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隠し神語り
一番目、二番目
 一番手の了平と犬は、滅茶苦茶なハイテンションで入っていった。否、犬が恐怖心を払拭するべく無理矢理上げたテンションに了平が何のそのとついていったのだ。

「うぉおお! 負けんぞぉおお!」
「上等らぁああ! 大声なら負けれぇぞぉおお!」


 意味の無い大声大会を繰り広げ、山道では響く悲鳴と極限の声。山の中からさえ聞こえてくるその声に綱吉は驚いた。普通は聞こえなくなると思うのだが、しばらく静かになったらなったで不安にかられていると、二人肩を組み合って帰ってきた。
 リボーンに指定された消しゴム───『晴』の形をした消しゴムを渡すと、了平は犬の手を掴んだ。

「やはり! お前は我がボクシング部に必要な人材だ!」
「いや、オレ学校違うんれすけど…」

 犬の言い分など聞かず、我が道まっしぐらの了平は瞳に炎を灯して声を張り上げた。

「構わーん! ボクシング部に入れー!」
「だからぁああ! 入んねぇびょぉおおん!」


 了平が無理難題にも程近い提案を繰り返すので、綱吉は説得を試みようとしたが、『沢田貴様もだー!』と耳元で鼓膜を突き破らんばかりに部活勧誘をしてきたので、静かにお断わりした。

「大丈夫でしたか? 犬?」
「大丈夫れすよ! あんなのチョロチョロれす!」
「その割りには、お前の悲鳴がよく聞こえましたよ?」
「きっ! 気のせいだびょん! オレ悲鳴なんて上げてないびょん! 鳥にビックリして熊に抱きついて、殴り飛ばしただけだびょん!」



 あぁ。山の中でそんな事あったんだね。



 綱吉が素直にそう思っていると、骸はそうですか、と頭を撫でた。



 何だかんだ言って、骸って優しいよな〜。



「骸しゃーん。それでなんれすけどね!」
「はい? 何ですか?」

 骸の耳に口を近付けて、何かひそひそ話を始めたような様子だった。
 犬にはよくイタズラをする骸が彼を甘えさせている。その姿が凄くお兄さんっぽく見えて、とても新鮮だった。
 骸の意外な一面を見れた気がした綱吉は、頬を緩ませ見守った。
 一瞬だけ、骸の眉間に皺が寄った事には、気付かずに。


∞∞∞


「んじゃ! 行ってくるのな!」
「…行ってくる」

 二番手の山本と千種が山道を入っていった。
 山本は声を掛けるが千種は簡単に相槌を打つだけだった。

「お前、いっつも帽子被ってるのな?」
「無いと落ち着かない…」
「えー? でも、夏時期だと、その毛糸の帽子暑くないか?」
「…平気。暑くないから……それに…」

 被っている帽子をくしゃりと掴む千種。
 しかし、すぐに「何でもない」と話を打ち切ってしまった。

「大事な帽子なのな!」
「………。」

 山本は頭の後ろに手を組むと、木々の隙間から見える暗い空を見上げる。

「にしても、何か暗いな〜。山のふもとじゃ、星見えてたのに」
「木が邪魔で見えないだけじゃない…」

 千種に言われ、「おぉ!」と納得したように山本は手を打った。

「なるほどな!」
「……。」



 がさり。



「?」

 山本と千種が首を傾げて音源を見やる。
 ざわざわと蠢いている草に向かって二人は歩み寄っていく。

「何だ?」

 山本が蠢く草むらに、手を伸ばす。













             手。





「…───ひっ!」



 山本が、声にならない悲鳴を上げたその時だった。



 がっ!



 手をだけを凝視していた山本の視界に、手を踏み付ける靴を確認した。

「えっ…あ……」
「本物じゃない…」
「え?」

 千種が踏み付けて、ゆっくり背を向ける。

「え? おい…?」
「案外…つまんない……」
「ぇええ〜?」

 山本は千種の発言にどっきりした顔を浮かべる。流石の天然キャラも、コレは驚いたらしい。
 呆然としていると千種はいつもの様に歩きだすので、山本は慌てて千種の後を追った。

「お前! 今の、手───!」
「だから、本物じゃない…偽物でもよく出来てる…」
「えっ?! 偽物なのか?!」

 山道をいつものゆったりした様子で登っていく千種。

「踏んだ感じが…生きてる時のモノでも、死んだ時のモノでも、死んで数時間経った後でも……あんな踏み心地にならない…」
「へぇ…そうなのかぁ。よく分るな」
「あんまり褒めたモノじゃない…」

