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呪いモノ語り
名前と固有名詞
 獄寺の気遣いにより綱吉は隣のベッドに横たわり、一人静かに眠る…――予定だったのだが。

「まぁ、こんな感じで女が苦しみ死ななければ呪いの連鎖は起きなかった訳だが、だからと言ってビデオを見た人間一人一人をわざわざ呪う必要はあったと思うかい? あれって単に人を怖がらせたい一心の苦肉の策だと思うんだよ。ホラー映画として確かに有名ではあるけれど、あれを口切りに日本のホラー映画は無差別に呪いをかけたり死なせたりするのが始まったよね。あれが怖いと思ってるんだろうか。まぁ、着信アリファイナルは別物だけどね。あれの方がよっぽど『呪い』に忠実だよ。苛められた生徒の憎しみが実によく伝わっている。生徒に『呪い』をかけて満たそうとする復讐心が克明に刻まれていて素晴らしいじゃないか」
「あの…九先輩……オレ、寝たいんですけど…」

 綱吉は『表向き』の理由を述べたが、斑は「何を言ってる」とぴしゃりと言った。

「君を寝かせるために保健室を独占したわけじゃない。怖がらせるために養護教諭を追い出したんだ」

 ――この人、自分勝手な目的を明確に言った! しかも、シャマルを意図的に追い出したことも認めた!

 綱吉は涙を浮かべた。
 獄寺がトイレへ行っているのを良いことに、斑は綱吉の元へやってくるなり日本のホラー映画について彼なりの見解を交えて真面目に語り始めてきたのだ。。
 表情がコロコロ変わるわけではないが、その仏頂面がやけに凛々しく見えるから多分そうだ、と推測した。
 それに綱吉にしてみれば『さっきのこと』もある。
 はたから見れば綱吉が一方的に激昂して斑を強襲したようなものだ。彼と話すこと事態、気まずいものがあった。
 しかし、斑は全く気にする様子もなく綱吉に接している。寧ろ先程よりも好意的な気がする。
 少なからず、綱吉に恐怖を覚えて怯えか何かを見せるのが普通なのではないだろうか。
 そう考えた時には。

「さっきのこと…――気にしてないんですか…?」

 ぽつり、と斑に問い掛けていた。
 恐る恐る。
 恐々(こわごわ)と。
 兢々(きょうきょう)と。
 そして斑は『当然のこと』を裏切るように。
 

「さっき? 何かあったか?」


 キョトンとしていた。
 本当に何事もなかったように、ただ彼は目を瞬かせているだけだった。
 しばし沈黙が訪れた。

「さっき、オレが九先輩の事を襲ったって言うか…その…」
「…――――――あぁ、あれか。大したことじゃないだろ」
「大したことないって…」

 今の間、間違いなく思い出している時間だったのだろう。
 綱吉には九斑という人間が全く分からなかった。
 自分の興味にしか全く興味がない。
 過去さえも軽い様子で忘れている。
 何処か抜けている喜怒哀楽。
 そのどことなく一般人、凡人…――否、普通の人間から『外れた』人間性…。

 ――気の、せいかな…?

 何か、覚えがある。
 似ている人を見たとかじゃない。
 それでも、記憶の端に引っ掛かる…――。 

「それで君は日本のホラー映画の『呪い』についてどう思う?」


 ――この人、自己中だ!


 綱吉は胸中で叫んだ。
 斑は真顔で(仏頂面に変わりはないが)。

「知識の友人なら面白い意見を聞けると思ったんだが」

 ――知識君と友達だと思ってらっしゃる!

 腕を組んで上目視線。今にも「う〜ん」と唸って首を捻らんばかりだ。
 あの話を聞いて友人だと思い違いできる斑の脳内は一体どうなっているのだろうか。

 オカルトでしか構成されていないんだった。

 そう結論に至った綱吉は脱力した。

「それで、君はホラー映画の『呪い』についてどう思う?」
「あ、あの…オレ、オカルトとか苦手なんで…――」
「テメェ! 何で十代目と話してんだ!」

 ばたん! と、本来は静かに開けるべきドアを荒々しく開け放って獄寺が戻ってきた。
 斑が「戻ってきたか」と淡々とした様子で迎えたのがいけなかったのか、怒りの緒に触れた。獄寺は普段から刻まれている眉間の皺を更に深く、多く刻んで彼の胸倉を掴み上げた。

