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隠し神語り
闇染め

暗転、
暗転、
暗転、
暗転。

目覚めた時には…―――。





― くすくすくす… ―



『哀れな男…―――』

雲雀を弾き飛ばし、骸が、少女が、ひしゃげた笑みを浮かべて立っていた。
ただぼーっと、突っ立っていた。

それに向かい、雲雀が跪いている。
眼光鋭く敵を睨みつけ、上下に肩を揺らして荒い呼吸を繰り返した。
その周りには紙の破片が散っている。何があったのか、焦げているものまであった。
その様を嘲笑うように、少女の口が紅い三日月を描く。

『動けぬか…動けんだろう…』

くつくつ笑うと、少女は掌を雲雀に向けた。



「?! ―――このっ!!」



土から湧き出る、透けた手。

それは雲雀の足を、太股を、手首を、腕を、握って、引っ張って、地面へ沈めこんだ。

「くっ…離せっ…! がっ!」

白い手は倒れ込んだ雲雀の首を絞め、口を、鼻を、目を、覆って、埋めて、隠していく。
片目から覗く、透けた顔。

目玉が無い。
鼻が無い。
口が無い。
色が無い。
呼吸が無い。
熱が無い。

『生気』が無い。

それらが無い『モノ』が、雲雀の肌を、肉を、貪るように覆っていく。
それらが無い『モノ』が、雲雀の体温を、精神を、蝕むように奪っていく。

『生きている者』の『生きている証』を『生きていない者』が、欲して貪る。

その肉塊から伝わって来る、『渇望』。



欲しい。

欲しい欲しい。

欲しい欲しい欲しい。



欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい
欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい
欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい
欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい
欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい
欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい
欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい
欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい
欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい
欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい
欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい
欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい
欲しい欲しい欲しい欲しい
欲しい欲しい欲しい欲しい
欲しい欲しい欲しい欲しい
欲しい欲しい欲しい欲しい
欲しい欲しい欲しい欲しい
欲しい欲しい欲しい欲しい
欲しい欲しい欲しい欲しい
欲しい欲しい欲しい欲しい
欲しい欲しい欲しい欲しい
欲しい欲しい欲しい欲しい
欲しい欲しい欲しい欲しい
欲しい欲しい欲しい欲しい














「っ…───!!」



視界が埋もれて行く。

白い手で、
白い手で、
白い手で。



視界が埋もれ行く。

肉塊で、
肉塊で、
肉塊で。


視界が埋もれて行く。

黒で、
黒で、
黒で。



頭が淀んでいく。

苦しみで、
苦しみで、
苦しみで。



頭が淀んでいく。

妬みで、
妬みで、
妬みで。



頭が淀んでいく。

渇望で、
渇望で、
渇望で。



頭へ無理矢理、強引に、流れ込んでくる呻き声。

悲しみくれた、
辛みが滲んだ、
苦しみの混じった、
怨みの籠もった、



生キタイ。



生きたい生キタイ生きたい
生キタイ生きたい生キタイ
生きたい生キタイ生きたい
生キタイ生きたい生キタイ
生きたい生キタイ生きたい
生キタイ生きたい生キタイ
生きたい生キタイ生きたい
生キタイ生きたい生キタイ
あぁああぁぁあああ!!
生きたい生キタイ生きたい
生キタイ生きたい生キタイ
生きたい生キタイ生きたい
生キタイ生きたい生キタイ
生きたい生キタイ生きたい
生キタイ生きたい生キタイ
生きたい生キタイ生きたい
生キタイ生きたい生キタイ




狂い咲く絶叫。
血肉を握る手の群れ。
腐臭と異様の漂う鼻孔。
闇へ染め落とす思念。



自分の身体を、内臓を、精神を、貪って穢していく。
手に覆われた闇が、自分を追い詰めて行く。



嫌だ、嫌だっ!

まだ死にたくない!

まだ死ねない!

死にたくない!
死にたくない、死にたくない!



こんな奴らに殺されるもんか!



まだ勝ってない!

まだ六道骸に勝ってない!



ふざけるな!

ふざけるな!

ふざけるな!













まだ『やらなければならない事』があるんだ!!













その瞬間、視界が晴れて淀んだ空と肉塊が見えた。
すると、次々と耳元から喉を千切る様な絶叫が散り散りに聞こえて来た。
『何か』から嫌がって逃げているようにも聞こえてくる。
乱れ響くその絶叫を横に、雲雀は暁色の炎を視界に捉えた。



「すまない…待たせた―――」



氷結の獅子が、眼前に居る敵を睨んで立っていた。

額に灯った炎。
それに引火させて燃え盛るグローブ。
暖かな炎が、失せていた熱を吸収していくような感覚にとらわれる。

目の前に、居る。



『全てを』照らす大空が。
霧の『迷い』を晴らす大空が。



綱吉が額に炎を灯してこちらを向いた。
雲雀は綱吉のその姿に、目を細めて口を引き結んだ。

「…遅い…―――」
「だから、待たせたと言った…」

ポツリポツリと呟くと、綱吉は目の前に居る骸を睨むと、卸した拳が暁色の炎を燃え上がらせる。
骸の周りを白い肉塊達がわらわらと群がった。
縋り付くように骸の足に纏わりついている。

「無理はするな」

気配で雲雀が起き上がったことに気付いた綱吉が呟いた。しかし雲雀はくすりと笑うと、伸ばしていた足のうち片足を曲げ、綱吉同様に骸を睨みやる。

「───『まだやらなければならない事がある』…」

呟き、すっくと立ち上がった。
しかめっ面から疑問を含んだ表情を浮かべる綱吉の横に並ぶ。
眩む視界にふらつきながら、ちらりと雲雀が綱吉を見た。



「『答え』は見つけて来たかい?」
「…あぁ―――見つけて来た」
「そう…」



再びくすりと笑うと、雲雀は前へ向き直る。
襲われて腐臭と腐敗した肉で汚れて乱れたワイシャツを整えた。

「それじゃあ、沢田綱吉。 『答え』を聞かせてもらおうか?」



「─────…あぁ」



二人は目の前に居る『迷い子』と『隠し神』へ、静かなる眼光を放った。

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