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セッタン・テンポ学園

「つなよ…―――」
「沢田」
「はい?」

ジョットのセリフを遮って、Gが沢田を呼び掛けた。

「…―――とりあえず、お前は保健室だ。その腕を手当てしてもらえ」
「いえ、これぐらい大丈夫です」



これくらい、だと?



「それより…今日は何だか疲れたので寮に戻って寝ても良いですか?明日も腫れが引かないようなら、自分で保健室に行きますから…」

手が、自然と腰へと回った。

「リボーン。何をするつもりだ」
「これくらいとか言った阿呆の頭をぶち抜こうかと」

すると、沢田の顔が青くなって泣きそうになった。

「これくらいな訳ねぇだろ―――ヴェルデの電撃は『少し触れただけでも象が気絶する』んだぞ。それを『これくらい』か…―――おい、ジョット」

ちゃき、と銃口を沢田に向ける。



「『そいつ』は『何者』だ?」



空気が、張り詰める。
沢田の視線がきょろきょろと動く。
ジョットは、こっちを静かに見つめている。
Gは…―――居ない?

ちゃき、と頭の後ろでハンマーの叩く音がした。



「その銃、下ろせ」



後頭部に銃を当てられて、戦意が喪失していく。

「随分、おっかねぇなぁ…そんなにそいつの正体が知られたくないか?」
「てめぇこそ。何でこの時間まで寮を抜け出してんだ」

突き刺さってる視線。
それが、鋭くなった。



「アルコバレーノを狙う連中を、土にでも埋めてるのか?」



素直に、そう来たか、と思う。

「この森は、迷ったら出てこれねぇ―――『殺りたい』放題だろ?」
「G!やめないか!」

声を張り上げたジョット。
そんなわけない、と訴えているのだろう。

この人は、そういう人だ。

「成程…―――で、年間やたらいる行方不明者は殺されている…なんてこと考えてやがんのか?」

自分でも可笑しくなって、わざとらしく両手を上げる。もちろん、銃は放さずに。

「随分物騒な発想だな。オレをそこらへんの馬鹿とか戦闘狂とかと一緒にしてんのか?つくづく信用されてねぇな」
「じゃあ、何をしていたか答えろ―――沢田もだ」
「え?オレもですか?」
「G?!」
「黙ってろ、阿呆が。手前は甘すぎる」

呻くジョットに、沢田は頬をポリポリと掻いた。

「オレは…夜の散歩です。学園の中を少しでも知っておこうかなと思って…」
「普通、昼間にしないか?」
「昼間はほら。オレ、アルコバレーノクラスですからゆっくり探索もできないと思って…―――まぁ、夜もできないみたいですけど」

あはは、と小さく笑う。
Gは小さく溜息を吐くと、銃で人の頭を小突いてきた。

「で、手前は?」

問いかけられ、舌打ちをしたくなる。

「夜が好きだから」
「理由には半分ぐらいしかならねぇな」

半分も理由になるのか、と突っ込みたくなった。しかし、だからと言って本当の事は言いたくない。

「部屋の中は息が詰まるんだ。森の中にテント張って生活したいぐらい部屋が嫌いでな―――森の中にハンモックあれば最高だと思う」
「ふざけてんのか?」
「ふざけてねぇよ。大真面目だ―――あんたら、この森の中探索したことあるか?」

くるり、と振り返ってGに笑いかける。眉間のしわが、余計に深くなって、目つきが悪くなる。

「それが答えだ…―――部屋が嫌になるくらい、森の中でハンモックで眠りたくなるぐらい素敵な理由だ」
「お前っ…」
「む?あの泉か?」

ジョットがかっくんと首を傾けた。

「…泉…だと?」
「あぁ、泉だ。それも綺麗な」

横目で見ていると、ジョットは真面目な顔で口を開いた。



「きっと、あそこには泉の神様が住んでるんだ」



うん、間違いない。
とか、ファンタジーな発想をその歳で言うな。

ぶつん、とGの血管が切れたような音がした。

「てめぇ…それは、何処だ…?」
「教えん。教えたらサボれなくなる」

真顔で、また馬鹿なことを言いやがった。
Gはリボーンの横をすり抜けると、ジョットに詰め寄ると、その爆発頭をわしりと掴んだ。

「なっ!何をする!放せっ!痛い痛い、抜けるっ!」
「能天気は禿げねぇよ」
「つまりGは禿げるということかっ―――たたたっ!」
「何もかも手前のせいでな」

Gはこちらに怒りで歪んだ表情を見せると、びしりと指を差してきた。

「リボーン。手前は寮まで沢田と帰れ」
「なっ!」
「ヴェルデが沢田と普通クラスの連中のやりとりを動画データを送ってきてな。それでオレ達が探しに来た。帰りも何かがないとは限らないからな。一応二人で帰れ。お前達の実力なら何とでもなるだろ」

命令口調の所為で頭に血が昇る。

「一人で帰れる!」
「あの、オレも一人で帰れます…」

横にいた沢田も控えめに答える。

「あぁん?そんなに一緒に帰るの嫌か?」

すると、Gはにたりと悪どく笑った。



「じゃあ、門限破りの罰として二人で帰れ」



「はぁ?!」

完全にこっちの言い分を無視してGは笑ったままだった。いや、こっちの言い分だからあえて無視してこそ罰になるのか、と改めて考えて発言に失敗したと思った。

「学生証にはGPS付いてるから、仲良く帰れよ」

完璧にやられた。
そもそも、こいつらが森の中にいる自分たちの所に駈けつけられたのかを考えれば分かることだったはずだ。
ちっ、と舌打ちをして、ジョットの髪を引っ張るGを睨めつける。
それを鼻で笑い飛ばし、じゃあな、と手を振る。遠退いていく後ろ姿に苛立ちを覚えながら、じっと睨んでいた。

