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道物語り
珍しい来訪者逹
 秋口に入って暑苦しさが和らぎ、涼しい風が過ごしやすさを感じられるようになった。
 並盛を騒がせていた『いつひとさん』も噂もなくなったように聞かなくなってきた。
 しかし、沢田綱吉に対する疑念は消えていないのはクラスメイト達の様子から見てとれるが。
 だからと言って、怪異に関係した所為でそんな事になった、と説明するつもりは更々ない綱吉は黙ってその奇異の目を受け流すようにした。そして目立たないように授業中は当てられても「分からない」の一点張り、スポーツは今一感覚を掴みにくいので動かないように心掛けている。

 学校からの帰路についた綱吉と自称右腕の獄寺隼人はいつものように談笑していた。
 あの『いつひとさん』の一件から、獄寺にも『嗅覚』による特異能力が備わった。その原因は自分に有ると六道骸は笑いながら告げた。

 理由は餓鬼道による『いつひとさん』と獄寺の同時に憑依したこと。彼の特殊能力である餓鬼道は彼の精神を憑依させて操るものだ。それは彼の意思で動かせる。しかし、それは同時に『繋がって』もいる状態だというのだ。『間接的』に怪異に触れてしまったのが有力線ではないだろうかと悪びれもなく答えていた。
 あの房を引っこ抜いてやろうかと思ったが、当事者である獄寺は大して何を言うこともなく清々しいほどその事実を受け入れた。
 もとからUMA(未確認生命体)などに興味があった彼は神隠しの一件から心霊現象にも知識として取り入れ始めていたらしく、その特異能力が備わってからと言うものオカルト関連の話が増えてきた。

 夏休みの『神隠し』から立て続けに起きた『人形探し』、そして噂の『いつひとさん』。
 綱吉が引き金だったり、突っ込んで行ったりしたわけだが、綱吉自身ホラー系統はめっきり駄目なのだ。

「じゃあね、獄寺君。また明日」
「はい! また明日!」

 家門の前で一礼する獄寺に再び別れの挨拶をして、ドアノブを握った。捻ると硬い感触に阻まれて、家に鍵が掛っているのを教えてくれた。

「母さん達、買い物か…」

 玄関の傍に有るプランターを持ち上げると隠してある鍵。それを鍵穴に捻じ込んで開く。かちゃ、と軽快な音を立てて鍵は解放された。鍵を元有る場所に戻して玄関に入ると、綺麗に並べられた黒い革靴と少し薄汚れているスニーカーが玄関に転がっていた。

「…気の、所為かな…―――どっちも見たことあるような…」
「おー。帰ったか、ツナ!」

 聞き覚えのある大人びた声に、綱吉ははっと顔を上げた。靴を慌てて脱ぎ捨てリビングのドアを開け放つと、そこに靴の持ち主『達』は居た。

「ディーノさん?!」


 ていうか、マジで何やってんだ、あんたら!


 唖然とするしかないこの光景。
 何故か、兄貴分のディーノと暴君雲雀恭弥がリビングという同じ空間に同棲していた。
 ディーノは恐らく奈々達がいる間に迎え入れられて留守番を頼まれ、ソファーに座っているのだとして。

「雲雀さん! 何で居るんですか?!」

 この1人大好きっ子の暴君様が、何故この家で寛いでプリンまでほうばっているのか不思議でならない。
 プリンの容器を見て見れば、ラ・ナミモリーヌのとろけるプリン。自分でわざわざ買って来たのだろうか。しかし、昨日ジュースを飲むのに冷蔵庫を開いた時にそのプリンがあったのを鮮明に記憶している。

「何。居たら駄目なの…?」

 ぶっすりと表情を歪めた雲雀に、怯えながら言葉を丁寧に選び直す。

「駄目とかの問題ではなく…えーっと、雲雀さんは何しに来られたのでしょうか…」
「この前、君に言ったじゃない。『遊びに行っても良いかい』って」

 つまり、予告もなしにそれを本日決行したことだろう。
 少し呆れにも変わってきたこの状況。雲雀はそれにしても、と湯気が立ち上っている湯呑を置いた。

「ラ・ナミモリーヌのお菓子は良いけど、やっぱり和菓子が良いね」

 ぺろっと平らげておいてそれを言いますか。

「前もって今日来るって言ってくれれば、準備しましたけど…」
「客人なんていつ来るか分からないじゃない。用意してない方が悪いんだよ」

 え。
 これ、オレが悪いんですか?

