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日常編?
君に名を 〜犬と彼女〜
 わん、と犬が鳴いた。
 目覚まし代わりのようなその鳴き声にダニエラのは目を覚ます。
 お腹が空いたらしく、ダニエラを起こしたようだ。

「分かった分かった…今、用意する」

 ダニエラのはしきりに尻尾を振っている犬にの頭を撫でて、ベッドから起き上がった。
 人懐っこいこの犬。
 とても賢く、言葉も分かるのか、わんっ、と吠えて、ベッドにかけていた前足を下ろした。
 元は森の中にいたらしいのだが、新イベントのバレンタインデーで出会ってから、やたら後をついてくるようになった。外に放り出しても、校内の何処かにある侵入経路からやって来て、最終的にダニエラの元に辿り着く。仕方なく飼うことになったのだが、デイモンが寂しい女ですねぇ、の呟きが今でも腹立たしい。
 しかし、飼うに当たって…──。

「犬。飯だ」


 名前が、決まっていない。


 実は飼い始めると決めて名前を付けたのだが、その付けた名前が気に入らないのか呼んでもやってこない。最初の内だから仕方ないかと思っていたが、どうも犬は自分の名前を『犬』と思っているらしく、犬、と呼ぶとちゃんと返事するのだ。
 しかし、この事実はあまり周囲には良く思っておらず、早く名前をつけてやれとブーイングが多い。

 頭が悪いわけではないのだが。

「お座り」

 と言うと、ぴいんと耳を立ててお尻を床につけ、座る。

「待て」

 と言うと、ピタリと止まる。


「お手」

 と、手を出せば、その手のひらに前足を乗せ。

「おかわり」

 と言うと、反対側の前足を乗せる。

「伏せ」

 と言えばちゃんと、伏せる。さらに。

「回れ」

 と大道芸から逃げてきたのか、寝転がった状態からくるりと一回転してまた伏せに戻るのだ。

 決して馬鹿な訳ではないのに、名前だけはちゃんと答えてくれない。

「よ…───る」

 犬は、さぁ食べようと動こうとしていたが、最後の一文字でぴたりと動きを止めた。
 「よし」と言うまで何がなんでも食べないのだ
 何回か引っ掛けて、ようやく犬に許可を下ろす。待ちわびていたようにお皿の中の餌を食べ始めた。

 特にダニエラがしつけをしたわけではない。元から覚えているのだ。
 こんなに賢いのに、名前を直ぐに覚えられないわけがないと思うのだが…──。

「ん…? 元から覚えている?」

 餌を貪る犬を見下ろして。

「そうか!」

 ダニエラの頭の中で、閃きと言う花がパッと咲いた。


〇〇〇


 今日は犬を連れて校内へやって来た。備品からデジタルカメラを借りて、廊下に座らせる。

「あら、何やってるの。ダニエラ?」

 ひょっこりと顔を出したルッスーリアはこれから授業に向かう途中のようだ。

「あぁ、ルッス。もしかしたらこの子、どっかの飼い犬かと思ってな。貼り紙を作ろうと思うんだ。ハイ、チーズ」

 犬はぴしっと動かず、ぱしゃり、とデジタルカメラが音をたてても動かなかった。
 液晶画面で全体が映った犬の姿はアングルバッチリ。

「よし、横からも…」
「真正面だけで十分よ」

 ルッスーリアはアドバイスをして「じゃあねん」と持ち場である教室へと向かってしまった。
 今日は一日、犬を連れ歩こう。もしかしたら、この学校に知っている生徒がいるかもしれない。何百と生徒が居るのだ。あるいは飼い主もいるかもしれないと淡い期待を抱いて、ダニエラは写真をしっかり保存してデジタルカメラの電源を落とした。


〇〇〇


「あ、犬」

 ボンゴレ普通科二年の授業があり、教室に入ってきた朝利雨月のお気に入り…──山本武が、犬を見るなり駆け寄って頭を撫でた。
 すると嬉しそうに犬は尻尾を振り、わん、と吠えて山本に飛び付いた。
 ダニエラはデスクで早速飼い主探しの貼り紙を作成中。飼い主探しは飼い主探しだが、飼ってくれる人間を探す物ではない。文字どおり、この犬の飼い主を探している。
 その後ろ、フランとランボが顔を出した。

「先生、今日は犬をお連れになったんですね」

 と、ランボは少し、犬から放れる。

「あぁ。もしかしたら、この子、元は何処かで飼われていたかもしれないからな」
「そうなんすか?」
「よくは分からんが、しっかりしつけが施されている。たぶん、お前達が指示を出しても言うことを聞くぞ」
「マジか」

