[携帯モード] [URL送信]

日常編?
相思相愛
 昼休みの中庭に、ごいんごいん、と打撲音が響き渡った。
 そのせいで、木の上で休んでいた鳥が驚いて飛び立っていった。中には落下してくる鳥もいた。
 そよ風吹き付けるそこは草が生い茂り、木が数本生えている。
 綱吉はリボーンにぴったりと寄り添った。綱吉の目の前には恐怖を煽る権化、風が、ぶるぶると体を震わせて悶えている。
 怒りを必死に押し殺していた。
 握り拳に浮き出た青筋が、彼の怒りを惜しみ無く表していた。
 その足元には土下座でひれ伏しているスカル。頭に巨大なたんこぶが二つ出来上がっていた。

「起きなさい、スカル…気絶するには早いですよ…」

 ゆらりと放たれた静かなる殺気は、冷たく肌を舐めた。ぱきりぱきりと風は指を鳴らす。その瞳は瞳孔が開ききっていて、普段の物腰柔らかさが完全に消え去っていた。
 目の前に鬼がいる。
 綱吉はリボーンの腕にしがみついていた。
 その下のスカルは涙を浮かべながら顔を上げた。

「本当にごめんなさ…――あいだぁあっ!!」

 再び、拳が振り下ろされると、見事に出来上がったたんこぶは積み重なって三段目を作り上げた。

「許してください! 本当にごめんなさい! 悪いと思ってます!! 雲雀に献上するような真似してすみませんでしたぁ!!」

 怒る雲雀を押し付けられたスカルは、苦肉の策として「スクアーロを倒したら風が戦ってくれるって」と口走ってしまったという。あの殺気と怒気を身に受けながら、スクアーロを山本に近づけさせないという目的達成のために機転のきいた嘘を吐いたわけだが、差し出された当本人はたまったものではない。
 しかし、このままではたんこぶのタワーがスカルの頭に出来上がってしまう。
 あの、と手を出そうとしたら、その手をリボーンに下げられた。

「とりあえず、怒りが収まるまで見守っておけ。大丈夫だ、お前は悪くねぇ」
「でも、押し付けたのオレ達だし…――」
「コロネロはスカルの実力なら無傷で逃げれるぐらい把握していたと思いますよ…? それなのに…!」
「すみません! 本当にごめんなさい!!」

 再びスカルは頭を下げた。
 普段なら互いに喧嘩していれば好機といわんばかりに生徒がやってくるのだが、今日は特に襲撃も来ない。屋内で雲雀とスクアーロ、コロネロが暴れているのもあるだろうが、風の殺気の方が尋常ではないからだろう。
 飛び立った鳥が何匹か中庭に落下してきた。気のせいじゃなければ、綱吉は中庭から殺気に当てられて廊下に倒れた生徒を見た。
 つまり風の殺気には他人を気絶させる作用があると断定できる。
 そんな折、異常事態に気づいたジョットとナックルが駆けつけてきた。

「どうした、風!」
「あぁジョット先生。あと七発殴れば気が済みますので、もうちょっとお待ちください」
「普段のお前なら絶対に言わないな」

 落ち着け、とは言わず、ジョットはぽん、と風の肩を叩いた。

「ずいぶん怒っているな。お前を怒らせるぐらいだから相当なことをされたのだろうが、お前の殺気に当てられて一般生徒が次々に失神している。ついさっき、入江も倒れたから殺気が校内中に蔓延する前に止めに来たつもりだ」
「では、この怒りをどうしろと…?」
「そうだな。さっさと七発殴ってしまえ」
「えぇ〜?!」

 綱吉とスカルが同時に絶叫を上げる。
 十段のたんこぶタワーが出来上がると想像してしまった矢先、目にも留まらぬ速さで七つの打撲音が聞こえてきた。
 ほぼ一瞬のうちに、スカルの頭の上に想像通りの建物が出来上がった。
 哀れすぎるその姿に言葉が出ない。

「気が済んだか?」
「…五分の一は」
「随分、怒らせたんだなぁ、スカルは…」
「本当に…ごめんなさい…」

 まだ息があるスカルは再び謝った。

「気をつけろ。下手に怒らせたら学校吹き飛ぶからな」
「学校吹き飛ぶ…?!」
「多分、生徒の大半が死ぬ」
「リボーン…それ以上あらぬことを吹き込んだら残りの五分の四を埋める手伝いをしてもらいますよ」

 普段なら「断る。その大半に入りたくないんでな」とかおちょくる一言を喋りそうなものだが、リボーンは押し黙ってしまった。
 風はすぅっと殺気を抑えると、のそのそ歩いてきて綱吉の横へ座り込むと、ひょいっとリボーンから人形のように取り上げられた。
 そのまま後ろから抱き枕のように抱きしめられて、何も言えない。
 回ってきた腕にしがみついて、何も言えない。

「これで我慢します…」
「あの…何を我慢されるんでしょう…」
「雲雀君と戦闘にもしかしたらなるかもしれないという怒りです」
「…風、グラウンド出ろ。二、三分相手してやる」

