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道物語り
一階の珍事件
「覚えてるかい? 『いつひとさん』の騒動が大きかった頃に、失踪者がやたら多いって話をしたのを」

 雲雀は「しつこい」の一言で階段から蹴落とした。あわ食っている綱吉なんぞ気にせず彼は更にディーノをリビングへと転がした。
 「オレの鞭で何する気だ!」という叫びは今も耳の中で残響している。
 雲雀はそれから数分してから階段をとんとんと登ってきた。その手にはホカホカと湯気立つ湯呑を持って。
 綱吉はそれにこくりと頷いた。

「…『いつひとさん』に、連れて行かれたからですよね?」
「最初はそうだと思ってたんだけどね…」
「え…?」

 雲雀はごと、と湯飲みをテーブルにおいて、きりりと吊りあがった瞳を細めた。

「失踪場所が、どうも『限られて』るんだよ」
「え…?」

 先程と同じ言葉しか出ず、綱吉は目を瞬かせるだけだった。
 雲雀はさして表情を変えず、淡々と紡ぐ。

「場所は決まって『並盛商店街』なんだ。そして、子供が『泣きながら』帰ってくるって」
「えっ? 泣きながら?」
「目を離した隙に子供が何処かに行ってしまって、夕刻まで探していると泣きながら戻ってくるんだって…―――『帰りたかった』。『お母さん大好き』だって」

 うわ。この人の口から変に気持ち悪い言葉が出て来た。

「まぁ。親子喧嘩がそれで解消されるって言う話が吉報なんだけど」
「暖かい話ですね…」
「いや、『寒気のする』話だよ。何故か商店街に『行って』『消えた人間』が決まって『帰って来れて良かった』と言うんだ。老若男女問わずにね」
「行って、『消えた』…―――?」

 雲雀は頷いた。

「大半の子供は商店街で消えてその日の内に帰って来るんだけど、中学生や高校生以降は次の日になって帰ってくるそうだ。最近はその影響で自宅療養、及び精神病院の入院など学校への登校率の減少、仕事の欠勤が多くなっていてね。それが判明したから気付いたわけだけど…―――中には、ずっと『帰ってこない』人間もいるそうだ。捜索願の申請率が此処2週間だけで、5倍も出ている。そして大半が『並盛商店街に行っている』というんだ。
 だから今、風紀委員と警察で目下捜索中だ」
「…雲雀さんが『いつひとさん』を裏で咬み殺して回ってるから…―――だけではないって事ですか?」
「そういうことだ」

 綱吉は雲雀を見つめた。
 そして雲雀も綱吉をじっと見かえしている。
 しばしの沈黙で、綱吉の口元が少しだけ笑んだ。

「分かりました。ご忠告ありがとうございます…───獄寺君達にも教えて、出来るだけ並盛商店街に近づかないようにしますね」
「ワオ、何言ってるの。調査に行くから準備しろって言ってるんだよ。テストも終わったしね」

 雲雀もにやりと凶悪に笑わせて綱吉に言った。
 冗談でも聞きたくなかった。

「嫌ですっ! そんな怖い所になんか行きたくありませんっ!」

 大声で叫んでやりたい所、ディーノに聞こえないよう必死に押し留めて小声で訴える。挟んでいるテーブルに腕を乗せて身を乗り出すと、雲雀も顔面を黒く染めて、同様に身を乗り出した。

「並盛商店街は僕だけでなく、生活の要だよ。そんな所でホイホイ失踪者が出るなんて一大事だ。秋祭りの客足が減ったらどうするの? 町が破綻しかねない! ただでさえ財政難で国からの補助金が碌に降りてこないんだから! 町の外からやってくる人間が良い資金源なんだから! 重要性分かってる?!」

 そして雲雀も小さい声でスケールの大きい話が飛び出した。
 並盛の秋祭りは夏祭りよりも格式が高く、毎年『珠贈り』という秋祭りがある。他の町では盆踊りと言うものがあるが、その代わりのような祭りだった。
並盛町内の女性が巫女として選出され、並盛神社に収められている宝玉と呼ばれる『珠』を並盛山に持って行くというお祭りなのだが、面倒な事に巫女は町を練り歩かなければならない。