 すると早速山本は「お手」と手を出すと、犬は耳を立て、しっかりおすわりをする。そして、朝の食事前のようにしっかりと前足を出した。

「確かにー。その確率は多いにありますねー。センセーが教えたら覚えるのに一年かかりそうですもん」
「わ、私だって本気出せば、直ぐに教えられる!」
「どうだかー」

 と、フランがちらりと貼り紙を見ると「え」と驚きの言葉を溢す。

「センセー。この子、コーギーじゃないですよー」
「!? 違うのか!?」
「確かに、コーギーじゃねぇよなぁ? 柴犬?」
「タケシィーの方が惜しいですよー、センセー。それ、秋田犬です。っていうか、コーギー小型犬ですよ? どう見てもサイズが中型犬じゃないですか」
「い、犬の種類はわからないんだ!」
「図書館に良い図鑑あるから調べてから書きなさーい」

 う、と唸りながら、失敗してしまった貼り紙を見下ろした。

「っていうか、何で飼い主探し始めたんです? もう飼うの面倒になったんですか?」
「違う! いや…見つけられるなら見つけてやりたいと思ってな…しかし、要らないなら飼ってやるつもりだ」
「飼うつもりなら、探さなくても良いんじゃないですかー?」

 首を傾げてくるフランに、「しかしだなぁ」と、山本に命令をしっかり聞いている犬を見る。

「飼うにしても、ずっと名前が『犬』じゃ問題あるだろ」
「え? 冷酷無慈悲なセンセーは『犬』で名前を確定させたんじゃないんですかー?」
「お前みたいな奴が居るからな。ついでに成績に響かせておくぞ、今の発言」

 えー。とフランは無表情で答えた。

「秋田犬って日本の犬種だよな?」
「そうですねー。案外、名前も日本の名前だったりして」
「そうなると、イタリアの地で飼い主見つけるの大変かもしれないですねー」
「な!」

 残念ですー、とさして残念でも無さそうにフランは口を挟んだ。

「し、しかし、ここはイタリアだ! イタリアで発見されたんだからイタリア人が飼ってる確率の方が多いに高いだろう!」
「ま、それもそうですね」

 すると、山本が「よし」と腕を捲った。

「名前、当ててみるか!」
「本当か?!」
「まぁ、オレの分かる範囲だけどな」
「頑張れ、タケシィー」

 フランがやる気無さそうに応援する。

「そんじゃ、ハチ」
「…」

 尻尾がしきりに動く。

「ポチ」
「…」

 首を傾げる。

「小次郎」
「…」

 耳がぴくりと動くいて、山本を見上げた。

「タマ」

 欠伸をした。

「それ、猫じゃないですか? タケシィー」
「あ、そうだった」

 犬はわん、と鳴いて、尻尾を床に叩き付けた。
 あはは、と山本は笑って更に続ける。

「ジョン」

 また、耳が動いて。

「海外っぽくないですか?」

 フランが首を傾げる。

「日本人って、案外、日本の名前でつけたりしないんだぜ。ココアとか、ジャックとか」
「へー。そうなると幅広いですねー」
「大丈夫だろうか」

 一縷の望みを託し、このあと山本は授業をろくに受けずに名前当てに精神を注ぐ。
 しかし、鐘がなっても犬の鳴き声は響かなかった。


〇〇〇


「やっぱり分からねぇのなぁ」
「そうか…。仕方ないな…」

 授業が終わり、山本にありがとうと礼を言って苦笑する。

「まぁ、地道に探してみるよ」
「頑張ってくださいね、先生」

 フランは机の上でグッスリ居眠り中。山本の名前当てを見守っていたものの、途中から飽きたのか爆睡し始めたのだ。
 三回起こしたが、三回共寝たのでいい加減諦めた。

「フラーン? 授業終わったぞー?」
「うー。タケシィー」

 そう言って、フランは「おんぶー」とか子供臭いことを呟く。流石に山本も苦笑した。

「何時までも甘えるんじゃない。ほら、次の授業に行け」
「嫌ですー。助けてタケシィー。乱暴なオバサンがーぁ」
「誰がオバサンだ! 私は…──」

 年齢は、何か言ったら負けな気がする。
 黙り込むと、犬はダニエラの顔を見上げた。まるで気になると言いたげだ。

「気になりますよねー? ジロー?」
「わん」
「やっぱりか、その顔は…──」
「ですよねー? ジロー?」
「わん」


 ・・・────。


 沈黙。

 フランはうんと腕を伸ばして背筋を伸ばすと、山本に「次のジュギョージュギョー」と呟いた。

「ままま、待った! 今、犬の名前を呼んだのか!?」
「えー? 此処にジローなんて名前の子、センセーの犬しか居ませんよー? ねぇ、ジロー?」
「わん!」
「あ、鳴いた」