ただじっと。その姿が暗闇に消えるまで睨んでいた。



○○○



完全に教師達の後ろ姿が見えなくなって、歩き出した。その少し後ろを、沢田が付いて歩く。
ポケットに手を突っ込んで、いざという時は頭をぶち抜けるように。

「で、お前は何者だ?」

さっきは教師共にはぐらかされたが、今度は二人っきりだ。邪魔されることもない…―――数個の、人間の気配はあるが。
沢田はしばし黙ると、こくりと頷いてこちらを見てきた。

「この学校に爺ちゃんがいるんです。その孫」

さらり、と答えてきた。

「孫…」
「はい。だから俺みたいなのでもアルコバレーノクラスになってるんですよ。コネです、コネ」

あはは、と笑って沢田は頭をポリポリ掻いた。
コネでアルコバレーノに入れると言うことは───理事長の孫と考えられるな。

「つーか、コネでこんな危険なクラスにぶち込むか?普通」
「危険?」

首を傾げてきた沢田に、少し邪心が沸いた。
見上げてくる顔がどうにも子供っぽい。

「手前。狙ってくるのは他のクラスの連中だけだと思ってんのか?」
「え…?」

琥珀色の瞳が確かに揺らぐ。
口が自然にニタリと笑えて来る。
実際、事実だ。優しさとは違うが、教えておけば面白いことになるだろう。

「特待生クラスの連中同士で『殺し合い』なんてのも実際はある…―――」

とくに、と強調して。



「手前みたいに、特待生に来たばっかりの奴は、な」



口端が吊りあがる。



ぱぁん!

「ぎゃあああっ!」

沢田の横の叢から、生徒がごろんと転げ出てきた。
腕から紅い液体が零れおちる。

「え…?!」

それを口火にばさばさと叢から生徒達が顔を出してきた。ざっと数人だ。

「そうそう。リボーンの言うとおりだぜ、転入生く〜ん?」

囲んできた連中を一瞥し、首をかしげる。

「お前らに呼び捨てされる覚えはねぇ。つーか、お前ら誰だ?」
「さっき俺達の説明してたんじゃねぇのか?!」
「はぁ?」

と沢田を一瞥する。

「からかったら、面白そうだと思ったんだ」
「で、でもあの人達って、アルコバレーノクラスの人じゃ…!」
「そうだ。遊びに来てやったぜ」

肩に釘バットなんて古めかしいものを担ぎ、沢田に詰め寄っていく。

「あ、あの!暴力沙汰のお遊びは遠慮します!今、門限破りの罰実行中なんで!」

そう言うなり沢田はリボーンの腕を引っ張る。

「あ、危ないから逃げましょう!」
「はぁ?さっきは返り討ちにしたんだろ?」
「あの時は二人だったから!ついでに聞きたいこともあったから…っていうか、勝手にやられたっていうか…」
「はぁ…?」

沢田はとにかく!とリボーンの腕をまた強く引っ張った。

「危ないです!逃げましょう!」

囲まれてるのにどうやって逃げる気だ。
言ってやりたいが、細い腕をして引っ張ってくる力が思ったより強い。

ヴェルデの電撃に、耐えきっただけはあるか。

「逃げねぇよ…」

その腕をなんなく振り払い、見下ろす。
少し潤んだ瞳で見上げてきているが、一々気にしてやる気はない。

「オレは、『これが好きだから』夜を歩き回るんだ」

内側で、確かに狂喜と狂気が混ざり合う。
可笑しくて口元が吊りあがる。
突き刺さる殺気が心地良い。
胸が、躍る。

「毎日暇で暇で暇で暇で暇で仕方ない…―――」

リボルバーの弾倉を開いて弾を地へと落とす。
かんかん、と甲高い音が六つなる。

「だから…―――」

かちゃん、と音を立てて弾倉を『元に戻した』。



「暇人だから、暇人を『狩る』んだ…―――」



叢から出てきた数十人が、はぁ?と嘲笑う。

「手前、銃弾落としただろうがよ?その空っぽの銃で何すんだ?あぁ?!―――がっ」

台詞なんかいらない。
聞きたいのは、打撲音と、うめき声と、悲鳴。

蹴る、殴る、殴る、殴る、蹴る。

雑魚の相手なんて本気を出すまでもねぇ。
銃弾なんか必要ねぇ。

殴って、相手を昏倒させて。
呻いて蹲ってる奴には腹を蹴り上げて。
情けない雄たけびを上げる奴には顎を蹴りあげて黙らせる。

切りつけられようが、殴られようが、血を吐こうが、自分が死のうが関係ない。
向けられる殺気を、潰して、潰して、潰して。



ただ、狂いたい。



数十人はあっという間に十、九…―――二、と残り一人は尻餅をつきながら後ずさりを繰り返す。



「おい?さっきの威勢はどうしたんだ?あぁ?」



手ごたえが、全くない。

つまらない、つまらない、つまらない。

詰め寄って見下ろす。そして、殴って、蹴って、倒して、馬乗りになって殴って殴ってなぶって。

もう一発ぶち込もうとした腕が、突然強い力に抑えつけられた。



「やめろって!リボーンっ!!」



聞こえてきた声に、狂いの海から浮き上がる。

「あぁ…?」

びくり、と体が震えたみたいだった。
しかしぐっと息を呑み込んでまっすぐ見返してきた。

「そんなに殴ったら死んじゃうよ!やめてよっ!」

潤んだ声。

「リボーンも、そんなに怪我してるじゃんか!手当…―――」
「うぜぇ」

そのまま腕を払い飛ばす。
高ぶった狂喜に身を委ねて。
勝手に心配して顔を歪めている沢田に向かって、攻撃を放った。

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あきゅろす。
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