「十代目は今、お疲れだ! 話はオレが聞くから待ってろって…――」
「ご、獄寺君! 落ち着いて!」

 服の裾を引っ張って引き留めると、獄寺は渋々とその掴んでいた胸倉を放し、椅子に下ろした。
 下ろされた斑は斑で、無感情な瞳を獄寺に向けた。

「一応、生贄君を待っていたつもりだ」
「誰が生贄だ!」

 折角手を放してもらったのに再び掴み上げられた斑。先程と変わらず表情は一寸も変わっていない。
 もう一度綱吉は獄寺を宥めると、苛立ちを隠そうともせず斑を放った。
 どうやらホラー映画の呪いについて語れというお題には彼なりの配慮があったのかと判明した。
 二度に渡って掴み上げられた制服は皺くちゃだ。さすがにそれは気になったようで制服を整えると「まぁ、座れ」と言って綱吉の今休んでいるベッドをぽんぽん叩いた。考え方が間違っていなければ、ベッドに座れと言っているのだろう。
 「誰が座るか!」と獄寺は怒鳴って…――養護教諭が座る椅子を持って来た。丸椅子よりも遠い所にあるそれを。
 獄寺は綱吉が陣取っていないもう一つのベッドの傍に置いた。

「こっち来い、アホ」

 先輩をアホ呼ばわりして手招きする獄寺に斑は綱吉に指差した。

「徳川君にも『呪い文』について聞かせなくて良いのか?」

 それに対し、気にもせず対応する斑。
 この際、もう名前を間違えられていることは気にしない事にする。綱吉は自分も聞きたいと申し出た。
 獄寺からは躊躇いが見えたが、特にそれ以上何も言うことなく綱吉の傍に椅子を寄せて座った。ふんぞり返って足を組む。

「徳川じゃねぇ。沢田様だ」
「…また間違えたな。悪い」
「いえ、良いですよ。それより…――」
「テメェ! 十代目の名前ぐらい覚えやがれ!」
「あぁ。すまないな。覚えようとは思うんだが、些かそちらの方には記憶が…――」
「些かなんて軽くねぇよ、全くだ全く! 全然覚える気ねぇだろ!」
「言われるとそうだな。名前なんてしょせんその人間を呼ぶ記号だろう」
「記号…?」

 ふむ、と斑は続ける。

「固有名詞で呼ばれればその固有名詞の持ち主が振り向く。1つの空間に同じ固有名詞を持つモノが複数いれば、呼ばれた時にその複数名は振り向くだろう?」
「えっと…難しいんだけど…――」
「知識と呼べば知識が振り向く。ならば教室に『知識』という名前が三人居て、先生が『知識』と呼べば三人共振り向くだろう?」
「あぁ…」

 分かり易く説明され、綱吉は頷いた。

「ならば『名前』とは当人を呼び当てる為の記号のようなものじゃないのか、と言うのが僕の意見だ」

 だから、先程、「アホ」と呼ばれたことにさほど気にせず振り返ったのか。
 『自分のことだ』と分かったから。

「名前は名前ですよ、九先輩。両親が、意味を込めて付けてくれたモノです」

 斑は相槌を打つこともなく、綱吉をじっと見た。

「オレの場合は、徳川将軍の家系から取った名前かも知れません。でも、ある人が言ってくれたんです。人の名前には漢字や読み方を組み合わせて意味を込めるって…」

 それを、教えてくれたのも。
 今は病床についている、あの人。

「だから、そんな言い方しないで下さい…自分の名前なんてどうでも良いみたいに思わないで下さい…――」

 保健室に、沈黙が漂う。
 少し重いような、息苦しいような。
 ドクドクと波打つ心音と、静かな時でのみ聞こえてくる耳鳴り。それらが交ぜ合わさって空間を支配する。


「名前の呼び方が違うだけで…――『九先輩自身』の代りは、何処にもいないんですよ…?」 


 静寂と化した空間。そこに、ふ、と小さく笑う声が零れた。

「確かに、その通りだな…」

 斑は柔らかな笑みを浮かべた。
 それは今まで見たことのない、優しくて暖かい笑顔。
 獄寺が先程、向けてくれたような笑み。

「人間は生きている時点で68臆分の1だからな」
「?」
「…――テメェ。十代目のお言葉を無下にするつもりかよ」
「?」

 意味の通じたらしい獄寺はまたも苛立ちを露わにしている。
 斑は「そのつもりはないんだがね」と笑う。

「えっと…その確率って…?」
「『世界の人口のうちの一人』、ですよ」
「…あぁ。習った気がする…」

 68臆っていうのが。

「詳しくは週刊少年ジャンプのめだかボックス四巻を見てみるといい。めだかがそう言ってたよ」
「漫画の受け売りですか?!」

 うむ、と斑は頷いて手をヒラヒラとさせた。

「面白いのもあるけど、主人公を含めて女子の脱いでる姿を拝めるからね。見応えがあるよ」


 「ToLoveるも良かったけど」とそこら辺のオタク発言をした。

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あきゅろす。
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