[携帯モード] [URL送信]

道物語り
願い
 紫色の空が怪しげな雲を漂わせる。
 綱吉は携帯電話をポケットに突っ込んで綱吉は茶に焦げている校舎に向かって走った。入り口は急いでいる綱吉の邪魔でもするかのように立て付けが悪い。
 苛立って綱吉はそれを破壊した。ドアからガラスと木の破壊音をバックグラウンドミュージックに綱吉は校内に侵入を果たした。
 左右に伸びる茶褐色の廊下は見るからに古めかしい。両端に階段があることを視認した綱吉は右に走った。
 見た目の期待を裏切らず、廊下はギシギシ軋ませた。

「ディーノさぁーん! どこですかー?!」

 ガラス張りの教室には整然と机が並べられ、教卓がおかれている。綱吉は机に並んで空いている空間を縫ってくまなく探すが、人が倒れている様子はない。隠されてないか掃除用具入れも開けてみたが、用具が突っ込まれてそのままだった。
 彼の名前を叫びながら何度も呼び続けたが返事はない。
 綱吉は一つ一つ教室を開けて荒らしては出ていった。

「ディーノさん! 何処ですか?! ディーノさん!!」

 綱吉は声を張り上げる。
 職員室らしき室内にもディーノの姿はなかった。
 学校の端にたどり着いた綱吉は今度は階段をかけ上がる。
 たどり着いて曲がって、綱吉は急停止した。

「?! お前は?!」

 廊下の中央。
 そこに鳥居の前に立っていた少女がいた。
 綱吉はきっと彼女を見据えた。

「お前! ディーノさんをどこに…――」
「ハズレ」
「?! ハズレ…?!」

 からーん。

 下駄の音と共に、少女は近寄っていた。

「ハズレよ、ハズレ。ここはハズレ」

 からーん、と綱吉を通り越して。
 振り返ると、また、からーん、と下駄の音。
 追いかけると階段を降りた先に、少女は背を向けて立っていた。

「あと、少し」
「待て! ディーノさんを何処にやった?!」

 その疑問に答えてくれることもなく、少女は下駄の音を残して消え去った。
 どういうことだ?
 子供が集まるところは学校や空き地や公園だって…――でも、空き地や公園は地図上には書かれてない…。
 道はあっているのだから外れているわけではないから地図が間違っている訳でもないだろう。

 なら何処だ?!

 綱吉は残りの空き教室を探しながら突っ込んで間もない携帯電話を再び取り出し、草壁に繋ぐ。彼にはすぐ繋がった。『どうしましたか?』と草壁の問いかけ。

「見つからない! あの子が来て、ここはハズレだって!」
『なんですって?!』

 綱吉は他の戸を開けて中を確認する。

「見当たらないんだ!」

 全ての教室を開け放って綱吉は端に辿り着いてしまった。あとは階段を降りた先の部屋。

「ここ良いなぁ」
「!?」

 再び、階段を降りた先に立っているあの少女。上にいる綱吉を見上げていた。

「ここで勉強したかってん」

 からーん、と少女は階段の半分を登っていた。

「こないな大きなところで勉強したかってんなぁ」

 からーん。と、また通り越して、背中に鳥肌が立つほど冷たい何かがぶつかった。
 寄り掛かられて踏ん張る足に力が入る。

「こないな大きなところで、みんなで遊びたかってんなぁ」

 からーん。と、よしかかっている力は消えた。
 振り向くが、少女はいない。いつものように、下駄の音を残して消えてしまっていた。

『沢田さん…?』
「あ、あぁ…ごめんなさい。今、例の子と会っていて…」
『なんて言ってました?』
 草壁は冷静に問いかける。

「ここで勉強したかったって。こんな大きなところで勉強して、みんなで遊びたかったって…」
『…――勉強したかった…』

 草壁は沈黙する。
 たぶん何かを考えているのだろう。
 綱吉は携帯電話を片手に綱吉は残りの教室も探したが、やはり見当たらず玄関に戻って来てしまった。

「やっぱり見当たらない…」

 くそっ、とはやる気持ちが口に出る。

 勉強したかったってどういうことなんだろう…。
 学校って子供はみんないくところじゃないのか?
 過る疑念は解決を導くことはなく、綱吉は携帯電話に耳を傾けながら学校を出た。

 勉強したかった。
 こんな大きなところでしたかったと言ったあの子は、どんな気持ちで学校に通っていたのだろう。
 それとも、通っていなかったのか?
 いいや、「ここ良いなぁ」とは言っているあたり、勉強は何処かでやっているはずだ。「こんな大きなところでしたかった」と言っていた。
 じゃあ、何処でやっていたんだ? 家? それとも、ここ以外の何処か…――。

