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呪いモノ語り

一番目『並盛山』

 かつて、豊作を祈って山の中にある社に子供を捧げていた。その子供は夜に連れて行かれ、わらじを脱がされて山を降りられないようにされていた。今も、夜の並盛山へ行くと神様に連れて行かれてしまう。



二番目『病院』

 身体の一部を失くした子供が夜な夜な身体を探し求めて彷徨うという。出逢ってしまうと、身体がもぎ取られる。



三番目『池』

 夜中に池を覗きこんではいけない。何故ならば、池の向こうには自分そっくりな化け物がいて、こちらの世界にくるタイミングを虎視眈々と狙っているからだ。


四番目『並盛神社』

 遊んでいると、見知らぬ場所に迷い込む。迷い込んでしまったと気づいたら並盛神社に向かうといい。神様が元いた場所に導いてくれる。



五番目『呪い文』

 並盛の川には水神を祭っていた祠が沈んでいる。元々川岸にあったのだが、川が氾濫した際に壊れて沈んでしまった。それを怒った水神は生贄を選び、文を送りつけるようになった。受け取ってしまったものは数日後、水死体となる。



六番目『祭』

 祭りの日は決して一人で行動してはならない。最低三人で行動すること。そうでなければ人間が好きな神様が天界に連れて行ってしまう。特に、女や子供が好きなので気をつけること。



七番目『欠番』

 七番目を知ると神隠しにあう。または、死体で発見される。
 決して耳にしてはならない。


∞∞∞


 斑から告げられた七不思議を聞いているうちに、綱吉の心中は穏やかでは無くなっていた。
 全身を氷塊が舐めまわし、嫌な汗が噴き出す。バクバクと鳴り響く心音が現実から綱吉を切り離していくような感覚に陥った。

 ――なん、だ…これ…!

 両腕で自らを抱きしめる。
 震える体に落ち着け、と頭の中で何度も絶叫した。
 視界は身体を冷やさないように被せられている布団で埋まった。

 ――何だ、この七不思議! 四番まで『全部』起こってるじゃんか!! 『順番』に!

 斑が語った話と食い違う所は多々あれど、それに近いものを全て体験してきた綱吉は耳を疑いたくなった。
 今まで静かな口調で語っていた斑はじぃっと綱吉を見て。

「一応、ただの七不思議だが、どうかしたか?」

 ただの…七不思議…――?



 『ただの』七不思議だって?



 綱吉は次の瞬間、斑に掴み掛っていた。否、病院で雲雀が綱吉にしたように斑へと飛びかかっていた。
 頭の中は白く、内側にめらめらと怒りが燃え上がっていた。
 がたんと派手に椅子をひっくり返し、床に斑は倒れた。その上に馬乗りになって、綱吉は斑の胸倉を掴んでいた。
 だらんと被っていた布団がベッドから半分垂れ下がる。

「十代目?!」「ツナ?!」
「『ただの』なんて簡単な言い方は止めろ! それで、それで…――! オレの仲間がどれだけ危険な目に遭ってきたか!!」

 混乱の中に苦しさを滲ませながら斑は綱吉を凝視していた。目を大きく開いて、ただただ綱吉を見上げている。

「それは『ただの』なんて付けられるほど軽い言い伝えじゃない!! それは…――!!」
「十代目!!」

 胸倉を掴んだ握り拳に力が入る。

「十代目、落ち着いて下さい! オレ達は今生きてます!」

 やけに大きく聞こえてきたその声。
 引き寄せる為に入れた力は失って、止まった。
 後ろから引き上げられてベッドに腰掛ける形になった。
 獄寺の手が綱吉の目を覆い、腹を巻く腕に力が加わった。

「オレ達は生きてますよ、十代目…――ここに居ます。貴方のおかげで、今、生きているんです…」
「はぁっ…はぁ…」

 獄寺の声がすぐ耳元で届く。
 落ち着いてください、と。優しくて、柔らかい声音が。
 いつの間にか荒くなっていた呼吸が整っていく。
 綱吉は腹に巻き付いている腕を抱えた。

「…ごめん…――なさい…」

 ぽつりと、綱吉は黒く覆われた世界で呟いた。
 その謝罪に、本来返すのは斑なのだが、代わりに獄寺が「いいんですよ」と優しく答えてくれた。
 見えていないのに笑みを浮かべてくれているのが分かるように聞こえる。
 綱吉の両目を覆っていたものが剥がれ、斑に大丈夫かと声をかけている山本がいた。

「ご、ごめんなさい…九先輩…」
「いや、いい。そのことは気にしていない」

 そのわりには床に倒れたままの斑は浮かべていた明るい顔を無表情に戻していた。
 言った通り、気にしていないと表情から察せる。先程から見慣れた仏頂面は驚きも苛立ちも困惑も混ざっていない。
 しかし綱吉は自分がしでかしてしまったことに気まずくなって、逸らすように振り返る。そこにいた獄寺が朝のとき同様に、少し困ったような笑みを浮かべていた。

