道物語り
タイプ
綱吉からのメールであることと、綱吉が西院島を疑っているメールだと雲雀を説得に成功した。獄寺の推測ではなく、リボーンがメールを確認した上でその可能性もあると言ったからだが。その為、メールを返信するべく雲雀は片手で打ち続けている。
「そう言えば、富永の代わりに新しい病院長が就いたのは聞いてる…―――雲雀、『何かした』か?」
リボーンの問いかけに、雲雀は「勿論」と頷いた。
「並盛から消えてもらった。賄賂を渡してね」
「テメっ…!」
あっさり暴露された驚愕的な真実にじんわりと怒りが沸くのを獄寺は感じた。それに続いて、並盛を愛する青年は表情を特に動かさなかった。
「並盛の空気を吸わせたくないから追い出しただけ。べつに、あれが何処で生きていようと構わないでしょ。
それとも、自分の手で殺してやりたかった?」
「誰がそんな物騒なことを考えるか。せめて、気がすむまでぶん殴ってやるぐらいはした」
やられたら殺り返す主義の雲雀とリボーンにそれも物騒な発想であるという事実に指摘はなかった。
リボーンは獄寺に同意し、雲雀は「僕には関係ない」とまたメール画面に食い入るだけだった。
「全く、そんな奴に要らない手配と配慮が出来んなら普段からそうしろってんだ」
そうぼやくと、雲雀は半眼で獄寺に視線をくれた。
「誰にするの。西院島は普段、並盛には居ない」
「十代目にはそれぐらい気を使えってんだ」
面倒臭いの一言で、雲雀はあっさり切り捨てた。
どう見ても犯罪的な手法ではあるが、雲雀には珍しく穏便に済ませた形だ。彼ならば金など必要なく追い出すことぐらいできるだろう。それこそ、隣町の病院に送りこむとか。
獄寺が「じゃあ」と続けた。
「知識優が学校来ねぇのは追い出したからか」
「知識優は正式な子供だ。追い出してないし、追い出す必要がない」
「んじゃ、何で来てねぇんだよ」
「知らないよ。知識優の登校にとやかく言った覚えはないよ。登校拒否じゃない?」
雲雀はそれから一息吐いて携帯電話を閉じた。
「嗅ぎ分けた? 『異臭』」
「まだだ。つーか、こんな馬鹿デカい所で直ぐに見つけられるわけないだろ!」
獄寺は雲雀の身体に『まとわりついてる』臭いに眉をしかめた。綱吉より劣る強さとはいえ、雲雀の側で嗅ぎ分けるのは大変だ。
本来、嗅覚は五感の中で一番『疲れが早い』感覚だ。俗に、臭いに『慣れる』という現象だ。強烈な匂いでも時間が経つと薄くなったと感じる。しかし、その現象が『一向に現れない』。ずっと雲雀の身体を巻いている『臭い』が、鼻を刺激し続けているのだ。
「だから、その鼻をもっと使えって言ってるんだよ…!」
「だったら、テメーが今から1キロメートルオレから離れろ! そしたら少しは臭いも和らいで…―――」
「そーだ、雲雀。今更だから気になった事がある」
「何、赤ん坊」
ころりと態度を変えた雲雀に、少なからず怒りが沸いた。しかし、それも直ぐにリボーンに対する尊敬へと変貌する。
「お前が探してるその『臭いのある場所』ってのは、異界の入り口ってことか?」
しばしの沈黙した雲雀は頷いて肯定した。
「神隠しや人形探しの時に出来た『異界』とは『異なる』よな?」
「あぁ…」
リボーンの問いかけに、雲雀は目を細めた。
獄寺はその表情に違和感を覚えながらも、巻き込まれた綱吉が教えてくれた異界について分析した。
神隠しの時はユキコという母親が作った異界。娘の小春を探すために作った。
病院では石崎学って子供が作った異界。失った右足を元に戻すべく、自分にあった足を見つけるために。
そして最後に、学校裏に出来た異界は標的を閉じ込めた。面白かったですよ、と笑った骸が教えてくれた話だったが、綱吉が酷く不満そうに唇を尖らせていたのを覚えている。十代目のあの顔は「笑い事じゃない」とお考えの表情だった。
「じゃあ、何で臭いがする場所が『入り口』だなんて断言できるんだ? 今まで、『1つとして同じ異界はなかった』はずだ。何で『そんな場所があると知ってる』?」
ピタリと、雲雀の動きが止まった。
「神隠し、人形探し、学校の裏側。発生する場所が分かっていたから、ツナやお前も異界に入ることができた。でも、発生する条件、、侵入の仕方。中には入れない奴だっている。
異界ってのは化けモンが『何かやらかすための世界』だろ?
それなのに、何でそこが入り口だと…―――」
「少し違う」
雲雀はそう呟いて、また歩みを進めた。
「異界は『怪異の存在理由』だ」
―――存在、理由…?
