとまたランボの頭を撫でてやる。そして眉間に皺を寄せ、ランボとしっかり視線を合わせた。


「わかったんなら、もうそんな事言うんじゃないぞ!分かったか?!」

少し怒ったように言ってみた。
また泣いてしまうかもと思ったが、寧ろランボは安心したように綱吉の中に戻っていった。

「……約束だもんねぇ、ツナぁ…───ランボさんねぇ…イーピンとぉ、ママンとぉ、ツナ達とぉ……ずぅっと一緒に居るんだもんねぇ───あっちになんかぁ…行きたくないもんねぇ…」

綱吉の言葉に、緊張が一気に解れたランボは腕の中に微睡み始める。

「ランボさぁん……あんな奴の所なんかに…」
「……? あんな奴?」

眠そうに放たれた言葉を復唱する綱吉。
ランボは目を擦ってとろりとした瞳を閉じると、大きなあくびをする。

「ランボ、それって…───」

「どう言うこと?」と聞きかけて綱吉は口を閉じた。
ランボは綱吉にしがみついたまま睡魔に身を委ねているのだ。質問してもまともな答えはないだろうが、漸く『安心』してくれたのだ。
また不安な思いはさせたくない。

「ランボ、大丈夫だから…大丈夫だから…───おやすみ…」

ランボは綱吉の言葉を最後まで聞き入れると、体力が尽きたように寝息をたてる。
そして、騒ぎの終止符を打つように、規則正しい呼吸音がランボから零れ落ちた。

「ったく…何言ってんだか、このアホ牛は───」

ぶつぶつ呟く獄寺に、綱吉はランボを抱いたまま少し高い位置にある獄寺の顔を見上げる。

「ねぇ、獄寺君。ランボ、山に入ってからずっとこんな感じだったの?」

目をぱちくりさせる獄寺に、綱吉は食い入るように見つめた。

「本当はもう少し詳しくランボに聞いてみたかったんだけど、また怖い思いさせたら可哀想だと思って───」
「十代目…───!」

獄寺は瞳をきらきらさせて握りこぶしを作ると、感慨に浸り始めた。

「さすが十代目!何てお優しいんでしょう!!」
「えっ?」

これくらい普通じゃない、と思いながら綱吉は勝手に感動する獄寺。どう対応しようか困ったが、「何でもお聞きください!」と興奮し始めたので、先程の質問をもう一度繰り返した。

「入ってからすぐはビクついて静かだったんですけど、暫らくしたら人の服にしがみつきながら騒ぐんですよ───『そっちになんか行かない』って…」

やばい、この話聞いたのは失敗だったかもしれないと思い始めた綱吉。しかし、聞いてしまった以上耳を塞ぐ事は出来ない。

しては、いけない気がした。

「それから、ずっと騒いでましたよ。『変な小さい建物があると』か、オレに向かって『階段みえないのか』とか────んなもん無ぇのに「絶対ある」とかほざきやがって…」

何でも無いように語る獄寺に綱吉は顔を青くして引きつらせていく。

「帰りなんか、『そっちに行かない』って、わーわー騒ぎ始めましてね。うるせーから走って降りていきましたよ───多分、恐がり過ぎて頭おかしくなったんですよ」

ヤバぃいい!
ランボ、絶対何か見てるぅ?!
っていうか─────!

「っていうか、獄寺君!ランボがそんなに喚いてたのに、気にしてなかったのぉ?!」
「えっ?!」

綱吉が突っ込むと、今まで自信満々に話していた獄寺も焦燥にかられた顔をした。そして、「あの!その!」と取り乱し始める。

「い、いえ!アホ牛が変な事連発するんで───だって階段も無いし、変な小さい建物なんて意味分かんないですし…───」

「獄寺君凄いなぁ───」



「…───へ?」



恐がっているランボを放っておいた自分を怒るのかと思い、慌ててフォローした獄寺だったがただの杞憂で終わる。

「ランボがそんな喚いてたら、オレ朝までランボと森の中だよ〜! さすが獄寺君だね!」

敬愛する綱吉に目をキラキラさせ、しかも逆に尊敬の目で見つめられた獄寺は誇らしげに胸を張った。

「当然です!何てったって、オレは十代目の右腕ですからね!」

自信満々に言い張る獄寺に、綱吉はにっこり笑う。
自分も獄寺君と同じペアだったら心強いのに、と本気で思た。
しかし、当然そんな事は口に出せるはずもない。
こういう組み合わせにしたのは雲雀に並ぶオレ様主義男『六道骸』であり、自分のパートナーはその分身であるクロームなのだ。
変に文句をつければ骸が容赦しないし、クロームも嫌な想いをするかもしれないと思った。



ツンツン。



「ひぃいいい!」

突如、背中を突かれて綱吉は悲鳴を上げた。

「ボス…」

聞こえてきたのは、この肝試しに唯一参加している女の子…───クロームへとゆっくり振り返って、綱吉は人間の姿を確認した。
彼女は三叉槍を胸に抱え、自分にじぃと視線を送っていた。

「んじゃ、ツナ。次はお前の番だぞ」
「そうだね…うん───」

あぁ、もう泣きたい。

リボーンに急かされ、頷く綱吉。
そんなふうに考えてはいるが、すでに少し涙が出ている。
そんな綱吉に追い討ちを掛けるようにクロームは綱吉の腕に抱きついた。

「…行こう? ボス?」



クロームに催促され、誰にも聞こえないように綱吉は小さく溜め息を吐く。
しかし、その時だった。



綱吉の肩を手が掴んだ。



 ?!



綱吉は声にならない恐怖に包まれて固まった。しかし、それを打ち砕くように声が聞こえてきた。

「ボンゴレ…」

あの、悪質パイナップル男子の声だった。

「脅かさないでよ!」
「肩を掴んだだけですよ」

さらりと言いのけて、骸は綱吉の耳に唇を近づけた。




ゼッタイに、そのテをハナさないでクダさい。





え?



どん。

聞き返す間もなく、綱吉は骸に背中を押されて促された。

どう言うこと?と首を向ければ骸は既に背を向けていて、獄寺と口論を引き起こしていた。
止めようとしたが、クロームは弱い力なりに綱吉の腕を引っ張っていた。
綱吉はそれに驚いて、クロームの方へ向いてしまった。

「クローム?」
「ねぇ、行こう?」

上目遣いでこちらを見てくるクローム。しかも、いつもと様子が違って明るい顔だった。

クロームがこんな顔するなんて…───珍しいな。

そんな彼女に促され、綱吉は首を縦に振った。クロームが綱吉の腕を引いて、肝試しのスタートを切る。
後ろで獄寺が腕を放せと騒いでいるが、綱吉はあえて聞こえないフリをして山道を歩いて行った。

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あきゅろす。
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