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日常編?
Gととある風景
「何寝てんだ、この野郎!」
「いーだだだだだっ!!」

 デスクに突っ伏していたジョットをGが叩き起こす。将来禿げそうにないボンバー頭を容赦なく引っ張った。

「G! 少しは睡眠時間を寄越せ!」
「テメェなんかいっつも寝てるだろ!!」
「何を言ってる! 昨日だって夜通し…」
「俺が提出した書類に涎垂らして書き直し頼んできたのはテメェだろーが!!」

 どか、とジョットに蹴りを一発。
 こいつは何時まで経っても反省の色が見られない。
 手に持った書類が風圧に煽られてするりと動く。

「さっさと書け! まだまだ書類溜まってんだぞ! それともアレか? セコーンド呼んできた方が気合い入るか? あぁん?」
「やっ! 頑張る! 頑張るからセコーンドだけは呼ぶな!」
「だったら、あとこっちも頼むわ」

 ばすん、と書類を追加するとジョットの顔が引き吊ったが気にしない。

「な、何でそんなに!」
「バレンタインデーでガキ共が破損箇所増やしたからな。それの修理と、デイモンが白蘭から貰ったっていう機器についての書類だ。テメェは読んでおけ。オレは導入に賛成だ。他の先生からも署名貰ってるからコレは優先でやれ」

 じゃあな、とGは理事長室を出ていく。
 その後ろ姿を恨めしそうにジョットが睨んで見送られるが、殆ど自業自得だ知るか。

 お、とナックルがにっこり笑った。

「ジョットは起きたか?」
「起きた。気が乗ったらブラック持ってってやれ」
「Gが運んで行ったら良いのでは?」
「誰が持ってくか。気が乗ったらっつったろ」

 じゃあな、とGは煙草の箱を開け、一本加える。すると、遠くから「G先生〜!」と呼ぶ声に振り返る。

「バジル…」

 駆けてくるのはボンゴレ特待三年生のバジル。
 日本出身ののほほんとした朝利雨月から授業時間外に日本史を学び、一年年下の山本武とはすぐに打ち解け、暴君雲雀恭弥から日本の文化を習い慕う。そして時間があれば同じ日本オタクのスパナと夜通し語り合う空前絶後の日本オタク…。
 その関連で入江正一の仕事の手伝いまでしている。
 彼が黒い布を握りしめて駆け寄ってくるなり、がばっと開いて見せた。何かの洋服のようだ。
 バジルはきりっと眉を吊り上げて。

「拙者に、縫い物を教えてください!」
「はぁ?」

 がっつり声を裏返してバジルを見下ろすが、彼の瞳は真剣その物。

「雨月先生に聞いたら、縫い物ならのG先生が一番上手だと聞きまして、この学ランを縫いあげたく手解きを頂きに参りました!」
「雨月…あの野郎、何で…──」
「若い頃はジョット先生の服をよく直していたと聞きました」
「!」

 ぐっと握り拳に力が入る。
 確かに、奴が気に入っていたコートを何度も縫い直したことはあるが…──新しく買えと言っているにも関わらずこれが良いと意地張って何時までも換えなかったのが原因だ。
 その事をぽろっと雨月に話したのだろう。
 誰にでもくっちゃべるなとジョットには口を酸っぱく言っていたのに、と苛立ちが膨れ上がる。

「お願いします!」

 と、頭を礼儀正しく90度、ならまだあしらえたが。

「この通りです!」

 と正座して床に頭をつけられた。たかだか縫い物を教えてもらうのに土下座されるとは思わず、ぎょっとした。
 しかも、周囲の視線を集め、傍らで見ていたナックルが声をかけてくる。

「見てやってはどうだ? 見た所、殆ど完成しているし…」
「いいえ! 拙者、もっと雲雀殿の着用している学ランのようにピシッとしたものを作りたいんです!」

 バジルはそう言うと、再び「お願いします!」と頭を下げ、額と床をキスさせた。

「分かった分かった! 教えてやっから立て!」
「本当ですか!?」

 いつまでもそんな格好でいられる方が困る。
 ぱっと顔を明るくしたバジルは「ありがとうございます!」とまた頭を垂れた。
 Gはそのバジルの腕を引き上げて半ば強引に立たせると、逃げるようにその場を後にした。


〇〇〇


「ここ縫い直したら良いんじゃねぇか?」
「はい! 分かりました!」

 既に十ヶ所目に及ぶ訂正箇所を指摘されながら、バジルはハキハキと答えて糸をほどく。
 殆どが手縫いなので直しやすくはあるが、既に夕暮れ。外には野蛮な生徒が控えていたのを下校時間を理由に退去させた。