 淡々と語る千種に山本は着いていく。放っておいたら、ずんずん先へ行ってしまいそうだった。
 偽物とはいえ、突然出て来た手を見てしまった後で一人になるのは怖い。

 どす。

 追い掛けていた千種が急に止まるので、山本は躱すことに失敗して千種に体当たる。
 鍛えている所為か、細くて折れそうなのに山本が少しど突いてもびくともしなかった。

「っとと───…どうしたんだ? 千種?」
「………。」
「…───千種?」

 ずっと草むらの奥をみている千種に、自分も千種と同じように顔を向けてみた。
 しかし、足元に変な石があるだけで他は特に何もない。
 暗い闇が奥まで根を張る森があるだけだった。

「…千種? 何かあんの?」
「………。」



 返事が、無い。



「千種〜? お〜い、千種〜?」

 顔を覗いてみれば、ずっとその先を見たままで動かない。
 その瞳が、いつもより深い気がした。

 死んでしまったような、瞳。

 山本は千種の前で手を振ってみるが、それにさえ反応を示さない。

「…こんな明ら様な無視されんの初めてなのなぁ…」

 ショックだな、と呟くと、山本は何かを思いついたように千種の後ろに回り込んだ。そして後ろから顔の横に手を伸ばし…──目を覆ってみた。



「──────────……?」



 視界を奪われた千種は、山本の方へ振り返る。

「…どうかした?」
「いや、こっちの台詞だって! ずっとあっち見てるし、声掛けてんのにオレの事無視するし…」
「無視…? 声…聞こえなかったけど…」

 千種がそういうと、山本はえー! と声を上げる。

「ずっと呼んでたんだぜ? 手も振ったし…───あ! やっぱあっちに、何か有ったのか?」

 首を傾げる山本に、千種は草むらへと振り返る。

「…だって、あっち─── ?」

 千種はもう一度、先程まで見ていた草むらに顔を向けた。



「何かあったのか?」



 首を傾げる山本に千種は目をぱちくりさせる。しばらくしてから、千種はふいっと顔を反らした。



「………何でもない」



 それだけ言うと千種はのそりと歩きだす。山本は首を傾げながらも千種の後を追った。

「おっ! あれ、ツナの椅子じゃん!」

 山本は嬉しそうに顔を明るくした。千種の腕を引っ張って綱吉の椅子に駆け寄る。
 乗っかっている消しゴムの内、指定されている形───『雨』の形をした消しゴムを手に取った。

「いやぁ! お前が居てくれて本当に良かったのな〜! オレ、絶対独りじゃ恐くて無理だった!」
「……その方が良いらしいよ…」
「え?」

 首を傾げる山本に、千種はくいっと眼鏡を上げてから口を開く。

「『恐い』と思う感情の方が『大事』だって…骸様言ってた…」

 山本は、しばし目をぱちくりさせた。

「でも、恐いと思うと何でも恐いと思うらしいぜ?」
「それが『大事』だって…骸様が…」
「ん〜? 何で?」
「……さぁ」

 千種は首を傾げて山本の質問を返した。
 踵を返し、未だ山本が握っている腕を引いて山道を下り始める千種。

「いや、ホント! お前って凄いのな!」
「…別に」
「オレ、見ただけじゃあの手は本物かどうか分かんなかったぜ?」
「オレも……踏んで確かめた…」
「ははっ! だからだって!」

 山本は千種の腕を掴んでいた手を肩に回して引き寄せた。

「あそこでいきなり出て来た手を踏む気にはならねぇよ! オレ、パートナー当たりなのな!」

 白い歯光る爽やかスポーツマン笑顔で笑いかけた。



「お前が居てくれて、マジで感謝してるぜ! ありがとな?」



 千種はしばしキョトンとして山本を見ていた。
 千種の揺れない表情に、微かな動きが見えた。
 それを隠すように、千種はふいっと顔を反らしてしまった。
 しかし、山本は気にせず笑顔のままで歩き続ける。
 それからも山本は千種に話しかけては相槌を返された。しかし、行きと変わって千種が少しだけ言葉を返してくれるようになった。

 暗い山道、山本は確かに千種の小さな微笑みを見た。
 暗いので気付かないフリをして、その事を口に出さなかったのが吉と出たと確信する。

「この事、ツナ達には内緒にしておいてくれよな! オレだけ恐がってたなんて、悔しいし?」

 山本はにかっと笑いながら口に人差し指を当てて、千種に顔を向けた。
 千種はまたキョトンとしてから顔を反らす。



「………わかった」



 千種は山本に、そう小さく呟いてくれた。

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