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日常編?
千年花園の気紛れ花詩
 このセッタン・テンポ学園がある地は侵入者を惑わせる迷いの森、季節など無差別に咲き誇る千年花園、本来ではあり得ない自然現象が起きる、自然に恵まれている。
 その中でも千年花園の手入れを行っているのは、花をこよなく愛する教師──桔梗が、白蘭と出会うより前の話。

「おい、桔梗」

 ん? と花の根元に生えている小さな雑草を摘み取りながら、声の主…ヴェルデに顔を向けた。
 と言っても、あまり雑草は生えないが。

「貴方と科学教室以外で会うとは意外ですね」
「私の個人的用事が合えば、そこに行く」
「ふふふ。そうですね。今日は花園にどのような用事があるんですか?」
「ここの花園に生息している花を20種程貰いたくてな。私が要望する条件に見合う花を見繕って欲しい。三本ずつだ」

 実験に使うのだろうが、ヴェルデが花を使うなどいったいどんな実験をするのだろうか。
 ここの千年花園は四季折々の花が咲き誇る、変わった花園。イタリアの気候にも四季があり、寒暖の差がある。この地も例外ではないのだが、何故か南国の地に咲く花でさえ枯れずに一年中咲いている。
本来ならあり得ないのだが、花弄りが好きなのもあってここの手入れを任されている形だ。

「毒薬の精製ではありませんよね?」
「安心しろ。毒薬は作らん…──いや、兵器として使うなら毒もまた攻撃の一種か。すまないが、種類を増やし…」
「駄目ですよ。貴方、変な物も作るでしょう?」

 寧ろ、悪いことを聞いた。
 ヴェルデは意外な単語から実験へと繋げるので厄介だ。

「変なものではない。副産物だ」
「変わりませんよ。それで生徒を実験台にするんですから…迷惑するのは私達です」
「光栄だと思え」

 その後、ヴェルデの要望に答えた桔梗は見事な花束を作り上げる。
 四季の花を五種ずつ三本。
 更に、蔓があるもの、刺があるもの(薔薇しかないが)、毒があるもの(多分、後から追加した)などの特性(ヴェルデに言わせると『特徴』も難しく言い換えられる)がある植物を選りすぐる。中でも毒のものは場所によってある場所が違うので前もって説明しておく。

 全ての説明を終えて、ヴェルデがキョトンと1つの花を引き抜いた。
 貝殻のような形をした赤い花弁が、幾重にも重なっている花。

「これは何だ?」
「カルセオラリアですよ」
「毒性があるのか?」
「ないですよ」
「見たところ蔓科の植物にも見えんし、棘もないが…」
「えぇ。特にヴェルデが要望したような花ではありません」
「……何故持たせた」

 ヴェルデが睨み付けてきたが、気にせず笑いかける。

「そのカルセオラリアには『援助』という花言葉があるんですよ。こんな形ではありますが、応援させていください」

 ヴェルデはカルセオラリアを見下ろすと。

「貴様らが私を応援するのは当然だ」

 そう言って、カルセオラリアをもう一度花束の中に戻した。
 ふん、と鼻を鳴らすヴェルデ。
 この自信過剰な所が可愛いげがな…──。

「全く、貴様のように沢田もこれぐらい配慮を見せてくれれば良いものを。アイツはいっつもリボーン達につき纏って私の実験の手伝いをしない…」

 このあと、嫉妬のような呟きをブツブツと繰り返しながら、ヴェルデは花園から離れていく。

 ヴェルデの意外な一面を見た気がした。

 ヴェルデの中で、人間は誰しもが被験体だ。しかし、彼は使えない、非協力的な人間に執着を見せることは今までになかったはずだが。
 執着するだけ時間の無駄。
 使える人間を新しく用意する。

 これ程サッパリした考え方で今まで実験をこなしてきた彼だったが…──。

「人は変わるものですね…」

 その世界も、少しずつ変わって行く。

 ざわりと風が吹いて、髪が靡く。
 花弁も散って空に舞い上がる。
 雲一つない遥かなる空へ、花弁が吸い込まれていった。


〇〇〇


 それから、数日後。

「居た居たー☆ 桔梗せんっ──」
「ご苦労だった。もう持ち場に戻れ」
「なぁによぅ。お礼ぐらい言いなさぁい?」

 備品を数えていると、ハイテンションのルッスーリアがむっくりと頬を膨らませた。そして何故かヴェルデの姿。最近は学校に顔を出すようになったが、また花の選出だろうか。
 しかし、ルッスーリアを睨み付けて用件を言い出さない。

