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セッタン・テンポ学園

「おい!お前達!何をしている!」

駆けつけてきたのは担任のジョットと赤い髪に顔面に刺青を入れた男―――Gだった。理事長代理だ。
ジョットとは小さい頃の仲だと聞いている。
ジョットが腕を赤くした沢田に駆け寄っていった。

「大丈夫か?!綱吉?!」
「うん…大丈夫―――です」

そう答えて、綱吉はにっこり笑った。
横に並んでいると親子みたいだと思う。
顔がそっくりだし…―――と、腸が少し熱くなる。

「保険医の所に連れて行け」

驚いたのか、沢田がこちらを振り向いてきた。同時にジョットもだ。

「ヴェルデの雷撃を少なからず喰らってる―――その腕が良い証拠だろう」

赤くなっている、腕。
ジョットはぎょっとして沢田の腕を引っ張り、顔を青くした。

「綱吉!腕が赤いじゃないか!」
「え…あ、大丈夫だから!」

綱吉は腕を引っ込めて隠す。
するとGがヴェルデを睨むように一瞥する。

「ヴェルデ。お前、また実験しようとしたのか?」

静かに問いかけたGに、ヴェルデはくつくつと笑った。

「大人しく付いて来てくれれば、手荒な真似はしなかった―――彼は実に優秀な実験体だからな」
「…お前っ……」

Gがぎんっとヴェルデを睨みつける。

「私に常識的な理論は聞かせるだけ無駄だ。そんなモノに縛られていては研究は捗らない…―――今もそんな状態でしてね」

再びくつくつ笑うヴェルデ。

「大丈夫だ。犠牲の上に必ず結果を出す―――それぐらい、今の研究には自信があるからな」

くるりと沢田を見やると、ヴェルデはまたニタリと笑った。

「ということで、実験に付き合いたまえ」
「いやです!」
「そう言うな。君は稀な被験体だからな。逃がしはせん」
「それは私からも許可を下すわけにはいかん」

ジョットがそう言って綱吉の赤く腫れた腕を掴み直す。

「人体実験は禁止だ」
「人体実験?誰が体を切り開くと言った?」

ジョットに向かい、ヴェルデは首を傾げた。

「私が欲しいのは彼の使っている『死ぬ気の炎』だ。その炎を提供しろと言っているだけだ」
「それなら、やはり人体実験に変わりない。死ぬ気の炎は生命エネルギーそのもの。それを使いきれば死ぬ」

Gに、ジョットが続ける。

「それに本人が嫌がっているし、無理強いはよくない」
「ならば、沢田綱吉が自ら手伝いたいと言えば良いんだな」

ヴェルデは問いかける。
その自信に満ちた笑みはどこから出てくるのか。
以前問いかけたら『私は研究者だから』と、こちらの納得いくような解答は返ってこなかったのを思い出し、溜息がこぼれた。

「それでも許可はしない。場合によれば研究所は撤収だ」
「構わない。また新しく作るだけだ…そもそも、できないだろう?」

にやりと笑う。
いけ好かない笑み。

「この研究、手放せば今後お前達が不利になるのは確実だ―――そのために引き抜いたんだろう?私を?」

また、くつくつと笑う。
厭味ったらしいったらありゃしない。
しかし、『不利になる』とはどういうことだ。

「おい、ジョット」
「なんだ?」

呼びかけると、ジョットは口元を少し微笑ませる。

「『不利になる』ってのは何だ?」

ぴくり、と笑顔が固まった気がした。

「あぁ。今は死ぬ気の炎を使った兵器を作っているのだ」
「ヴェルデ!その話は…―――」
「お前の息子は興味津津だ。親として答えてやるべきではないか?そもそも…」
「あ、あの!先生!」

沢田が、突然声を張り上げた。
突然すぎて、つい目を向けてしまった。
おどおどとしていたがジョットを見上げた。



「す、すみませんでした…―――」



ぺこり、と頭を下げた。

場の空気が鎮まる。
ジョットは眉間に皺を寄せ、沢田を見下ろした。

「綱吉…お前は何も悪い事はしていないだろう?」
「で、でも…───門限は、破りましたよね…?確か…九時?が帰宅時間…」

む?と自分の腕時計を見つめて、ジョットは顔をしかめた。
短い針が九から少し離れて、長い針が四を差していた。

「反省文だな―――四人共」

Gがそう呟いた。

「四人?」
「これもだ」

首を傾げた沢田に、Gはぽん、とジョットの頭を掴んだ。

「な、何故だ?!」
「経費から私物を買っただろう」
「や、やってない!断じてやっていないぞ!」
「パソコンからデータ引き出せばわかる。手前は百枚だ」
「百っ…?!」

驚いているジョットをよそに、Gはこちらを見て指を差す。

「あー。お前らは一文で良い」
「何故そんなに差がある?!」

ぎょっとしたジョットを無視し、ヴェルデがつまらなさそうに口を開いた。

「そんなものを書くくらいなら研究論文を一行書いている」
「面倒くせぇ。作文用紙のマス目に風穴開けておくわ」
「沢田綱吉もそんな時間は全くないぞ。私の研究室で死ぬ気の炎の提供だ」
「しません」

きっぱりと沢田が答えた。

「全く。なぜそんなに嫌がるのか意味がわからない。この研究の素晴らしさが分からないのか?―――あぁそうか!」

いきなり目を輝かせたかと思うと、ヴェルデは沢田へとまた嫌味気な笑みを向けながら腕を取った。

つーか、くせぇから寄ってくんな。

「この研究の素晴らしさ、データを見ていない奴が分かるはずがない!そうだ君は今日転校してきたばかりだったからな!では、今から研究データを見せてやるからついて来たまえ。そうすれば惜しみなく協力する気になるだろう!」
「放して下さい!絶対行きたくありません!」

沢田は嫌そうに腕をまたぶんぶん振った。しかも、鼻に手を当てている。それに、ジョットとGも鼻を覆った。

「ヴェルデ…お前まさか…―――また風呂に入っていないのか…?」
「三週間だ。それがどうかしたか?」

Gが顔を引きつらせると、ジョットはヴェルデの手を沢田から剥がした。

「そんな不衛生な人間の所に誰が行く気になる?『一般人』との区別をつけろ。興味のない奴が汚らしい奴の所に行くわけないだろ」
「ふむ…人間の心理として一理あるか…」

ヴェルデは顎をさすると、こくりと頷いた。

「仕方ない。では明日、学校にデータを持っていくとしよう。そして、放課後は教室に居ろ。研究室に連れて行ってやる」
「行かないよ!絶対、嫌だから!!」

ヴェルデはまたくつくつ笑いながら、背を向け歩き出した。

「そう言ったところで無駄だ。この研究は素晴らしい。きっと、見れば君も分かるだろう…―――」

少し離れたところで、またこちらを見た。
いや、正確には沢田を見ている。
満面の笑みに滲んでいる自信が、今現在漂っている匂いが、やたらと鼻につく。



「この研究が完成すれば、きっとお前の『願い』を叶えることになるからな…」



沢田の…―――願い?



視線が、沢田へと移る。
ジョットも、Gも。自分でさえ、興味ないが向けてしまった。
沢田も、ヴェルデを見てじっと固まっていた。
その様子を見てまたヴェルデはくつくつと笑った。

「さらばだ沢田綱吉。また明日―――学校で」

白衣が翻って、その後ろに白い兎がぴょんぴょんと跳ねて着いていく。



変な、組み合わせだ。

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あきゅろす。
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