『沢田さん! それです!』
「へ? え?」
『今、沢田さんが言ってたから思い出したんですよ! 学校以外にも子供が集まる場所があります!』
「え?! 喋ってた?!」
『はい。無意識でしょうが! ちょっと待ってください。あぁ、それと軽く体操でもしていてください! 確かこっちら辺に……』

 何故に体操?!
 綱吉の疑問には答えてもらえず、草壁は携帯電話をテーブルか何かに置いてしまったようだった。
 あった、と微かに聞こえてきた声。草壁は携帯電話を握った。

『今から寺院までご案内します! 学校を出て右に曲がって下さい!』
「寺院?! どういうこと?!」

 綱吉は言われるがままに走り出して学校を出て右に曲がった。まっすぐな道が続く。

『学校の原形は何だか知っていますか?』
「え? 学校に原形?!」
『えぇ。初めの学舎は『寺子屋』と呼ばれ、寺に子を集めて読み書きを教えていたんです!』
「あぁ、習った気がす…――」

 る、と繋げようとしたら『足を掴まれて』派手に地面に転んだ。
 持っていた携帯電話が地面が滑る。

‐まって…‐

 耳を刺す言葉に足元を見やった。

 草壁さん。あなたの推察は正しいみたいですよ。

 足首を掴んでいるそれは酷く冷たい手だった。地面からにゅっと生えて、綱吉の足首を掴んでいる。
 綱吉はズボンのポケットに詰めていた手編みの手袋を嵌めて死ぬ気の炎を灯した。起き上がって、異物の魔手から携帯電話を救い出す。
 携帯電話の奥で、草壁はずっと綱吉を呼んでいた。

「待たせた!」
『何があったんですか?!』
「邪魔が入った! 寺院に行かせないつもりだ!」
『そうでしたか』

 次々と、肉塊が沸いて出て、それを片腕の炎で焼いては千切り捨てた。

『呉服屋を通り越したら左に曲がって下さい!』
「分かった」

 呉服屋の前で死者の人だかりができる。真っ先に顔面へ蹴りこんで身をよじらせ、隣に回し蹴りを加える。ぐちゃ、と潰れて空いた隙間から綱吉は人だかりを越えて呉服屋を通り越した。
 左に曲がったら曲がったで現れた異物に、綱吉は携帯電話を開いたままポケットに入れて掌を向ける。
 背中側にも掌を向け、真正面への攻撃と支えの炎を同時に放った。一気に辺りを焼き付くした炎は焼け焦げた腐臭を残して黒く立ち上った。
 片腕の炎を消して、綱吉は草壁に左へ曲がったことを伝えた。
 このあとも、草壁からの指示を受けながら綱吉は突き進んでいった。肉塊に阻まれるたび、容赦なく蹴散らしていった。

『その先にある十字路右に! 寺の裏側に出るはずです!』

 すでに瓦屋根が見えていた。

「助かった!」
『では、無事に帰還をお待ちしております』

 綱吉は草壁に礼を言って携帯電話を閉じた。目の前の肉塊を一蹴すると右へ曲がった。
 そびえ立つ木造の塀を越えて裏側から侵入する。高欄の立っている廊下を飛び越えた。

「ディーノ! 何処だ?!」

 走って表へ回る。
 しかし、階段が置かれているだけで見当たらない。出入口であろう腰付き障子を開いた。

「ディーノ?!」

 薄明かりに照らされた寺の内部、ディーノは服を汚し、板張りの床に仰向けで倒れていた。
 それを人がディーノを取り囲んでいる。
 生気のない、がらんどうの肉の塊。突然の珍入者にぐりんと一斉に顔をこちらに向けた。
 人だ、人だ、と窪んだ目のない目で視認して呟く。
 綱吉は彼らを睨んだ。

「返してもらう…!」

 ぐっと拳を握り締めた。
「オレの仲間を! 返してもらう!」

 両手に炎を灯して、構えた瞬間だった。
 ひゅん、と風を切る音と共に、次々と赤い紐が後方から伸びてきて人の塊の首に巻き付いた。
 綱吉が驚く間もなく、ぴいんと張られた紐がその首を絞って切り取った。
 玩具のようにぽんぽんと首が飛ぶ。そうして飛んでいった身体からどろどろに溶けて広がっていった。

「間に合いましたね」

 綱吉は振り返って目を見張る。

「西院島…!」

 彼女は赤い紐を手に首をかしげて笑んだ。それは場違いなほど、お姉さんらしい笑顔だった。

「さぁ、帰りましょう?」

 そうして、それを合図かととったように、寺の風景が『ぐにゃり』と歪んだ。

[←*][#→]

27/33ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!