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セッタン・テンポ学園
パシリ登場
「風!てめぇ、置いて行きやがって!コラ!」

授業が終わって、コロネロが風に文句を垂れる。
風は苦笑しながら、すみません、と謝った。

「ですが、喧嘩始める貴方達がいけないんですよ?授業前なのに…」
「元の原因はお前だろーが!コラ!」
「そうでしたか?」
「わぁああ?!落ち着いてくださいっ!」

綱吉が止めに入ると、コロネロはすぐにこっちを向いてにっこり笑ってきた。

「それにしても、お前風に追いつけたんだな?」
「え?あ、最初の方は…」
「そんなにゆっくり走ってたのか?」
「いいえ?本気の二分の一ぐらいです」

さらっと答えた風に、コロネロと横にいたリボーンが目を剥いた。

「い、いや!確かにそうじゃないと間に合わないだろーけど…え?!」

コロネロは綱吉の身体をぽしぽしと押す。

「あの?え?何かありました?!」
「いや、オレでも風の二分の一は着いて行けねぇからな…コラ」
「オレはギリギリいけるけどな」
「うっせぇな!コラ!」

口を挟んだリボーンに食いついて行くコロネロに、リボーンはすぐに顔を逸らした。

「こいつはなぁ!アルコバレーノでもスポーツがトップなんだぞ、コラ!」
「えぇ?!そうだったんですか?!」

これは初耳だった。
綱吉は風に視線を送ると、彼はまたにっこり笑ってはい、と答えた。

「そうみたいなんです」
「みたいじゃねぇ!そうなんだよ!コラ!」

自分の実力に対して関心がないのか、風は突っかかってきたコロネロには首を傾げた。

うわぁあぁあぁ…。
何か、凄い人と仲良くなっちゃったなぁっ!

「だせーなぁ、お前らぁっ!授業を遅れてくるなんてなぁ!」

突然声をかけられた。というか、わーっはっはは!と笑われた。
視線を移してみれば、目の前に紫頭の無造作ヘアーの青年。ピアスが口とかいろいろな所についていて、紫色のアイメイクが塗られている。右目にはそのアイメイクで紫色の涙が頬を伝っていた。
彼は腕を組んで仁王立ちしていて、こちらを嘲り笑ってきた。


「えっと…貴方は…」
「あぁ、さっきのどんくさい転入生か!」

と自分を指さしてきた。

「俺様はスカルってんだ!」
「あぁ。よろしくお願いします」

手を差し出したが握ってくれる様子は無く、顔を逸らした。

「誰がてめぇみたいなどんくさい奴と仲良くしてやるかって―――んご!」

此処まで明らかな嫌がられ方のは初めてだったが、いきなりスカルと名乗った少年の頭に二つの蹴りが飛んできた。しかも、前と後ろから完全に同時に。どうやら、先を歩いていたリボーンが彼の後ろから、風と一緒に話していたコロネロが真正面から蹴りを同時に放ったらしい。
動きを完全に止めてから、スカルは廊下に突っ伏した。

「あー…今何か蹴った」

ぽつりと呟いてさっそく何でもないように背を向けたリボーン。

「オレは虫だったぞ、コラ」
「思い出した、ゴミだ」

二人共いきなり酷ぇええっ!

