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日常編?
変わった日
 今日は、変わった日だと普段あまり何も考えない山本は思った。

「山本武。一緒に昼食にしようか」

 あの一人大好きな雲雀が、何を思ったのか、いい笑顔つきで、昼休みに入るチャイムを告げる最中にやってきて、そんなことを言ってきたのである。
 山本には目が皿になる発言でしかない。
 聞き間違えるはずなどないし、自分以外の山本武がその教室に存在しないのに驚きすぎて自らを指差してしまったほどである。

「君以外にいないでしょ。早く来ないと周りの連中から咬み殺すよ」
「待った! すぐ行く!」

 雲雀の強さは教師からも折り紙つきだ。自分でもその強さは知っている。
 しかし普段一人の彼が、しかも六道骸を追いかけようともせず自分の所にやってくるとは何事か。
 仲間達には職員室に昼食をとりに行くように言って山本は飛び出していった。

「中庭に行くよ。目立つから」
「目立つ?」

 スタスタと先を歩き始めた雲雀だったが、迎え来る敵を獲物のトンファーでぶっ飛ばして壁へと沈めていく。敗北者転がる廊下が瞬く間に出来上がる。その道を、微妙な気分で通っていく。たった今壁にめり込んだ学生はクラスメイトだった。

「雲雀。あんまり話が見えてこないんだけど」
「君は餌」
「餌…? オレ、食えねぇぜ?」
「言葉のあやだよ。馬鹿だね、日本人の癖に」
「あぁ、悪い。で、オレは何でお前に呼び出されたんだ?」
「スクアーロ呼んで」
「スクアーロ?」

 雲雀は階段を下りながら山本にそう申し出るなり、顔が見る見るうちに狂気的な笑みに染められていく。喜色満面というには邪気が強すぎるが。

「彼を倒したら、アルコバレーノクラスの風が相手してくれるんだって。今朝の紫の男がそう言ってた。今、密かに戦闘相手募集中なんだって」
「風って…中国服の?」
「そう、彼。凄く強いんだよ」
「あぁ…確かに、それは知ってるけど…」

 なんと言ったって、あの六道骸の背後をあっさり取った雲雀と顔そっくりの先輩だ。強くないわけが無いし、覚えていないわけが無い。雲雀が普通に笑えば、あんな顔するんだろうなぁ、なんて思っていたぐらいである。
 そんな矢先だった。

「うぉお"お"い! よぉおおやく見つけたぞぉ!!」

 頭の上から、久々に聞いた大音声。
 すぐに誰だか分かる。
 どうやら、二階にいるらしい。そう思って上げた顔は、すぐに一階ロビーへと戻る。
 二階の教室前と一階の玄関ロビーは吹き抜けになっている。それを良いことに、スクアーロは白銀の長い髪の毛を靡かせながら、飛び降りてきたのだ。

「山本たけ…――んだぁ、このガキはぁ!」

 スクアーロが着地と同時に「咬み殺す!」と雲雀が狂気的な笑みを浮かべて突っ込んでいった。
 即座にぶつかりあう金属音。空気を震撼させ、耳に残響する。

「んだ、テメェはぁあ!!」
「知る必要ないよ。すぐに君は咬み殺すから」

 追撃の左を放つと、彼は大きく後退する。そして山本を睨み付けた。

「何の真似だぁ!! 山も…――」
「五月蝿い、黙りなよ」

 顎めがけて振り上げてきた雲雀に、スクアーロは舌打ちしながら上体を大きく逸らす。
 半ば取り残された形となった山本はどうしたもんかと頭を掻く。

「探したぜ、山本! コラ!」

 すると、再び頭上から声が聞こえてきて顔を上げるが、またすぐに下ろした。
 コロネロがスクアーロ同様に飛び降りてきたのだ。
 ライフルを装備し、今から戦争にでも行きそうなスタイルだ。
 コロネロはだん、と見事に着地してみせた。

「コロネロ先輩!」
「探したぜ、コラ。教室いねぇと思ったら此処かよ、コラ!」
「んー。授業が始まると同時に雲雀につれだされたんで…」

 「そっか」と言いながらコロネロは手を差し伸べてきた。

「中庭来いよ、コラ。一緒に食おうぜ?」
「待ちやがれコロネロぉ!! そいつはオレの…――」
「五月蝿いよ」

 再び、最後まで言う前に雲雀がトンファーで殴りかかる。それをかわすスクアーロの顔が剣幕に歪んでいる。
 大声で邪魔だと言い、雲雀を倒すことに専念し始めたらしい。

「おーし。行くかコラ…――」
「おい、待てよ。コロネロ」

 エントランスに続々と現れた生徒に囲まれていく。
 物騒なことに、斧やらハンマーやら、真剣やら、ニヤニヤと笑みを浮かべている。巨漢から、細い奴まで、多種多様だ。

 本当に、今日は変わった日だ。

 再びそう思うと、囲んでいた生徒達の数名がいきなり白目をひん剥いて床へと伏せていった。
 自分の肌を撫でる異様な殺気に、腕をこする。
 尋常ではない。それだけは分かる。

「今日は、変わった日なのな…」

 山本はコロネロの容赦ない発砲音を聞きながらそう呟いた。

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