「やはり休みましょう、十代目? こいつからはオレが責任もって聞き出しておきますから」
「で、でも……」
「お休みください」
「………………………はい」

 強く言われ、気圧された綱吉は答えてしまった。
 笑顔のままの獄寺には迫力がありすぎた。

「では」
「え?! ちょっと!」

 ひょい、っと獄寺に抱きかかえられてしまった。恥ずかしさに顔が熱をおび、綱吉は喚く。

「だ、大丈夫だよ! 自分で行けるから!」
「十代目ぐらいお運びできます」

 凛とした面持ちで言われ、さらに羞恥が増した。口を引き結んで睨み上げるが、獄寺はどこ吹く風と表情は爽やかだ。
 綱吉を抱き上げて獄寺は斑を跨ぐ。カーテンをひっぺ返して仕切られた空間を出る。

「ちょっと待った」

 ぐわし、と獄寺の足首を仰向けに倒れたまま掴んだ。広がっている髪の毛は黒い水溜まりのように広がり、そこに斑の顔が浮かんでいるようだった。
 一つ目が強い意思を秘めて綱吉と獄寺を見上げた。

「今の反応の仕方…並盛町の七不思議に心当たりがあると見ていいのか…?」

 突然の切り出しに綱吉は言葉を詰まらせて、つい獄寺を見上げた。
 その行為が確信に迫らせてしまったようで、だったら、と今まで寝転がっていた斑はようやく飛び起きた。

「四番目の並盛神社を見たことはないっ…――」
「知らねぇよ、アホが」

 即座に否定した獄寺は斑の顔面を容赦なく蹴りつけた。

「獄寺くーん?!」

 顔面に靴あとを残し、ベッドに後頭部を打ち付けてのたうち回り始めた斑。
 それにより足首を解放された獄寺は颯爽と綱吉を隣のベッドへ連行すべく歩きだした。
 再び山本が「大丈夫か?!」と声を張り上げた。

「獄寺君! 今のはやり過ぎ…」
「山本!」

 突然開け放たれたドア。
 綱吉の台詞を遮るように現れたのは。

「西田先輩?」

 ――何で此処に?

 西田直輝。
 山本と同じ、野球部の先輩だ。スポーツマンらしく短髪に眼鏡をかけていて、真面目さがかいま見える。健康的な肌色だが、焦燥にまみれて顔色は悪い。閉まっているカーテンを開いてお目当ての山本を探し当てるとぱっと顔を明るくした。

「ほら、山本。教室戻るよ。授業が始まるだろ?」
「え? あ、でも先輩が…」
「彼は頑丈だから大丈夫。大丈夫だろ、九君」
「あぁ…大丈夫だ……」

 頭を撫でる斑をよそに、西田はほらほら、と山本を引っ張り起こしドアの前まで連れていくと綱吉達に会釈した。そして、来て早々、山本だけを連れて保健室を出ていってしまった。
 静まり返った保健室で、綱吉と獄寺は茫然と二人を見送る。
 綱吉には西田が何かに焦っているように思えてならず、首を傾いだ。


∞∞∞


 引っ張られるままに西田の手によって保健室から連れ出され、玄関前のロビーでようやく解放された山本は背の低い彼を見下ろした。

「どうしたんすか? いきなり…」
「いや。九に絡まれたって聞いたから救出しに…」
「救出? べつにあの先輩、悪い人には見えなかったすけど…」
「まぁ、悪い奴ではないんだけど…」

 頭を掻く西田は溜め息を溢す。その溜め息から滲んでいるのは戸惑い。

「先輩…?」

 問いかけると、難しい顔で「実は…」と続ける。

「人柄事態は悪い奴ではないんだけど…――オカルト関係なら日本だけじゃなく世界も網羅してるって噂のオカルトオタクで…目ぼしい相手を見つけては怪談を聞かせて驚かせるのが趣味なんだよ。それと右目、隠してるだろ?」
「そうっすね」
「あれは悪魔召喚に失敗したとかで…――彼は呪われてるんだって…」
「でも、それ噂っすよね?」

 渋面を崩さない西田は「その通りだけど…」とそれ以上の言葉を放つことを躊躇うかのようにどもった。

 山本の器の広さは醜聞を聞いていて尚、気にしないほど広い。
 形で言ってしまうなら中心が少し凹んでいる平皿。
 何処までも寛容で、相手の欠点ごとあるがままに受け入れられる快闊さ。他者から受け取る先入観よりも、その人物に対する『感覚』で相手の真骨頂を見抜く。
 だからこそ、彼は万人受けをする。
 あの最強にして最狂の戦闘マニア、最恐と最凶を併せ持つ前人未到の孤高さを誇る雲雀恭弥さえ「良い奴だぜ」の一言をケロッとした顔で迷いなく豪語できるのだ。

 しばらく沈黙していた西田は大きく息を吸った。


「彼に声をかけられた子で、負傷者が出てるんだよ」


 ぽつ、と。
 西田は告げた。

「雲雀恭弥が鬼というなら、彼は『疫病神』…――」
「疫病神…」

 西田は山本の肩を掴んで向き合った。
 まっすぐ射抜くように視線が絡み合う。
 いつになく、真剣な面持ちで。

「悪いことは言わない。それと『お願い』だ。『彼には関わらないで』くれ」

 その真摯な瞳に気圧されて。
 天性の眼力を持つ野球男子はごくりと唾を飲みこんだ。

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