いきなり頭を蹴られたスカルに憐みを感じながら見下ろす。思いっきり蹴られたと思うのだが、彼は、いててて、と顔と頭抑える。
綱吉は慌てて駆け寄ると傍で膝を着いた。

「き、君、大丈夫?!」
「うるさい!お前に情けなんて、掛けられてたまるか!」
「おや?何を言っているんですか?スカル」

そう言って、風は彼を見下ろすように真正面に立っていた。
すぐ近くにいたのに、気付かなかった。

「貴方を心配してくれたのですよ?―――先ほどから失礼極まりないです」

そう言うと、スカルはぶるりと身体を震わせると、綱吉に向って正座をする。あれ?と首を傾げていると土下座をしてきたではないか。

「す、すみませんでした!」
「え?!あれ?!いや!あれ?!オレ、なんか悪いことされた?!」
「そうですね。人として無礼なことを働かれたのは事実ですよ」

上からそう声を掛けられて、綱吉は唖然とする。
さっきの情けという奴のことだろうか。

「そ!そんな気にしなくて良いよ!」
「どんくさいとか言って、すみませんでした!」
「あれ?!それもなんだ!良いから顔あげてよ!」

そう言うと、ちょっと涙で瞳が潤んでいるスカルの表情が見えた。
なんだか、こっちが悪いことをしたみたいな気がしてくる。

「気にしないで!前の学校でもよく言われてたから気にしてないよ。あと…一応保健室行かない?頭に蹴りくらって、脳震盪起こしてたりとかしたら大変だし…」

すると、何故か先ほどより瞳が潤んだ。
あれ?不味いこと言った?!と驚いていると、両手に作った握り拳を膝に乗せた。

「お前、実は良い奴なんだな…」
「実は?!いや、よくわかんないけど…何でまた…」

ずび、と鼻を啜る音がし始めたので、ポケットに常備してあるハンカチとティッシュを渡した。すると彼はハンカチで涙をぬぐい取ると―――それで鼻をかんだ。

そう言えば、異国ではティッシュではなくハンカチで鼻をかむんだっけなんて考えているとそれをぶっきらぼうに返してきた。

せめて、水で洗うか何かしてほしい。

「悪いな…リボーンとかコロネロとつるむ奴は、性格が悪い奴ばっかりなんだ」
「あれ?それは風さんも入ってるの?」

とは問いかけないでおく。目の前に、一応本人がいるのだ。

「金にうるさい奴とか、どっかの研究馬鹿とか…乱暴な奴が多くてな…―――人を足蹴にしてパシリとか言ってくるし…」

また、ぐすん、と体が震えた。
つまりだ。多分そんな性質の悪い奴らなんだから自分もそれと同じだろうと解釈されたんだろう。勘違いされてもおかしくないか。
しかし、そういう理由で突っかかって来たなら気にする必要はない。

「あいつらは鬼なんだ!風さんはまだマシだけど、あいつらは!あいつらはぁああっ!」
「えっと、スカル君、落ち着いて!目立つから!」

とりあえず、泣きだした時点でかなり周りからの視線が集中していた。
さらに廊下を叩きだして、完璧である。

「そうですよ、スカル。とりあえず次の教科まで時間はありますが遅刻するのはよくありません。移動しましょう?」

風がそう声をかけると、スカルはまたぐすんと顔を上げてきた。

「おーい!お前ら〜!遅いぞコラ〜!」

と向かいからコロネロが走って来る。
そして、駆け寄って見下ろすと首を奇麗に九十度傾けた。

「あれ?居たのか、スカル?」

人の顔面蹴っておいて言う台詞ではありません、と内側で激しい突っ込みを入れておく。

衝撃を受けた顔からすると、スカルも同じことを思っているに違い無い。

「さ、さっきお前蹴って…―――」
「蹴ったのは虫だったはずだけどな、コラ」
「こらこら、コロネロ。彼に失礼ですよ」
「失礼なもんか。パシリだもんな?」

と首を傾げるコロネロに、スカルは敬礼をする。

「そうです!失礼なんて一つもありませんでした!」



この人、根っからのパシリ体質だ!!



綱吉が驚いている横で、風は首を傾げた。

「おや?さっきはパシリと言われるのが嫌みたいに言っていたと思ったのですが…」
「い、いいえ!そんなことありません!リボーンさんとコロネロさんのパシリを出来てオレは幸せですよ!えぇ幸せです!!」

風さん!それは結果的に彼を追い込んでます!!
気付いて!!

しかし、風はスカルの言葉に納得したのか、そうなんですか、とにっこり笑ってきた。

「幸せなことは、良いことですよね〜」

と、無邪気な笑顔。
ちょっと待って、一番性質悪いの、本当はこの人なんじゃないだろうか!