「それに並行して露店のショバ代だって風紀委員会の大事な資金源だっ! そんな噂が立ってたら、露店が減るでしょ?! 一大事だっ!」

 実に雲雀らしい傲慢かつ、私情が目立つ内容だった。
 雲雀はお茶を飲み干して、ごとんと湯呑を置いた。

「調査、来ないと咬み殺すよ」

 ぎんっと睨みつけられて、喉が詰まった。身体が竦んでぶるぶると震える。
 綱吉は「だっ」と言葉を詰まらせて、ギュッと目を閉じた。

「だったら、草壁さん連れて行けばいいじゃないですかっ! 草壁さんの方がよく『視える』し、詳しいじゃないですかぁっ?!」
「彼は駄目だ。彼を連れて行ったって『遭遇』出来るとは限らない。『君』じゃないと駄目だ」

 雲雀にぐっと左腕を掴まれて引っ張られる。ずる、と狙ったように制服の中で包帯がずれた。

「これは何があろうと『穴』なんだよ…―――繋がるんだ…。僕には『君』じゃないと駄目だ…」

 雲雀はぐっと掴んでいた手を離して、外方を向いた。

「大体、僕が理由もなく…―――」
『ランボさん、帰ったぞーっ!』

 部屋の外から聞こえて来た元気な声に、綱吉の身体が跳ねた。

『あら、ツっ君帰って…―――お客さんも居るのね。大変!』

 奈々が慌てて玄関に上がると、パタパタと走る音がする。
 ドアがきぃぃと開いて、派手に何かが壁へと叩き付けられる音が聞こえてきた。帰ってくれば帰ってきたで騒がしくなる家だと綱吉はつくづく思った。

『あら、どうしたの? ビアンキちゃん? 目隠しされるとお客さんにお菓子の用意が…』
『取り敢えず、私がするから良いわ。ママンは洗濯物でも取り込んできて…―――ソファーの上にちょっと大きなゴミがあるから…』

 ―――大きなゴミ? オレが帰って来た時、そんなゴミ有ったかな…?

 そんな会話が聞こえてきた矢先、綱吉の部屋が開け放たれた。そこから現れたリボーンは自分達、というより雲雀を見つけてじっと彼を見つめていた。

「そうだよな。ツナがディーノに亀甲縛り出来るわけねぇな…」

 ―――もしかして! ビアンキが言ってった『大きなゴミ』って、ディーノさんの事か?!

 ディーノでなくても亀甲縛りのされた人間が転がっていれば誰でもそう言いたくなるだろうが、相手は一応マフィアのボスだ。ああもハッキリ言えるのはやはり殺し屋であるビアンキだからこそだ。
 下から「起きなさい!」と逞しい怒号が聞こえてから、毒々しい溶解の音が耳をついた。ディーノの悲鳴は聞こえることはない。それでも凄惨な事態になっていることは想像できた。
 血の気が引く。

「お前が来るなんて珍しいな、雲雀。これからは普通に縛って転がすか隠しておけよ。流石にイーピンとフゥ太には見せられねぇからな」
「ラ、ランボは…?」
「見る前にぶっ飛ばした」

 ―――見てない間に、壮絶な事態になってたんだなぁ、一階!


 さぁっと青くなっていると、ランボのうわぁーんと騒がしく泣き出してしまった。

「そ、そうだ、リボーン! 並盛商店街に行って来たんだよな?!」
「あぁ。それがどうかしたか?」
「最近、並盛商店街で失踪事件が多発していてね。それで赤ん坊達が大丈夫だったか安否の確認だ」
「何ともねぇぞ。ピンピンしてる。つぅか、そんな奴が出たらこっちで片付けられるぞ」
「僕は『不審者』とは言ってないよ」
『あぁああああ―――!!』

 すると今度は、フゥ太の驚いた声が聞こえて来た。たまにしか聞くことはない、大きな声だ。

『僕のとろけるプリンがない!』

 つい、じろっと雲雀を見やった。
 仏頂面の雲雀と目があった。
 しばしの沈黙。そして彼はおもむろに携帯電話を取り出して、耳へと当てた。

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