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隠し神語り
境石
綱吉は息を切らせて山道に倒れ込んだ。
鍛え慣れない全速力に身体がとうとうついていけなくなったのだ。
道のど真ん中、他人の迷惑など顧(かえり)みず大の字に綱吉は倒れ込んだ。
喉が引きつって、呼吸するのが少し辛い。

あんなに振りまわしたにもかかわらず、松明の炎はぼうぼう燃え、自分の周りを照らしてくれていた。



「せっかく…見つけた、と…思ったのに…!」



息を詰まらせながら呟いた。
片手で額を流れ落ちる汗を拭うと、呼吸が落ち着くまで荒い呼吸を繰り返した。

はやく、骸を連れて帰らないと。
皆が待ってるんだ。
犬も千種もクロームも。
何だかんだ言ったって、獄寺君も雲雀さんも、みんなお前の事探してるんだよ。

オレだって、骸の事心配なんだよ?


「ねぇ、骸…―――どこに居るんだよぉ…?」

ジワリと目頭が熱くなる。
温かい液体が溢れて来て今度はそれを拭った。

そう言えば、雲雀さん何処だろう…?

倒れたままで辺りを見回した。
しかし、闇が包んでいるだけで人影はまったくない。
寧ろ、生き物がいる様子もない。
本当に、暗闇しかない。
自分一人だと嘲笑っているように、周りは暗闇だらけだ。
ふわりと吹いた風が綱吉を撫でて松明の炎を舐める。

「戻った方が良いかな…オレが迷子になってたら、みんなに神隠しに会ったなんて心配されちゃう…」

呼吸も心音も落ち着いて、綱吉はむくりと起き上がる。

この山道は一本道だから大丈夫。
下っていけば、きっと雲雀さんに会える。

綱吉は立ち上がると松明を握って目をぱちくりさせた。

「そう言えば、ずっと火が点いたままだなぁ…あんなにブンブン振ってたのに、消えないんだ…」

目を細めて松明の炎を見やる。
身体が照らされて暖かい。
まるで守ってくれているみたいだ。

「オレの死ぬ気の炎みたいだなぁ…」



自分が戦っている時に灯され続けるあの炎。

一日の始まりと終わりを照らす、橙色の炎。



『仲間』を守るときに灯る、覚悟の炎。



「初めて灯したのは…骸と戦った時だ…」

随分ひどい事をしてくれた。
リボーンはまだ許すなといっているけれど、本当はもう良いと思ってるんだ。
忘れてはいけない事だけど、いつまでも根に持っていても仕方ない思う。

だって、もう「昔」の骸じゃない。
骸は「変わり」始めてる。

オレにだって分かるくらい、



「変わり始めているんだから…」



しばし静寂の後、綱吉はよし!と声を上げた。

「まずは雲雀さんと合流しよう。 境石に着いたら、する事有るみたいだし…―――――」



―そ――じょう―――ないで…―



弾かれた様に振り向いた。
再び聞こえて来た声に、綱吉が目を剥いた。

山道の奥。
自分が登って来た、さらに奥。
さっきよりもハッキリ聞こえた。



「この先に…―――いる…」



綱吉は松明を握り直し、更に奥の闇を見つめる。
その暗闇に向き直り、ごくりと唾液を呑み込んだ。

後ろから吹いて来た風に松明が揺らめく。
木の葉もその先に吸い込まれていった。

綱吉はその先を睨む。





腹は、もう決まってる。





「骸…―――今、行くから…」



誓いの言葉を一つに、綱吉が一歩踏み出した。





ぼしゅん。




「え…?」



今まで明るかった辺りが、ふっと暗くなった。
そうなれば綱吉の視線が手に持っているモノへと向かうのは当然だった。

たったひとつの、『光源』なのだから。



「…何で…?」



手に持っていた、松明。
あんなに暖かな光を放っていた炎が、
どんなに振りまわしても燃えさかっていた炎が、



消えていた。



「何で…?」

火の消えた棒に、問いかける。
先程まで点いていた名残か、煙が細く立ち昇っていた。

「さっきまで、あんなに燃えてたのに…」

先端が炭となって、ぼろりと崩れ落ちた。
崩れ落ちた炭が横から吹いてくる風に乗って散っていく。
その様を、綱吉は視線で追っていく。



追っていって、綱吉の視界が『石』を確認した。



大きな目を更に見開いて、綱吉はその『石』を視界に納めて行く。
それは白くて、大きい。
例えて言うなら米みたいだ。



「これって…もしかして…?」



自分がクロームと逃げる時につまずいた石じゃないだろうか。



「もしかして、これが雲雀さんの言ってた『境石』かな?」

その石は上が少し大きく出来ているみたいだが、微妙なバランスを保って立っているようだった。
触ってみても、石の質感である。



そして、ぞわりと空気が変わった。



空気が淀んで歪む。
歯が奥で震える。
森が香りを失い、
増した静けさが耳を打つ。
視界が異物を捉えた。



ついさっきまで自分は間違いなく森の中に居た。
しかし、綱吉の視界は間違い無くありえないモノを視界の端で捉えていた。

ついさっきまで、そんなもの無かった。
自分は動いていない。
動いていないはずなのに。

ゆっくり、ゆっくり、綱吉は顔を上向けた。















眼前に、石の階段があった。



∞∞∞



「綱吉! 沢田綱吉!!」

今まで生きて来たなかで、にこんなに声を張り上げた事などあっただろうか。

女の声がした途端、綱吉は駆け出していた。
どうやら全力疾走だったみたいだが、炎が灯っていない時の走力はたかが知れていた。普段なら追いつけた。



普段なら。

此処が『普通』なら。



「くそっ! やられた!!」

ずっと走っていても、『あの岩』の前に来てしまう。

綱吉に追い付けずに『あの岩』の前に来てしまう。

綱吉を地面に座らせ、椅子代わり座った『あの岩』の前に。



先ある闇をぎんっと睨みつけた。
これまでに無いほどの、怒りと狂気に煌めかせて。



「舐めないでよ…」



雲雀はぽつりと呟くと、右手の親指を口元へ運んだ。
ポケットに手を突っ込んで何かを取り出した。



「『こんな事』で、足留め出来ると思わないでよ…」



口元に持っていた右親指の腹を、



がりっ。



────────咬みちぎった。

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あきゅろす。
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