「買った方が早いんじゃねぇか?」
「いいえ! 拙者が作りたいんです!」

 と、バジルはミシンを再び操作させた。ガツガツガツと音が響く。

「出来上がったらスパナ先生にも見せる約束をしているんです」
「…夜通しラボに籠るなよ」
「善処します」

 バジルはその後、黙々とミシンを動かし、顔を明るくした。

「出来た!」

 まぁ、雲雀の奴は本場だし布も良い生地を使っているのでぴしっとなるが、バジルのは流石に手を加えてもここまでだろう。
 それでもバジルは気に入ったようで、袖を通してくるりと回った。

「どうですか!?」
「雲雀のまでとはいかねぇが、出来は良いと思うぜ」
「やった!」

 バジルは尚も機嫌が良さそうに学ランを見つめる。

「そう言えば、ジョット先生とは幼馴染みなんですか」
「あぁ。まぁな…──腐れ縁もある」

 元々は、単なる反政府組織のような塊だった。
 悪行を許してはいけない。
 そう言った志の元、人は集まっていった。
 Gはジョットの側に居てやると決めていたから、設立同時から今も一緒。
 弟であるセコーンドは最初乗り気ではなかった。誘いを断っていたが、ジョットが数々の功績を残していくと協力してくれるようになった。
 それで、ジョットがある日突然変な指輪を持ってきた。
 ちらりと、今、指に嵌めている指輪を見下ろす。
 紅いルビーのような石が填まった指輪。
 ボンゴレファミリーを名乗ると宣言すると、これを差し出してきてこう言った。

『共に来てくれないか?』

 不安そうな顔をした奴の頭を思いっきり殴ったのをよく覚えている。
 これまで一緒に来ていて、今更離れられると思ってんのか。
 来てくれないんじゃないかと思ったという台詞を吐いた時にはもう一発殴った。
 今までどんな想いを抱いて一緒に歩いて来ていたのか、理解されていなかったのがショックだった。
 これから通る蕀の道からの退路を用意していたのは奴らしいと思うが、もう同じ穴の狢だ。テメェが腹括れ。引き返せねぇ所まで来てるからボンゴレファミリー名乗るんだろうが。
 すると、バジルは「あ」と指輪を差した。

「それに似た指輪、ジョット先生とか…雨月先生もつけてますよね?」
「あぁ、コレは…──ジョットが仲間の証だとかでくれたんだ」

 つ、と撫でれば、口端がつり上がる。

「大事なものなんですね」
「あぁ…」

 これが、アイツの隣にいられる証。
 これからも、ずっと。

 すると、ドアの外からGを呼ぶ声が響いてくる。
ドアの外を見れば、ジョットがGを見付けて、ぱっと顔を明るくした。

「G、しっかり教えれたか?」
「テメェの何回縫ったと思ってんだ」
「はは。すまない。何時も世話になった」

 つーか、と半眼でジョットを睨む。

「書類はどーした」
「半分片付けてきた」
「嘘だろ」
「本当だ。見に来ると良い」

 むすっとした顔が向けられる。
 多分、本当だが…──数分したら再び山になっているのがオチだろう。
 お疲れ、と一声かけてやると、ニッコリ笑う。そして、バジルが今まで縫っていた学ランに目をやった。

「学ランか。似合うなぁ」
「そ、そうですか?」

 バジルは照れたように笑ってからG先生のお陰ですと答える。

「根気よく手解きして下さったので、拙者でも出来ました」

 バジルはまた「ありがとうございます」と土下座を始めようとするので、慌てと立ったままにさせる。

「オレもコレぐらい出来れば良いんだがなぁ」
「テメェじゃ無理だ」
「ハッキリ言うな…」
「型どりもできねぇ癖に」
「か、型どりぐらいなら出来る!」
「じゃあ、来週までにやって持ってこい」
「そ、それは無理だ! 私には仕事が!」
「じゃあ、いつ証明できるんだーおい」

 ニヤニヤ笑って頭を小突いてやると、横で見ていたバジルがクスクスと笑いだした。
 どうかしたか問いかけると、バジルはにっこりと微笑んで。

「兄弟みたいですね」
「何処がだ」

 セコーンドがジョットと並ぶと兄弟には見えないと誰もが口を揃えて言うが、同時に、Gがジョットの兄みたいだと誰もが同じことを言う。

「優しいけど、意地悪っぽいところがお兄さんみたいです」

 理由も同じと来たもんだ。
 そんなに兄弟っぽいか、オレ達は。
 そして言われれば、二人で必ずこの下りになる。

「こんな奴が兄なんて御免だ」
「こいつが弟なんて死んでも御免だ」

 くるっと互いを見あって。

「セコーンドだけでもてんてこ舞いなのに、Gまで居たら死んでしまう」
「こんな奴を兄に持ってたら身が持たねぇ。セコーンドだから生きてるんだ」
「え?! セコーンド先生、ジョット先生のご兄弟だったんですか!?」
「あぁ」「あぁ」

