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セッタン・テンポ学園
昼休み
綱吉は気だるげに昼食で賑わう購買から出てきた。
目的のモノ…―――百個限定のショートケーキ購入を果たしたのだが、肩をがっくりと落とす。

「つ…疲れたぁ…」
「よく行く気になったもんだぜ、コラ!」

スカルからドルチェの販売時間を教えてもらい、授業が終わると同時にダッシュした。授業道具を彼らに預けて自分は真っ先に購買に向かうと、すでに人がわらわら集まり始めてて、ショートケーキの陳列ケースに向かうまでに時間がかかった。

ドルチェは、日替わりらしい。

毎日違うお菓子が一日百個で販売される。
そしてドルチェは販売が開始されるまで分からないように組み込まれているらしいのだが、マーモンは予め知っていたようだった。

さすがは、情報通と言うところだろう。

そのショートケーキはクリームたっぷりで、大粒の苺がしっかりとクリームの上に座っていた。スポンジの間にも苺がたっぷりと詰め込まれていて、自分が見ても美味しそうだった。

「あいつの所になんて行かないで、オレ達で食わないか?コラ?」
「コロネロ。行きたいと言っているのは綱吉君ですよ?」
「でもな、ツナ。あんな奴の所に行ってもつまんないだけだぞ!コラ!絶対に!」

綱吉はあはは、と静かに笑う。

「それにしても、今日もまた大戦争ですねぇ。購買は」
「今更だが、スカルの野郎一体どうやって買って来てんだ?コラ?」
「そう言えば―――中には…居なかった気がするけどなぁ…」

記憶を探り出し、やはり居ないと確信する。
紫の髪の毛なんてそうそう居るものじゃない。揉みくちゃにされても、小柄な彼は目立つだろう。

「彼の独自のルートが気になりますが…帰りましょうか。長居してお昼休みを潰されたりしたらかないません―――」
「そうだね。イタリア語の勉強したいし…―――」
「おっと。そんな事させる訳ねぇだろ」

突然リボーンに呼び止められ、振り返る。
彼は絆創膏だらけの顔をにやりと笑わせて、緑色の拳銃を握っていた。
多分、レオンが拳銃になっているのだろう。それをこっちに向けてきた。

「え?!何すんの?!」
「首賭けて、殺し合いしようって言ってんだ」
「嫌だよ!そんなのっ!!危ないし、ショートケーキが崩れちゃう!!」

ショートケーキを抱きしめて身を引く。

「あぁ…厄介なのが来ましたねぇ」

ぽつりと呟いた風を余所に、コロネロはにやりと笑うと、一気に殺気だった。

「ツナを相手してぇんなら、まずオレを相手してからにするんだな!コラ!」

コロネロは綱吉の前に躍り出ると、掌に拳をぶつけた。ぱぁん、と小気味いい音がする。

「ちょ!危ないって…―――」
「大丈夫ですよ。彼の死を無駄にしないように逃げましょう」
「死?!死ぬの?!」
「冗談ですよ」

そう言いながら、風は綱吉の背中を押してその場をさっさと離れていく。
喧嘩が始まるということで、たかり始めた野次馬の中に入り込む。見事に野次馬と言う人間のリングが出来上がり、そこにコロネロとリボーンは取り残された。

「ウォーミングアップか。丁度良い」
「舐めてっと頭に風穴開けんぞ、コラ!」

そんな口喧嘩から始まると、次の瞬間には銃声が響きだした。

「ちょっ!あれ、本当に大丈夫ですか?!」
「大丈夫ですよ。あれが彼らですから」

と風は野次馬を抜け出すと、すたすたと先を歩いて行く。
こっちはショートケーキを潰さないように頭に載せて抜け出した。



○○○



「今日は下手に喧嘩に巻き込まれることは無いですね。何と言ったって、リボーンが表舞台に出てきてしまいましたから」
「リボーンって、そんなに凄いんですか…?」
「えぇ。リボーンは凄い強いですよ?彼も綱吉君と同じで、中学から特待生クラスに入って来たんですよ。ジョット先生に連れられて」
「え?」

綱吉が首を傾げていると、風は人差し指を口に当てた。

「どういう経緯かはよく知りません。知っていても、彼はそういう事を明らかにするのを好まないので言いませんが…―――今からでは想像できないでしょうが、結構気さくな方でした」
「き…きさく…―――」

綱吉の表情から察するに、完全に想像できていないようだった。
確かに、それは無理だろう。あの顔で『チャオ。オレ、リボーンってんだ』なんて言っている姿なんて、中学時代の思い出。今なんて、シニカルな笑みを浮かべて相手を相手にしない、クールな所しか出てこない。

「そんな性格だったので、すぐ仲良くなれたんですよ。昔は、色々なことに手を出す方だったんで、球技大会も学園祭も学校対抗の運動会も…進んで参加していたんです―――想像できないでしょう?」