 山本はしゃがんで「次郎」と呼ぶと、舌をへろへろ出して、犬は山本へ飛びかかった。

「し、しかし! 授業前に山本が呼んだ時には反応しなかったぞ!?」
「あ、いや。オレ小次郎とは言いましたけど、次郎とは言ってないぜ?」
「ミーも『コジロー』って聞きましたー。多分、ちゃんと聞こえてなかったんでしょうねー」
「しかし、一文字違いだぞ? 聞き間違えて吠えてもおかしくないだろう?」

 えー、とフランはブーイング。

「ミーは名前に一文字で足されたら絶対自分だと思いませんけどー? それに、その子チョー頭良いじゃないですか。タケシィーがコジローって言ったとき、耳がぴんと立ちましたよ。多分、似ているから反応したんでしょうね」
「あれ。そうだっけ?」

 首を傾げる山本に倣うように、ジローも首を傾ぐ。

「音をキャッチするのに耳を立てるのは犬では普通ですよ。タケシィーが命令する時も、ちゃんと耳立ててました。先生の観察力不足が否めませんねー」

 く、と言葉を詰まらせて、フランを睨むが…すぐに脱力感に襲われる。

「確かに。否定しようがないな…」

 ぼーっとしているフランの方が知識があったとは言え、その指摘は的確だ。

「この子も自分の名前が大事だったんですねー。ミーも自分の名前大好きなんですよー」

 フランは山本の顔を舐める犬…──次郎の頭を撫でた。


「ミーの、大好きな人が付けてくれましたから」


 薄く、薄く。
 フランは笑みを浮かべる。
 それはとても微かで、見たことのない笑みを。
 とても優しげで暖かい笑みを…──。

 フランに同意だ、と言わんばかりに次郎は鳴く。
 デスクに乗った作成途中で放棄した貼り紙が、開いた窓から風に煽られて飛ぶ。
 ふわりと宙を舞って、ダニエラの前を横切って廊下に飛び出した。

「あ、しま…──」

 ピラリと拾い上げたのは、フレッシュパイナップルデイモン。

「待て! 見るな!」

 貼り紙を見て、数秒後。
 ヌフ、と奇妙な笑い声。

「返せ!」
「返しますよ、こんな物。持っているだけで腹筋が痛くなりますからねぇ! ヌハハハハハハ!」
「デイモン! それ以上笑うな!」
「では、言いふらしましょう!」
「やらんで良い!」

 この、と手には獲物のボウガン。

「くたばれ、パイナップル!」
「コーギーは小型犬ですよ。どう見ても、貴女の所の犬は中型犬です」
「そんなことはもう分かってる!」
「わん!」

 次郎が教室の中から吠える。

「死ね、デイモン!」
「それ以上は言うの止めてください。笑い死にそうです!」

 ヌハハハハハハ、と再び笑い声を廊下に木霊させる。
 そして、この辺り一体がボロボロになるのに時間はかからず、また、次郎が職員室を来訪し、他の教師をダニエラ達の元へ誘導するように案内するのもそんなに時間はかからなかった。


〇解説〇


 よーぅ、待たせたな☆
 学園新聞とか書いてるけど只の教師説明入りの短編集。学園期待のホープ、スカル様が全体の指揮をとるぜ! よろしく頼むぞ!

 で、早速だけどダニエラ先生はこの学校でも数少ない女教師だ。セッタン・テンポ設立当時から居る先生だぜ。
 そうだ。此処の教師専用の基本タイプも紹介しておくな。
 主に攻撃タイプ、守備タイプ、知識タイプ(戦闘より裏方とか機械整備、戦略方針などのタイプ)の3タイプに別れてる。攻撃って言ったって、また超攻撃型とか有るから分類は幅広いけどな。
 ダニエラの戦闘タイプは長距離殲滅を得意とする遠距離型超攻撃タイプ。Gとは別のタイプの遠距離型攻撃タイプなんだ。
 あれであれだけど、生徒間ではファンが居るんだぜ。
 ジョットやセコーンドには敬意を持ってるみたいだけど、デイモンとはあんまり仲良くないんだ。
 でも、デイモンと露骨に仲が悪いのはダニエラぐらいなんだよな。


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