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道物語り
並盛商店街
 ランボが「時間がない」という理由で走るだけ走って、すぐに並盛商店街ついた。もともと、綱吉の家は学校と同じ中心部にあって、何処かへ行こうと思えばそれほど苦に思わず歩いて行けるのだ。だからこそ、ランボ達は徒歩でも奈々に付添って商店街まで来れるのだ。

「あぁ、変わってないですねぇ。並盛商店街は…」

 ランボはきょろきょろと辺りを見回して胸を躍らせているようだった。綱吉よりも身長が高く、また1年年上ではあるのだが、こう見るととても子供っぽく見える。普段の大人の雰囲気漂う彼が何処かに吹き飛んでいる。

「10年後って言っても変わってないんだ?」
「あ、はい…―――て、あっ」

 ランボは慌てたようで口を塞ぐ。しかし、言ってしまったあとでは時既に遅しだ。ランボは人差し指を口元に当てた。

「い、今の秘密ですからね! 誰にも言わないで下さいね!」

 未来の事は話してはいけないとボヴィーノファミリーの頭領――――ランボの父親に言われているのだという5歳児のランボは言ってることがハチャメチャなので意味が伝わらないがこの歳になると、言うことには気をつけなくてはならないようだ。
 「わかったよ」と笑えば、ランボは柔らかく笑みを浮かべた。
 後ろでは、雲雀と会話を楽しもうと躍起になっているディーノは相手にされていない。ずっと外方を向かれたままだ。当然、雲雀が歩いているということで人々は一様に背を向け、店内であろうと距離を置いている。理髪店ではカット途中らしいが放置されていた。

「昔から変わらないですねぇ、本当に…雲雀さんが歩くと商店街は一気に活気が無くなります…―――」

 ―――未来でも変わらず並盛に君臨してるんだね。流石です、雲雀さん。

「雲雀様!」

 ハキハキと明るい声が背後からした。
 思わず、綱吉はぐるんと振り返った。

 雲雀に笑顔で歩み寄っていく、お腹の大きい女性。妊婦であろう女性は小さな青い花柄のマタニティードレスを来ている。髪の毛は黒々として雲雀に劣らない絹糸を肩まで伸ばしていて、優しげな笑みを浮かべていた。

「結解(けっけ)…―――いや、今は西院島(さいじま)か…」

 今まで見向きもしてくれなかった雲雀が、ディーノに背を向け、その女性へと歩み寄る。彼女も、重たそうな荷物を両手に抱えて雲雀へと歩み寄った。

「はい! 西院島です! 西院島直要(なおい)です! 本当に、お久し振りです!!」
「へー。サイジマナオイって言うんだ。オレは…―――」
「西院島。後ろに何かいる」
「あら?」

 西院島直要と名乗った女性がくるりと雲雀から視線を逸らした途端、雲雀は猛烈な勢いで雲雀の背後に居るディーノへと殴りかかった。
 顔面直撃。
 容赦ない一撃。
 当然、殴って昏倒だけで済めばいいが、ディーノ自身やわな体力ではないし、雲雀の繰り出す攻撃は一撃一撃が強大だ。大の大人であるディーノを吹き飛ばし、あまつ商店街の景観を損なわないように、店と店の隙間にある小道へと吹き飛ばした。

「何も居ませんでしたよ?」
「気のせいかな。あぁ、気の所為だ。店員が日陰で黒く見えただけだったよ」

 ―――あの人! ディーノさん吹っ飛ばす為にとんでもない嘘吐きやがった!

