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日常編?

〇〇〇


「どうしてもスポーツ苦手な奴は居るんだよ。そう言う奴らって目ぇ付けられやすいし、この手の行事はやっぱ嫌いなのな。
 オレも、勉強そうだし」
「それは言い訳でしか…―――」
「オレもです」

さらに、牛の角を着けたモジャモジャ頭の生徒が立ち上がった。牛柄のシャツに、片目を閉じて手を広げた。

「遊び以外はからきし駄目なんですよ、オレ」
「それこそ言い訳になるわけなかろう」
「そうですー。センセーみたいに家庭科をいくらやってもダメな人はダメダメなんですー。
 ミーもスポーツ系統は、超ダメなんでー」

このっ、と一言多いフランを睨み付ける。
確かに縫い物すれば指に刺すし、全く違う所を縫い付けているなんてことはしばしばある。
包丁はまぁまぁ。投げ飛ばして武器として扱えるものの(という思考そのものが間違っているが)、電子レンジを使えば煙が出るし鍋の中の物は全て黒炭と化す。補佐係の生徒の方がずっと上手く作られるが、駄目を二回も付けられる覚えは無い。

くっ、と通信機のイヤホンからデイモンの笑い声が零れた。先程フランがカードを見せた森を睨み付ければ不細工ですねと笑ってきた。

「それにミー達、どうしてもアルコバレーノクラスに行きたいっていう子にチョコレート渡しちゃってるんですよー。
 持って無いって言ったって、あーいうの信じてくれませんしー。っていうかー、殴るの好きな奴とか居るしー。
 そう言うのから守るのもセンセーの仕事じゃないんですかー?」

デイモンを思わせるような言い草に少々苛立ちを覚える。しかし、山本が「お願いします!」と手を合わせて懇願すると、それにランボも倣い、今までカードゲームで遊んでいた生徒も一様に頭を下げる。

「その生徒は誰だ」
「白蘭って子ですー」
「…―――デイモン。アラウディに確認取ってくれ。そういうプログラムだろ?」
「どういう事ですかー?」

首を傾げたフランに、ダニエラは腕を組んだ。

「つい最近、新しいシステムを導入した。防犯に特化したタイプらしいが―――機械には強くないのがよく分からないがな」
「えー。センセー、機械も駄目って他に何が残るんですかー? 暴力?」

頭を殴り付けると、フランは変わらぬ口調で「あいたー」と呟いた。
またもイヤホンからデイモンの押し殺した笑い声が聞こえてきた。

「監視といったものだけではなく、今回のイベントで使っているが、所持者を検索出来るような複雑なプログラムが構成出来るようになっていて…」
《ダニエラ。アラウディだ》
「アラウディ…」

もの静かな声に耳を傾けると、キーボードを叩く音がする。

《確かに、彼らのチョコレートはその白蘭という少年に渡っている…》
「そうか…」
「だから言ってるじゃないですかー」

フランはそう言って肩を落とした。

「不良どころかセンセーにまで信じてもらえないなんてミーはショックですー。あー、涙出てきたー」

ぐす、と本当に涙を浮かべているフランにび心情を掻き乱された。
フランは、うー、あー、と涙ぐむと、しまいにはボロボロと泣き出してしゃがみ込んでしまった。

「す、すまない! 教師の間でも確認を取るようにしているんだ! お前達の事を疑っていたわけじゃない!」
「本当っ、ですかぁ…?」
「あぁ、本当だ!」

しかし、フランはポロポロと大粒の涙を流しながら肩を震わせている。
こんな時、ジョットならどうしただろうとダニエラは首を傾げるばかりだ。

「ミー達、あんな怖い人達には適わないですよぉっ…助けて下さぁいぃ……」
「分かった! 分かった! お前達を絶対守るから!」

ダニエラはどうやって宥めれば良いか分からないまま、そうやってフランに言葉を投げ掛けるしか出来なかった。


〇〇〇


一方、職員室モニター監視係デイモン。

「ヌハハっ! 傑作ですっ! あのクソガキやりますねぇ! ヌハハハっ、ヌハハハハハハっ!」

デイモンはわざわざマイクの電源を切ると、腹を抱えてバシバシとデスクを叩いていた。

Gもまた、デイモンが腹を抱えて爆笑している姿を見たからではなく、そのモニターに映っているダニエラに笑いを堪えていた。
彼女はしっかりとお座りしている犬に「絶対守るから!」と声を張り上げているのだ。
しかもその犬も、意味を理解してかわざわざ「わんっ」と吠え返してくる始末。

