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セッタン・テンポ学園
転校初日の夜
アルコバレーノ…とは言わず、特待生クラスはそこにいるのは特に厳しくありながら優遇されているクラスだということが判明した。特待生クラスで卒業できると、仕事先とかも優遇してくれるらしい。
その代わり課せられるルールは厳しい。まずは昼休み、放課後限定で武器所持の戦闘が認められている、という点だ。特待生クラスが明らかな敗北を認めないなら訴えられない程度にボコボコにして動けなくすればいい、と風が爽やかに言っていた。それで何人かはのし上がっていて、居座り続けている人もいるらしい。

「ちょっと…なんでこんな物騒な所に転入させるんだよぉっ!お爺ちゃんっ!!」

綱吉は提供された寮のベッドで喚いた。
そして、辺りを見回して盛大な溜息をついた。

「…広い……」

ぽつりと呟いて、綱吉はまたベッドに顔を突っ込んだ。
本来此処は二人部屋らしく、簡単に言うと2LDKだ。その内の部屋に、綱吉はその内一人では無駄に広い居間から逃げるようにも籠ったつもりだったが、残念ながらワンルームの方も広がった。実家は、二回転がれば必ず何かにぶつかった。しかし、此処は五回転、十回転しても壁に激突しそうにしない。ゴミを放り投げても三カ月は汚なくなりそうになかった。

広い。

無駄に。

無駄に広い。

綱吉は意味なく開いている空間をぼーっと見やってから、また風の言っていたことを思い返した。

それから、『カード』。基本は学生証と部屋のカギを兼ねているカードなのだが、それを奪われたりしてもアウトだという。失くしても、盗まれても、勝負の賭けでも。とりあえず、誰かの手に渡った時点で駄目らしい。失くした時は先生の手に渡ることを願うしかないとか。

「何でそんなサバイバルな環境に置かれなきゃいけないんだ!」

ばたばたと暴れてみるが、質の良いベッドは無情にもそれを受け止めてくれた。
う〜っと呻きながら、携帯を引っ掴んでとりあえず文句だ、と綱吉は電話帳からお爺ちゃんへと繋いだ。

電子音が響く。
電子音が何度も携帯の主を呼ぶ。
まだ忙しいんだろうか、と思った時だった。

もしもし!と焦った声で携帯の主が出た。

「爺ちゃん!こんな学校だなんて聞いてないよぉっ!!」
≪そう怒るな、綱吉!≫

とても嬉しそうな声がする。
確かに爺ちゃんのことは好きだし、爺ちゃんも自分の事を猫っ可愛がりしているのは知っている。
多分、イタリアの人はみんなこんなテンションなのだ、と思う。コロネロとか、スカルを見ていてそう思った。

それは、きっと『責任』からなのだろうけれど。

≪一日目はどうだった?≫
「爺ちゃんがいる学校だから…まぁ、何か嫌な予感はしていたけど…こんな物騒な学校だなんて一切聞いてないよ!部屋広いし!」
≪そう言うな。部屋が広いのは良いことだ≫

最後はどうでも良い文句だが、それに対してしか返されなかった。

≪それに、お前も『こういう学校』の方がのびのび出来ると思ったのだ≫
「無理だよ!怖くて寧ろ肩身が狭い!!」
≪しかし、アルコバレーノクラスは良い奴がいっぱい居るだろう?≫
「そりゃ…そうだけど…」

呟いて、頭の中で連想する。
風やコロネロ、スカル。みんな親しくしてくれて、優しくて凄く助かる。しかも日本語で話しかけてくれるから本当に助かる。授業で外国語を習うのに選択科目があるのだが、イタリア語の勉強を三人から教えてくれるという約束を取り付けてきた。今住んでいる国の言葉を、早く覚えるに越したことはない。
物騒な昼休みはスカルに任せて外に出ず、イタリア語の勉強をしようと決めた。

「お爺ちゃんの言っていた人、この学校にいたんだね」
≪あぁ。良い奴だろう?≫
「う〜ん…良く分からない…かな。でも、悪い人ではないよね」
≪当たり前だ。あいつは…強い奴だ…―――≫

爺ちゃんの声が、少し暗くなった。

≪綱吉…改めて聞くが、この学校ではやっていけそうか…?≫

心配そうに、声が揺らいでいる。

綱吉はベッドの上に体育座りをして、壁をもたれかかる。

「多分…大丈夫だよ。でも、オレはあっちでも大丈夫だったよ?」
≪しかし、それではお前が息苦しいだけだろう?≫
「仕方ないよ。だって…―――そういう、境遇なんだから…」

電話の向こう、自分の名前を申し訳なさそうに呼んだ。

「大丈夫だよ爺ちゃん。アルコバレーノに放り込んだのは、強くなって―――オレらしく居て欲しいからでしょ?」

電話の向こうのお爺ちゃんが、静かになった。
きっと自分の事を責めてるんだろう。
なら、責めさせておこう。此処で…―――お爺ちゃんの所為じゃないと言っても、余計に苦しめるだけだ。

苦しんでる人に、慰めの言葉を贈るのは返って相手を苦しめる。

自分は、それを良く知っているつもりだ。

「でも、自分らしく振る舞えるかはオレ次第だからね?だって、あっちで我慢してたから今日だって癖出ちゃったよ」

あはは、と本当におかしな気分になる。

「アルコバレーノの人達は凄いよね。すごく強いし…風さんには心読まれてるのかって思うぐらいズバズバ当てられちゃったし!」
≪風…か。あいつはアルコバレーノの中でもおっとりしてるように見えるが、人間観察に長けているからな≫
「そうなんだ!―――そうだよ、そう!聞いてよ!いきなり風さんったら、『女顔ですね?』なんて言ってくるんだよ!母さん似だって言われちゃった…!」