思い出すだけで、少し寂しくなる。

「いつも突拍子も無くてですね…―――去年は暇だと言う理由で射撃の世界大会に出て優勝してました」
「ひ、暇って…それだけ…?!」
「はい。『暇』だったそうです」

そう答えるしかないと思うと苦笑いしか浮かべれなかった。
やってみたいから、とかそんな理由ならまだしも、彼は本当に『暇だ』と言って大会に参加して行ったのだ。しかも学校を無断で欠席して。

「中学時代は、よく襲いかかる敵を打ちのめしたりしていたんです。その中には高等部の方も居て…―――その所為でその時代のアルコバレーノクラスの方々に売られてしまいましてね」

思い出すだけで、楽しくなる。
あの時のリボーンの楽しそうな顔。それに躍起になるコロネロ。ちょっと怖がっていたスカル。その雰囲気が楽しくて、着いて行ってしまった自分。

「喧嘩、見事に勝ってしまって」
「えぇ?―――!と、年上のアルコバレーノクラスの人達を?!」
「はい。私達も参加したんですけど…―――実力も、学力も、全てにおいて彼らに勝ってしまったんですよ」

風は綱吉を見下ろした。
あの傍にいた自分はよく覚えている。
自信満々で挑んでいき、見事に四人で連戦連勝を果たしたのだ。
スポーツはコロネロがして、テストは自分が担当した。チェス勝負をリボーンが…―――ルールもよくは分からないのに受けて立ったのには驚いた。親切なアルコバレーノの人に最初から説明を受けてからや勝負をすれば…―――『何か勝てた』とか。

スカルは、傍で一生懸命応援してくれた。



でもそれは、楽しかった頃の記憶。



「ですが去年の春…―――ある日を境に彼がやたらとやる気を失くしてしまった…―――」
「え…?」



また、来てしまった。



風が、よく吹くこの場所。

辿り着いたのは、教室ではなく中庭だった。
中学時代、コロネロやリボーン、スカルと共に過ごした中庭。
よく喧嘩を売られたけれど、三人で片っ端から返り討ちにしていた。

そう言えば、その時もスカルは後ろで応援してくれていた。



思い出すだけで、胸がじんわりと痛む。



赤レンガの道が佇んでいる白い噴水をぐるりと一周してあり、それを突き破るように四方へと道が伸びていた。噴水のそばにベンチがあるが、風はそこには座らず、道から外れて草むらに映えている大きな木の下に座りこんだ。
こっちにおいで、と綱吉に手招きすると、彼はその横に座り込んできた。

「授業はサボるし、校則は片っ端から破るし…―――不良みたいに…あぁ不良面ですけどね」

はは、とから笑いをした綱吉の反応は心の中に閉まっておくことにする。

「周りに…対抗出来るものが居なくなってしまったんです。モノ覚えが良くて、何か教えれば何でもこなせて―――」

顔を上げた風。その先には、太陽の光を遮断する木の葉の群れ。



「リボーンはあの日、『世界がつまらない』…―――そう、言ってきました…」



一人で、街に降りるようになったかと思うと、何処にも行かなくなって部屋に籠って、数日後の事だった。
それはよく覚えている。
そんなリボーンが不思議になってその後を追ったけれど、何時も途中で見失った。
そして、それが突然ぷっつりと止んだのだ。



「その時です――――彼に、本気で『殺し合い』を挑まれました」



風は片足だけ膝を立てて、そこに腕を載せると顎を置いた。

「…―――教室、一つ吹き飛ばしましたけどね…―――彼を完全停止させて勝ちました」

覚えている。

ボロボロになっても、ただ立ちあがって本気でこちらに拳銃を撃って来た。学校の先生方さえ手に負えないぐらいの、本当の殺し合いだった。
自分も間に入って来る先生方を巻き込まないように入って来るなと忠告した。邪魔だと罵って蹴り飛ばした。

ただ、彼の声が『聞こえていた』から。

それを、ただ聞いてあげるしかできないと思って。

案の定、綱吉の顔は蒼くなっていた。

恐らく…―――寮から見えたあの花火の原因はリボーンと目の前にいる綱吉が原因なのだろう。だとすると、リボーンの顔や反応からして―――――綱吉はリボーンに『勝った』はずである。

ならば自分と『同じ事をした』はずだ。

動けなくなってもおかしくないのに、何度も立ち上がって来た彼を完全に動かなくなるまで。何度でも打ちのめしたはずである。



それが―――辛かった。



「ちょっと、大技叩き込んだんですけど…―――あれで立ち上がってきたら…どうしようかと思いました…―――本当に殺していたかもしれません…」
「え…?!」

殺していたかも、なんて宣言してしまえば誰でもそんな反応を返すだろう。

でも、それは事実だった。

戦っていたのは、確かに自分だった。
なのにずっと奥を見ている。
ボロボロになって、寧ろ当然だと思っているようだった。
何度も死線を潜り抜けているうちに、気付いてしまった。

