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セッタン・テンポ学園

「ただの戦闘狂に興味は無い。沢田をこちらに渡せ」
「黙っとけ。とりあえず、てめぇの人体実験に使われるのは気にくわねぇ」
「人体実験ではない。研究だ」
「てめぇの研究は信用なんねぇからな。貸すつもりわねぇ」
「貸すぅ?!」

声を裏返してリボーンに向き直る。

「貸すって何?!オレ、モノですか?!」
「黙っとけ。これは玩具だ」
「玩具ぁああ?!」

オモチャなんてそんな代物になった覚えは無い。それこそ無い。
抗議の一声を上げていると、リボーンががっしりと頭を掴んできた。そして、指先に遠慮なく力を込めてくる。

「痛い痛い痛いっ!」
「うぜぇ。黙っとけっつったろ」

声が低くなって、怒っているのが良く分かる。
体に寒気が走って、綱吉は頭に込められた指に集中することにした。
多分、物凄く怖い顔をしているような予感がした。

「玩具とは…随分な物言いだな。お前の玩具なぞやっていたら、それが壊れる」
―――今、『それ』って!物扱い?!

「手前のモルモット何ざやってたら、命がいくつあっても足りねぇよ。変態ヤロー」
―――リボーンの方がまだ扱いが優しいかな…。

「変態ではない、研究者だ。全く、此処の連中は馬鹿ばかりで困る。この私を変態扱いして―――優秀な人材を引き抜いて何が悪いのだ」
「嫌がってんだろ。つーか、手前の研究室に行く暇があったら、オレがこいつに喧嘩売ってる」
「え?!売られるの?!」
「で、お前は買うんだよ」
「何言い出すんだ、此処の人達はっ!!」

くすくすと笑い声が聞こえたような気がして、リボーンの脇を覗く―――と風が物凄く面白そうに声を殺して笑っていた。

「風さぁん!何処が可笑しいんですかぁ?!」
「いえいえいえ…いやぁ―――くくっ」
「風さぁあん!?」

本当にどこが面白いんだ!内心で喚いていると、風ははいはい、とにっこりと笑みを崩さぬままこちらにやって来た。
笑いすぎているせいか、顔が赤かった。

「お二人共落ち着いて下さい。先程から、貴方達の主張を綱吉君は快く受け入れてくれていませんよ?否定されてばかりではありませんか?」
「関係ない」

ヴェルデとリボーンの声が揃う。

「私の研究には沢田が必要だ」
「要らない暇が潰せるから要るんだよ、こいつが」

ふむ、と風が頷く。それでもその表情は笑顔のまま絶えない。

「私からすると、彼は普通にこの学園生活を送りたいみたいです。貴方達二人に振り回されるのは楽しいかもしれませんが…―――彼は此処に来たばかりです。私も、もう少し彼にはこのクラスにいて欲しいので進言させてもらいます」

にっこりと笑ったまま、中国原産天然爆弾が爆発する。



「貴方達に彼を預けると何が起きるかわからないので諦めて下さい」



途端に二人からの、鋭い殺気が走る。
リボーンなら分かるが、ヴェルデも相当だ。
しかし、それを風は受け流して、笑顔のまま。

「綱吉君も、頭ごなしに否定するよりは彼らを納得させて諦めさせて下さい。私も協力します」
「え?えっと…?」

言っている意味が分からず、首を傾げていると風は言葉を差し向ける。

「まずはヴェルデの研究データを少しでも読んであげて下さい。興味がわかないなら、多分五行で飽きるでしょう。リボーンは私のように極力無視して構いません。何かあればコロネロとスカルが対応してくれます」

寮の奥から、当たり前だ!とはぁ?!の肯定と疑問の二つの返事が聞こえてきた。
それから、風はリボーンの手から綱吉を解放すると、その肩を掴んで押してきた。

「では、朝食でも食べに行きましょうか。今朝は食堂長が腕を振るった和食なんですよ」
「おい待て」

ヴェルデとリボーンの声が揃う。
二人共、完全に風へと殺気を向けている。リボーンは…戦うのが好きみたいだから分かるが、ヴェルデの殺気が痛いのは少し怖いと思う。本当に研究者なんだろうか、と思ってしまう。

