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日常編?
2回目の見舞い
 帰りも、やはり雲雀とスクアーロがぶつかり合っていた。
 その隙にコロネロと綱吉で山本を連れだし、彼らの部屋へとやってきた。その時、綱吉は秀忠の指示を受けてスカルも同行させて帰ることになった。
 風は土日に向けて町へ降りる為に外出許可をとりに職員室。リボーンはさることながら「めんどくせぇ」の一言で来ない。
 その間山本を庇いながら連れてくる形となったのだが、スクアーロに目をつけられるだけあって剣術は類稀なるものだった。「オレも手伝います」と言って、相手から剣を奪い取ると中に混じっていたアルコバレーノクラス特待生を峰内で昏倒させていた。
 デイモンに関しては、リボーン達が昼休み終了後。つまり、風のムシャクシャがある程度収まった時に話したという。デイモンの動きはこちらで封じるとナックルがやる気になったそうだ。

「フラン君、大丈夫ー?」

 小声で部屋を開け放てば、西日差し込む部屋にいるフランは頭だけぴょこんと上げて、また枕に頭を戻してしまった。
 今日はコロネロが夕食を作る、と張り切っていた。それは少し心配したが、簡単なものなら作れるそうだ。
 綱吉は秀忠の指示通り、スカルを連れてフランの部屋に入る。そのスカルは何故か緊張した顔をしていた。

「大丈夫? 少しは良くなった?」
「えー。まーぁ…今日は綱吉さんですかー?」
「うん」
「?! フランに喋ったのか?!」

 驚くスカルなんぞ気にせず、フランは「そうですかーぁ」と、こっちを見る。昨日と変わらずとろんとした瞳は眠そうだ。
 綱吉は「実はね」とスカルに昨日の話をする。以前から見抜かれていたということも含めて。
 ベッドの傍に寄ると朝のうちに山本が置いていったであろう白いタオルがフランの額の上ではなく枕の横に転がっているのを確認できた。

「マーモンから話しを聞いたんだけど…――フラン君のその熱って、幻覚の使いすぎなんだってね」

 フランは何も答えず、布団の中で頷くだけだった。

「山本が心配してたよ? 風邪引いてるのに気づいてやれなかったって」
「気にしなくて良いのに…」

 フランの声音が少し不機嫌そうに小さく放つ。

「友達ってそう言うモノなんだよ。友達の事になると心配し過ぎちゃう。フラン君だってそうでしょ?」

 フランはしばし沈黙してから、「まぁ」と呟いた。
 すると、今まで黙っていたスカルが声をかけてきた。

「あのー…オレ様、コロネロの料理が心配だから見に行っても良いかな? 簡単なものなら作れるとか言ってるけど、あいつの料理の腕、あんまり良いとは言えないし…」
‐ツナ。交替してもらって良いか?‐
「うん。良いよ?」
「あ、じゃあ、オレ様ここで…――」
「ちょっと待て、スカル」

 すぅっと身体が勝手に動く。
 主導権が秀忠に回ったからだ。
 秀忠はスカルの手を掴んで見上げると、こう言った。

「お前らの間で秘密にしてることを、聞かせて貰おうか」

 ぎく、と大きくスカルの表情は動き…――フランは無表情で秀忠を見ていた。


○○○


 真っ先にしらばっくれてきたのはフランだった。

「秀忠サンですね。秘密って例えば何でしょう」
「今日、スカルがお前を見舞いに行ったな。その時、何の話をしてたか話してもらおうか」
「あ、朝のことなら言ったはずだけど…」
「昨日のスカルの言動を含めて考えると、居座る時間が長いような気がしてな…――スカル。フランのこと苦手だろ」

 スカルは分かりやすく「う」と言葉を詰まらせた。

「今朝は携帯で呼び出されて来たんじゃないのか? スカル? コロネロに携帯電話の番号教えたか聞いてただろ? それって、スカル自身は教えた覚えはないからじゃないのか?」

 またも「うっ」と言葉を詰まらせた。

「わー。骨先輩ボロボロじゃないですかーぁ。ハクジョーしちゃってるも同然ですねー」
「だ、誰のせいで今日俺様が酷い目にあったと思ってんだ、コラぁ!」
「コロ先輩の真似ですかー?」
「ちげぇよ!」

 フランは「怒られたー」と言っておきながら、特に気にしているようすはなかった。

「その通りですよー。ただ、個人情報を取り扱うに当たって、ちょこっと情報を改竄してくださいってお願いしたんです」
「ベラベラ喋ってんじゃねぇよ、コラ!」
「またコロ先輩の…――」
「ちげぇよ!」

 透かさず突っ込むスカル。

「それは、どうしてだ?」
「何でだと思います?」

 不敵な笑みを浮かべる瞳は炯々とした光を携えていた。今までベッドに潜っていたが、起き上がってくる。

「『知ってるから』、とか」
「何を?」
「学校の『裏側』とか」
「興味ありますね。是非聞かせて欲しいです」
「…――そうか。知ってるんだな…」

 フランは、つぅっと目を細める。

‐知ってるって? やっぱり、この学校がマフィアに繋がってること?‐
「あぁ。人は誤魔化そうとするとき攻撃的になったり、強気に出る――…一種の防御態勢に転じるそうだ。
 あえて『知ってる』とか、『裏側』だとか曖昧な表現だけど、やけに食いついて来たな。もし素面なら首を捻った様子を見せてもいい…――そっちの方が、お前も得意だろ? 常にポーカーフェイスなんだから」