ぼそりと復唱したリボーンに、雲雀は続けた。
「そこから約3種類に別れる…―――。
1番分かりやすいのは、『達成するため』。神隠しや人形探しと言えば分かるだろう?」
確かに、と頷くリボーンに獄寺も心中で頷いた。
「2つ目は存在理由を『隠す』もの…此方と世界を『切り離して』別の世界を作る。
榎本興治が学校の裏に作ったのがそれだ……。
3つ目は…―――」
そう言葉を詰まらせて。
「存在理由…『そのもの』だ」
深く、息を吐いた。
「理由不明の存在理由で世界を築き上げて、その中で『生きる』こと…―――独自の世界観で則(のり)を作り上げ…引きずり込んで取り込む…―――これが、一番厄介なタイプだ…」
雲雀は軽く鼻で笑った。
「まぁ、滅多に遇わないけどね。遇ったりしたら、大変だし」
雲雀は足早に歩みを進めた。
「とにかく、早く異臭を見つけてくれる? 急がないと…―――」
「あと1つ。どうしてツナを連れていかないと『遇えない』んだ? 紐がどうとか言ってたな」
ちっ、と雲雀の舌打ちが聞こえた。微かに、雲雀の身体に巻き付いている『臭い』も強くなった。
しかし、すぐに彼は此方へと振り返った。
「これは沢田自身にはまだ話していない話だ。今まで、確証が得られなかったから…」
「じゃあ今は、『確証を得た』状態なんだな?」
リボーンの問いかけに、雲雀は静かに頷いた。
普段からその素直さを是非とも見せてほしいものだと獄寺はふつふつと沸いて来た怒りを抑え付けた。
「沢田の『呪い』は、『穴』なんだ…」
雲雀は、ポツリと呟いた。
∞∞∞
西院島直要(さいじまなおい)。
本名、結解直要(けっけなおい)。
彼女は語っていた。
「『穴』は行き着く先が何であれ『入り口』が必ずある。人が石炭を求めて掘り進んだ『坑道』や、モグラが住みかとする小さな『穴』でも。掘れば何処でも進められる…―――つまり“無数に広がれて、成功すれば他の所に『穴』を開けられる。無数に出口が出来て、その『穴』さえ場合によっては『出入口』になる”…―――綱吉君。君の『穴』はね、近くにある『異界』に『繋がる』んだって」
雲雀に様を付けて、西院島は彼から聞いたと答えた。
彼女はブリキのゴミ箱に座っている。もう少し椅子代わりのモノが探せばあると思う。そして、探してくると綱吉は申し出たが、西院島は大丈夫だとそのゴミ箱に座りこんでしまった。
「私は会ったばかりでよく分からない。けれど、雲雀様の言っていることに間違いはないと思っています。私が綱吉君の傍に長い間居れば、分かるのだと思うけど…―――うん。凄く絶望的ね」
西院島はそんな事を全く思ってもいないような笑顔で答えた。
「私達、結解は色々な人に出会って来たわ。綱吉君みたいなタイプの人にも。でも所詮『タイプ』なのよ。危険な『タイプ』ではあるけれど、更に細かく危険度を分類した場合、綱吉君ほども危険度の高い人は初めて見たわ」
「ほ、本当に絶望的なんですね…」
声をすぼませて綱吉は呟いた。
「私達は怪異に関係する人には必ず『自発』、『連座』、『自壊』、『無縁』の4タイプがあると言っているわ。あぁ、でも。『無縁』は違うわね。
まずは3タイプを怪異現象で例えましょう。コックリさんをやるという例えで良いかしら?
まずは『自発』…―――怪異現象の主軸になったり、引き金を引いてしまったりするタイプよ。コックリさんを召喚出来るタイプね。
次に『連座』…―――これは巻き添えを食うタイプよ。コックリさんをやろうって誘われて嫌々やらされるタイプね。
最後に『自壊』…―――これが一番可哀想なタイプ。コックリさんに憑依されてしまう子ね。精神的に弱かったり、憑依されやすい体質の子が大体このタイプよ。
因みに、綱吉君はどれも併せ持つ『スペシャリスト』。
君があらゆる手段で阻んでも、どんなに嫌がって逃げようとしても腕の『呪い』が有る限り、必ず『怪異』は近づいてきて巻き起こる」
並べたてられた言葉に、綱吉は殆どに心当たりが合った。
神隠しでは雲雀が止む負えなく綱吉を連れて行き、なんやかんやで最後の方は骸の巻き添えをくった。呪いまで貰ってくる始末だ。人形探しは綱吉が引き金だった。
「じ、じゃあ、やっぱり、皆でここに来ちゃったのって…」
「今回は…う〜ん…―――」
西院島は目を閉じて、ちょっと眉間にしわを寄せた。
「今回は綱吉君が原因ではないはずよ。雲雀様から並盛で起きている失踪事件を聞いたわ。いいえ、どちらかと言えば早期解決のために知恵を貸してくれないだろうかと協力の要請をされましたの。一番、信用できるのは私だけって」
一瞬だけ寂しそうな笑みが浮かぶ。
「やっぱり、もう駄目ね」
「え?」
「こっちの話よ」
西院島は「こっちの話なんだけど」と唱える。
「綱吉君には、知っていてもらいたいわ」
西院島は綱吉を一瞥した。
「基本、四家は他家に不干渉なの。でも、雲雀様のお母様は違ったわ。私と雲雀様を遊ばせてくれて…―――」
「その『四家』って何ですか?」
「あぁ、話ししてなかったわね。知識、結解、神谷の三家を統率するのが雲雀。これが四家よ。並盛町長さえも顎で動かす並盛最凶最悪の集団ね」
嫌っているのが嫌と分かるほど西院島はケラケラと笑った。
「人々を知によって結んで動かす。天子を捧げてこの地の神を静めるのが、四家の役目…―――」
西院島はそうぽつりと呟いた。
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