フランの幻覚で、助けを求めている姿が見えているのだろう。
一方、そのフランは彼女に背を向けて、仲間達とポーカーを再開していた。

「良い度胸しているね。あの子」
「ヌハハっ。それほど彼の幻覚レベルが高いと言うことです」
「で、白蘭って子の事だけど」

アラウディはそう切り出して画面にを見つめる。

「今、ぶっ千切りで『トップ』だよ…―――その貰ったっていう彼等の他に『アルコバレーノクラスの沢田とヴェルデ以外からチョコレート奪って』」
「?! それ、どういう事だ?!」

Gはアラウディが向き合っているその画面に飛び付く。
画面には白蘭の写真と、元のチョコレート所持者の名前とポイントが記録されている。

そしてその画面には確かに、アルコバレーノクラスの沢田綱吉、ヴェルデを除いた人間達の名前が羅列していた。

ジョットの養子であるリボーンの名前が、確かに刻まれていたのだった。


〇〇〇


「お前、本当にすげぇよな」
「女はカワイー動物と、子供と、涙に弱いんですよー」

その後、ダニエラとランボに彼らを託して、賭で巻き上げた金銭で飲み物を買いに行くと言い出したフランに山本はついて歩いていた。
『幻覚』が使えるのは確かだが、やはり体育系は苦手分野らしく、フランから護衛という名目でご指名預かったのだ。

「タケシぃーは飲み物何が良いですかー? やっぱり、スポーツドリンク?」
「んー。今は緑茶」

横で勃発している喧嘩をスルーして、山本は答えた。

「あんなベタ甘グリーンティーが好きなんですかー?」
「いや。オレはちょっと苦味がある方。他にも日本出身の人が居るからそういうのあるし…っていうか、外国は緑茶にわざわざ砂糖入れるのな。ビックリしたぜ! 案外美味かったけど」

ローマ字表記の緑茶が珍しく思えて買ってみると、砂糖が大量に入っていて、日本出身の山本にはカルチャーショックだった。
フランもその緑茶は甘いと思うらしい。

「ジャッポーネでは紅茶に砂糖を入れるのと同じじゃないですかー?」
「だろうな、っと」

飛んできた矢を切り落とすと、フランはさすがですーと手を叩く。

「でも、何処で買うんだ? 飲み物」
「あ、それは帰りですー。ミーは他にやりたい事があるんですよー」
「やりたい事…?」

はい、と頷いたフランはいつもの無表情に人差し指を立てた。

「平穏な学校生活を送るため、攻略法を探します」
「攻略法?」

はい、とまた頷いてフランはぼーっと空を仰ぎ見た。

「新しく導入したプログラムにミーの幻覚を『破られた』ので」
「破られた?」
「みんなには言ってなかったんですけどー。いつもたむろってる所には監視カメラが有って、『それに』幻覚かけてたんですー」
「へぇー。幻覚ってカメラも騙せんだ?」

はいー、とフランは答えた。
凄いのな、と笑う山本は気付いていない。

それが幻術師として『いかに優秀』であるかを。

そしてフランも、『サボれる』と言う理由だけで鍛えた幻覚が、いかに優秀な幻術師であるかという証明になっているとは『知らずに』。


〇〇〇


「暇だ…」

ベッドに潜って、ジョットは呟いた。
はぁ、と溜め息が零れる。。

「大丈夫…だろうか……」

静寂の中、ジョットしかいない部屋に返事をする者は当然、居なかった。

「よし…オレも行こう……2日寝てればだいじょ」
「大丈夫な訳ないでしょう」

ドアを閉めたビアンキは、ホカホカと温かい鍋を持ってやって来た。

中はグロテスクな紫の液体が、適度なとろみでぼこりと沸騰している。

「寝ていなさい…大丈夫だから」
「むぅ…」

ジョットは唸る。
1つは、心配というもの。
『日常的に』侵入者が入ってくる学園。何かあれば駆け付けられるのだが、いかんせん身体の調子が優れない。
それも連日、夜中に森の中でコソコソしていたのが祟ったのだ。

そして、もう1つは目の前の料理のグロテスクさに。

「これは料理か?」
「勿論よ。失礼ね」
「ぅをぷ」

ぼーんと、たった今持ってきて貰った熱々の鍋を顔面に食らった。
グツグツいっていたが、あまり熱くないそれをペロリと舐めたら見た目グロテスクなくせに香辛料がぴりりと効いていて美味しかった。

「唐辛子が良い具合で旨いな」
「あら、何言ってるの。唐辛子なんて使ってないわ。ジャッポーネの雑炊だもの」
「ん…?」

では今も舌をピリピリと突く痛みは何だろうか。
すると、再び視界がとろんと歪んできた。目蓋が重くなってくる。

「すまないな、ビアンキ…また眠くなってきた…」
「そう。ゆっくり休んで」

ビアンキの言葉に甘えるように、ジョットは目蓋を閉じた。
焦燥しているシャマルの声も聞こえてきたが、今のジョットはただやってきた睡魔に身を委ねて眠る事に専念した。



『ハートの籠もった舞台裏』END

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