 リボーンがすっくと立ち上がると、風は緩慢な動きでリボーンを見上げた。

「二、三分じゃあ足りないです…」
「大丈夫だ。お前は強い子だから出来る」
「じゃあ、その次の三分はオレが相手しよう」
「ジョット先生…」
「では、体術だけなら残りの休み時間終了まで相手しよう」
「ナックル先生…――」

 風はしばし沈黙して、「わかりました」と立ち上がった。
 その時に風から開放され、綱吉はしばしぼーっとしてから膝を折り曲げた。

「まぁ、お前らは昼飯食ってろ。多分、次の授業出るから…死んでなかったらな」
「リボーンが死ぬわけないじゃないですか。大丈夫ですよ…――加減はしませんが」

 気のせいだろうか、死亡宣告をされたような気がした。
 ジョット達を引き連れて、リボーンが中庭を抜けて行く。その集団とすれ違って山本を連れたコロネロが中庭に入ってきた。

「おーい、ツナ! 何あったん…――あぁ。説明良いや、コラ」
「え?」
「…スカル先輩、大丈夫っすか?」
「だい、じょぶ…」

 スカルが親指を立てて、一応、生きていることをアピールしているが、大丈夫だとは到底思えない。

「久々に風がマジで怒ってるの感じたぜ、コラ…」
「初めて怒らせた…死ぬかと思った…――」
「お前、風に何したんだ、コラ」

 ぐす、と鼻をすすってスカルはコロネロに怒鳴りあげた。

「コロネロが雲雀押し付けるからぁ!!」
「朝のことか? 逃げるぐらいできただろーが! コラ!」

 この後、コロネロとたんこぶタワーを作ったスカルが互いの胸倉を掴み合ったが、再び吹き抜けてきた殺気に喧嘩は止まった。そして、すぐに耳を劈く爆音が立て続けに聞こえてきた。
 空気だけでなく、地面、建物さえもその殺気に怯えるかのように震えていた。
 建物に関しては、ぎぃぎぃ悲鳴を上げていた。

「この殺気って、風先輩の?」
「うん…――そうだよ…」

 この殺気を忘れられるはずもない。
 数週間はトラウマになりそうだ。

「風先輩って、怒らせたら怖いのな」
「うん…オレも、今日初めて知った…」
「フランもそうなんすよ」
「え…――?」

 山本は綱吉の隣に座って、空を見上げる。

「まぁ、怒ったところなんて見たことないつすけど」
「あれ? 話、矛盾してない?」
「あー。そうなんすけど…――違うなぁ。なんか違う。あいつ腹の中で怒るから、よくわかんないんすよねー」

 山本は上の空で呟いていた。

「なんつーか、勘? 多分なんすけど、あいつ本気で怒った感じがした時があって…――オレ、一回上級生にやられたことがあったんすけど…その次の日、その上級生が泣いて謝ってきたんす。その間、フランのことチラチラ見てて…」

 吹き付けてくる殺気を物ともせずに、今は休んでいる友人に想いを馳せる山本はぼーっとしている。

「多分、フランが何かやったとは思ったんすけど…この際、怒ったことは別に良いとして…せめて、何してると楽しいのか分かれば付き合ってやれるんすけどねぇ…」

 どうしたもんかな、と山本が苦笑した。

 本当に、互いが互いを想いあってる。
 裏側に関わることを避けることを心から願っているフランと、友人として笑いあいたいと思っている山本。
 どこか、ちょっとだけ、すれ違っている。
 
「フラン君は、山本といるだけで楽しいんだよ? だから、自信持って」
「へ?」

 山本は天に向けていた顔をこちらへと向ける。

「そうだぜ、コラ」

 山本の隣に、コロネロが座り込む。

「人を監禁したらしたで、次は「タケシィータケシィー」ばっかり言ってんだぜ? お前ら恋人かってんだ、コラ」
「好きっちゃ好きだけど、そこまでは…」
「ホントだぞー。フランの奴、お前のことホントーに大好きだから! もう大好きすぎて病んでるぐらいだから!」

 ごろん、と寝転がってスカルも一様に口を揃えた。
 綱吉達を見回してから、一間置いて。山本が頬を桜色に染めて笑った。

「なんか、先輩達にそう言われると照れるのな」

 山本はぽりぽりと頬を掻いて、うーんと腕を伸ばす。
 そして「らしくねぇなぁ」と山本は苦笑した。

「ダチなのに風邪引いてるのに気づいてやれなくて、ちょっと凹んでたみたいっす。なんか、元気出てきました」

 ありがとうございます、と山本は恭しく頭を下げた。
 そんな彼に、綱吉は「あのさ」と声をかける。

「今日もフラン君のお見舞い行ってもいいかな?」

 その問いかけの答えは、当然。

「もちろん。来てくれよ」

 にっこりと、コロネロみたいに人懐っこい笑顔で、応えてくれた。

[*前へ][次へ#]

8/11ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!