 ぎょっとしているバジルに二人で頷く。
 まぁ、十人が十人同じ反応をするので仕方ない。ジョットとセコーンドが兄弟なんて似ても似つかないし、どう見たってセコーンドの方が兄に見えるのも致し方ない。
 知らなかった、と呟くバジルには一応秘密にしてあることを伝える。ジョットもセコーンドも互いが兄弟であることを秘密にして教師をやっている、と。
 二人共、兄弟と言われるのが嫌なのだ。
 くれぐれも喋らないように、と言うとバジルは快諾した。
 バジルは再び、学ランが出来上がった礼を述べ、それを大事そうに抱えて二人とは別れた。
 たたた、と軽い足取りで廊下を駆けていく。

「さて、戻って仕事するか。ついでにどれだけ書類が終わったか見てやる」
「見て驚けば良い。頑張ったからな」

 ふふんと鼻高々。
 少しだけ、背の低くて間抜けで、やれば出来る上司を見下ろした。
 普段からそれぐらいやってくれと、見上げてくる艶っぽいジョット…──から、ふいーっと熱を帯びた顔を反らす。

「どうした、G?」
「何でもねぇ」
「顔が赤いぞ。熱か?」
「……テメェのせいだ」
「何?! そんなに酷使した覚えはないぞ!?」

 ジョットはGの腕を掴んで「シャマルー!」と大声をあげる。
 そこまでじゃないと訴えるが、腕力はジョットの方が上だ。ぐいぐい引っ張られて連行される。
 すれ違い様、ルッスーリアにハイテンションで変な顔をされて数発ぶっぱなしたが、アッサリかわされた。
 その後、保健医不在の保健室のベッドに寝かされ、シャマルを呼んでくると飛び出していった。
 純白のベッドの中、溜め息が溢れる。

 何時までも、この想いは伝わらない。

 再び、溜め息。

 あいつの事が何時までも大事で、何時までも想いが揺らがない。

「好きなんだよなー……」

 ぽつりと空気に消える。
 枕に顔を埋めて、ジョットを想い浮かべる。
 小さい頃なんて、今の綱吉ソックリだ。

「だぁ〜。畜生」

 考えるな考えるな。
 今は迷惑な幼馴染みで上司…。

‐で、ジョットの『お兄ちゃん』。今夜は一緒の部屋で寝れそうかい‐

 マーモンっっっっ!

‐生真面目なんだよ。さっさと押し倒しちゃえって‐

‐あ、ごめん。『頑張ったけど無駄な努力』だったんだっけ‐

 マーモンの悪魔じみた声が脳内に響いてくる。「あの餓鬼ぃ!」とGは一人悶々と頭を抱えた。
 少し薬品匂う、憩いの場で自分の煩悩と、ジョットがシャマルを連れてくるまで闘い続けるのだった。


〇解説〇


 こんにちは。恋愛絡みの先生は僕にお任せ。
 マーモンだよ。
 だって、誰でも気になるでしょ?
 管理人ったらGの話だけは自棄に進まなくて、その内浮かぶだろうって他の先生書いてたら6本も出来上がったんだ。漸く、バジルが「そう言えば学ラン縫ってたんだよな」ってことを思い出してこの話が出来上がったんだ。

 Gはボンゴレファミリーの幹部、嵐の守護者を担うジョットの右腕。更に、幼馴染みだ。セコーンドとも仲良いんだよ。
 戦闘タイプは遠距離タイプでは珍しい攻撃タイプ。まぁ、ダニエラ先生が無差別ならGはしっかり的を絞るタイプだ。
 それに加えて遠距離のスペシャリスト。銃器は重い物から軽い物まで、飛び道具と言えば弓矢からスリング(投石器具)、ダニエラが得意としているボウガンも使えるんだ。中でも、一番好きなのが『クナイ』なんだって。ナイフより使い勝手が良いってさ。切るにしても、投げるにしても。

 さて、基本情報はここまで。
 お待ちかね、おちょくりタイムだ。
 みんなも知っているだろうけど、ジョットの幹部は(ナックルと雨月を除いて)はジョットに惚れ込んでいるわけだけど、彼は片思い歴が最長。皆が十年くらいなら彼はそれより十年分多い。全く、理性が強い奴らは辛いねぇ。
 あ。僕と綱吉・秀忠が停学食らったら時におちょくったじゃん?
 あの後、一応奮闘したらしいよ。結果は残念、理性が勝ってまたお預け。折角ベッドまで追い込んだのに。
 今の関係が拗れるのが怖いのもあるんだろうけどね。純情だよねぇ、ジョットの側にいる輩はさ。


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