道物語り
∞
「神社が古くなったから今の並盛神社の場所へ移したといわれているわ。でも、神様がいるから、昔の人は壊すのを躊躇ったのね。今も鳥居も移していないし神社もそのままになっているって言われてるのよ?」
「神社の傍ならばご利益があるだろうと商売繁盛を願い、商店を立てたのが商店街の始まりだ」
「へぇ」と感心する間もなく注文を済ませた雲雀が戻ってきた。
そして、二人は口を揃えて付け加えた。
「見たことはないけれど」
本当に、姉弟なんじゃないだろうか。
「そう。出張の関係で帰って来ていたんだね。今は何処に?」
「電車で5つ先の所にある、アパートに家を借りています」
「そうか…―――」
「あの…」
すると、奥でひっそりと一人で居たランボが恐る恐るこちらに歩み寄って来ていた。雲雀をじっと見つめて、ランボは立ち尽くしている。
「若きボンゴレ、ちょっと…」
「あ。うん」
ちらりと雲雀を見ると、彼は一言「行って来て良い」と簡潔に答えてくれた。ほっとした面持ちのランボに綱吉は「あっちに行こうか」と店内の奥にある一隅を指差した。
席に着くなり雲雀の奢りのショートケーキが紅茶のセットで出されたが、ランボが物欲しそうにケーキを見つめていたので食べても良いと進言した。
「そう言えばさ、ランボ」
「そうなんですよ。一応5分以上たってるんですよね」
「5歳児のオレがぶっ放す前に何かしたんでしょうかねぇ…」
「ランボが…―――」
元を辿れば、帰ってきたリボーンが縛られているディーノを見せない為にランボだけは蹴り飛ばしているのである。リボーンはいつもランボに手加減はないからこそ、断言できる。
―――あの傍若無人な赤ん坊め!
「ジャンニーニに修理させるから…ごめん…」
「いえ、良いんですよ…―――直らなくても」
「ランボ?」
ランボはどきっとしてから「何でも無いです!」と慌てて、セットで運ばれてきた紅茶を啜った。
「いや。さきから気になってたんだけど。今日のランボ、ちょっと変じゃない? 未来で何があったの…―――って、聞いても駄目だよなぁ…」
「そうですねぇ…。オレも、何も言えません…」
ははは、と綱吉とランボは声を合わせて笑った。
何も、喋ることが思い浮かばない。
こんな長い間、大人のランボと普通の時間など過ごしたことはない。5分という短い時間は大体ドタバタだ。そして、大半が戦闘中…―――。
「いつもありがとう、ランボ」
「はい?」
沈黙に耐えきれずぽろっと出て来たのは、そんな言葉だった。
「え? あっはは。いや、あれ。えーっとさ。ランボがこっちに来る時って、何時もバタバタしてるって言うか…命がけが多いっていうか…」
「う〜ん、まぁ。オレはあんまり気にしてないですけど…―――パラレルワールドのオレみたいですし」
そこがランボなんだよなぁ、と綱吉はしみじみ思った。
何だかんだ言って巻き込まれて、何だかんだ言って戦ってくれる。面倒臭いも、痛いのが嫌なのも、どちらも彼の本心なのだろうけど、やはり最終的には手を貸してくれるのだ。
「パラレルワールドのランボでも、ランボなんだよね?」
「? まぁ…元を辿ればそうなんでしょうけど」
「そうだよね。やっぱり、お礼は言わないとね」
きょとんとするランボに、綱吉はまた笑った。
「いつも助けてくれてありがとう、ランボ」
目の前のランボはフォークを持ったまま固まった。
しかし長くは続かず、1口目のケーキを口に詰め込むなり俯かせた。だらんと落ちた肩が、震えだす。
「ラ、ランボ? 本当にどうした? 今日、やっぱ変じゃない…?」
「ず、ずみまぜ…えぐっ…―――」
―――ケーキ一口食べて泣いたー?!
「ひ、ひざびざに、ケーキ食べだから…感激じでっ…!」
「そ、そんなにケーキ食べたかったんだ?! 本当に、全部食べて良いからね! うん、本当に!」
店の中でみっともなく泣き出したランボはフォークをテーブルに放り投げて、ショートケーキに掴み掛った。可愛らしい姿のケーキもランボの手の中でぐちゃりと潰れ、彼のイケメンをクリームで汚しながら口の中へと詰め込んでいく。
「ランボ?!」
テーブルに備え付けてある固い紙を持ってランボの手を拭いてやる。
うぅっ、と涙を流しながらランボは大きく肩を震わせた。
「ずみまぜんっ…ボンゴレっ…―――ずみまぜん……!」
「あーあ、分かったから! 取り敢えず、手と口拭けって…―――店員さん! すみません、店員さん!!」
尚も、ランボは謝りながらボロボロと涙を零す。
「ずみまぜ、ん…―――ずみまぜんっ…!」
ずっと泣きながら。
「ずみまぜん…ずみまぜん…っ…―――ずみませんでじだ、ぁ、ぁぁっ、ぁ…」
ずっと、ずっと謝っていた。
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