 綺麗な顔立ちで黒い髪、身長がさほど変わらないと遠くから見えれば雲雀の姉にも見える。そんな西院島は「あら」とにっこり笑って、オバサンくさく手の平を振った。

「雲雀様ったら、警戒し過ぎですよ? あきま…―――あら、いやだ。つい、夫の京都弁が出てしまいましたわ」
「少し話そうか、西院島。それと沢田綱吉の横」
「横?!」
「オレみたいですね」

 雲雀は胸ポケットからメモ帳を取り出すと、その中にある紙に文字を書き込むと綺麗にピリピリと切り取った。それを、人差し指と中指に挟んでランボへと差し出した。

「これ持って行けば頼んだ品を出してくれる。貰って来て。あの金髪と一緒に」

 金髪と言えばもうディーノしか居ないだろう。しかし、ゴミ箱に突っ込んで生ごみ塗れの人間をケーキ屋に連れて行くのは気が引ける。
 すると、西院島はぱんっと両手を合わせて目を光らせた。

「あら! ラ・ナミモリーヌに行くんですか?! 私もご一緒してよろしいでしょうか?」
「西院島…―――」
「私も色々雲雀様にお話ししたいことがありますの。それに、雲雀様のご友人様にも色々…―――」
「友人なんていないよ」

 目を輝かせていた西院島だったが、その一言でぴたりと固まった。

「僕にあるのは、この茶色い『所有物』だけ。あとはオマケだよ」
「…―――所有物…」

 西院島は肩を落として残念そうだったが、すぐに表情を笑みへとすり替えた。少しだけ寂しさが残っているように見える。しかし、彼女は何かを思いついたように、またぱっと表情を明るくした。

「腰巾着ですね!」

 ―――何か勘違いしたぞ、この人ー! 絶対、『腰巾着』の意味わかってない!!

「…あながち間違いではないね。行くよ」
「はい!」

 ―――えー! それでオッケーするんですか?!

「それじゃ、荷物はオレ達が預かりますね」

 ひょい、とランボが優男(ロメオ)らしく西院島から荷物を横取りした。

「そうだな。それじゃあ、行くか。ラ・ナミモリーヌ」
「ディーノさん、頭にバナナの皮が乗ったままです」

 いつの間にか戻ってきたディーノには頭に乗っているゴミを捨てるように指摘する。さらにわらわら集まって来たことに不愉快を示す雲雀だったが、西院島の前ではトンファーを振るう様子は伺えない。
 そんな雲雀に気を使って綱吉はディーノとランボに先へ行こうと声をかけた。いつものように少しだけ遠くの彼と西院島。改めて見ても、綱吉には姉弟にしか見えなかった。


∞∞∞


 ラ・ナミモリーヌではケーキも買えるがケーキを食べられるようにチェアとテーブルが設けられていた。2階はその専用フロアとなっているのだが、雲雀は珍しく人通りが見える1階に座った。恐らく、西院島の身体を心配してだろう。今まで居た客はさっと立ち上がり、返るか皿を持って2階へ行ってしまった。
 西院島はふふふ、と楽しそうに笑って店内を見回した。
 何故か雲雀が「注文してくる」と本日2度目の気持ち悪い言葉を発してショーケースと向きあっているのだ。綱吉と西院島は名目上雲雀の奢りだが、多分タダで食べられるに違いない。
 一方、ランボとディーノは自分達で支払いになるらしいが、ランボはお金が無く、ディーノに関しては財布を落としたらしい。もしかしたら雲雀に殴られた時に落としたかも、と推察してラ・ナミモリーヌを出ている。

「相変わらずよね。ラ・ナミモリーヌの繁盛っぷりは。久し振りに来ても、全然変わってないわね」
「? 西院島さんはこの町に住んでるんじゃないんですか?」
「えぇ。結婚する前まで並盛に居たのよ。ただ、主人の出張の関係でこの近くに来ているの」
「そうだったんですか」

 注文している雲雀の後ろ姿を見つめながら、西院島は暖かく雲雀の背中を見守っていた。

「やっぱり、並盛の商店街には商売の神様がいるのね」
「え?」
「そっか。若いから知らないのね」
「え? え? 西院島さんは何歳なんですか?」
「22よ。でも女性に年齢の質問はしちゃ駄目ね」
「す、すみません!」

 確かに年上であるが、『若いのね』などと言われるほど歳とってるわけでもないように思える。

「昔ね、並盛神社はここにあったのよ?」
「そうなんですか?!」

 そう、と西院島は笑った。

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