「風。私の研究が五行で飽きるとはどういうことだ?」
「オレを無視だと?出来ると思ってんのか…?」

体が竦む。
二人の殺気が、内臓をそこから冷やしてくる。
今まで感じた事のない殺気に、本気で泣きたくなってきた。
立ってるのがやっとになって、つい風の服にしがみつく。風はくすりと笑うと、その頭をぽんと撫でてくれた。

「ほらほら、お二人共。怖がっていますよ?ますます研究論文も、喧嘩を買ってくれる兆しがみえませんねぇ?―――大丈夫ですか?」

風が、見下ろして優しく問いかけてきてくれる。
そんな優しさに、今物凄く胸を打たれた。
冷え切っていた内臓が、じんわりと暖かくなっていく。寧ろ、不意打ちの優しさに涙が出てきた。目頭が、熱くなってどんどん雫が零れてくる。

「えっ?ちょっ…!私、何かしました?!」

頭を撫でていた風が慌ててこちらに向き直ると、中国服の裾で瞳を撫でてくる。

「ご、ごめんなさっ…―――ちょっと…ビックリして……そのっ…ごめんなさいっ…―――」

涙で滲んだ視界。
風の表情は良く見えないけれど、向けるのが恥ずかしくなって俯く。

「あー!お前ら何してんだ〜!!」

バタバタと寮から出て来たスカルが、慌てて綱吉へと駆け寄って来る。
しかもポケットからハンカチを出してきた。見た目より紳士的だった。
その後ろ、コロネロも姿を現してぎょっとし、固まる。

「大丈夫か?綱吉?」
「う…うん…―――大丈夫、だよ…―――」

スカルの問いかけに小さく頷く。ハンカチを借りて、そのまま涙を拭いて…―――さすがに鼻はかまない。啜って我慢することにする。

「ごめん、こんなに人に良くしてもらったのは…―――家族以外で、初めてだったから…」

ごめん、とまた声が詰まる。
暖かくて、優しい人達に囲まれて。

嬉しくて。

「ありがとぅ…―――――」

放たれていた殺気は何時の間にか止んでいて。
コロネロもやって来て見下ろしてくる。
今度は自分の服で涙を拭って、にっこり笑って見せる。

「ごめんね…?朝ご飯、食べに行こう…?」

涙声で問いかける。
コロネロと、スカルと、風は笑い返して頷く。
後ろのリボーンは諦めたように溜息を吐いた。
ヴェルデはつまらなさそうにじっとこっちを見てくるが無視をすることにする。
いつの間にか座り込んでいた体を立たせる綱吉の横で、風はリボーンとヴェルデに向き直る。

「では、二人も一緒に食べに行きましょう?」
「はぁ?!」

リボーンとヴェルデだけでなく、コロネロ、スカルも声を張り上げた。

「何事も仲良くすることは大事ですよ?仲良くなれば研究論文も読んでくれるかもしれないし、喧嘩もしてくれるようになるかもしれませんよ?」
「どういう理屈だ!」

怒鳴って返してきたリボーンに、風は満面の笑みで言い返す。

「私の理屈です」

きっぱりさっぱり言いきると、さぁ、と風は綱吉の背中を押す。

「さぁ、朝食食べに行きましょう」
「待てって!オレも行くぞ!コラ!」
「オレもだっ!!待てぇっ!!」

ずんずん先に行く綱吉と風の後を追うように、コロネロとスカルが続く。

「ったく、馬鹿か…―――」
「待ちたまえ。私を置いて行くな」
「はぁ?!」

リボーンの隣にいたヴェルデも、その後を追うように歩きだした。

「お前が誰かと仲良く朝食…?!」
「研究の協力してくれるようになれば構わん。下らんプライドは必要ない―――」

そして、リボーンを一瞥してにやりと笑った。



「貴様のようにな」



それだけ言うと、ヴェルデは早歩きでその後を追いかける。
足が長いのでどんどん距離を縮めて行った。
朝食に向かう五人の後姿を見つめて、リボーンはこめかみをピクピクと引き攣らせた。

「行きゃあ、良いんだろ行きゃあ…―――くそっ。風の思う壷じゃねぇかっ」

吐き捨てた台詞は空気に霧散して消える。
リボーンも、大股でその後を追いかけた。
壊れたドアを、一度だけ一瞥して。



静かになった寮の廊下。
誰もいないはずなのに、くすっ、と笑う声が微かにした。

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あきゅろす。
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