「あら。私、お礼言ってくれないと帰らないわよ」

 首を傾げて小さく笑っている。しばらく室内が沈黙したが、ヴェルデはぽつりと「助かった」だけ言う。

「よぉく出来ましたぁ☆」
「さっさと行け!」
「つれなぁ〜い〜ぃ」

 ルッスーリアは手をヒラヒラとさせて、「それじゃ」とアッサリ引き下がった。
 いつもならもう少し居座りそうだが、と思っていると、ルッスーリアはさっさと室内から出ていってしまった。
 静寂になった室内で、ヴェルデがポケットをゴソゴソ漁り始めた。

「桔梗、手を出せ。この前の礼だ」
「え!?」

 ヴェルデがそんなことを言って桔梗の元に訪れたのである。驚いていると、ヴェルデは半眼になった。

「何を驚いている。私が礼もしない恩知らずだと思っていたのか」
「(ついさっきルッスーリア先生にはお礼の一言もをする気無かったですよね?)いいえ。私、ヴェルデに何をしたかと思いまして」
「花を摘んでくれただろう」
「…────────あぁ」
「何だ今の間は」

 それは、ヴェルデの口から「花を摘んでくれた」というメルヘンチックな言葉が飛び出したからに他ならない。
 その科学者風の出で立ちで童話の話中に出てきそうな台詞を言われたのである。
 思い出していたんですよ、と言うと、今の間は間違いなく思い出している時間ではなく驚いている時間だと返された。

「まぁ、それはどうでも良いが、これを貴様にやろうと思ってな。貴様にはうってつけの代物だ」

 副産物だがな、と付け足して手の平に落とされたのは種子。
 確かに花は好きだ。種から育てたりはするが、形は見たことのない種だ。家庭菜園もたしなむのであまり見たことない種はないはずだが。
 しかし、種の色がカラフルだというのも疑問だ。茶色なら解るのだが、緑や紫色、青色をしているのは初めて見た。

「…人食い花になったりしませんよね?」
「ならん。花の成長がここ2週間で解るはず…──人食い花か。兵器としては面白いかもしれんな…」

 むぅ、と腕を組んだヴェルデに改めてこの種は何なのかと尋ねると。

「それは死ぬ気の炎を栄養源とする蔓状植物だ。貴様ら此処の教師は灯せるのが必須条件だろう? 形も面白い具合に自由がきくし、量によって硬度が変化するのだ」
「そんな物を、私に?」
「だから礼だと言った。大量に出来た副産物だしな。使い方によっては防具になるし、攻撃にもなる。あぁ、忘れていた。その緑の種は花が咲くまでしか成長しない。だが、強度はその中で一番高い。そして面白いことに植えると2日たらずで花を咲かせて種子を大量に残す。雷属性と雲属性の特性を上手く引き継いだ種だ」

 じゃあな、とヴェルデが上機嫌で去っていく。
 妙なものを渡されたが、ヴェルデの好意であり、彼には星が五つ付くぐらいの珍しい行為だ。
 特に悪い効果がある副産物でもないようなので有り難く頂戴することにした。
 それが思ったよりも使い勝手が良く、桔梗専用の武器となるのもそう時間はかからなかった。


〇解説〇


 桔梗はこのスカル様が担当するぜ!

 この先生は設立されてから数年後に赴任してきた厚化粧先生だな。趣味は植物弄りと、アイメイクなんだってよ。1週間毎に違うけど、一番多いのはパステルグリーンだ。

 ルッスーリア先生に並ぶオールマイティータイプだ。接近戦も得意だけど、ヴェルデから貰った植物で中距離も対応出来るようになったんだ。
 どうもオールマイティータイプは普段の生活でも発揮されるみたいで、やらせれば何でもできる。菓子作りはプロフェショナル級なんだけど、実は得意なのに気づいたのつい最近なんだって。計量器とか参考書無くても感覚で作れるらしいぜ。
 その無駄な特技も『白蘭様に捧げるために神が授けてくれた』って言い出す始末。随分、白蘭がお気に入りだとさー。

 でも、桔梗に渡したっていうあの植物の種。ヴェルデは研究の副産物で大量に出来たていうけど、紫と青い奴は研究所内で見ないけどな。
 まぁ、桔梗の方が武器として上手く使えてるから渡したのは正解かもな。詳しくは『常夏バレンタインデー』で大暴れしてるから見てやってくれ。説明が面倒な訳じゃないぞ。
 一番使ってるのは花が咲く大量生産できるタイプの植物。授業中に居眠りしてたらぶん投げられた奴が結構いるみたいだぜ。怪我人が出てないのは、やっぱり此処の教師やってるからだろうな。後、留め具として使えるから、最近は学園内で貼り出しされるポスターがアレで留められてる奴もも目にするようになってきたんだぜ。

 あ、そうそう。
 超余談だけど、ヴェルデの研究室にはカルセオラリアの花、まだ飾ってあるんだ。結構時間が経ってるはずなんだけど、まだ萎れてないんだ。


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あきゅろす。
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