 自分に非はないと思いながらも、綱吉ら謝って鞄を担ぎ直す。
 それにしても、とディーノがにっこり笑った。

「ツナの家着いたら、いきなり恭弥が出て来て驚いたぜ」
「名前で呼ばないで」
「え?! 雲雀さんの方が先なの?!」

 あはは、と笑うディーノに、今度は後ろで雲雀が「全く…」と呆れたように呟いた。

「不用心だよ君の家。窓の鍵が閉まってないじゃない」
「す、すみません…多分、洗濯物を干した時に母さんが締め忘れたんだと…―――」

 リビングに光を入れる大きな窓から、揺れる洗濯物をちらりと見やる。

「まぁ。入れたから良いけどね」
「ちょっと待って下さい! 玄関からではなく窓から入って来たんですか?!」
「開いてなかったからね」
「いえ、あの…」

 雲雀さん。それを家宅侵入という罪に問われるのはご存知でしょうか?

 そう思考して、ぴしりと綱吉は自身が固まったのをしっかりと感じ取った。
 しかし、ディーノはそんな事実も特に気にせず、それでさぁ、と笑い始めた。

「玄関開けてくれたのが恭弥でさ。驚いたぜー? しかも、開けたくせに玄関締めて鍵まで締めるもんだから、オレも窓から…―――」


2人共、玄関から入っていらっしゃらない!!


 2人の侵入経路を聞いてがっくり膝をつくと、ディーノは不思議そうに首を傾げた。傍から見たら泥棒に見えるという事実を告げるべきだろうか。しかし、この町で暴君と知れ渡っている雲雀は注意した所で気にしないだろうし、ご近所さんも青い顔で黙っているに違いない。それでディーノだけに忠告するのも躊躇われる。結局、綱吉は言わないという選択をして鞄を担ぎ直した。

「えっと…雲雀さんもディーノさんも、家に遊びに来たってこと…でしょうか?」
「あぁ…―――ジャッポーネに来たついでにな」
「僕は遊びでなんて来ないけど」
「じゃあ何しに来たんだ、恭弥?」

 再びディーノに名前で呼ばないように釘を刺す。それから、彼には「関係ないことだ」と言って綱吉の襟首を掴んだ。ぐいぐい襟首を引っ張られて強制的に2階へと連行されていった。その後を、ディーノが楽しそうに追ってくる。

「何の話だよ?」
「君には関係ない。下で留守番してなよ」
「良いじゃんか、話ぐらい聞かせてくれたって!」

 しゃき、トンファーを握り締めた雲雀は早速ディーノの顔面を殴りつけてぶっ飛ばした。ディーノは玄関のドアに頭から突っ込み、その場で痛そうにのた打ち回った。

「ディ、ディーノさん?! 大丈夫ですか―――」
「怪異だ」

 ぴく、と思考が止まって身体が硬直する。雲雀はグイッとまた襟首を引くと階段を上り始めた。

「上で」


 簡潔に場所を指定され、綱吉は了承する。いてて、と頭を撫でながら起き上がったディーノに、リビングで奈々達を待つようにお願いし、それから綱吉は雲雀と共に自室へ案内した。少し散かっている部屋を綺麗にして座布団を用意する。
 こんなに間近で向き合うのは初めてだ。何だかドキドキする。

「あの、それで…―――」
「そこに居る金髪。気づかないと思ったの」
「バレたか」

 がちゃ、とドアを開けて、ディーノがニコニコと入って来た。向いあって座っている所に歩み寄って来た。

「ディ、ディーノさん! 下で待っててくださいって…」
「何だよ。そんなに秘密の話なのか?」

 秘密の話と言えば秘密の話以外に無い。
 確かに獄寺達は一枚噛んでしまっているから話す事にはなってしまうだろう。しかし、ディーノはここに住んでいるわけではない。イタリアに直ぐに帰るだろう。
 そうでなくても、あまり知って欲しい話ではない。

 『いつひとさん』のような集団も、居るのである。

 この前は雲雀の関係者と言う理由で連れ去られそうになったが―――否、『なったらしい』が、実際は大事にならずに済んだのだ。


 自分が、『ゴミ捨て場に捨てられた』だけで。

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あきゅろす。
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