 恨めしそうに睨み付けて来たフランは、唇をへの字に曲げる。

「コロネロ以外はお前の話を聞いた時に気付いた。スクアーロを警戒する理由は有ってもわざわざデイモンまで警戒する必要はない。だって、スクアーロはただ山本と戦いたがってる煩い奴だし、デイモンに万が一気に入られた場合、その生徒は『ただの優秀な生徒』として見るはずだからな…――『普通の』生徒は」
「……何の話かさっぱり見えてこないんですけど」
「そうか? じゃあ、改めて自己紹介させてもらう。ボンゴレファミリー次期ボス候補の沢田秀忠だ。よろしく」
「ヒデ?!」‐ヒデ?!‐「!」

 フランの目が大きく見開かれて、秀忠は確信する。

「まぁ、所詮『候補』だけどな。そんな警戒しなくて良い。コロネロもそういう学校だって知ってるからな」
「…――コロ、先輩も…?」

 少し声が震えている。
 コロネロまでこの学校の実態を知っているとは露ほども思ってなかったのだろう。
 知っていたらバレンタインデーで起こした暴動などするわけないと思うのが通り。教師とはいえ、マフィアに逆らっているようなものだ。

「その呼び方は止めてやれ。犬みたいだ。ちゃんと名前、覚えてるんだろ? 山本の名前だって、スカルの名前だって。お前、俺達が入って来て真っ先に綱吉の名前を『完璧に』呼んだからな」
‐あー! そう言えば!!‐
「・・・あ」
「熱に浮かされてうっかり忘れたんだろ? オレの名前もしっかり呼んでくれた。今回の敗因はお前が風邪を引いてたことだ」

 秀忠が小さく笑うと、フランは不満そうにきゅっと唇を引き結んで布団の中に潜ってしまった。

「助けを求める相手、間違えたと思ったか? 不本意だろうな。関わらせまいと頑張ってたんだから。まぁ、スカルはどうにか手懐けたみたいだけど」

 スカルが気まずそうな顔を外方に向けた。

「でもフラン。お前が頼った相手は間違えてない。それだけはハッキリ言える。コロネロなら、お前がどんな奴でもお構いなしで助けてくれる。本当に良い奴だ…――馬鹿が付くぐらい」

 綱吉が攫われたあの日。暗い倉庫の中でハッキリと言ってくれた彼。

‐もう『二人だけ』で『そんな所』歩かせねぇ!! 『手前ら』の横を一緒に歩いて行ってやる!!‐

 真っ直ぐな瞳で。目が離せないほど。

‐『覚悟』しろ! オレ達は、何が何でも『お前ら』から離れないからな!! コラ!!‐

 本気で、茨の道を共に進んでくれると言ってくれた。

「なぁ、フラン。ちょっとだけ、オレの惚気話に付き合ってくれ」

 フランは無言。

「オレがこの前、何処かのファミリーに誘拐された時の話なんだけどな…」

 静かに語る。
 フランがもしコロネロを悪人だと誤解してしまったなら、間違っていると伝えたい。
 彼は本当に良い人なんだ。
 だって、本当はマフィアなんて関係ない、日向育ちの『無駄に』良い奴で、今も全然変わらない、良い奴なんだから。


○○○


 秀忠は、綱吉が転入したての頃に起きた誘拐事件を事細かに教えた。
 その時にコロネロが言ってくれたことも包み隠さず。
 スカルは当事者なので、いつまでたっても食事を作って来ないコロネロの応援に行った。時折、スカルが「それ、洗剤!」と物騒な怒鳴り声が聞こえてくる。

「…――コロネロ先輩は、お馬鹿だったんですね…」
「あぁ。あいつは正直ただの筋肉馬鹿だ。仲間想いで、仲間っていうのをよく知ってる、な」
「えぇ。本当に…――」

 再び訪れた沈黙に、秀忠はベッドに潜ったままのフランを覗き見る。

「お前と、同じだよ」
「…――」

 聞いたんだ、と言って、「綱吉が」と忘れずに付け足しておく。

「山本自身が先輩にボコられた時があって、その次の日、その先輩がフランをちらちら見ながら謝ってきたって。幻覚か何か使って仕返ししたんだろ?」
「武の馬鹿…」
「敢えて聞かないことにする。山本も気にしないことにするって…――でも、悩んでるみたいだったぞ? お前の楽しいことが分かんないって」

 フランは閉口したまま目を伏せる。

「せめて楽しいことが分かれば、一緒に楽しんでやれるのにって。お前達、本当に相思相愛だな」
「そうしそうあい…」
「互いが互いを想いあってるって意味の日本語だ」

 再び「そうしそうあい…」とフランは呟いた。

『おーい! フラン! 起きてるかー、コラ! 飯出来たぞー!』

 フランの代わりに起きていると伝えるとコロネロがドアを開け、スカルが両手鍋を持ってやってきた。その後ろに続いて、山本がお皿とスプーンを持って来ている。

「リゾットできたぜ、コラ!」

 コロネロが浮かべている満面の笑みからして料理は会心の出来であると伺える。
 再び、フランは「そうしそうあい…」と呟いて。小さき小さく、口元を笑わせた。

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