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日常編?

マーモンは「あっ」と言葉を詰まらせた。その姿をリボーンが横目で見ている。

「き、来たらタダで良いモノあげるってジョットが言うから来たんだ!」
「タダで良いモノ?」

黒いフードを目深に被ったマーモンはそう言って顔を逸らした。
この学園唯一の女子生徒にして、古今東西あらゆる情報を所有している情報屋。本名はバイパーなのだが、日常的にマーモンと呼んでいる。お金には煩い、サイキッカーにして幻術師である。綱吉達を気に入っている料理上手な人だ。
しかしジョットは病欠のはずだが、と過った疑念を打ち砕くように、人混みをかき分けて前髪で目を隠したツインズがやって来た。
本物の王子らしい双子の兄弟は、マーモンにベタ惚れ中だ。人混みを掻き分けてきたせいで乱れた銀色のティアラをきっちり治し、片方がマーモンに声を張り上げた。

「マーモン、何でこんな奴らの所に先行くんだよ! オレ達の所に顔出せっつー…―――」

の、と台詞を遮って、マーモンは2人を宙に浮かした。そして双子は縦にブレ、ひゅんとその姿を消してしまった。

「消えろ!」
「た、大変だね…」

マーモンは、あ、と一瞬固まってから手に持っている箱を見下ろした。
フードを被っているのでどんな目で見ているか分からないけれど、スカルの話を総合して綱吉は伝えることにした。

「チョコレートが入ってるみたいなんだ―――…でもオレ達のと違うんだね…」

マーモンの持っているチョコレートは自分達が持っている物とは違うらしく、透明なフィルムから四角やら丸やら色々な形のチョコレートが覗いていた。どれも一口サイズのものだ。
マーモンが持っている物を見つめながら、日本で友チョコを渡している女子を思い出した綱吉はマーモンに笑いかける。

「何か、バレンタインデーみたい」
「そっ、そうだね」

ジョット同様にマーモンも、バレンタインの風習に違いがある事を思い出し、綱吉はあのね、と続ける。

「日本のバレンタインデーは、女の子が…―――」
「知ってるよ! ジャッポーネのチョコレート会社の策略なんだろ?」
「あ、知ってるんだ」
「当たり前だろ? 僕は情報屋だからね!」

いつもと少し違和感のある態度に、綱吉は首を傾げた。

「どうしたの? マーモン? 何か、いつもと違う気が…―――」
「そんな事ないよ! 僕はいつも通り…―――」

ぎこちない返事をしたマーモンはチョコレートに一瞥くれてから、それ綱吉へと押し付けた。

「―――何か、今回のイベント面倒くさそう。ツナとヒデにあげる」
「え?」

マーモンから押し付けられたチョコレートをついつい受け取ると、それじゃあねと背を向けた。

「マーモン。折角のイベントですし、もう少しゆっくりしていきませんか?」
「何言ってるのさ! ゆっくり出来るイベントなんてこの学園に『1つでも』有った?!」

「面倒だよ!」と珍しく声を張り上げたマーモンはこちらを見ることはなかった。いそいそとその場を離れて行って、先程の双子のように上下にブレると直ぐに、ひゅんと姿を消してしまった。

「どうしたんだろう、マーモン…」

綱吉は消えてしまったマーモンの後ろ姿を思い浮かべながら、渡されたトリュフを見やった。
どれもチョコレートの艶やかな光を放っていて美味しそうだった。


○○○


ばつんばつんとマイクを叩いてテストを繰り返すG。きーんという耳の痛い高音を響かせてから、Gは普段よりも深く皺を刻んで挨拶をした。
そして。


《これから、『バレンタインデー』を始めます》


「は?」

リボーン、コロネロ、スカルが首を傾げる。
風は目をパチクリさせて、ヴェルデは全く聞く耳を持っていない。そして、綱吉は「あれ?」と首を傾げてチョコレートの箱を見やる。
マーモンから貰ったフィルムで中が見える箱と、教室で渡された柄入りの箱を見比べた。

《ルールは…まぁ、チョコレートを奪えって事だ》

それは日本のバレンタインデーでもしないけれど、と綱吉は思いながら箱を開けた。この時に既に、綱吉はボンゴレの超直感を発動させていたのかもしれない。

《基本はフィルムで中身が見えるチョコレートだが…中には、完全に箱の中に入ってしまっているチョコレートもある…その手のチョコレートは得点の入ったチョコレートだ。 普通のフィルムは1点。箱入りのチョコレートはそれぞれ点数かいてあるが…》

何故か、自分のチョコレートには金箔のようなもので『100pt!』とチョコレートの中央に印刷されていた。

《取り敢えず、最高得点は100ptだ》

ぴし、と自分の体が強張った気がした綱吉。

《ポイントが付いているのは、ボンゴレ、アルコバレーノの特待生クラスのチョコレートだけだからな》

更にGは、さらっと続けた。

《まぁ、上位5名の人間には…本日アルコバレーノの特待生クラスに『空き』が大量に出来た。ボンゴレクラスの連中でも飛び級っつーことで。で、そうそう。特待はチョコレート奪われるなよ。クラス落ちとか、あれだ。落第も有りうるからな。
 手段は問わん。殺さない程度にやってくれ。
 それと、チョコレートには発信機とポイント精算機能が仕込まれてる。誰かの手に渡ったら学生証のカード磁気から塗り替えられてこっちのパソコンに記録されるから、カードも失くすんじゃねぇぞ。
 まぁ、時間内に自分のチョコレート取り戻せば良いけどな》
「は? 何それ…―――今時そんなハイテクなプログラミング有るかよ…」

そう呟いたスカルにGは「これぐらいだな」とやる気なさそうに呟いた。

《ボンゴレとアルコバレーノクラスの特待、分かったら武器用意しとけ。テメェら先にスタートだ》
「は…?」

Gの発言に、綱吉達は一様に首を傾げる。

《講堂は近いが、そこからでも逃げるのに十分距離あるだろ。特待以外は講堂に集まらせてるからな。制限時間は今から午後3時までだ》

Gの言っている意味を理解出来ずに、綱吉は放心する。
つまり、と回転の宜しくない思考を巡らせて、ある結論に辿りつく。
特待生は、本来なら教室待機で、一般生徒のみここに集めている―――つもりなのだろう、Gは。
みるみるうちに血の気が引いて行く綱吉に対して、周りの(ヴェルデ除く)リボーン達は血が上ったようだ。
綱吉はチョコレートを慌てて懐にしまって、全てを悟る。自分が『原因』であると。
「くそっ」と、リボーンとコロネロ、スカルが呟いた。

《あー。もう良いか。一般生徒もスタート》

適当に、Gがスタートを告げた。


「あんのクソヤロぉおおおおっ!!」
「爺ちゃんの馬鹿ぁああああっ!!」


綱吉達はありったけの空気を腹に吸い込んで、怒鳴り上げた。そんな怒声は、始まりを告げた『バレンタインデー』というチョコレート争奪戦により喧騒に掻き消される。

『バレンタインデー』に、ときめきという名のドキドキではなく、クラス落ちという恐怖のドキドキが綱吉の胸の中で開花した。



『バレンタインデー、開幕』END

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あきゅろす。
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