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セッタン・テンポ学園

めらめらと、炎が灯っている。
額の炎ではなく、胸の内側で。
俗に『怒り』という炎が、燃え盛っていた。

「爺ちゃんの学校であんまり物騒なことしないでくれないかな…―――埋めるとか」

それにしても、新たな事実だ。
二つ目の条件が学校の外で効くようになっているとは。

「気を抜くなってかぁ…それじゃあおちおち休めもしないよ」

呟いてカードを見つめる。
学生証のくせに顔写真は張られていない。
多分、二つ目の条件を発揮させるのに使うためだろう。自分の名前と、オレンジ色でおしゃぶりのマークが入ったカードをポケットにしまった。

それから兎に視線を送ってみる。
兎はさっきから微動だにせずそこに座っていた。

「やっぱり…」

綱吉はその兎に歩み寄ると、柘榴色の目に向かって指を突っ込んだ。



かん、と爪と硬いものがぶつかる音がした。



「ロボット…―――電池切れかな?」

それにしても本物みたいだった。最初見たときは本物の兎だと思って追わなかったが、それに違和感を覚えて追いかけたのだ。

生きている、気がしなかった。

案の定、本物の兎ではなく良くできたロボットだった。毛とかは本物だろうが、あとはよく出来ているとしか言いようがなかった。鼻もムフムフ動いていたし、高性能な動物ロボットだった。

「少年」

兎に集中しすぎて誰かが近づいてきていることに気付かなかった。
しかし殺気ではないので振りかえる。
そこには、爆発頭と無造作ヘアーを足して二で割ったような緑色の髪の男がいた。
白衣を纏っていて、パンツのポケットに手を突っ込んでいた。丸い眼鏡が、いかにも頭脳明晰のような印象を与える男だった。

「このロボット…もしかして貴方が?」
「やはり、見抜いていたか少年…―――いや、沢田綱吉と言うべきだろう」

綱吉は左胸に付けられているおしゃぶり型のピンに目を留める。

「貴方…も、アルコバレーノクラスですか…?」
「あぁ。一応あのクラスに属しているが―――今日、私は学校に居なかったはず…」
「ピン、付きっぱなしですよ?」

ん?と顔を下ろすと、柔らかい緑色の胸に映えるオレンジ色のピン。

「おや、外し忘れていたか。三週間も同じ服を着ているからな…」
「え…」
「そういえば、風呂にも入っていなかったか―――三週間ぐらい」

今、物凄く、ハイパーダッシュで逃げだしたいと思った。

気のせいだと信じよう、何だか匂うのは気のせいだと信じよう。

「しかし少年。君はその兎を一度無視したにもかかわらず、あまつ不思議の世界に連れてってくれないかと呟いたのに何故追いかけなおしたのかな?」
「え?!」

自分で呟いたメルヘンな台詞に顔が真っ赤になった。
しかし目の前の男は特に気にする風でも無くじっとこちらを見てきた。

「私のこの兎ロボ試作品u−825は、今までの中で最高傑作だ。私でも本物の兎とu―825を見分けられないくらいに。それを―――何故見敗れたのかと聞いている」
「え…えっと…―――確かに、最初見たときは兎かと思ったけど…勘?ですかね?」
「勘…―――そんな非科学的な…」

男は呆れたように呟いた。

「私の最高傑作がたかだかその程度の理由で見破られては改良のしようがないではないか。正直に答えたまえ、沢田君。何処が兎らしくなかったのかな?」
「す、すみません!本当に勘なんです!たまたまなんです!何となくだったんです!だって、さっきも言ったじゃないですか!最初は兎だと思った―――ってぇ!」

いきなり兎がびみょーんと腕の中で飛び跳ねると、男の元へと駆け寄って行った。足元に来た兎ロボを、男は拾い上げる。

「まぁそれは置いておいても良いか。私は個人的、私欲を満たすために君に興味があるんだよ。沢田綱吉君」
「え…は?何ででしょう…か…?」

「先程の『死ぬ気の炎』―――」

ぴたり、と身体が動きを止めた。
石のように、身体が動かない。
今の単語に、ただ恐れを感じているのだ。

「なん…で―――」
「あぁ。実は今、その炎を使った兵器の研究をしているのだ。兎ロボはその一環だ。ついでに言うと、行き詰ったときの息抜きだ。兎ロボットを介して、君の戦闘を見させてもらった」

そう言うと、男はトコトコと歩み寄って来る。
逃げ出したいのに、身体が動かない。
臭くて逃げ出したいはずなのに、身体が固まっている。

臭いのに!

「是非、君の炎が欲しいのだよ。ちょうどサンプルがなくて困っていたのだ。自分の炎以外に何かないかと探していたが、まさかこんな所で違う炎!しかも大空属性の炎に会えるとは!私は実に運が良い!やはり、この研究には間違いはないのだ!これが導きだ!」

すると、腕をグイッと引っ張ってきた。細い腕で凄い力だ。

「いたっ!放してくださいっ!」
「さぁ、早速だが私の研究室に来てもらおう」
「い、嫌です!これからおじ…―――待ち合わせてる人がいるんです!」
「気にするな!それに急がねば教師が来てしまう」

気にするなって何だ!こっちの事情は完璧に無視する気か!
本当に私欲に生きてる奴だ!