と話を逸らして、今度は自分の気分が沈む。

「爺ちゃん…オレ、女顔ぉ…?」

う〜ん、と考えているのか唸っていたが、うん、と呟く。



≪お前は、奈々さんに似て可愛いからな。女顔だ≫



はっきりと言われ、携帯がぽろりと手から滑り落ちた。

お〜い、と爺ちゃんの呼び声がする。
しかし、さっきの台詞で容易に想像できてしまった。と言うか、確実である。
爺ちゃんは間違いなく満面の笑みを浮かべてああ答えたに違いない。
電話を掛けたのは綱吉だが、切ってやりたい気分になった。

≪綱吉、そう凹むな。可愛いと言われても、男なら堂々としていろ。お前は可愛いが格好良くもあるのだからな!カッコカワイイと言う奴だ!≫

私の孫だしな!とまた笑ってきた。
本当に今すぐ通話ボタンを思いっきり押してやりたい。
綱吉は携帯電話を耳に当てなおしてぽつりと呟く。

「結構傷ついた…」
≪なっ?!すまん!すまんかった!お前は格好良いから大丈夫だぞ!≫

電話の向こうでわたわたしているのが容易に想像できる。
口元が、自然と綻んだ。

「ありがとう、爺ちゃん。心配してくれて」
≪綱吉。私は何もできていないぞ…?≫
「ううん。ありがとう…この学校は怖いけど―――感謝してる」

怖いけど、この学校に来れてよかった。
それは本当に思っている。

「いきなり、ごめんね?電話なんかして」
≪そんなことは無い!書類を片づけたら一応学校の感想を聞こうと思っていたんだ!≫
「『物騒』」
≪すまん…≫

絶対しゅんとなってるな、と思いつつ、綱吉はクスクスと笑った。

「でも少しは自分らしく振る舞えそうだよ。でも、怪我するのも怪我されるのも嫌だから、そうするかはオレ次第だけど」
≪本当に…すまないな…≫
「また謝るんだね?仕方ないよ」

そう、割り切ると決めたんだ。



「オレ、爺ちゃんの孫なんだから」



この際、孫に生まれた事を何度も責めてやろう。
でもそれは別に嫌なことじゃない。

「オレ、爺ちゃんの孫で良かったよ。優しいし、強いしね」
≪綱吉…≫

沈んだ声がまた耳朶を打つ。
それでもその向こうでは、嬉しそうに綻んでいる。

≪私も、お前のようなのが孫で良かった―――私は幸せ者だ≫

ぎし、と椅子の軋む音。
背もたれのある椅子により掛ったのだろう。だとしたら、多分まだ仕事中なのかもしれない。

≪暖かい仲間に囲まれて、立派な息子を持って、優しい孫に慰められて…―――本当に幸せだ≫

慰めてるの、分かってたんだ。

「爺ちゃん。その優しい孫からお願いがあるんだけど!」
≪何だ?ゲームは買ってやらんぞ?≫

くつくつと笑う声がする。まぁ、だいたいそういうお願いばかりするから読まれたんだろう。

が、それをするよりも根本的な問題だ。



「あのさ。今オレが使ってる寮、テレビ無いんだけど」



お?と電話の向こうで間抜けな声がした。
そして、あ、と呟いた。

≪すまん!すっかり買ってやるのを忘れていた!≫

焦燥の滲んだ声がする。

「タンスとかキッチンとかは付いてたけど、テレビないんだよね。せめてコンポ欲しい。音楽聞ける奴」
≪あ、あぁ!分かった!―――おい!勝手に入って来るな!今私は孫と電話中だ!!≫

親馬鹿みたいだ。

=何?!会計が合わない?!―――くそ!またあいつか!!勝手に経費から使いよって!!=

自分の口元がにやにやと笑えてくる。
多分、一番楽しいのは爺ちゃんの焦ってる時の反応だろう。
あいつ、ということは経費を無断で使用する常習犯がいるのだろう。首にされていないということは…―――彼が言った『暖かい仲間』の誰かさんだ。

=修理費?何のだ?―――はぁ?!寮内部で戦闘は禁止しているはずだろう?!―――またボンゴレの問題児共かっ!!=

誰だろう、ボンゴレの問題児って。
多分、ボンゴレだから中等部なのだろうけど…。

≪す、すまん綱吉!≫
「大変そうだね、それじゃあ今日は切るよ?」
≪あぁ!後でテレビを持ってこさせるから!ついでに私も行く!≫
「うん、分かった。じゃあ十時までには来てね。十時には寝ちゃうから」
≪分かった!善処する!≫

じゃあな!と一言でぶつりと切られた。
携帯をベッドに放り投げて、外を見やる。

「…暇…だ―――テレビないし」

呟いて、綱吉は窓を開け放つ。
寮の招集時間は九時。
今は、まだ七時半。

「散歩にでも行こうかな」

寮の周りを探索するのも良いだろう。
特待生にふっかかるのは昼休みと放課後だけだと聞いている。
もう放課後なんて時間帯じゃないし。
綱吉はそう考えて夜の森へと出かけることに決める。一応何かあった時に携帯と、確か森の中は熊が出ると聞いているので、武器も持っていこう。

奇麗な満月が満点の空の中で輝く。

綱吉は私服に服を着替えなおして、爺ちゃんから貰ったリングと手編みの手袋を嵌めて、森に浄化された空気を吸いに綱吉は部屋を飛び出して行った。

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あきゅろす。
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