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道物語り
携帯電話
 『いつひとさん』の話題は何とか誤魔化す事が出来た。
 もともと日本に住んでいないディーノは知らないし、未来から来ているランボは『いつひとさん』が起きていた頃は五歳児だ。覚えているとは思えないし、パラレルワールドという不確かだけれど枝分かれしている何処かの世界からランダムにやってくるランボが『いつひとさん』を経験しているかは不明だ。
 そして、当然、自分は完全否定に徹する。
 そうなると、西院島も深くは聞かずに話を切り上げたのだ。

 しかし、綱吉がほっとしたのも束の間。危機的状況であることには全く変わりない。
 一難去ってまた一難とは言うが、元々、災難の渦中に舞い込んだ難が解決しただけである。

 ―――どうしよう、どうしよう! 本当にここ何処だよ〜?!

 半ベソをかいている心境の綱吉とは打って変わって、外国人のディーノとランボは楽しそうに一昔前の商店街を見回していた。

 ―――西院島さんもよく分からない人なのに、どうすれば良いんだ、コレ?!

 ドキドキと早鐘を打つ心臓の音を耳が捉えながら、綱吉は口を引き結ぶ。
西院島がどんな人間なのか分かるまでは警戒が必要だ。
 あの状況で『いつひとさん』を切りだして来たということは、富永正男のように怪異と、そして雲雀と関わりがあるのだろう。富永は人形探しや『いつひとさん』では、裏側で色々やってくれたのである。
 雲雀と連絡を取れる手段はないかと思考を弄(まさぐ)った。
 そして、胸ポケットの膨らみに綱吉は閃く。

 ―――あるじゃん、携帯電話!

 膨らんだ期待に綱吉は胸ポケットから黄色い携帯電話を取り出した。ぱかりと開いて、いつもの待ち受け画面に綱吉は眉を顰めた。

 ―――あれ。でも、電話したら西院島さんに怪しんでるのがバレるし…って、そうだ! メールにすれば…。

「あら? 綱吉君、携帯電話なんか持ってるの?」
「え?! あ、えっと…―――は、はい。雲雀さんから持ってろって…」
「携帯電話…―――そうねぇ…」

 空笑いでかわすと、西院島も何かを思いついたのか鞄をごそごそ漁り始めた。
 その間に綱吉は西院島から見えないように数歩下がって、両手で雲雀へとメールを送る。上手く使えないので全てひらがなだ。そっちの方が色々早いし。

 送信ボタンを押せば手紙が送りだされるような画面に切り替わる。それもあっという間で、すぐに『送信しました』と画面が表記した。

「(よし。これであとは返信を待てば…)」
「やっぱり、圏外ね…」
「え? けんがい?」

 西院島はサーモンピンクの携帯電話を残念そうに見下ろしていたが、にこやかに「あら」と携帯電話を閉じた。

「圏外知らないの? 携帯電話持ってるのに」
「あ、えっと…―――はい…」

 声を小さくして頷くと、西院島はクスクスと笑いながら説明してくれた。

「圏外って言うのは、携帯の電波が届かない時のことを言うの。その時は通話出来ないし、メールも送受信出来ないのよ」
「え? でも、オレ今…―――」

 言い掛けて綱吉は慌てて口を噤んだ。しかしそれも遅く、西院島が「今?」と首を傾げて覗きこむと、すぐに目を見開いた。
 綱吉はたった今雲雀宛てにメールを送信したのだ。その画面が今もメールを送信した事実を物語っている。
 携帯を持ったばかりの綱吉は携帯について知識は少ない。本来、圏外状態でメールを送ろうとすれば絶対『送信できませんでした』と失敗し、送れずに終わってしまう。そうして、電波がギリギリある所を探して送るのだ。
 そんなのは携帯を持った人間ならば大概知っていることだが…―――携帯電話を不携帯する綱吉は全く持って、西院島が驚いている理由が分からなかった。
 しかし、綱吉の携帯電話は普段通り、いつも通り。画面の左上の電波は『3本』だった。

「電波も立って…! 貸して!」

 西院島は綱吉の手からひょいっと携帯電話を奪い取ると、携帯画面を睨んだ。

「さ、西院島さん…―――」
「やっぱり…圏外…―――」
「え?」

 西院島はしばし逡巡した後、綱吉の携帯電話をぶんぶん振り始めた。綱吉の許可も得ることなく玩具のように上下に振る。

「なっ! 何やってるんですか、西院島さん!」
「コレやると時々電波が良くなるのよ…―――! でも駄目…ここかしら!」

 西院島は振り終わった携帯電話をむぅっと睨みつけて、今度は来た道を数歩だけ戻った。しかし、また難しい顔をするばかりだった。

「西院島さん…さっきから、何を…?」
「何処かに電波の良い所があるみたいなの! もし電波の良い所があれば、もしかしたら電話が繋げるんじゃないかと思ったんだけど…―――」
「どうしたんですかー?」

 はしゃいでいたランボと、ディーノが戻って来た。
 少々取り乱していた西院島は居住まいを正して「おほほほほー」と口許に手を添えた。
 ちょっと、嘘が下手なようだ。

「人はいらっしゃって?」
「いや。人っ子1人もいないぜ?」
「オレ達、随分奥に来ちゃったみたいですね…」
「そうですか…」

 西院島は残念そうに肩を落としたが「そうだわ」と、片手に持っている携帯電話を二人に見せた。

「お二人さん、携帯電話は持っていらして?」
「残念ながら、オレは持ってないです」
「オレは持ってるぜ」

 ディーノはパールホワイトの携帯電話を取り出すと、西院島は「ちょっと良いかしら?」と手を出した。ジェントルマンなディーノが断る筈もなく、その携帯電話を西院島へと手渡した。彼女はそれを開いたが、むぅと唇を尖らせた。

「やっぱり…圏外ねぇ…―――」

 諦めた西院島はディーノと綱吉に携帯電話を返した。
 ディーノは改めて携帯電話を開くと「本当だ」と呟いた。その後、西院島同様に携帯電話をぶんぶん振って再び画面をみやる。その行為をすると、電波が良くなるのは全世界共通のようだ。
 綱吉は改めて西院島から携帯電話を返してもらい、包むように持った。

 ―――どういうことだろう…さっきは、ちゃんとメールが送信でき…。

 すると背面ディスプレイが手紙のマークを映しだした。赤いランプが点滅して、携帯電話のバイブレーションが『揺れた』。画面にはメールを受信しました、と表記された。
 勿論、メールの主は。

「雲雀さんからだ」
「お?」
「え…?」

 驚く西院島。
 目を輝かせたディーノ。
 二人が、ほぼ同時にこちらを振り向いた。

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