「いえ!先生には来てほしいです!放して下さい!へ、変な人がぁ〜!!」
「失礼な。私の名前はヴェルデだ。変な人ではなく研究者だ。これから間違えんように」
「いやいやいや!それオレが助手みたいな言い方じゃないですか?!」
「助手?君は助手と言うより『被験体』だ」
「モルモット〜ぉ?!」

綱吉は腕を思いっきり引っ張りながらヴェルデとか言う奴を睨みつけた。

「嫌だ!実験体になんかなるもんかっ!」

しかし綱吉に睨まれていたヴェルデは、静かに綱吉を見下ろした。



「おい。うるせぇぞ」



ぱぁあん、と銃声が響いた。かと思うと、ヴェルデの横を掠めて奥に消えていった。
その声に綱吉は静かに振り向いた。
今日、少ししか会話しなかったけど、しっかり覚えている。



「…リボーン……」



黒いパンツに…無駄に胸元がはだけている。振りかえったのは良いけど目のやり場に困って下を見つめた。

「私の邪魔をしないでくれるか?これから研究が忙しくなるのだから。被験体も見つけたしな」
「完全に実験体扱いか!ふざけんなぁあっ!」

ぶんぶん振ると、今までビクともしなかった腕が離れてヴェルデの拘束から逃れることができた。そのままリボーンに一度突撃して後ろに隠れる。

「おい。誰が盾になるなんて言った」
「盾扱いなんかしてない!隠れてるだけだもん!」
「餓鬼は嫌いだ。黙ってろ」

釘を刺されて、うっと黙りこむ。
餓鬼なのは…自覚している。
ちょっぴり悔しいと思うが、今はヴェルデから離れるのが優先だった。

「その後ろに隠れているの―――お前の友人だったのか。転入生と仲良くなるとは───いや、人と馴れ合っているとは珍しいな」
「なった覚えは無い。つーか動きにくいからこいつマジ持っていけ」
「お持ち帰り?!嫌だよ、実験体なんて!!助けて下さい!!」
「他人なんか助けるか。自分の身ぐらい自分で守れ」

見下ろしてくる目は鋭くて───身体が冷えきった。

『関わって来るな』。

そう、言いたげだった。

「そうだ沢田。自分の身ぐらい守れる強さは持っているだろう。死ぬ気の炎も使えるし、ついさっき野蛮な輩を排除していたしな」
「あ、あれは!説得しても駄目みたいだったから!」
「当たり前だ。あのような輩に説得こそ時間の無駄だ。私の被験体になっている方が時間を有意義に使える」
「お前がだろ!お・ま・え・がっ!!」
「いいや、私の被験体と言われる事は実に名誉なことだ!」

そう言いながら歩み寄って来る。
匂って来た、と思うとリボーンも顔をしかめて銃を構えた。

「お前…また風呂入ってねぇのか?くせぇ」
「三週間な。実験に忙しかったのだ―――というか、その銃は何だ?私を撃つつもりか?」
「とりあえず、それ以上近寄るようなら撃つ。手前のそのにおいが駄目だ、吐き気する」
「そこら辺で吐いて構わんよ。興味があるのは君ではなく、その後ろの沢田綱吉だ。邪魔者はさっさと退場してくれれば良い。その場でもデリカシーを持って草むらの陰でも吐しゃ物を巻き散らしておくといい」

視線だけで、またリボーンがこちらを見下ろしてきた。
さっきは冷めていたが、今度は憐みが混じっているように見えた。

「しかし、邪魔するようなら、私も黙ってはいないがね―――」

次の瞬間、ヴェルデの手元でばちっ、と電撃がはぜた。



「邪魔をするなら、無理やりにでも連れていく」



そして、その一瞬。
嫌な予感がして覚醒する。
炎を額から灯して、燻らせる。
リボーンの前に躍り出ると、掌から炎を放って壁を作り上げた。

「ほぉう…」

面白い、と言いたげに口元が笑んだ。



ばちばち。



ヴェルデを、雷が包む。
いや雷の性質をもった炎が球体となって激しく吹き荒れる。彼の白衣がバタバタと揺れる。

そして、さらに顔をニタリと笑わせた。



どかんっ。




電撃の、大砲。
雷が、落ちた時のような音。
ヴェルデから、大きく丸くなった電撃が発射されて、作った炎の壁に直撃する。
耳元で電撃の爆ぜる音がした。

こいつ…強い…―――!

そして、徐々に炎の壁から電撃が突き破り始めていた。オレンジの中から、バチバチと緑の電撃がうごめく。

まだ、弱いのか?!

炎の出力を上げる。
突き破っていた電撃の炎が次第に消えていき―――ばしゅん、と音を立てて飛び散った。

炎の壁が、消え失せる。

腕が、びりびりする。
痺れて痛い。

「…死ぬ気の…炎―――」

リボーンが、ぽつりと呟いた。

「そうだ!その炎だよ、沢田綱吉!」

実に楽しそうに、ヴェルデが笑ってきた。

「やはり君は何としても連れ帰る!」
「ペットにはならない。それに―――『もう良い』」

そう呟いて、炎を掻き消す。
するとヴェルデの更に後ろから、二つの声。
振り向きながら、ヴェルデはちっ、と舌打ちをした。

「煩いハエを処理させるのに呼んだのが失敗だったか…―――来てしまった」

ヴェルデは後ろからやって来る先生達を睨みつけて、そう呟いた。

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