「良かったですね、コロネロ。君やリボーンと一緒に居るのが幸せだと言ってますよ?」
「お前はどう解釈したらそんな答えが出んだコラ!」

風の額にデコピンを喰らわせる。
風は額を撫でて首を傾げた。



「リボーンにも、ちゃんと聞かせてあげたかったですね」



と綱吉はコロネロの様子に違和感を覚えた。
彼の動作が一瞬だけ、ぴたりと止まったように感じたからだ。

「コロネロ?あんまりぼーっとしてると次の授業に遅れますよ?スカルも、沢田君もです」
「え?あ、はい!」

立ち上がって泣きっ面のスカルに手を差し出す。
驚いたようだったが、次には嬉しそうに手を握ってくれた。それを出来うるだけ力を抜いて握りしめ、立ち上がらせる。

「行こう?スカル君?」
「お、おう!」

少し顔が赤い。
多分泣いてたから顔が少し腫れてきたのかもしれない。
それとも、脳震盪…―――と気付いてこっちの顔が真っ青になる。

「スカル君、やっぱり保健室行こう!顔赤いし、さっき思いっきり蹴られてたから脳震盪起こしてるかも!」
「だ、大丈夫だって!俺様は最強だからな!これぐらい平気だぁ!」
「でも…」
「そ、それよりだなぁ、転入生!」

スカルは綱吉に指を差してきた。

「その、えーっとあれだ!」

わたわた腕を振る姿が、どこかの玩具お連想させる。
そして息を吸い込むと頬を紅潮させて、鼻をまた啜った。

「オレのことは、スカル様でいい!」

ん?此処は普通、呼び捨てで良いと言ってくるシーンではないだろうか。

頭の中でそう考えていると、スカルの頭をコロネロが思いっきり殴った。

「馬鹿か!そこは『パシリ』だろーがコラ!」
「え?!パシリを名前?!」
「駄目ですよコロネロ。そこは呼び捨てにと言うべきでしょう?」

そう!風さんの方がまっとうな意見!

「私のことも、風と呼び捨てで構いません」
「オレもだぜ、コラ!そっちの方がしっくりくるしな!」
「オ、オレもだ!様は…別につけなくても良いぞ!転入生だけ許可してやる!」
「じ、じゃあ、オレも…」

こんなこと言うのは、少し恥ずかしい。
今までちゃんと友達と呼べる人達と一緒にいたことなんてなかったから。

一緒にいることが、怖くてできなかったから。

多分、この学校なら『大丈夫だろう』。



「綱吉とか、ツナでお願いします…」



自分なりににっこり笑ってみる。
しばしの時が経ってから、彼らが茫然としていることに気付いた。

「どうしたんですか?なんか、ぼーっとしてすけど…って、あ」

もしかして、授業中に寝たとき、よだれでも垂らしてたのを思い出して慌てて口元を拭った。

「あ、いや。何でもないぞ!何でもないからな!」
「えぇ。ようやく、ちゃんと笑ってくれたと思ったのです」
「そうだぞ、コラ!ずっとオドオドしてたからな!」

そう言って、コロネロはくるりと背中を向けた。

「やっぱり!風の言うとおり、お前は女顔だぞ!コラ!」
「えぇえ!そこ突っ込むところですか?!」
「敬語も、無しにしましょう?」
「え?」

風に肩を掴まれて、首を傾げる。

「私は素ですが、君は…―――少し無理をしている節が見えますから」
「あ…―――」

図星、を突かれた。
たった数時間、もしかしたらそんなに離してもいないかもしれない。
それなのに、彼は自分が取り繕っている事に気付いたようだった。

此処にいる人は、本当に凄い。

「じゃあ…―――そうするね」

呟いて、また口元が綻ぶ。
本当に、嬉しいと思う。

「行こう?次の授業に!」




『パシリ登場』END

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