「分かって、いたんです。少し会話して、何か有ったのだとは…―――でも、聞いても話してくれなくて…―――そこが、彼なんですけど…」



分かってしまったからこそ、深く聞いても良いのか。
それでも聞いてみたけれど、『関係ない』と一蹴された。

そんな、冷たい事言わないで欲しかった。



『死にたい』と願って、殺される相手をわざわざ自分に選出したのならば、せめて教えて欲しかった。



「駄目ですね…―――今朝、綱吉君の部屋で見た彼の顔が…昔みたいに生き生きしてたので…―――つい…」



今朝の顔。
思い出せた、中学の頃の彼。
まだあんな表情が出来るのだと、嬉しかった。

懐かしくて。

「ボロボロだったのは、何となく察せますので聞きません…―――その代わり、質問させて下さい。そして、正直に答えて下さい…―――」

風が吹いて、木の葉の擦れ合う音が沈黙の間を持たせる。
横で、じっとこちらを見てくれている彼に。
耳を傾けてくれる彼に。

リボーンに『何か』を『与えた』彼に。





「彼を今、『どう』思いますか?」





木々がざわめいて擦れ合う。
綱吉の柔らかい髪の毛が揺れた。
しばしの沈黙だった。
でも、その時間はとても長い気がした。



「強くて、突拍子も無くて、戦闘狂ですけど…―――――『良い人』ですよね」



そのまんまの、返事だった。
そして、続けて。

「不器用で面倒臭がり屋だけど、色々な事に気にかけてくれる――――優しい人です」

校舎を吹き抜けて、風が体を撫でた。
チャイムの電子音が、耳を掠める。
野次馬の騒音が、今更になってちゃんと聞こえてきた。
ただ彼は、じっとこちらを見つめてきた。



「だから、リボーンはそんなに心配しなくても大丈夫だと思います」



ごとん、と重く内側を縛っていた鎖が千切れて落ちた気がした。



「大丈夫ですよ。風さん…―――無理して、彼の『枷』になろうとしなくても。彼は、しっかり出来ると思います」



体が、ぴたりと動く事を止めた。
ただじっと、目の前にいる少年へと視線を送った。

「戦い方に加減が無いのは…―――自分の限界まで出したいんだと思います。つまらない世界を、きっと変えたいんだと思います。それは、本当に強くなりたいのかもしれない。戦う事で、何かを忘れたいのかもしれません…―――」
「…忘れる…?」
「あ、それは…例えです…―――きっと、本当に強くなりたいんだと思います…きっと、楽しかった思い出とかじゃないと思います!何か、嫌な思い出とか、そう言うのです!!」

ごめんなさい!と頭を下げてきた綱吉に、漸く身体の硬直が解けた。
それと同時に、身体に広がる開放感があった。



また、本気でリボーンに殺し合いを挑まれて、負けたりしたら…―――リボーンはどうなるのだろうと、思っていた。
リボーンになら、負けてもおかしくないとは思っている。彼に殺されることになっても、自分はそれを許せるだろう。
でも負けることによって余計に生きている事に興味を失ってしまったら。

それが、一番怖かった。

だから何度喧嘩をふっ掛けられても、極力相手にせず、かわせるだけかわし、逃げてきた。
彼よりまだ強い自分がいれば、少しでも生きている気がしてくれれば。

そう、思って…―――ずっと、それが締め付けていた。



木漏れ日を見つめて、大きく息を吐きだした。



これが、『ふっきれた』というのでしょうか…?



すると、ぱぁん、と銃声がまた聞こえてきた。
音がよく聞こえる辺り、結構近くで。
此処から音源の方向を見てみると、Gが居た。どうやらまだリボーンとコロネロの喧嘩が止んでいなかったようだ。

先生が止めに来たという事は。

「お昼休み、終わってしまいましたね」
「えぇ!?昼ご飯食べてないっ!」
「じゃあ、お昼ごはん食べる為にサボりますか」
「そんな事をさらっとっ!!」

くるくる表情が変わる綱吉は、本当に見ていて飽きない。
ポケットから携帯を取り出して、メールを打つ。



久々にみんなで食べたい。



中学時代には居なかったけれど、綱吉と一緒に。
あの頃のようにとはいかないだろうけれど。

コロネロとリボーンにはメールで。多分、スカルは電話すればすぐに出るだろう。

「あぁ。綱吉君、此処で食べますから」
「えぇ!本当に昼食食べる為にサボるんですかぁ?!」
「はい。健康のためにも、一食も抜くのはよくありませんから」

ぴぴぴ、と操作して。
電話帳を開く。
スカルの名前を見つけて、番号が電話を繋ぐ。

「スカル、風です。今からお弁当持って中庭に来て下さい―――サボりについては私が責任持ちますから…―――皆で、お昼ごはん食べましょう?」

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