[携帯モード] [URL送信]

道物語り
使い捨て
 西院島とは対照的にぱっと明るい表情を見せたディーノは綱吉に詰め寄った。その一瞬、こけそうだったが何とか持ちこたえたのを綱吉はしっかりと目撃した。

「恭弥のメルアド知ってんのか?! なぁ、オレにも教えて…―――」
「ちょっと! 貸して!」

 再び西院島は携帯電話を綱吉から取り上げた。それは先程よりも驚きを示して。
 しかしそれ以上に綱吉は驚いて、心臓を跳ねさせた。

「かかか! 返して下さい!」

 間違いなく先程の質問に対する返信だ。怪しまれているのがバレたら、この後どうなることか。しかし西院島は再び携帯電話を睨みつけて動かなくなってしまった。

「…やっぱり圏外…―――」
「え? でも、圏外じゃメール受信できないよな?」
「そう、ですよねぇ…」

 西院島は「おかしいなぁ」と携帯電話をぶんぶん振った。綱吉は逆に壊れるのではないかと心配になりながらも、西院島に手を伸ばす。

「か、返して下さい! 雲雀さんからメールが…」
「あらそうだったわ。雲雀様からメールだものね」

 はい、と西院島はあっさり綱吉に返すと、軽くウィンクした。

「メールを見終わったら、また貸して?」
「い、良いですけど…―――ぜ、絶対メール見ないで下さいよ…?」
「大丈夫よ? 寧ろ、中身を知ってたら雲雀様が殴るに決まってますから」

 にこやかに、西院島は物騒なことを平然と言い放った。

「(雲雀さん、誰にでも容赦ね…―――)」
「綱吉君をね」
「オレですか?! オレが殴られるんですか?!」
「えぇ。理不尽だとは思うけれど、雲雀様はそういう方なんですの。『携帯電話は個人情報の塊だ。それを覗かれるのは管理不届きだ』って」

 確かに、雲雀ならそう言いかねない。それに西院島よりも綱吉に殴りかかる方が容易に想像できた。殴られてもいないのに痛みが生じ、殴られている所為か身体が痛みを覚えてしまったのだと痛感した。

「あの方から携帯電話を貰っていて、更には電話番号とメールアドレスまで教えてもらえているなんて本当に凄いことなんですよ?」
「そんなに恭弥の携帯アドレスって貴重なのか?」

 首を傾げたディーノに、えぇ、と西院島はにっこり笑った。

「確かに…守護者の中でも電話番号を知ってるのはボンゴレだけでしたね……」

 ちらりとランボはこちらを見た。嫌ぁな未来が見えた気がして綱吉はついっと顔を反らした。

「雲雀様は月一で携帯電話を会社ごと機種変更して、番号とメールアドレス換えますから」
「は?! 携帯を会社電話ごと?!」
「え? 普通じゃないんですか?」

 携帯電話とメールを変更するのは携帯電話を持って知っていた綱吉は仰天するディーノを不思議に思った。メールの使い方よりも先に番号とメールアドレスの書き換え方を雲雀から教えてもらったぐらいだからだ。

「場合によれば、変更したその日でも変更するんですよ。使えなくなったって」
「は?! 携帯電話も使い捨て?!」
「そ、れは…初めて聞きました」

 綱吉とディーノの反応を笑って見守っていた西院島だったが、ふぅ、と息を吐いて肩を下げた。

「それも仕方ないんです。雲雀様の所持物は、念入りに行わないといけないんです」

 改めてこちらに顔を上げた西院島は、寂しそうな笑みを携えていた。

「西院島さん…?」

 曇りある笑みをすぐに掻き消して、西院島は指を差した。

「あちらに行ってみませんか? 先程、美味しい匂いがした気がするんです」
「マジか? よし、行ってみようぜ!」
「ディ、ディーノさん!」
「そうだ、綱吉君」
「は、はい?」

 西院島は再び鞄を漁ると、中から出てきたのは紐。それも、単純に糸を寄り合わせただけの黄色い紐。それを、何も持っていない綱吉の細い手首にくるりと巻き付けて蝶結び。少し、蝶が大きいけれど。

「あら、嫌だ。羨ましい細さね。手首」
「は、はい?!」
「外さないでね?」
「え? あの…」
「あ、電話と言えば!」

 西院島はぱんっと手を叩いて先を歩き出したディーノ達に呼びかけた。

「皆さん『メリーさん』という電話の怪談をご存知ですか?」


 ―――っ!!?

 身体が戦慄を覚えて寒気を呼ぶ。
 一気に引いた体温。
 呑気に「知らねぇな」と答えるディーノと、「知ってますよ」と少し自信の見える笑みを浮かべたランボが説明を始めた。
 視界に入っている筈のやり取りは、絵画の向こうだった。

 ―――『メリーさん』…?! な、何でこんな状況で…?!
 ―――やっぱり、西院島さんはっ…!!

 先を歩いていた三人。その内、黒い長髪の女性がくるりと綱吉へ振り向いた。
 彼女と綱吉は改めて目があった。
 そして、その女性はくすりと潤いのある口元に笑みを浮かべた。

 それは…―――酷く嬉しそうな笑顔だった。

 背筋から氷塊が滑り落ちた。
 脳内に鳴り響く警鐘が喉から発する言葉を押し止めた。
 カラカラに渇いた喉を、なけなしの唾液で潤す。ごくり、と音が鳴った。
 服の裾を引っ張られる感触に『気付かず』に。

「お兄ちゃん…」
「え…?」

 足元から聞こえてきた少女の声。
 いい知れぬ恐怖に真っ直ぐ先を収めている視界が少しずつ、少しずつ足元へとずれて行く。

 待って。『何時の間』に『この子』は居た?
 だって、ついっさっきまで四人だけだった。
 ここは人気がない。人がいないみたいだってディーノさん達も言ってた。
 それに…それに…―――『こんな所』に…。

 女性の叫び声。
 それが今の綱吉に届くこともなく。
 一般常識を異常に覆している綱吉の脳内で導かれる答え。
 それは普通に酷く常軌を逸していた。


 こんな所に『普通』の『人間がいるはずない』。


 そんな分かりきっている答えを、
 認める必要もない答えを、
 綱吉は確認するべく顔を下向けた。
 『要らない』答えは、やはり『要らない』事実を導く結果となる。

 足にしっかりと絡みついていた物体は、顔どころか全身をドロドロに溶かして窪んだ眼球部分をこちらに向けていた。
 肌も碌に人間の色などしていない、酷くくすんだ皮と骨の塊。生けとし生けるモノの全てが必ず行き着く『末路』。

「ぁ……ぁっ…―――!」
「綱吉く…―――」
『…チョウダイ…―――』

 少女から、醜くてしわがれた『死者』の言の葉。
 がしっと腐臭ととろけた手が箱を握っている腕を掴んだ。
 ぶよぶよした君の悪い感触に押し留まっていた綱吉の恐怖心が、一気に駆け上がる。

「うわぁあああ"あ"あ"―――!」

 脇目も振らずに走り出す。
 後ろからの声を振り切って。
 肌に纏わりついた粘着質の物体も鼻を劈く腐臭も構わずに、綱吉はただその場からの逃走を選んだ。

[←*][#→]

12/33ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!