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セッタン・テンポ学園

綱吉は澄んだ空気を思いっきり吸い込んだ。
耳を澄ませば木々が風に揺られてかさかさと音を立てた。
突然熊が出てきたりしなければ、森の散歩とかは好きだ。
と言うより―――。

「人のいない、場所が好き…―――」

そう呟いて、空を見上げた。
山の中のお陰で、本当に空が奇麗だった。
こんなに星が瞬いているのを見たのは初めてかもしれない。
星の海、だ。夜空に星が散らばっていて、星座がどれとかよく分からない。

「…奇麗―――」

がさ、っと草むらが揺れた。
びくりと身体が震えて、身を縮込ませる。
そろりと見ていると、またガサガサと草むらが揺れて―――真っ白いウサギが出てきた。
瞳が柘榴見たいに赤い。
耳をぴくぴくと立てて、こちらを見てきた。
そして、颯爽と駆けていく。

「…これで追いかけたら、不思議の世界にでも連れて行ってくれるのかな…」

なんて馬鹿なことを考えた。
そんなわけない。それに、逃げないって決めたじゃないか。

「決めたじゃないか…―――」

ぽつりと呟いて、また星空を見上げた。
すると緩いカーブを描いて、星が一閃した。

流れ星、だ。

見つめて、目を細める。



「あんな風に、消えれないかな…―――」



と呟いて、辺りを見回した。
人の気配を感じる。
しかも、知ってる人の気配だ。
アルコバレーノクラスにいた、あの人。

森の奥、じっと動かない。

「ん?」

自分の背後、多分学校の寮の方角から、人の気配がこちらに歩み寄ってきている。

「あれ?そう言えば…―――」

綱吉はウサギが走って消えた森の向こうへと顔を向けた。



○○○



「おい!走れ!」

学生が数人。武器を保持して森の中を駆けていた。

「間違いないんだろうな?!アルコバレーノの転入生が森に入って行ったって言うのは?!」
「えぇ、間違いないです!あのチビさに茶色のボンバーヘアー。間違いねぇッす!」

いかつい顔した生徒に答えたひょろ長い生徒。
するといかつい顔の生徒がにやりと笑った。

「あの餓鬼埋めて、カード奪いとりゃあオレもアルコバレーノ入りって訳だな!」
「そうっす!今晩も奴、森の中に入って行きやしたし、今日は二枚分奪えますよ!」
「そうだなぁ!あっはっはっはっは!」
「そうらしいですよね」

と、後ろから高い声がした。
振りかえると、そこに目的の人物―――確かツナヨシとか言う童顔野郎だった。
白いウサギを抱き上げている。瞳の赤い奴だ。

「おぉ。お前からわざわざ出迎えてくれたってのか!助からぁ!」
「出来れば、穏便に済ませたくて。諦めて下さいませんか?」

ツナヨシはにっこりと笑ってふざけた事を言ってきた。

「ふざけんじゃねぇ!てめぇらムカつくんだよ!」
「オレは…何もしてないはずなんですけど―――」
「存在がだ、存在が!」

愛用の斧を肩に担ぎ、目の前にいる餓鬼へと見せつける。

「優秀だとかそんな理由でちやほやされて、付けあがってんじゃねぇぞ!」
「オレは…―――自分が優秀だと思ったことは無いんだけど…」
「はっ!嫌味かそれは?!」
「いえ、以前いた学校では『ダメツナ』って言われてましたから」

そう言って、抱いていた兎を放した。
しかし兎はツナヨシを見上げてからぽてぽてと少し離れた所で立ち止まった。

「はぁ?!だせぇあだ名だな!それで、そのダメツナ君はわざわざ俺様にやられに来たってのか!そのあだ名からするに、相当駄目な奴だったんだろぉなぁ!」
「えぇ…―――歩けば排水溝に足を踏み外すし、縫物とかしてると自分の服と縫い付けてたり」
「駄目すぎるじゃねぇか!そんな奴なら、楽勝だなぁ!」

肩に担いでいた斧を振りおろす。
横にいる子分はナイフを握っている。

「あの、駄目なオレの質問、聞いてくれますか?」

自分で優秀じゃないと認めている辺り、こいつはそこら辺のアルコバレーノと違って自分の立場を良く分かっているようだ。

「なんだぁ?冥途の土産に教えてやる!」
「あぁ、ありがとうございます」

また二コリと笑った表情。今更思ったが童顔どころではなく、女顔のようだ。
情けない、こんなのがアルコバレーノだとは。
しかし次はこのオレが入るから、舐められたりはしなくなるだろう。優越感に浸っていると、じゃあ、とダメツナは口を開いた。

「今って放課後じゃないですよね?寮内部で戦闘は禁止だから、わざわざ外に来て…襲いに来たんですか?」
「はっはぁー!本当にお前はダメツナだな!名前が良く似合ってる!まんまだ!」

びしり、と指を差して愚かなアルコバレーノクラスに進言してやる。

「放課後は確かに六時までだぁ!しかし、その間に寮に逃げられれば終わり。しかしなぁ、『カードの管理』の条件があるだろぉ?」

ダメツナは首を傾げなおすと、ポケットからそのカードを取りだした。

「そう、それだ!それは本人が『失くしたりなどの理由で所持者じゃない人間の手に渡ったらアウト』っていうのがあるだろぉ!」
「あ。そうか。誰かの手に渡っても駄目なんだよな―――ってことは?そうか。一つ目の条件は学校内でしか効かなくて、二つ目の条件は学校外で効くんだ」
「その通りだ!よくできたな、ダメツナぁ!」
「ってことは、本当はウカウカ外に出歩いちゃ駄目なんだ」

案外理解力のある餓鬼だ。

「それで、その斧とかナイフとかは?」
「あぁん?そりゃてめぇ。カード奪いとるのに使うんだよ!この森はなぁ―――よく行方不明者が出るんだよ!年間に百人ぐらいよぉ!もしかしたらそれ以上かもしれねぇ!」

すると、ダメツナはまた納得したようにぽん、と手を打った。

「あぁ。土に埋めて行方不明者にして―――カードを奪いとるんだ?」
「あぁ、その通りだ!」
「そっか」

ダメツナはそう呟いて取りだしたカードをマジマジと見やる。

「しかしなぁ。お前みたいに物分かりの良い奴を殺すほどオレは悪魔じゃねぇよ?そのカード、渡してくれりゃあ命は助けてやっても良い!」
「う〜ん…それは…嫌かな…」
「ほぉう?オレに逆らおうってのか?」

すると綱吉は頭をポリポリと掻いた後、ポケットから指輪と27と編まれた手袋を取りだした。

「いえ。せっかく出来た友達…―――知り合いから離れるのは嫌だな、と思ったんだ」

そう喋りながら、指輪を指にはめ、その上に手袋を嵌める。
そして、こちらに向き直った。

途端、額から炎が燃えだした。

「あ?」

その瞬間、ダメツナは消えていた。

「な?!何処に
      消
       え

       た
            。





瞬間、世界がブラックアウトした。

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